まどかは願いで最強になって魔法少女の問題をねじ伏せるようです 作:えくぼ.
私が"透明の死神"などと呼ばれるどころか、魔法少女ですらない普通の少女であったときのこと。私には親友と呼べる友達がいた。親友は生まれつき病弱だった。入院と退院を繰り返していた。
私はというと、暇を見つけては病院に通っていた。入院食の愚痴を聞いたことをよく覚えている。
そんな彼女がある日、医者にこんなことを言われた。
「君の病気は治らない」
余命半年だ、とも。
年頃の少女に伝えるにはあまりに残酷な真実であった。その話を聴いた時の私の顔はどのようだったろうか。ただ、その時の親友の言葉と表情だけは今でも鮮明に覚えている。
「じゃあ私、のこりの人生楽しまなくっちゃね!」
厳しい現実の壁にめげることなく、辛い様子を見せまいと哀しく笑った親友を見て、絶対に幸せな半年にしてやろうと決意した。
病院にお見舞いに行く頻度を増やし、体を動かさずともできる面白そうなものを見つけるたびにもっていった。誕生日には栄養に気をつけたケーキを用意した。
刻一刻と近づいてくる死期を少しでも意識しないように。
そうして三ヶ月が経った。当初言われていた余命の半分が過ぎ、折り返し地点である。痛ましい笑顔はだいぶなくなってきたけれど、それでもどこか影がつきまとう。
そんな時だった。奴が現れたのは。
突如現れたそいつはキュゥべえと名乗った。マスコットキャラ、と形容するのが実にしっくりくる不可思議な生命体。口元を一切動かすことなく、脳内で私たちに話しかけたのだ。
「僕と契約して魔法少女になってよ!」
白い姿と甘い言葉で親友に近づいた。
彼女は願いで病の治療を願った。私が願うことも考えたが、何より先に彼女に止められた。病弱な彼女が戦うよりもよっぽどいいと思ったのだが、私の自己犠牲の先に彼女が笑って過ごせなくなることを思えば、それはできなかった。彼女の病が治れば、私が願ったことはバレてしまうだろうから。
一瞬で、何の兆候もなく治ってしまった。何か後遺症があるわけでもなかった。誰もが首を傾げたが、彼女の両親も、医者も治ったことを喜んだ。
それこそ"奇跡だ"――と。
そして彼女は今思えば本末転倒な絶望の運命と戦いの義務を背負った。
何も知らなかったあの頃。自由な体と正義を夢見た新しい彼女の学校生活で待っていたのは……
「今更出てきて元気になりました?嘘だったんじゃないの?」
「キモいんだよね」
「病気ぶってれば優しくされると思ってんじゃない?元気に登校してきてさ」
「あの子に守ってもらって。あの子も迷惑だよねきっと」
「最近基本一人でふらふらしてて暗いし」「今度さ……」
級友たちによる、絶え間ないイジメの日々だった。陰口ぐらいなら可愛いものだった。隠された物、壊された物。
わたしは守ろうとしていたが、結局止めることはできていなかった。
ある日、彼女がボロボロになって帰ってきて言った。
「大丈夫、これぐらいなら魔法で治せるから」
涙目で笑った彼女を見た時、私の中で何かが吹っ切れた。そう、我慢していたこと、見て見ぬフリをしていた全てが一つの線となって私の中で一つの絵を描きだした。
親友がいない時を見計らい、白いアイツを呼び出した。
「キュゥべえ、出てきなさい」
私の願いは単純。奴らを終わらせたい、終わらせる力がほしい。それは親友を救いたいという友情の裏に隠された力への渇望だった。何とも、私はエゴの詰まった救いようのない人間であったのだ。大切な人を苦しめられたことを、優しい死だけでは許さない、自分の手でという自己満足もあった。
私は奇跡を願った。奇跡というには、ずっと暗く、ずっと罪深いものではあったが。
いじめていた奴らは近い間に事故死した。少なくとも表向きはそうなっている。葬式には出なかった。不愉快なだけだから。
願いを明かすことなく、魔法少女になったことだけを親友に伝えた。魔法少女の衣装や武器は自らが心の何処かで想像している姿である。私の場合はまるで罪を懺悔するかのように、黒い死神のような衣装と巨大な禍々しい鎌であった。
それから私と親友はペアを組んで戦ってきた。
殺す少女と治す少女は互いの欠点を補うように。抵抗の罪と忍耐の罰という互いの弱さを守るような。そんなペアだった。
死神と呼ばれた私は人の死を願い魔法少女になったから、とても一つのことに特化していた。一つで複数、複数で性質は一つ。つまり――
「命を奪うこと、魂を狩ること、存在を壊すこと……人を殺すこと」
――どれも同じだった。気配を殺し、気持ちを殺し、空間に溶け込み闇に紛れ音もなく鎌を振うそんな暗殺特化型魔法少女。攻撃と隠密、そして多少の俊敏にその特性を集中させた。不器用で不気味な、そんな化け物であった。奇跡を願うのが魔法少女で、何かを呪って生まれるのが魔女ならば、私はきっと魔女なのだ。人の不幸を、人の死を願って力を得た魔法少女だったのだから。
一方親友は自分の治療が願いであったため、回復が得意な魔法少女だった。魔法少女であることはバレてはいけないはずなのに、野良猫が足に怪我を負っていたら治してしまう、そんなお人好しだった。
時にそれが眩しいときもあったけど、何より彼女が愛おしく感じた。はにかみながら私の傷を治してくれた時の手つきも、私は治癒魔法が使えないから助かると言った時に驚いたような顔で「弱いから、一緒に戦ってくれて私も嬉しい」と恥ずかし気に言った時の照れた表情も、何もかも忘れることはない。
相反する私たちはペアとしてとても息が合っていた。前衛と回復の後衛。私に気配関係で勝る魔女も魔法少女もいなかった。後ろにいる彼女の安心は保証できた。それに何より、彼女以外と組むことを考えられなかった。
戦ううちにソウルジェムの秘密を知ってしまった。
「もともと罪を背負ってるんだ。これぐらいでお似合い」
「奇跡を願えば少しぐらい歪な体になるよね」
その真実を知ってなお、私たちは諦めることはなかった。最初から諦めていたのかもしれない。
それでも最期はやはり同じ運命を辿ることしかできなかった。
ある時、私が戦いで重傷を負ったのだ。魔法少女でなければ助からない怪我である。魔法少女でさえ、生きているのが不思議なほどの怪我だった。肺に空いた穴がこひゅー、こひゅーと嫌な音を立ててうまく声が出なかった。
親友は私を治癒しようとしてソウルジェムを濁らせた。それでも治らない怪我に泣きながら魔法を使い続けた。流れゆく血と、底を尽きかける魔力が競うようにして、止めたくて、止められない悔しさに唇から血が出るほどに噛み締めた。
「絶対、死なせないから」
彼女のソウルジェムは魔法を使って黒く濁りきってしまっていた。澱んだ池のような魂の宝石とは対照的に、彼女の目は澄んだ決意を宿したままで。どうして、死ぬかもしれない時に、そんな顔をしていられるのかその時はさっぱりだった。
「やめなよ……真っ黒じゃん」
守ると決意した親友が自分のせいで魔法が使えなくなろうとしている。泣きたいのはこっちのほうだった。私は、守られるような殊勝な女の子なんかじゃないというのに。
だがそういったつもりの口からこぼれるのは血ばかりで、うまく言葉になってはいなかった。それでも言いたいことは伝わった。 伝わったことと、親友がそれを聞き入れるかは別のことであった。
親友のソウルジェムはソウルジェムでなくなってしまった。最後まで私の願いを知ることなく……
……目の前で親友は魔女となった。
それからの流れはおよそほとんどの魔法少女が想像する通りだろう。魔女化した親友、私の葛藤、その両者の悲痛な叫び。何もかもが今も
そんな私がただ一つ言えるとすれば、人を殺す理由は親友ではないことだけは確かだ。いや、人を殺す理由を親友には押し付けられないでいると言った方が確かだ。私は、私の意思で魔法少女を絶滅させる。それがどんな結末になろうと。
私は恨んでいる。最初に殺したあいつらを、キュゥべえを、魔女を、魔法少女を、人を、世界を、そして何より親友を救えなかった自分を憎んでいる。
それでも彼女だけは恨むことも憎むこともできないでいる。まだ綺麗な最後の治癒魔法がこびりついている。
憎んで今日も仲間を刈りに行く。
かつての自分たちを殺しに行く。
無知でなければ希望なんてないのだと。
願うだけで奇跡などは起こらないのだと。
死に逝く彼女らに、少しでも伝えられただろうか。