まどかは願いで最強になって魔法少女の問題をねじ伏せるようです 作:えくぼ.
窓から朝日が差し込み、三人の横顔を照らした。鳥の声がさえずり、いかにも朝だと主張する。
休日なので学校にいくこともなく、目覚ましもそのスイッチをオフにされている。
三人の中でただ一人、目を覚ましたマミは隣で寝ていた二人を見て取り乱した。
「なんで佐倉さん達がここに……」
自分で泊めておいてすっかり忘れていたのだ。
二人の幸せそうな寝顔に思わず頬も緩む。
一人暮らしが長いマミにとって、起きた時に人がいる光景というのは新鮮だった。
「そうそう泊めたんだった。じゃなくってなんなのこの可愛い生き物」
布団を抱きしめて丸まって寝ている杏子にゆまがひっついて寝ていた。
むにゃむにゃと聞こえてきそうなだらしない口元も失礼ながら杏子に似合っていた。
若干の嫉妬と、本人は気づいていないがマミは確かに萌えという感情を理解しつつあった。
「起こしたくないわ」
できるものならずっとこのまま見ていたい。
そんな本音が口から漏れた。
「ん……マミさんか……おはよう」
今でもたまにマミをさん付けしてしまうのは昔の癖か。
朝が弱いのもあっていつもの強気な感じがすっかり抜けていた。
対照的にゆまは朝からはきはきと礼儀正しく挨拶した。
「キョーコ、マミさんおはようございます」
隙のない子である。
マミはそんな二人を見つめていたことをどう言い訳していいかわからず、そして言い訳する必要はないのだとそれについて言及することなく二人に食事を促した。
「朝ごはん食べましょうか」
三人が食卓を囲むのに時間がかからなかったことは言うまでもない。
◇
その日の十時ごろ、こちらは豪華な屋敷で二人の少女が過ごしていた。
片方は優雅に庭で紅茶を飲み、もう一人はお茶菓子をつまんでいた。
「本当にキリカは甘いものが好きね。太っちゃうわよ」
冗談混じりにからかう彼女の言葉にキリカと呼ばれた少女は血相を変えた。
「織莉子は私が太ったら仲良くしてくれない?」
まるで捨てられた子犬が縋るかのような目で膝をついて下から問うキリカに、そんなことはないわ、と甘やかす織莉子。
二人は家族のように、穏やかな午後を過ごしていた。
ただ、その時間は永遠に続かないことを二人は知っていた。
織莉子が暗い顔をしたのを、誰よりも彼女を見ているキリカは見逃さなかった。
「どうしたんだい織莉子、眉間にシワを寄せて」
両手をだらりと下におろしているのは彼女の通常の姿勢だ。
やる気のなさそうな表情とは裏腹に、彼女の心には織莉子の悩みがあるなら全力で解決しようという気概が溢れている。
自分のことをこれでもかと想っていてくれるキリカの隣は織莉子にとって居心地が良かった。
織莉子はキリカに隠し事をする気はなかった。
正直に今悩んでいることを話した。
「未来が視えない……いや変わったのよ。この前まで視えていたのに、絶望の結末が」
彼女もまた、魔法少女である。
その願いから生まれた固有魔法の特性は未来予知。
不確定ではあれど、放置すれば確実に避けられない未来というものが彼女には見える。
その中で見た未来の一つ。
「そして最悪の終末が」
苦々しく言葉を噛みしめた。
絶望の結末。最悪の終末。
彼女の視たそれは一人の魔法少女が魔女となり、世界を滅ぼす未来だった。
それを防ごうと思うのなら、自分たちがその少女を魔法少女になる前に殺してしまうことだった。
その覚悟はできている。
二人は辛い過去があって、今も生きやすい世界とは言い難い。
だが織莉子はキリカを、キリカは織莉子を見つけたことで、生きていこうと思えたのだ。
二人が出会えた先を、わけのわからない巻き添えで壊させたりはしない。
彼女たちの決意は固い。
「私は織莉子のこと以外はよくわからないけど、織莉子が苦しむのなら取り除くだけだよ」
はたから見れば友達同士の二人はどこか歪な主従関係でもあった。
織莉子は自分の見た未来が当たることに自信を持っているため、今から口にすることは実際には無駄だということを知っているが、それでも言わずには、動かずにはいられなかった。
「確かめに行こうかしら」
織莉子はバラ園を眺めながらそう言った。気だるそうに、それでいて殺気を込めて溜息をついた。
その溜息に呼吸を合わせるように二人の背後で声がした。
「その必要はないわ」
突然二人の背後に暁美ほむらが現れたのだ。まるで始めからそこにいたかのように。ほむらは既に魔法少女の姿であった。
二人は魔法少女であり、あまり平和とは縁の遠い魔法少女活動を続けているため警戒を怠ったことはない。その二人が気配さえ感じる暇なく不意をつかれたことにキリカは久方ぶりの悪寒というものが背筋に走るのを認識した。
ほむらはいつものように黒髪を片手で梳いて払う。長い髪は絡むことなく横にたなびいた。ややキザなその動作も、魔法少女という現実味のない格好とこのヨーロッパ風の庭園に組み合わせればなんとも似つかわしくさえあった。
キリカが魔法少女の姿になり、戦闘態勢をとった。
「どこから入った?」
彼女は両手に巨大な爪を、そして片目を眼帯で隠している。
一部ではある異名がつくその姿は魔法少女というには鋭い獣のような雰囲気さえする。
「あなたは見えてたんでしょう、美国織莉子。私がくること」
織莉子が黙った。
どうやら見えていたのはそこまでらしい。
彼女の魔法もまた万能ではない。
時間に関与する能力は強力な分制約が厳しく、ピーキーな特性だったりして使いづらいことも多い。
今回はほむらの意図やここからの展開までは予知できなかったということか。
「あなた達の探している人物を連れてきたわ」
ほむらの影からまどかがひょっこりと顔を出した。
最悪の魔女、その原型となる少女が今目の前にいた。
「こんにちは」
「今日は話し合いに来たのよ」
話し合い。見ず知らずのはずの少女たちはお互いをお互いの知らぬところで知っており、その意味を理解する者はいない。ただ、相手が自分と会話する意義のある相手だということだけを本能的に理解していた。
ほむらの容姿とまどかの側にいることを照らし合わせて織莉子は瞠目した。ほむらに見覚えのあったからだ。
「あなた……終末に居合わせていた……」
ほむらが終末に居合わせた。そのセリフに過去形を使うことは本当に正しいのだが、今の織莉子はそれを知らない。
未来のことを過去に"見た"というだけで。
だから過去形をおかしいと思いながら使っていた。つい言ってしまったその能力はほむらは既に知っているのでなんら言及することはなかった。
そしてそれらを気にする風でもなくまどかへの愛だけを貫いた。
「まどかに手を出さないでほしいということよ」
「あなた、 識っているのね」
キュゥべえの目的、二人の目的。
魔法少女の最期、まどかの魔女化。
お互いに何も言わなくても充分だった。
「あの光景を見てなお、その子を護ろうとするの?」
一つの町に収まりきる災害級の魔女、ワルプルギスの夜が超弩級と呼ばれ、現在最強の魔女の名をほしいままにしている。
しかしまどかが魔女化したときの被害はそれを軽く上回る。ワルプルギスが可愛く思えるほどに。
絶対的な破壊の嵐。
まるで全てを滅ぼすことが慈悲だとでも言うかのように。
世界を滅ぼすという言葉がなんの誇張でもないことを、織莉子とほむらは別々の方法で知っている。
「あなたとは分かり合えなかった……あのときも」
「あのとき」、織莉子のように未来を見ることができないほむらのその言葉は、織莉子に一つの推測をたてさせるには十分であった。
「へぇ……あなたの能力って」
先ほどの気配さえ感じさせないまま現れたこととともに考えれば自ずと答えはでる。
ただそれは様々な未来や魔法少女を見てきた結果、能力についての知識が深く頭の回る織莉子であったからこそではあるが。
「説明する手間が省けて助かるわ」
ほむらは自分の能力を見抜かれたかもしれないというのに気にはしなかった。いつものクールな口調を全く乱すことなく答えた。
たとえ時間を逆行する願いで能力を得たからといって、時間を操るとは限らないからだ。
逆行することと時間を操ることは別物であり、願いの通りの魔法を手に入れたのは半ば偶然である。
例えばマミは自らの命を繋ぐという願いから得たのは「緊縛」や「連結」といった「繋ぐ」能力である。
願いが能力に関わるとはいえ、それが特性の全てではないのだ。
だからこそ、ほむらというブラックボックスの解体はまだ完全ではないといえる。
「随分と余裕なのね」
招かれざる客に立ち上がるでもなく織莉子はほむらを挑発した。本当に余裕なのは織莉子の方であるとでも言わんばかりだ。
「ええ。戦いたいだけならここを五人の魔法少女で奇襲しても良かったのよ?」
ほむらはやると言えば本当にやりかねない。
その場合は五人でほむらの時間停止で潜入するか、マミとまどかの遠距離砲撃で屋敷ごと壊滅させていただろう。
その恐怖を知らないのが二人にとって良いことなのかはわからない。
ただ、織莉子はそれを冗談のように笑った。
「ふふっ。怖いわね」
言葉とは裏腹に未だ余裕を崩さない織莉子にまどかは大丈夫なの?とほむらを不安げに見つめる。
この時ばかりはほむらの勘違いスキルが発動し、「えっ? まどかが私を見てる? 何これ、両想い?」と盛大に脳内お花畑を満喫していた。
いつも真剣な場面を台無しにする思考である。
「で、私たちにそう言うってことは何か理由があるんでしょう?」
織莉子がほむらに続きを促そうとしたとき、二人の話す間の隙を縫って先に動いた少女がいた。
キュゥべえにとってはほむらが"イレギュラー"で、
ほむらにとってはゆま、織莉子、キリカが"イレギュラー"で
織莉子にとってはまどかが"イレギュラー"である。