夜の空を二つの影が高速で飛んでいた。
二つの影の一つは六道冥子が操る式神シンダラで、もう一つの影はドクター・カオスが創造した人造人間マリアである。そしてシンダラの背には冥子とリュウダが、マリアの背にはドクター・カオスが乗っていて、彼らの視線の先には異世界から迷い込んできた八つ首の大蛇、ブラドーの竜の巨体があった。
「フッフッフッ……! まさか空を飛んで竜に戦いを挑むことになるとはな……。こんなに愉快なことは全盛期であった数百年前にもなかったわい。借金を返すために渋々引き受けた仕事であったが、今は引き受けて良かったと心底思うぞ……!」
マリアの上でブラドーの竜へ不敵な笑みを浮かべるドクター・カオス。その表情はまさにかつて「ヨーロッパの魔王」と呼ばれた狂気の天才錬金術師に相応しいものであった。
「それで小僧! これからどうするつもりじゃ!」
「まずはアイツの上空をおさえます! その後は死角から遠距離攻撃を仕掛けます!」
大声を出して聞いてくるドクター・カオスにリュウダも大声を出して答える。
ダークソウルの世界でのブラドーの竜、湖獣は上にいる相手には例の馬鹿げた射程の高圧水流を放たず、上から弓で狙撃すれば時間はかかったが楽に倒すことができたからだ。
「成る程の。確かにあれだけの巨体では自重の関係で上に狙いはつけ辛いじゃろうて。……マリア!」
「イエス。ドクター・カオス」
「冥子先生。俺達も」
「分かったわー。シンダラちゃーん!」
「っ!」
リュウダの言葉に納得したドクター・カオスが指示を出すと、それに応えて彼を乗せたマリアがブラドーの竜の上空へ飛び、シンダラに乗るリュウダと冥子もそれに続く。そしてブラドーの竜の上空に到達すると、リュウダは自分の右手に意識を集中させる。
「いよいよ出番だな……こい!」
リュウダの声に応えるように虚空から現れて彼の手の中におさまったのは弓が三つあるクロスボウ。
雷のアヴェリン。
ダークソウルの世界にある白竜シースの根城、公爵の書庫で見つかる、精緻な機巧により三連続で矢を発射する武器というより工芸品に近い武器職人エアダイスが製作した連射式クロスボウ。しかもこれはアノールロンドの王城にいる巨人の鍛冶屋によって何度も強化を重ねられ、雷の魔力を帯びたものである。
「くらえ!」
リュウダがアヴェリンの引き金を引くと三本の雷を帯びた矢が放たれ、三本の矢はブラドーの竜へと吸い込まれるように飛んでいき、命中すると雷の魔力を敵の巨体の内部で爆散する。
『『ーーーーーーーーッ!?』』
これが普通のクロスボウの矢だったら三本どころ何本受けても蚊に刺された程度も感じなかっただろう。しかし雷の魔力を帯びた三本の矢は確かなダメージを与えて、ブラドーの竜は八つの頭全てから悲鳴を上げた。
「よし! やっぱり竜系の敵には雷属性が有効だな」
前世の頃から愛用していたアヴェリンが通用したことにリュウダは思わず笑みを浮かべる。
リュウダは強敵を相手にした時、発火や大発火といったいわゆる「発火系」と呼ばれる近距離戦用の呪術とアヴェリンの組み合わせをよく使っていた。そう……。
発火系呪術とアヴェリンの組み合わせは、ダークソウルでも最高峰の組み合わせの一つなのである。
「さて……。この隙に美神さん達が動いてくれたらいいんだけどな……」
ブラドーの竜の死角に回り込むシンダラに掴まりながらリュウダは、一度だけ美神達がいる島を見て呟くのだった。