デーモン遺跡。
そこは以前、偶にマグマが沸立つ音ち火山の噴火音以外は何も聞こえてこない静かな場所であった。しかし今は……。
「オラァッ! 待てや! そこの牛頭に、山羊頭ぁっ!」
「ブモォオオオッ!」
「メエェエエエッ!」
一人の不死人の怒声と、牛と山羊のような生き物の悲鳴が響き渡る賑やかな場所と化していた。
怒声を上げて全力疾走しているのは最近病み村に現れた奇妙な不死人の呪術師リュウダであり、そんな彼から悲鳴を上げて逃げているのはこのデーモン遺跡を出現するモンスター、牛頭のデーモンと山羊頭のデーモンであった。
牛頭のデーモンも山羊頭のデーモンも、不死人を見かけたら問答無用で襲いかかり、これまで数多くの不死人をその剛腕で葬り去ってきたモンスターである。それが悲鳴を上げて逃げるなんて、リュウダは一体どれだけの牛頭のデーモンと山羊頭のデーモンを殺してきたのだろうか?
「お肉♩ お肉♩」
そんなリュウダ達から少し離れた場所では、リュウダが倒した牛頭のデーモンと山羊頭のデーモンをミルドレットが鼻唄を歌いながら解体していた。
「全く、何をやっているんだ、アイツらは?」
そしてそこから更に少し離れた場所では、全身トゲだらけの鎧を着た騎士カークが呆れたように呟くのだった。
「お疲れ、様……。お肉、焼けた、よ」
「ああ、ありがとう」
とりあえず周囲の牛頭のデーモンと山羊頭のデーモンを狩り尽くしたリュウダは、ミルドレットが焼いてくれた肉串(材料・牛頭のデーモンと山羊頭のデーモン)を受け取って彼女に礼を言った。そしてリュウダが肉串を食べていると、カークが近づいてきてリュウダに話しかける。
「随分と精が出ているな」
「あっ、カーク先輩」
「今日は随分と楽しそうにデーモン達を狩っていたが、何か良いことでもあったのか?」
カークが言う通り、今日のリュウダはずっと笑みを浮かべて牛頭のデーモンと山羊頭のデーモンを追いかけ回しており、それがデーモン達が恐怖を覚えて逃げていた理由の一つかもしれない。するとリュウダは笑みを浮かべて肉串を更に一つ食べる。
「ええ、そうなんですよ。実は今日、クラーナ師匠に呪術の力が強くなったって褒められたんですよ。そしてもう少ししたら全ての呪術も覚えられるって」
リュウダがクラーナに師事して呪術の修行をしているのは、自分の憧れの人の元で呪術を極めたいというのも理由の一つだが、それがクラーナがクラーグと混沌の娘の元へと行く条件でもあるからだ。
「ほう。それは良かったな」
嬉しそうに言うリュウダの言葉にカークは興味深そうに答える。リュウダの行動を観察する仕事を依頼されているカークは内心でいい報告ができそうだと呟いた。
「しかしどうしてお前はそこまで必死で頑張れる。確かに混沌の従者であるお前が、混沌の娘達の命令を達成しようと努力をするのは分かるが、お前は少し張り切りすぎているように見えるな」
「え?」
カークが以前から気になっていたことを聞くと、リュウダは一瞬虚を突かれた表情となり、それから少し考えてから口を開いた。
「それは……やっぱりクラーナ師匠とクラーグ姉さん、混沌の娘の姫様の三人に喜んでほしいからでしょうか?」
ダークソウルの世界はプレイヤーの心をへし折ろうとする悪意に満ちているが、それと同時に魅力的なキャラクターや武器やスキルと言ったプレイヤーを喜ばせようとする愛情に満ちていた。そしてダークソウルのプレイヤーはそんな世界の悪意と真っ向から向かい合い、世界の愛情を受け取ってきていた。……そう。
歴戦のダクソプレイヤーとは自らが信じた愛のためならばどの様な地獄も踏み越えて行く愛に殉じた修羅なのである!!
「まあ、ようするに愛が溢れて溢れて止まらないってところですね」
「……その言葉はよく分からないが、何故だか分かるような気もするな。まあ、その調子で頑張るんだな。……ああ、ありがとう」
「ん」
リュウダの言葉にカークは兜の下で苦笑を浮かべて言うと、ミルドレットから差し出された肉串を一本受け取るとその場を去って行くのだった。