まどかは願いで最強になって魔法少女の問題をねじ伏せるようです   作:えくぼ.

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ノット挫折バット決意

 魔女が倒されることで結界が消えていった。

 無事に元の世界に戻ってきたまどか、ほむら、さやか、マミ、そして残り一匹。

 緊張が解けたのか、その場に足を両側に曲げて座り込んでいたマミは立ち上がり、そして何事もなかったかのようにお礼を言った。

 

「助けてくれてありがとう」

 

 自分が信頼できないとか言っておいて、それを庇ったまどかに助けられたことに気まずさをおぼえないほどマミは鈍い人間ではない。

 なんとか強がることで、先輩としての威厳を保とうとする。

 

「他に言うことはないの? 私は言ったわよね、危ないって。素直に忠告も聞けないあなたのせいで一般人が死ぬかもしれなかったのよ」

 

 言っていることは正論でも、縛られたままだと台無しである。

 それを気にするほどマミにもさやかにも余裕はなかったが。

 

「お、転校生が私を心配してくれてるじゃん」

 

 緊迫した空気に耐えられずか、読まないのかさやかがちゃかした。

 このほむらにさやかに対するデレというものを期待するだけ無駄なのだが。

 

「別にそれはどうでもいいんだけどね。もし前みたいにまどかを連れてるときだったらどうするのかと思って」

 

 冷たい目で一瞥し、心底うんざりとして表情で吐き捨てた。

 さやかはあまりの暴言に思わず一歩後ずさった。

 

「うぅっ、酷いや」

「ごめんなざいぃ」

 

 耐え切れなくなったマミが半泣きで謝った。

 この前までのお姉さんっぷりが台無しだとか言わない。

 まどかは、ほむらちゃんはなんて誤解されやすいんだろう、と生温い視線を投げかけた。

 まどかにとって、ほむらは少なくとも自分には優しい少女である。

 それはほむら自身の優先度によるものではあるが、まどかはそれを私以外の人の前では素直になれないのかな、と思っている。

 大丈夫、ほむらにだって先ほどのように最低限の優しさはある。

 

「まあまあ助かったんだからいいじゃない」

「本当まどかは優しいわ。まどかの女神っぷりに感謝することね巴マミ」

「な、なに言ってるの」

 

 まどかは褒められ慣れてはいない。

 さやかはまどかを時々過剰に褒めるが、それは半分が冗談だということはわかっている。その分、真面目な顔をしたほむらのまどかバカっぷりは刺激が強かった。

 照れて顔を赤くしている。

 

「ちょっと待て転校生。最近まどかと仲がいいのは知ってたけどそこまで本音だだ漏れだったっけ?ていうかまどかに何があったのよ」

 

 まるで恋する乙女のように、顔を赤らめ、褒め言葉に照れてみせるまどか。まるでずっと前から親友だったかのような、かつ成立したてのカップルのような反応に思わずさやかはつっこんだ。

 

「いいところだったのにこの青いのは」

「それも含めて話すことがあるの」

「え? このツッコミからシリアスな話に持っていくの? 頭が追いつかないんだけど」

「まあ美樹さやかだから仕方ないわね」

 

 ほむらはまどかによって既に拘束を解かれている。

 ようやくシリアスな雰囲気のみになったのをまどかはどこか満足そうだ。

 

「バカにしすぎでしょ」

「じゃあ私の家で話さない?」

 

 マミがここぞとばかりに提案した。

 彼女は表向きは世話好きである。それは甘えたがりな本性の裏返しであるのだが、それに会ったばかりの後輩は気づくことはない。

 

「そうね、その姿でファミレスなんて行ったら私達がいじめっ子みたいじゃない」

「違うの?」

「あなたに関してはあってるわ」

 

 ほむらは相変わらず誤解されやすいことばかり言う。

 素直じゃないね、とまどかが心の中で呟いた。

 

 

 四人はマミの家に着いた。

 両親を失い、一人暮らしの家は存外散らかっておらず、それだけに机の隣に積まれてあるノートが異様であった。

 

「というわけで私は魔法少女になりました」

 

 かなりほむらの努力を省略してではあるが、まどかとほむらは魔法少女の真実とまどかの願いを説明しおえた。

 

「ちょっと待って……魔法少女が魔女になるって本当なのキュゥべえ?」

 

 いっきに説明されて混乱した頭でマミがキュゥべえに尋ねた。

 

「大体本当さ」

 

 悪どい、狡猾と名高いキュゥべえではあるが、嘘だけはついたことがない。あくまで、「嘘」は言わないだけだが。

 今回もあっさりと自らの事情を認めた。

 その言葉にマミは、シャルロッテと対峙した時以上に青ざめた。

 両親を亡くし、魔法少女となることで生き延びたマミにとって、キュゥべえとはかけがえのない存在となっていたのだ。魔法少女としての正義を認めてくれ、いつも一緒にいてくれる。命の恩人でありながら、家族のようにさえ思っていたのだ。

 そんなキュゥべえに裏切られた。そして今までの魔法少女としての正義の行動が、同族殺しであったことに、さらに自分の行く末が忌み嫌う魔女でしかないことにどうしていいのかわからなくなった。

 そんな彼女が言うことなど、同じ時間を繰り返してきたほむらにとって予測することは容易かった。

 

「貴方は次に「魔法少女が魔女になるしかないっていうならみんな死ぬしかないじゃない!」と言うわ」

「魔法少女が魔女になるしかないっていうならみんな死ぬしか――えっ……?」

 

 マミは完全にセリフを先読みされ、ぽかんと一瞬ほうけた。

 その隙を見逃すほむらではなかった。

 

「させないわ。やっちゃってまどか」

「がってん!」

「私のまどかはそんなこと言わない」

「私のほむらちゃんはそんなこと気にしない」

「まどかったら」

 

 ほむらは頬が赤くなるのを抑えきれなかった。

 馬鹿な夫婦漫才をしながらでも、まどかは楽々と余裕でマミを縛りあげた。

 ぐるぐる巻きに縛られたマミは誰かに需要があるのか、胸とスカートに縄が食い込んでいる。

 

「これはさっきの仕返しなの?!」

 

 我に返ってマミは慌てた。

 

「マミさん、ソウルジェム借りますね」

 

 まどかはマミのソウルジェムをひょいと取り上げ、手をかざした。

 手の先から銀色の光がキラキラとそそぎ、さきほどまで濁っていたソウルジェムがあっという間に元の輝きを取り戻した。

 

 マミも、そしてキュゥべえまでもが言葉を失った。

 

「エヘヘへヘ私の願いの副産物でこんなこともできるんだよ」

 

 まどかの笑顔さえあれば私は浄化されそうね、とほむらは相変わらずである。

 

「というわけだから皆が魔女になる必要はないのよ」

 

 いつものくせで片手で髪を後ろにすいてはらう。

 

「それでも私達と無理心中します?」

「まどかのソウルジェムは壊れないし、さっきの戦いで不利だってことはマミさんならわかるでしょうけど」

 

 二人の言い方はどこか脅迫めいていて、これを断ったときはどうなるかわかったものではない。

 さやかは魔法少女ではないし、もし魔法少女だったとしてもこの二人を止められるとは思えない。

 戦慄するマミにまどかは追い打ちをかけた。

 

「でもまだ魔力の扱いが下手でね。さっきもあんなに派手に爆散させる気はなかったの」

 

 先ほどのシャルロッテ、爆散させないように威力を弱めることに集中していたというのだ。

 

「あれでも手加減してたのね」

 

 ほむらはまどかの力があんなものではないとはいえ、驚きを隠せないでいた。

 そしてほむらとまどかの会話は止み、二人の視線はマミへと向けられた。さやかは完全に蚊帳の外である。

 三者三様に張り詰める。これがおそらくはほむらとまどかの、魔法少女を救う最も最初の分岐点だろう。雑には見えるかもしれない説得であったが、いたって真剣である。あまりに追い詰めすぎると、自爆覚悟で跳ね返す真面目なマミの性質を知っての対応であった。

 マミは二人の言葉に嘘がないかを、反芻しつつ目を見て見抜こうと試みる。それではダメだ。二人は嘘など一つもついていないのだから。この場合、それらが全て事実であったとして、マミにとって何が問題かを見ることが必要だった。

 だがマミの答えはとっくに決まっていた。

 彼女にとって魔女を倒すことが人々のためになるのであれば――素体となった魔法少女を救うことになるのであれば、それは正義である。

 解決を見せなかった孤独が解消され、魔法少女としての安定を得られるのであれば。

 マミの険しかった顔が優しく緩んだ。

 

「やめとくわ」

 

 たった五文字。その返答に二人は大きく胸をなでおろした。

 

「鹿目さん達がこれからも一緒に戦ってくれるならこの街を守るためにこれからも魔法少女であり続けるわ」

 

 持ち直しさえすれば頼もしい先輩なのに、とほむらは今までにない展開に嬉しくもあった。

 

「それでこそマミさんですよ」

 

 さやかからすればマミは頼れる強い先輩でしかないのだろう。センスと経験で得体の知れない怪物を圧倒する、華麗な魔法少女に見えるのだ。

 ここぞとばかりにマミを褒めた。彼女はこの数日間でマミを正義の味方として憧れている様子がある。

 それはほむら、まどかにとってもわからない感情ではなかった。彼女は外から見ているとかっこいいのだ。戦い方も、魔法少女としての在り方も。憧れにたるまっすぐで華麗な先輩だった。

 しかしそれでもほむらは一言物申さずにはいられなかった。こうして強さが故に脆さを抱えた先輩のことを。

 

「いえ、本当の巴マミはもっと臆病で弱い面のある人よ。一人でいることを選びながら孤独に弱いそんな少女でしかないわ」

 

 でなければ孤独に戦いながら仲間を求めたりはしない。

 キュゥべえがいても、共に戦ってくれるわけではない。彼女はどこかで仲間を求めて、絆に飢えていた。

 それさえ満たせば彼女の錯乱を止めるのは簡単なことだった。

 申し訳なさそうに、もじもじと指を絡ませた。そんな彼女はもう、滅びの運命に抗い、魔法少女として戦いぬく覚悟を決めていた。

 そう、理由は何もない。ここで自殺する理由も、ここで彼女らと戦う理由も、そして強がる理由さえも。

 まどかが浄化できる以上、グリーフシードの残り数や魔法の使用などに関係なく魔女化は防げる。自身が強く在れるかどうかでしかないのだ。

 彼女は自身の弱さを告白した。

 

「そうよ……だから美樹さんからみた私は偽物、強がっていただけよ。現に協力してくれるという魔法少女を縛り上げてあなたを危険に晒してしまったわ」

「まだよ」

 

 ほむらは追い討ちをかけようと言葉を重ねる。

 ここでぽっきりと折っておかないと、いつまた慢心や油断で致命傷を負わないと限らない。

 

「ほむらちゃん?」

 

 しかしまどかに凄まれてやめた。

 まどかは普段ニコニコとしていて、おとなしい少女なので、こういう時に怒ると笑顔さえ恐ろしく見える。

 

「みんなが助かったんだからこんなときは仲直りの握手でしょ」

 

 すごまれて怖くて……ではないが、ほむらはすぐに折れた。

 まどかに嫌われるぐらいならソウルジェムを砕いた方がマシというほむらにとって、まどかには全面降伏が基本姿勢なのだ。

 

「ごめんなさいまどか」

「これからもよろしくね」

 

 その場はまどかの一言でそう締めくくられた。

 暗黙のうちにここに三人の魔法少女が同盟を組んだ。

 さやか? 今回は残念ながらツッコミしかできなかったようだ。話に追いつけず、とりあえず迂闊に魔法少女になるのだけはやめようと決意した。

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