まどかは願いで最強になって魔法少女の問題をねじ伏せるようです   作:えくぼ.

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少女の想い

 

 これがありきたりで、どこにでもありそうな死神と呼ばれる少女の過去になる。そして魔法少女としての二度目の生を受けた時とも言える。

 死神は負けて仰向けに倒れたあと、濁っていないようで使いものにならないソウルジェムと、もう動かない四肢を感じながら気がつけば泣いていた。

 ぽつりぽつりと自分の全てを語り終えた少女はたくさんの魔法少女を霞んでいく視界のなかに捉えた。そうか、もう仲間が来ていたのか、と自らの最期を悟る。

 あたりはすっかり夜になっていたが、まどかは母親に叱られるかもしれないなどと思う余裕はなかった。

 

「止めてくれて……ありがとう。もう休んでもいいよね。疲れちゃったんだ」

 

 殺したくて殺したわけではないなんて言い訳はしない。殺したくないという気持ちもあった。彼女の中で二つの気持ちは決して矛盾するものではなかった。

 

「そんなふうになるまで止まれなかったの?!」

 

 とっくに自分のやってることが正しくないなんて気づいていた。いや、最初から正しいなんて思ってはいなかった。

 ほむらはそんな風に諦めてしまった彼女がどこからと昔の自分と重なるようで見ていられなかった。

 

「………無理でしょ」

 

 したかったからしたのだと叫びそうになるのを飲み込む。それは感情のままに、親友を失った恨みつらみを他の魔法少女にぶつけたようで。選んだのは自分だし、悪いのも自分だ。決して親友を言い訳になど使わない。

 

「もっと他にもやり方があったじゃない!」

「死ぬのはさ……怖くないんだ……やっとあの子のところにいけるしね」

 

 とても楽しそうに続ける。晴れやかで、誰かに口を挟む余地さえあたえない。

 

「きっと私は待っていたんだ。君みたいな魔法少女を。不意打ちだろうが、殺人魔法だろうが気にもとめず返り討ちにして止めてくれる化け物を」

 

 そう、同じような化け物を。

 

「こんなに期待通りなのはびっくりした。とても楽しみだったんだ。君の噂を聞いたとき、キュゥべえに思わず確認しちゃったもの。君が最強の魔法少女なのは本当かい?って」

 

 織莉子は未知の生物を見るような驚いた目で、キリカは興味なさそうに。ゆまはただただ悲しそうに。マミは憐れむように、杏子は下唇を噛んで。舞となぎさは何かを懐かしむようで。ほむらはかつての自分を見るような目で、キュゥべえの目は何も移さず……そしてまどかはありのままいつものように真っ直ぐに彼女を見つめた。

 

「ところがどうだい。魔力は桁違い、魔法の種類はずば抜けて、挙げ句の果てにソウルジェムが濁らないだって。予想以上の最強だった。キュゥべえのお墨付きなわけだ」

 

 どこか誇らしげな様子さえ見える。今まで数多の魔法少女と魔女を殺してきた彼女としては、生半可な魔法少女に負けたくないという矜恃もあった。何より殺してきた魔法少女たちに対する数少ない誠意だというのもある。

 

「強くなんかないよ。みんながいてくれるから負けないだけ」

 

 そのことを知っているから負けないだけで、まどかは自分を本当の意味で強いとは思っていなかった。

 

「それでもありがとう。止めてくれて、そしてさようなら最高の魔法少女まどか」

 

  彼女のソウルジェムは透明だった。彼女が透明の死神と呼ばれる所以である。それは、元が濁った透明だったのが、絶望するほどに透明になっていく。魔女とか魔法少女、その境界線が曖昧な生まれた時から誰よりも魔女に近い魔法少女。 魔女化してもきっとさほど装備は変わらないのだろう。

 

「浄化してもすぐに……」

 

 今ここにいる魔法少女たちが協力すれば、体の傷も、ソウルジェムの消費も全て万全の状態にまで戻すことはできるだろう。しかし心の傷は別だ。浄化してもするそばから穢れていくのでは、浄化する意味はない。何より彼女がそれを受け入れてしまっている。だから、もう、手遅れだった。痛みを抑える魔法だけをかけた。体の傷を修復してしまえば、彼女はこのまま魔女になるだろう。魔女になるのが先か、魔法少女のまま死ぬのが先か。

 

「最後にあなたの名前を教えてよ」

 

 まどかの言葉に、自分の手を握るその手に、死神は自分がまだ魔法少女として見られていたことに気がつく。

 自分が治った直後、親友も同じ気持ちだったのだろうかとそんなことが脳裏をよぎる。これではまるで走馬灯だと遠い記憶にまた涙が出てきた。

 

「殺した相手の名前ぐらい知りたいよね。いいよ、私の名前は───────」

 

 

 

 ◇

 

 彼女の名前がまどかの耳に届いたかどうかは、周りにいた少女達に推し量る術はない。ただ、逝った彼女の顔は戦闘の後だとかそういう柵などないかのように安らかであった。

 勝利の余韻もなく、ただ少女たちは黙ってその場を離れた。今の彼女たちに不審者や一般犯罪者は脅威ではない。お互いの繊細な部分に触れないように、自分だけの抱えたものを胸に解散していった。

 

 夜十一時。まだまだ夜はこれからだ、と言えるかもしれないが女子中学生が親に無断で遅れるには遅い時間だ。

 家に帰ったまどかを待っていたのは、さすがにもう帰ってきていた母親と父親であった。普段は柔和な笑みを絶やすことのない穏やかな父親も、悲しげに、そして心配そうな顔で娘を出迎えた。何より、彼女の変化に敏感な母親は眉を釣り上げて玄関に立っていた。

 

「今日はもう寝なさい」

 

 それだけだった。まどかは泥のように眠った。体に、心に何かが足りないのをまるで眠ることで埋めるように。夢を見る直前に愛しい仲間たちの顔が次々と駆け巡る。そして戦った魔法少女たち、魔女たち。最後に死神の鎌と安らかな最期が来て何故かほっとしてしまった。

 

 

 次の日、まどかは両親の前で座っていた。

 

「昨日、どうしてあんな遅くなったのか、話してもらおうか」

「心配したんだよ」

 

 スーツ姿の詢子が問い詰める。その横で知久が。まどかには母親が二人いるようなものである。女としての厳しさを教えてくれる諄子と、いつも変わらず優しさを注ぐ知久。決して飴と鞭のように分担されているわけではない。どちらも表裏一体の、両親である。

 まどかは二人の目をまっすぐに見返した。そこには気まずそうな素振りは一切ない。そんなんまどかを見て、詢子はまどかが決して遊んで遅くなったわけではないことを再確認した。二人とも、もともとそんなことではないだろうとは思っていたが、もし遊びあるいていたらという場合も確かに候補の一つとしてあった。

 まどかはそんな迷いのない目をしていながら、いまだなお迷っていた。この遅れた理由だけではない。魔法少女というものについて話してしまっていいのかを。

 

「話してなかったことがあるの。ううん……今日だけじゃない、大事なことを全部話そうと思うの」

 

 そう言ったまどかの手はかすかに震えていた。魔女と戦う時よりも、ずっと恐怖を感じていた。子供にとって親というのは大きな存在である。かつて、杏子が突き放されたことを今でも苦い思い出としてあるように、まどかもまた、詢子から拒絶されることを恐れていた。

 

「今でも、私がいい子だって信じてくれる?」

 

 だから、確認をとってしまう。二人は黙ったままであった。ただ、小さく頷いた。それだけで十分でもあった。

 

「まずは――」

 

 ぽつり、ぽつりと話していく。キュゥべえのこと、宇宙のエネルギー問題、魔法少女のシステム、友達がそれに騙され、違う時間軸から自分を助けるために頑張ってきたこと……それら全ては、あまりに荒唐無稽であった。だが思春期の妄想と片付けるにはまどかの声音はあまりに真剣で、諄子はそれを否定することができないでいた。

 

「見ていて」

 

 吹き荒れるような魔力は周囲を傷つけることなく、まどかの体にまとわりつく。一瞬光り、おさまった時にはまどかの姿は魔法少女のそれと化していた。

 

「まどか、あんた……」

 

 結局のところ、どれほど理論だてて説明したところで未知の世界を理解しろと言われても難しい。百聞は一見に如かず。信じるためには簡単なこと、ただ目の当たりにすれば良いのだ。手っ取り早く、魔法という未知の世界を。

 当然のようにして魔法を行使した娘に諄子と知久はかける言葉を見つけられず絶句する。ここで対応を間違えた時、親として胸を張れるのか。そんな重圧がのしかかる。

 

「信じてもらえないかもしれない。だけど、これだけは信じて。私、後悔なんてしてないから」

「今言ったことで全部か? 誰かの嘘に惑わされてねえだろうな」

「大丈夫。大切なもの全部手に入れるために、借りれる力でもなんでも使ってみせるから」

「あんたが強いってのは本当か?」

「戦うだけなら他の人よりは。でもね、魔法少女として負けないって言えるのはみんながいるからだよ」

 

 諄子はため息をついた。そして隣の知久に目をやる。知久は頷き、

 

「ね、言っただろう。父親としては娘が独り立ちしてしまうのが、親離れしてしまうのが寂しい気もするけどそろそろなんだよ。好きにさせてみればいい」

「……はあ、わかったよ」

 

 まどかは嬉しそうに顔を綻ばせる。

 

「でもね、まどか。困ったことがあったら僕たちに頼りなさい。正直魔法のことも宇宙のことも全然わからないけどね。わからないからこそ見えるものもある」

「それに、あんたらガキが思いっきりやれるようにしてやるのが大人の義務ってもんだ。 」

 

 諄子は諦め半分、我が子の成長を慈しむのが半分。この年頃の女の子は危うい目をしている。そんな時に大人になれるかは周りに強く影響を受けるのだろう。娘の周りには、"強い"子たちがいるのだろうか。そんな心配を口元に滲ませながらぼやいた。

 

「あんたは……そういう子だね。そうやって全部背負いこもうとする。まだ魔法少女全部救うって言わないだけマシか。でも……自分を嵌めようとした宇宙生物の手助けまでしてやろうってんだから本当お人好しだ」

「えっ?」

 

 まどかは諄子の最後の言葉に思わず尋ね返した。

 

「ん? なんだ違うのか。てっきりあんたが宇宙のエネルギー問題とやらを解決してやってんのかと」

 

 その疑問にまどかは脳内でぐるぐると疑問で返す。

 自分が魔法少女になる時にした契約は「自分が最強の魔法少女でありつづけること」。そのためにはソウルジェムが濁らないし、壊れない。そうでなければならない。

 そもそも、宇宙のエネルギーの解決方法はなんだったか。熱力学に縛られないエネルギーの発見。それは感情エネルギーであった。とりわけ第二次性徴期の少女の希望と絶望の相転移が最も効率が良い(・・・・・・・)

 

『数世紀に一度、世界のどこかで大規模に魔法少女たちが争うことになるんだよ』

 

 ふと、まどかはキュゥべえ言った『魔法少女大戦』という単語を思い出した。

 そうだ。これは一つのシステムなのだ。まどかの契約という穴があったように、裏を返せば完全でも完成でもない。インキュベーターは感情がないからこそ、最良効率を選ぶ(・・・・・・・)

 

「なんだ、あるんじゃん。私にも、できることまだまだ」

 

 急に黙りこくった娘にどうかしたのかと覗きこむ知久だが、諄子はどちらかというとその表情に覚えがあった。仕事で企画をしていて、自分の中の最善が見つかったそんな時の顔だ。娘は何かを見つけたのだろう。

 

 晴れやかにお礼を述べ、玄関を飛び出す娘を止めることなく会社に行く準備を始めた。

 




おそらくは次回で最終話です
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