まどかは願いで最強になって魔法少女の問題をねじ伏せるようです   作:えくぼ.

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二日連続更新




闇討ちと

 不意打ちとは、相手に警戒されていないからこその不意打ちである。

 姿がわからない、つまるところ情報量の差によってその成功率は決まると言っても過言ではない。

 

 まどかたちは決して弱い魔法少女でも、新人の魔法少女でもない。町の中に知っている魔力があれば位置がわかる程度には感知能力にも長けている。魔女捜索以外の時も、最低限の気配探知を切ることはない。

 今も町でなりを潜めていた『透明の死神』と呼ばれる少女はそのことを十分に理解していた。

 彼女たちほどの魔法少女相手に本来ならば、知らない魔力でさえも近づけばバレる。しかし鎌を持った彼女だけは気配と魔力を消して近づくことができる。死神と呼ばれる所以がここにある。

 

 そう、知られることさえなければ近づける。

 

 彼女が魔法少女というものを相手するにあたって、まずはじめに立つのがこの利点である。

 彼女は何の宣言も、予兆もなしにターゲットの少女に襲いかかる。そうすることで、主となる体に損傷を与える。

 魔法少女とはいえ、全ての者が回復魔法や治癒魔法が得意なわけではない。何より傷ついた自分を癒すというのは痛みによる集中力などにより、時間も魔力も無駄に使う。痛みを無視する魔法少女でさえ、だ。

 自ずとアドバンテージが生まれる。傷つける魔力と癒す魔力、不意打ちの集中力と痛みで乱れた集中力。どちらが多く、どちらが無防備かなどわかりきったことである。ローリスク、ローリターン。いかにも暗殺者の考え方である。

 

 だから、現在の状況があると言えよう。

 

「な……に、が……?」

 

 まどかとほむら、そして舞が魔女狩りをしていて、川の横を通りがかった時のことであ?。

 使い魔を追って仕留めた直後の隙を狙って一人の魔法少女が現れたのだ。音もなく背後から三人の目を欺いた彼女は、誰よりも先にまどかの足を刈った。

 反応できる者は誰一人としていなかった。下段に大きく振りかぶられた鎌は体にそってぴったりと二重に張られたまどかの防御結界をいともたやすくぶち破った。つんざくような音がした時、鎌はすでに振り抜かれていた。

 

「まどか!!」

 

 ほむらが叫んだ。

 まどかはその場に崩れ落ちる。何が起こったのかもわからずに地面に倒れこみ、アスファルトと頬が接する。夕暮れのひんやりとした灰色にわずかにちらばる砂利がこすれ合う。

 

 まどかには――――膝から下がなかった。

 

 振り抜かれた鎌は、まどかの膝から下を見事に切り落としていた。白い骨が見え、魔法少女の衣装に血が広がっていく。赤い円の中で、自分の足を見たときにようやく自分が攻撃されたことに気づいた。

 

「ごきげんよう現魔法少女、未来の魔女達。その子も殺しにきました」

 

 今にも錯乱しそうなほむらと舞に、少女は友達に会うような気軽さで話しかけた。手に持つのは禍々しいデザインの巨大な鎌である。かつてのキリカを思わせるような――いや、さらに魔法少女から離れた黒い衣装。

 

「他の魔法少女達には透明の死神と呼ばれているので、死神とでも呼べばいいじゃないんですか」

 

 名前も名乗らない少女は自らを死神と言った。その子も、ということはほむらも舞も、ということである。

 ほむらは殺す、という言葉を久しぶりに聞いた気がした。世の中のバカどもが安易に使う殺す、ではなく。本気の殺意と目的を込めた"殺す"という意味の言葉でのことだ。

 

 彼女は最初からまどかだけを狙っていた。

 

 まどかたちにとって、最も怖いのはお互いが離れている時に戦闘面で弱い人物から狙われることであった。だからこそ、まどか、舞という二大最強が揃ったところに奇襲を仕掛けるというのは全くの範疇外であった。

 一方、魔法少女を殺す側からすれば順番はさしたる問題ではなかった。どうせ魔法少女は、全て殺すつもりであった。その順番が変わったところで、まどかと舞に負けてしまえばおしまいである。ならば。

 

「一番強いやつを一番先に狙うよね」

 

 そう。彼女の情報が、彼女の狙いが、彼女という人物がまどかたちに知られてしまうその前に一番強い一撃を、最も整ったコンディションでぶつけたかった。まどかさえ殺せれば、他の魔法少女を殺す時に背後から挟み撃ちにされたりなど応援が駆けつけて戦力を見誤った結果の敗北という確率が減る。何よりも。

 まどかを含む彼女たちの怖さとは、まどか本人の強さだけではないのだ。それぞれの魔法少女が強く、なおかつ絶対の信頼をもって連携しあえる。単独で襲う側からすると、いくら今まで複数相手でも襲ってきたとはいえ脅威である。全員で協力される前に、仕留めておきたかったのだ。

 

「まどか! しっかりして!」

「治癒魔法か早く病院に連れていってあげないと、死ぬんじゃないかな」

 

 最強が傷つけられた。その事実は他の魔法少女を激しく動揺させる。何しろ、最も純粋な感知能力ならばまどかが随一。そして身体強化、魔法防御のどれをとっても、だ。かつて経験で埋められていたその差は、今となってはないに等しい。そんなまどかを、一撃で。

 死神は当初、人質をとることも考えた。だが予想以上の彼女たちの信頼関係を見て、やめた。もしも人質にとったとしても、仲間の足かせになるぐらいなら、と自殺されてしまう可能性さえあったからだ。

 

「魔法少女になったならいつか魔女にやられるときもあるでしょうに。覚悟もないまま戦ってたの?」

 

 当然のように言い放った。ベテランの魔法少女でさえ、死ぬのが怖い、負けたくないと思いながら魔女に対峙するというのに。平常時後ろから致命傷を負わされるなんてどの魔法少女が考えるだろうか。

 

 そんな死神にとって、一つ誤算があった。

 

「のう。妾が相手するゆえ、ほむらどのはまどかを連れて下がってもらえるか?」

 

 それは、目の前にいた大人びた少女が、かつて世界最強の魔女を名乗っていたこと。

 

「わかったわ」

 

 魔法少女となったことで理性と判断力を取り戻した少女は、膨大な力の制御を身につけ、一騎当千の強さを誇っていたことである。

 相手が人間である以上は、現代兵器を使いこなすほむらでも良いかもしれない、という考えは確かにあった。だが、目の前にいるのは得体の知れない魔法少女。気配と魔力を断ち、圧倒的な攻撃力を誇る相手である。現代兵器もその気になれば魔法で再現できるとあれば、舞が出るのが得策であるとほむらも理解していた。

 

 鎌と傘が、溶け込むような黒と鮮やかな薄紫が相対していた。暗い、まるで魔女の結界内にいるような重苦しい雰囲気が辺りを支配する。

 

 かつてループ内で必要とあれば仲間を、友人を見捨てる判断をしなければならなかったほむら。自身の力不足は痛感してきた。全てを救えるわけではないと誰よりも彼女自身が知っている。

 ましてや今回は無謀な選択ではない。まどかを助け、かつ勝利できる最善である。そこで感情に任せて泣きわめいたまま、取り乱して動けなくなったりはしないのがほむらという少女の強さである。

 

「残念ね。まどかはこれだけじゃ死なないわ」

「知ってるよ。お仲間に回復が得意な魔法少女がいるんでしょう」

 

 二本の足を抱え、まどかに肩を貸してその場を離れようとする。

 

「待って……」

 

 かすれるような声でまどかがほむらの耳に囁く。ほむらは一瞬びくりと反応するが、すぐにまどかの方を見た。

 

「離れるよりも、ちょっと支えていてほしいの。足も置いてていいから」

 

 ほむらはどうしてそんなことを言うのかはわからなかった。ただ、まどかの目を見た。そこにあったのは、申し訳なさとか、自身の無力さに対する嘆きではなかった。

 

(なら大丈夫かしら)

 

 まどかが感情に囚われて、バカなことを言っているなら頬をひっぱたいてでも止めるつもりであった。そのあと後悔でまくらを濡らすことになるだろうとしても。

 そうでないのならば、危険が伴うとしてもまどかの側にいると決めたのだ。腹をくくって舞を見た。

 

「やるの」

 

 舞の操る歯車が連携をとって死神に襲いかかる。時間差、前後から、次から次へと。その全てを鎌と体術のみであしらう。無骨で取り扱いにくそうな鎌なのに、重さを感じさせない機敏さで。

 

「無駄」

 

 鎌の内側、最も刃が鋭いその部分に歯車がクリーンヒットした。金属のように見えたそれは、形を変形させて吹っ飛ばされた。何度か地面で跳ねたかと思うと、動かなくなった。

 

「何を……」

「見えてたんじゃないの?」

「やはりそうか、貴様……魔力を武器に纏って撃ち込んだな」

 

 魔法少女の間では武器に魔力を込めるのはさほど珍しい行為ではない。もともとが魔力で構成された武器なのだ。魔力を込めれば込めるだけ、強度が上がり、できることも増えると言えよう。

 彼女は魔力を武器として構成するのではなく、魔力そのものを武器にしたのだ。

 遠隔操作の歯車は舞の魔力によってできており、操作するのも舞の魔力で行っている。つまり、魔力を撃ち込まれた歯車は舞と死神の魔力が混ざったことで乱れ、遠隔操作が効かなくなったのである。

 

「ご明察」

「可愛げのない」

 

 遠距離武器が一つ減った瞬間、死神は二人の距離を詰めた。舞の傘から光線が放たれるも、それを避けながらふっと消える。

 鎌も、傘も決して戦うための武器ではない。しかしまるでチェーンソーが噛み合うような強烈な衝突音がしたかと思うと、目にも留まらぬ速度で近接戦闘が始まった。

 

 死神の選択は正しい。周辺全てを支配しようとする魔女の戦い方であった舞は、実を言うと個人戦よりも団体戦、近接戦闘よりも遠距離戦を好む。もちろん人間の姿をとったこと、まどかとの手合わせにより得意不得意そのものは消えたとはいえよう。だが死神自身が近接戦闘に特化しているのだ。自身の土俵に持ち込むことで、正面戦闘とはいえ互角にまで持ち込んだ。

 

 遠距離が好きなのに近接戦闘で現役と打ち合える舞を褒めるべきなのか、人外級の実力者相手に互角にまで持ち込んだ死神を讃えるべきなのか。

 

「小癪なっ!」

「なんでっ、こんな一箇所にっ、化け物が何体もっ!」

 

 先ほどまでの轍はふまないとばかりに、目に見えるほどの濃密な魔力でコーティングした傘は見た目にそぐわぬ攻撃力を誇った。

 一方、死神もまた攻撃力の高い魔法少女であった。これまで見た中でも最も攻撃力が高いであろう。

 そんな二人の戦いは、外した攻撃の余波だけで周囲に被害が及んだ。

 魔法により人払いがされているのか、幸い周りに人がおらず、騒がれない。

 

 一瞬、死神の肘から力が抜けたように見えた。

 

 舞はそこを好機とばかりに攻め込む。

 

「危ないっ!」

 

 それが罠であったとでも言うように、死神が反撃した。反撃は戦いの決め手となるどころか、舞を見事に外した。斬撃が魔力を帯びて、空中を飛んだ。

 

「それが限界か?」

 

 舞はニヤリと笑って挑発する。その背後で起きたことにも気づかずに。死神もまた、不敵な笑み浮かべたことで違う狙いがあったことに気がつく。

 

「足がっ!」

 

 そう、ほむらとまどかの近くにあった、まどかの足に斬撃が当たったのだ。まどかとほむらに影響がいかないように気をつけていた舞も、さすがに置かれた足までには注意がいかなかったのだ。片方は消し飛び、もう片方は見事な放物線を描いて川に落ちた。

 

「そんな……」

 

 足さえあれば治せると思っていた。そこへ来ての足の消滅。

 ほむらと舞が絶望に顔を染めた時、まどかだけが生気を取り戻していた。

 

「大丈夫。ないからって無理なことはないんだよ」

 

 まどかはほむらの支えを取り払い、宙に浮かんでいたのだ。背中には銀色の翼を生やして、切られたはずの足からはもう血が出ていなかった。

 準備はもう整ったのだ。彼女の膝が光を放ちはじめた――

 




やや口調の安定しない死神さん
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