昼行灯系ゴミクズトレーナーvs生真面目系お節介副会長ウマ娘vsまたしても何も知らないダークライ 作:キャラメルマキアート
原作:ウマ娘プリティーダービー
タグ:オリ主 ウマ娘プリティダービー エアグルーヴ
視界が揺れていた。
いや、そう錯覚しているというのが正しいか。酷い頭痛がする。
「......っっ、あぁ、最悪だわ」
側頭部を押さえると、改めて酷い頭痛が襲う。
目の前に広がるのは1LDKの部屋。乱雑に置かれた衣服、積まれた雑誌、そして散乱する缶。ALCと書かれているそれは酎ハイやビール、サワー等規則性の無いラインナップではあったが、それがこの頭痛の原因と分かったのは言うまでも無い。
二日酔い。
それがこの部屋の主人である男の現在の病状であった。
「......水」
立ち上がり、キッチンへ向かい適当なコップを取り水を汲み、一気に呷る。
微かではあるが、少しだけ頭痛が緩和されたような気がする。
いや、全く緩和などしてはいないのだが。
「あー」
何となくであるが呻く。
男にはボーッとする時間が必要であった。脳の再起動に二日酔いのせいで時間が掛かっている。頭を揺さぶるような感覚が襲い、男の視覚は微妙に胡乱であり、身体も重かった。
「寝るか」
そう言って散乱した衣服をどうにか退いて、男はベッドへと倒れた。
脳の再起動まで見込み3時間は掛かると判断した男は、現状動こうという気にもなれず、かと言って身体がこの状況に反逆してくれるかといえばそういうこともなく、枕へ突っ伏した。
これは二日酔いが悪い、俺は悪くないと、そう男は自身に言い聞かせた。
「……?」
ふと枕元が小さく振動していることに気づいた。
なんだよと男は枕の下に手を突っ込むとそこにはスマートフォンがある。ケースが付いてなく剥き出しの黒色のスマートフォン。後ろにはニンジンのマークが刻まれていた。
Carrot社のUPhone13である。
「……うわぁ」
思わず呻く。
スマートフォンの画面にはよく知る緑がイメージカラーの人物の名前が表示されており、指が行き先を探すようにくるくる回っている。
男は気乗りしなかったものの重い指付きで画面をスライドし、耳に当てた。
「……もしもし」
『おはようございます』
凛と透き通るような女性の声。
しかし、そこには何やら不穏な雰囲気が纏わりついており、端的に言えば面倒な予感しかしなかった。
「……どうかしたのか?」
『お・は・よ・う・ご・ざ・い・ま・す!』
その声の主は男の態度に不満だったのか、声を荒げてきた。
現在進行形で重い二日酔い中である男にとって脳味噌を直接揺さぶられたかの如き衝撃が襲った。
「お前、うるせぇよ。こっちは二日酔いで頭
『今日が何曜日で今、何時だと思いますか?』
そう言われ、男はテレビの横にあるデジタル時計を見た。
「金曜日の9時20分だな」
『それ、どういう意味か分かります?』
男の務め先であるとある教育機関の出勤時間は9時であった。
それが示すは大遅刻であった。
しかも電話先の女性はその勤め先のある意味同僚のような存在であり、更に言えば先程二日酔いという余計なワードも口にしてしまっている。
つまり完全に詰みであり、今目覚めたとか交通機関の遅延だとかそう言った理由は一切通用しなくなってしまっていた。
「……もう休んで良いか?」
『良い
男の戯言にブチ切れる女性。電話越しではあるがこめかみに血管が浮き出ているのは容易に想像出来る。
ちなみに目撃者によると本当に出ていたし、何なら彼女のスマホは悲鳴を上げていた。
『貴方のことでしょうからどうせ目覚めたばかりなんでしょうけど、さっさと準備して出勤して下さい!』
「よく分かってんじゃん。1時間くらいで行くわ」
『いいえ、10時までに来てください』
「それは無理」
『あなたが時間になっても来なそうだから、私の方から遅刻するみたいですって予め皆さんには周知してあげてるんですから、それくらいどうにかしてください!』
じゃあ切りますね!と語気強めでそのまま通話を切られた。
部屋の中に静寂が現れる。
男は頭を掻きながらスマホをベッドへ投げ捨てた。
「……面倒だけど準備するか」
この男に罪悪感とはないのだろうか。
男はぼやきながら二日酔いによる頭痛に耐え、取り敢えずとシャワーを浴びに向かった。
自身の職場である『日本ウマ娘トレーニングセンター学園』、通称『トレセン学園』へ向かうために。
「あのたわけはまた遅刻しおって......!」
場所は変わってトレセン学園のある教室。
席に座っているウマ娘は深い溜め息を吐いていた。
彼女のスマートフォンの画面には会話アプリである『LANE』が表示されており、以下の文面が書かれていた。
『二日酔いで寝坊した』
とだけ。
スマートフォンの持ち主であるウマ娘、エアグルーヴはそのままトイレへ向かう。
ちょうど授業間の休憩時間であった。
『何をやってるんだ貴様は』
『あれほど絶対起きれないから朝電話してやろうかと言ったのに』
『というか体調は大丈夫なのか?』
『後で薬を持っていく』
トイレの個室に入り、LANE画面を見る。
......既読がついた。
『起きれると思ったんだがなー』
『たづな、キレてた』
『まだあたまいてぇわ』
『助かる』
気怠げに文字を打ち込む男の姿が想像できたエアグルーヴはまた少し溜め息を吐きそうになる。
というかたづなさんに迷惑をかけて何やってるんだと問いただしくなったが、それはひとまず後回しだ。
それはそれとしてたづなさんには御礼と謝罪をしなくてはとエアグルーヴ考えていた。
ちなみにたづなとは駿川たづな、トレセン学園理事長の秘書を務める女性である。
『水分と何か炭水化物を採れ』
『いや、それも次の休憩時間に持っていく』
『そうだ、薬は棚の救急箱に入っていたはずだがなかったか?』
ちょうど次がお昼休みの時間だ、食事も取らせつつ薬を飲ませるかとエアグルーヴは思案するが、救急箱に確か入っていたはずと思い出し打ち込む。
『米』
『なかった』
エアグルーヴは昼休みに持っていく彼の食事をご飯系の何かに決めた。
それに合わせ薬も持っていくことを脳内予定に書き込むと、LANEの画面をフリックする。
『わかった』
『私が行くまでは大人しくしておけ』
そう打ち込むと男からはスタンプが届く。
丸顔のキャラクターが首を振っていた。
エアグルーヴはそれを見届けると、スマートフォンを閉じ、教室へ戻る。
私のトレーナーなのだからもっとしっかりして欲しいと内心思っていたが、取り敢えず早く昼休みにならないかなとエアグルーヴは授業を受けた。
そして授業が終了した後の彼女は誰よりも早く教室を出ていたと、クラスメイトのウマ娘は証言していた。
なお、トレーナー室に食事と薬を持って向かったエアグルーヴであったがそこで同じことをしようとしているたづなと遭遇し、また一悶着あったことは別のお話し。
トレーナーはエアグルーヴにトリプルティアラを取らせているものとする。