面堂終太郎。
うる星やつらのレギュラーメンバーの一人で、大財閥である面堂家の次期当主な上、容姿端麗で頭脳明晰、運動神経抜群と天から二物も三物も与えられたような人物である。しかしそんな一見非の打ち所のない彼だが、諸星と同じくらい女好きであることと、大きな「弱点」を持っていることから、終太郎もまた諸星達と負けないくらい場を引っ掻き回すトラブルメーカーの一人なのであった。
「了子! お前、また僕の断りなくオカルトグッズを買ったそうだな!? あんな怪しい上に危険な物、もう買うなと何度も言っているだろう!」
了子の部屋に入ってきた終太郎は自分の妹に向かって大声を出すが、了子は特に気にしておらず涼しい表情のままだった。
「お兄様。そんなに大声を出してはお行儀が悪いですわよ。せっかくお客様が来て下さっているのに」
「お前に客だと? 一体誰……………えっ?」
「終太郎クン、久しぶりー」
了子に言われてようやくリュウダと冥子の存在に気づいた終太郎は、冥子の姿を見た瞬間まるで凍りついたかのように固まってしまう。その終太郎を見てリュウダは、以前ダークソウルの世界の最下層でバジリスクに石像にされた時のことを思い出した。
「め、冥子さん、ですか……?」
「ええ、そうよー」
「…………………………!?」
目の錯覚であってほしい。あるいは他人の空似であってほしい。
そんな心の声が聞こえてきそうな震える声で終太郎が聞くと冥子は頷き、終太郎の顔色が目に見えて青くなっていく。そして……。
「う、う、うわあああーーーーー!!」
突然、終太郎は恐怖に表情をひきつらせて部屋から出ようと全速力で走り出した。これにはリュウダも冥子も面食らったが、了子だけはこの展開を予想していたようであった。
「お兄様。冥子様のお顔を見て逃げ出すなんて失礼ですわよ」
そう言って了子が手元にある何かの機械を操作すると、部屋の天井から鐘が落ちてきて終太郎は鐘の中に閉じ込められてしまう。すると次の瞬間……。
「うわ~ん! 暗いよ、狭いよ、恐いよ~!」
鐘の中から終太郎が子供のように泣きわめく声が聞こえてきた。
そう。これが終太郎の持つ大きな弱点。彼は重度の閉所恐怖症の暗所恐怖症で、今みたいに狭くて暗い場所に閉じ込められると幼児退行を起してしまうのである。
「おほほ。お兄様、みっともなくってよ」
「了子ちゃん、ちょっとやりすぎよー。ビカラちゃーん」
鐘の中で泣きわめく終太郎を見て了子が笑っていると、見かねた冥子が自分の影からビカラを呼び出し終太郎を助けるように命じる。
「た、助かっ……………た?」
ビカラの怪力によって鐘はあっさりと退かされ、外に出れて安堵の息を吐いた終太郎は、自分を助けてくれたビカラを見て再び固まってしまう。
「お、お、オバケーーー!? うわ~ん! オバケ嫌だよ~! ………ぶっ!?」
鐘の中に閉じ込められた時のような、いいや、それ以上に大きな声で泣き出した終太郎を「助けてやったのに、その言いぐさはなんだ!」とばかりに怒ったビカラが体当たりをして踏み潰してしまう。
「これは一体……何がどうなっているんだ?」
「これには事情があるのです。我が面堂家と冥子様の六道家は古くから続く名家同士ということもあって、私達も昔からの知り合いなのです。……そしてあれはお兄様が五歳の頃、冥子様と初めて会った時に起こったと聞きます」
原作にはない展開にリュウダが目を白黒させていると、いつの間にか隣に来ていた了子が自分の聞いた話をしてくれたのだが、この時点でリュウダには嫌な予感しかなかった。
「……一体何が起こったんだ?」
「はい。冥子様の式神達なのですが、初めての場所と初めて会ったお兄様に興奮したようで、お兄様と一緒に『遊んだ』そうなのです。それによって当時のお兄様は七日七晩生死の境をさ迷ったのだとか」
嫌な予感が的中したリュウダは、頭痛がした気がして右手を額に当てた。了子の言う「遊んだ」とは十中八九、式神の暴走なのだろうがこの話にはまだ続きがあった。
「それで自分のせいでお兄様が怪我をしたことを知った冥子様は、お兄様と式神に仲良くなってもらおうと考え、お兄様を式神達が暮らす自分の影の中へ三日程ご招待したそうなのです」
「………!」
了子の話に今度こそ頭痛がしたリュウダは、右手だけでなく左手も額に当てて俯いた。冥子の影の中は完全な異空間で、そんな所に閉じ込められたらいかに面堂家の力でも終太郎を助け出すことなんて不可能だろう。
原作では終太郎が閉所恐怖症の暗所恐怖症になったのは別の原因だが、この世界では冥子が全ての原因のようだった。五歳の頃に式神に袋叩きにされた挙げ句、光が無い異空間に三日間閉じ込められたら、誰だって閉所恐怖症の暗所恐怖症、オマケに霊体恐怖症になるに決まっている。
話を聞いたリュウダは終太郎を放っておけなくなり、内なる大力を使って黒いローブ姿に変身すると、ビカラを退かして終太郎を助け出した。
「まあ……!」
「お、お前は……?」
リュウダが黒いローブ姿に変身するのを見て了子が小さく驚きの声を上げるが、リュウダはそれに気づかず自分を見上げる終太郎に自己紹介をした。
「俺は藤沼リュウダ。お前が転校したクラスの生徒だよ。まあ、何て言うか……俺の雇い主の冥子先生がすまなかったな? これからは冥子先生がこの家に行く時は俺もできる限り同行するし、式神の暴走も抑えるように協力するから元気だせって」
「ほ、本当!? 本当に守ってくれるの? 絶対だよ!」
終太郎を励まそうとリュウダが話しかけると、終太郎はまるで地獄で仏に出会ったような顔でリュウダの手を取った。
「冥子様。それに藤沼様も、また来てくださいね」
「藤沼ぁ! 冥子さんが来る時はお前も絶対に来るんだぞ! 茶菓子でも何でも用意してやるから絶対に来いよ!」
面堂家の屋敷から帰る時、了子と終太郎は冥子だけでなくリュウダにも声をかけた。
どうやらリュウダは了子からは新しいオモチャ、終太郎からは冥子関係のトラブルの命綱と認識されたようであった。