「それじゃあ、いきますよ。皆さん危ないですから離れてくださいね。……『火球』」
自宅のアパートでおユキと予期せぬ出会いをしてからしばらくした後、リュウダが呪術師が最初に覚える呪術の火球を放つと、火球は目の前にある雪原に着弾し大量の雪を一瞬で蒸発させた。
今リュウダがいるのは自宅のアパートどころか地球上の何処でもなく、おユキの故郷でもなく海王星で、そこで彼は現在大量の雪の除去作業を手伝っていた。
あの後、リュウダがおユキに何故自分の部屋にいるのか事情を聞くと、やはり原作の通り彼女は海王星で雪かきをしている最中に雪を捨てるための穴に落ちてしまい、気がつけばリュウダの部屋に来ていたらしい。
そこから更に詳しい事情を聞くと、おユキが住む海王星は一年中雪が降っていて毎日の雪かきが欠かせないのだが、機械を動かす為のエネルギーは全てライフラインと雪を捨てるために異次元に開けた穴の維持に使っているため、肝心の雪かきは手作業で行っているとのこと。しかも今、成人の男全員他の星へ出稼ぎに出ていて、雪かきをしているのは女性ばかりで大変だと言うおユキの話を聞いたリュウダは、こうして海王星で雪かきを手伝うことにしたのであった。
「火球。火球。そしてなぎ払う炎」
「まあ、なんて凄い」
『『ーーーーー!』』
リュウダが呪術の炎を放つ度に雪が蒸発していき、僅か数分で男手を入れても除去に丸一日かかる量の雪が無くなったことにおユキは驚いた顔で呟き、その後ろでは大勢の海王星の女性達が歓声を上げていた。先程まで手作業で重労働の雪かきをしていたところに、いきなり一人で自分達の何倍もの速度で作業してくれる援軍が来てくれたのだから、歓声が上がるのも当然のことだろう。
「……ふう。まあ、ひとまずこんなところか?」
「お疲れ様でした、リュウダさん」
ある程度雪の除去が終わりリュウダが呪術を使うのを止めると、そこにおユキが近づいてきて話しかけてきた。
「お陰で随分助かりました。大したお礼はできないですけど、どうか私のお部屋でお茶でも飲んでいってください」
たった数分で数日分の雪かきが終わったことで、おユキは表情にこそ出していないが内心でかなり上機嫌となっており、リュウダの手を握ってそう言った。するとその時……。
「………らぁ」
「ん? 何だ今のは?」
おユキに手を握られたリュウダは何処からか人の声がした気がして、声がしてきたと思われる方を見てみると、巨大な全身毛むくじゃらの大男がこちらに向かって走って来るのが見えた。
「あれは?」
「B坊? 一体どうし……おやめなさい!」
こちらに走って来る毛むくじゃらの大男、B坊の姿を見て首を傾げていたおユキだったが、B坊がリュウダに血走った目を向けているのに気づくと思わず声を上げる。
B坊はおユキを実の姉のように慕っている下男で、原作では彼女に言い募った諸星を敵視して昔の怪獣映画のような暴れっぷりを見せていた。そして今、B坊はおユキと手を繋いでいるリュウダを敵視して襲いかかろうとしていたのだった。
「こらぁ! 貴様ぁっ! よくもワシのおひいさまに……………!?」
「ああっ!?」
今まさにリュウダに襲いかかろうとしていたB坊であったが、ドスの効いた声を出すリュウダに睨まれると思わず動きを止めた。
B坊はまだ子供であるが、その体格から出される怪力は並の大人では敵わず、海王星でも有数の実力者である。そんなB坊の直感が「目の前にいる男には絶対に敵わない」と告げており、その直感は正しかった。
確かに身体が大きいということはそれだけで十分強い。しかしダークソウルの世界で身体の大きいだけの敵を何十、何百体と倒してきたリュウダには大した脅威ではない。……そう。
歴戦のダクソプレイヤーは身体が大きいだけで敵を恐れるような可愛らしい感情など、北の不死院や城下不死街といった序盤で既に擦り切らしているのである!
「そんな……B坊が……?」
おユキの言うことしか聞かず、力づくで言うこと聞かせる者など一人もいなかったB坊を一睨みで黙らせたリュウダの姿に、おユキだけだけでなく他の女性達も思わず驚き目を見開く。この時、本人が気づいているか否かは分からないが、おユキの中でリュウダに対する確かな興味が芽生えたのであった。