病み村よいとこ一度はおいで!   作:兵庫人

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第1話

 異世界転生。

 

 一度死んだり何らかのトラブルにあった人間が、生まれた世界とは異なる世界に転生して二度目の人生を送るという、ライトノベルで定番の展開である。

 

 そして異世界転生には漫画やゲームの世界に転生するという展開があり、この物語の主人公である彼が今体験しているのもこれなのだが、彼の異世界転生は少しばかり様子が違うようであった。

 

 

 

「………何で、何でよりにもよって『北の不死院』にいるんだよ、俺は?」

 

 石造りの牢獄の中でこの物語の主人公である彼、藤沼リュウダは呆然と呟いた。

 

 自分が転生者であるとリュウダが気づいたのは今日の朝のことであった。朝起きると何の予兆もなく前世の記憶が蘇り、今自分がいる世界が漫画、それも二つの漫画の設定が混ざりあった異世界であると気づいたのである。

 

 そして自分の身に起きた理解を越える展開に頭を抱えたリュウダがなんとか一日を終えて眠りにつくと、今度はこの石造りの牢獄、北の不死院の牢屋の中にいたのだった。

 

 北の不死院。

 

 それはリュウダが前世でプレイしたことがあるアクションRPG「ダークソウル」のスタート地点で、不死人となったゲームのプレイヤーは、まずはこの牢獄から脱出して人の世界に光を取り戻す巡礼の旅に出るのだ。

 

「全くふざけるなよ……。あの二つの漫画が混ざりあった闇鍋を通り越してカオスな異世界に転生しただけでも腹一杯なのに、その上寝たらダークソウルの世界に転移? 俺が一体何をしたっていうんだよ……待てよ?」

 

 ここが夢の中でないことを確認して思わずその場で座り込んでしまうリュウダだったが、あることに気づくと勢いよく立ち上がった。

 

「そうだよ……! ここがダークソウルの世界だったら『病み村』に行けるじゃないか!」

 

 病み村とはここ、北の不死院と同じくダークソウルにあるマップの一つである。

 

 病み村の前半は足場の悪い木製の建造物で先に進むには梯子で下へ降りて行くしかなく、もし足を踏み外せばそのまま転落死という展開も珍しくない。そして後半は見渡す限りの毒の沼地で、専用のアイテムが無ければ沼地に足を取られて移動スピードが激減して、一定時間いれば毒になってしまう。おまけにそこに出てくる敵の多くは、攻撃が当て辛い上に倒しても得られるゲームの通貨であり経験値でもある「ソウル」とアイテムが大したことがないという驚くべき不親切ぶり。

 

 そんなことから多くのダークソウルのプレイヤーは当然ながら病み村に対していい感情を持っていないのだが、リュウダは病み村をこよなく愛するプレイヤーであった。その理由とは……。

 

「病み村に行けばクラーナ師匠とクラーグ姉さん、混沌の娘の姫様に会えるんだ!」

 

 リュウダの言うクラーナとは病み村に登場する、ソウルと引き換えにゲームのプレイヤーが使う魔法の一つである「呪術」を教えてくれる女性キャラクターだ。クラーナはフード付きのローブを身にまとった外見をしていて素顔は見えないが、プレイヤーのことを「馬鹿弟子」と呼ぶクールな口調で多くの男性ファンを獲得しており、当然リュウダもファンの一人である。

 

 次にクラーグは病み村のすぐ近くにあるマップのボス敵だ。クラーグは上半身は裸の美女で下半身は巨大な蜘蛛という外見で、その一部の紳士の性癖にストライクする姿にリュウダは思わず一目惚れしたのは懐かしい思い出だった。

 

 最後に混沌の娘はクラーグが登場するマップの隠し部屋にいて、会話と行動次第で特別な呪術をプレイヤーに教えてくれる女性キャラクターだ。混沌の娘はクラーグと同じ上半身は裸の美女で下半身が蜘蛛という外見であり、従者に「姫様」と呼ばれていることからリュウダも彼女のことを姫様と呼んでいた。

 

 クラーナ、クラーグ、混沌の娘は血の繋がった実の姉妹で、大昔に母親であるイザリスの魔女が起こした事故によってクラーグと混沌の娘は異形の姿となり、クラーナは二人の姉妹と離れて一人で病み村にいるのだった。

 

 そして混沌の娘は病み村で苦しむ多くの人々を救うためにその苦しみを自分に集め、その結果として混沌の娘は病み村の人々を救ったのだが、代償に自分は目が見えなくなっただけでなく常に強い痛みに苦しむようになる。この妹の痛みを和らげるためにクラーグは病み村に訪れたプレイヤーを初めとする不死人を襲い、「人間性」と呼ばれる力を集めていた。

 

 ダークソウルのストーリー上、プレイヤーは先に進むためにクラーグを倒すしかない。倒した後でクラーグと混沌の娘の設定を知るとリュウダは「クラーグ姉さん、すみませんでした!」と思わず涙を流し、これがきっかけでクラーナ、クラーグ、混沌の娘の三姉妹が全員幸せに生きてほしいと思うようになったのも、ある意味当然のことだろう。

 

 そんなリュウダが、ダークソウルの世界に転生した上に転生者だけのチート特典「原作知識」を持っていると気づいた以上、彼が取る行動は一つだけだった。

 

「クラーナ師匠! クラーグ姉さん! 混沌の娘の姫様! 三人の幸せな未来は俺が守る! ……そうと決まったら!」

 

 自分のするべき事を決めたリュウダは早速自分の身の回りをチェック。

 

 ダークソウルはキャラクターメイキングで決めた素性によって初期装備が代わり、現在リュウダが着ているのは素性に「呪術師」を選んだ時のボロ布のフードを初めとする衣装だった。最初から呪術が使える呪術師スタートであったのは彼にとって幸運であるが、それ以上にリュウダが関心を持ったのは、自分の右手の指にはまっている指輪である。

 

 リュウダの右手にある指輪は「老魔女の指輪」といい、装備すれば異形と化して人間の言葉が理解できなくなった混沌の娘と会話ができるようになる、リュウダにとっては掛け替えの無いアイテムであった。

 

「よっしゃ! 素性は呪術師で贈り物は老魔女の指輪! これで勝てる! それじゃあ行くでぇ!」

 

 そう言うとリュウダは、自分と同じ牢屋にある死体から牢屋の鍵を剥ぎ取ると、勢いよく牢屋を出てそのまま通路を駆け出す。

 

「俺は死んじまっただ~♪」

 

「転生しちまっただ~♪」

 

「病み村よいとこ一度はおいで!」

 

 昔の歌の替え歌をノリノリで歌いながら全力疾走するリュウダのその後の行動は、まさに破竹の勢いと言えるものだった。

 

 まず途中で拾ったハンドアクスで北の不死院のボスモンスター、不死院のデーモンの脳天をかち割って不死院を脱出し、そのまま火継ぎの祭祀場へ。

 

 火継ぎの祭祀場から城下不死街へ行くと、そこのボスモンスターの牛頭のデーモンをハンドアクスで滅多切りにしてから呪術の「火の玉」でバーベキューにした後、城下不死教区に。

 

 城下不死教区に着くと忍者のような動きで敵の目を掻い潜り、病み村へ行くのに通らねばならないマップ、不死街下層への道を開くアイテム「下層の鍵」を入手。

 

 城下不死教区から不死街下層へ向かうとそこのボスモンスター、山羊頭のデーモンを牛頭のデーモンと同様にハンドアクスで滅多切りにしてから呪術の火の玉でバーベキューにした後、最下層に降りた。

 

 最下層ではそこで助けたキャラクター、大沼の呪術師ラレンティウスから習った呪術「発火」でボスモンスターの貪食ドラゴンを異臭のする炭に変えて進み、とうとう病み村に到着したのだった。

 

「ようやく病み村に着いた……! あと少し、あと少しでクラーナ師匠、クラーグ姉さん、混沌の娘の姫様に会える……!」

 

 目的地の一つである病み村に辿り着いたリュウダは、ただでさえ速かった歩みを更に速くして、立ち塞がる敵モンスターを全て叩きのめし(特に蓑虫は念入りに徹底的に)、病み村の奥地にある毒の沼地の先、もう一つの目的地に突撃し、そこでついに「彼女」と出会ったのである。

 

「か、彼女が……」

 

 病み村の毒の沼地の先にある「クラーグの住処」と呼ばれる洞窟に来たリュウダの前にいたのは、下半身が巨大な蜘蛛の美女、この洞窟の女主人であるクラーグであった。

 

 現実の存在と化したクラーグを実際にその目で見たリュウダは思わず目を見開きその場で棒立ちとなり、対するクラーグは自分の住処へやって来た侵入者に向けて不死人に向けて通常の人間では理解できない言葉で話しかける。

 

「新しい不死人ね……。貴方に恨みはないけど、これも全てはあの娘のため。貴方の人間性をいただ……」

 

「クラーグ姉さん! これ、お土産の人間性です! どうぞお納めくださぁい!」

 

「ええっ!?」

 

 それまで棒立ちだったリュウダであったが、クラーグの言葉の途中で突然ジャンピングローリング土下座をし、これにはクラーグも驚きの声を上げる。しかもリュウダは土下座の体制のまま右腕をクラーグに差し出しており、その右手にはここに来るまでの間、主に最下層のネズミのモンスターを絶滅させんばかりの勢いで大量に倒して集めた人間性(×99)があった。

 

 理解できないはずの自分の言葉を理解して、不思議な動きをして自分の前に跪き、自分が欲していたものを献上する不死人にクラーグはどんな反応をしたらいいのか分からずリュウダに話しかける。

 

「ねぇ? 貴方さっき私の名前を呼んでいたわよね? もしかして私のことを知っているの?」

 

「はい! もちろん知っています! クラーグ姉さんのことも、クラーグ姉さんが妹さんのために人間性を集めていることも全て!」

 

「そ、そう……?」

 

 クラーグの質問にリュウダが勢いよく顔を上げて答えると彼女は何故か一歩引くのだが、彼はそれに気づくことなく話を続ける。

 

「クラーグ姉さん! どうか俺をクラーグ姉さん達の従者、混沌の従者にしてください!」

 

「え?」

 

 困惑するクラーグにリュウダはにじり寄りながら自分を従者にしてほしいと頼む。

 

「俺を従者にしてくれたら俺がクラーグ姉さんの代わりに人間性を集めます! そしたらもうクラーグ姉さんが危険を犯して人間性を集める必要がなくなります!」

 

「い、いや、ちょっと待って……?」

 

「それに病み村にはクラーナ師匠もいるはずですから、俺が通訳すればまた三人で暮らすことだって……!」

 

「分かったからちょっと待ってって!」

 

「ぶべらっ!?」

 

 クラーグに近づきながら話すリュウダだったが、途中でクラーグの下半身である蜘蛛の脚の一本が振われ、それに当たった彼は「YOU DIED」という文字が目の前に浮かんだと思った次の瞬間、意識を失った。

 

 

 

 クラーグの脚が当たり意識を失ったリュウダが次に目を覚ますと、そこはリュウダが転生したもう一つの異世界、彼の言う二つの漫画が混ざり合った闇鍋を通り越してカオスな異世界にある自室であった。

 

「う〜む。まさかクラーグ姉さんに殴り殺されるのは覚悟していたが、あれはゲームの時とは何か違うような気がする。……ん?」

 

 この異世界に転生した今のリュウダは高校生で、学校へ登校している途中で彼がクラーグのことを考えていると、前方で二人の男子生徒が言い争いをしているのに気づいた。

 

「貴様! 昨日は何で俺の邪魔をしたんだ『横島』!」

 

「うるせー! それはこちらの台詞じゃ『諸星』!」

 

 リュウダの前で言い争っているのは「諸星あたる」と「横島忠夫」。「うる星やつら」と「G S美神 極楽大作戦!!」の主人公達であり、この世界では二人は同じ学校のクラスメイトであった。

 

 ……ちなみにリュウダも諸星と横島と同じ学校のクラスメイトであり、この事から彼がこの世界を闇鍋を通り越してカオスな異世界と呼んだ理由が分かるだろう。

 

「いいか横島! 貴様が横からしゃしゃり出てこなければ昨日のガールハントは成功していたんだ! せっかく綺麗なお姉さんだったのに……!」

 

「横からしゃしゃり出てきたのはお前だ諸星! あのねーちゃんは俺が先に狙っとったんじゃ! 綺麗なねーちゃんは全部俺のものなんじゃ!」

 

「「何おう!?」」

 

 どうやら諸星と横島は昨日、女性に声をかけようとしたが二人揃って失敗したらしく、その責任をなすりつけあっているようである。昨日までのリュウダだったら、諸星と横島の低レベルな会話を聞いて頭を痛めていたところだが、今のリュウダは違う。

 

 どうやらリュウダはこの世界で眠ったり気絶したりするとダークソウルの世界へ行き、ダークソウルの世界で死んだり篝火で休息をしたりするとこの世界に戻ってくるみたいだった。そして諸星と横島のクラスメイトとなって二人の側にいると言うことは、必然的にトラブルに巻き込まれて気絶してダークソウルの世界、クラーグ達の元へ行ける回数が増えると言うことだ。

 

 そう考えるとこの異世界に転生したのはそれほど悪いことではないと思える様になり、リュウダは自分だけに聞こえる小声で歌いながら通学路を歩くのだった。

 

「俺は死んじまっただ~♪ 転生しちまっただ~♪ 病み村よいとこ一度はおいで♪」




続かない。
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