「そうか……」
リュウダからクラーグと混沌の娘について聞いたクラーナは短く呟いた。
「異形の姿となり言葉が通じなくなって、私はクラーグ達が人の心を失ってしまったと思っていたが、二人は今も人の心を持って助け合っているのだな……」
視線を上に向けてそう呟くクラーナの声はどこか震えているように聞こえた。
「はい。そうですクラーグ姉さん達もできることならまたクラーナ師匠と一緒に暮らしたいと言っていましたし、今すぐにでも二人の所へ「いや、それはまだできない」……何でですか!?」
話の口ぶりからクラーナがクラーグ達に悪感情を懐いていないと理解して安堵したリュウダは、早速クラーナをクラーグ達の元へ案内しようとしたのだが、言葉の途中で断られて思わず聞き返してしまう。
「理由は簡単だ。私がお前を信じきれていないからだ。この地で正気である者はほんの一握り。誰がどんな理由で私の命を狙っているか分からないし、もしかしたらお前の言葉が罠なのかもしれない。……すまないな」
「いえ……」
自分を信じられないとはっきりとクラーナに言われたリュウダは、怒るより先に納得してしまった。
確かに強敵に殺されては甦り、甦ってはまた強敵に戦いを挑む日々を永遠に繰り返すこの地では、その日々の過酷さに心が壊れて自分の欲望のためなら平気で他者を裏切り騙す者も少なくない。
実際ゲームでは自分の欲望のために、自分を信頼してくれた聖女とその護衛を罠にはめて殺そうとした聖職者のキャラクターもいた。その事を考えれば「異形と化した妹達は実はまだ正気なので是非会いに来てほしい」と言う自分は、その聖職者のキャラクターと負けず劣らずに怪しいとリュウダは思った。
「でも……だったら、どうしたら信用してもらえるんですか?」
「そうだな……」
リュウダに聞かれてクラーナはあごに手を当てて少し考えてから口を開く。
「私は火の呪術しかない女だ。だからお前に呪術を教え、そこからお前が信用できるか否か決めようと思う」
「呪術を教えて決める?」
「そうだ。お前が私の元で呪術の火を鍛え、私が知る呪術を全て修得すれば、もう一度お前の話を聞いてやろう。どうだ?」
「わ、分かりました……」
クラーナから呪術を習うのはリュウダの願いの一つであったのだが、この時の彼は素直に喜べなかった。何故なら、クラーナに呪術の火を鍛えてもらった上に彼女の知る全ての呪術を修得するには膨大な量のソウルが必要なのだが、病み村に出現するモンスターは倒しても僅かな量のソウルしか得られないからである。
どうやらリュウダがクラーグから与えられたクラーナを連れてくるという仕事は、達成にはまだまだ先が長そうであった。
「さて、どうやってソウルを集めようかな?」
クラーナとの話を終えて篝火で休息を取り現実世界へと戻ってきたリュウダは、どうやって呪術の修得に必要なソウルを集めようか考えていた。
病み村に出現する、倒し辛い上に得られるソウルが雀の涙という旨味が全く無いモンスターを倒しても回っていたら時間がかかりすぎる。一番いいのは他のマップでソウルを集めることなのだが、リュウダはこの方法にあまり乗り気ではなかった。
前世でリュウダはゲームのダークソウルをプレイしていた時、他のマップでクラーナから呪術を習うためのソウルを集めていたことがあった。しかしようやくソウルが集まってクラーナの元へ行こうとしたが、途中の病み村でモンスター(主に蓑虫のせい)に殺されてしまい、せっかく集めたソウルを全て失ってしまったのである。
そんな苦い経験からリュウダはあまり他のマップでソウル集めをしたくなかった。しかし病み村で旨味の無いモンスターを長期間倒して回るのも、それはそれで病み村経由で他のマップへ行くのと同程度の苦行であるのも事実。
一体どうしたものかとリュウダが考えていると、前方に見知った人物が歩いているのに気づいた。
「ハァ……! ハァ……! ちっきしょう、あの女ぁ……!」
「あれは横島? ……何だあの姿は?」
リュウダの前を歩いているのは横島だったが、全身がボロボロな上に不気味な顔がついたスライムのような低級霊を複数背中に背負い、両手に持った木の棒を杖代わりにして引きずるように歩く姿はどう見ても異様であった。
「なぁ、横島? 一体どうしたんだ?」
「……ん? ああ、藤沼か。ちょっと、な……。今日のバイトでな……」
リュウダが横島の横に言って話しかけると、横島は疲れきった顔をリュウダに見せてから今日自分に何が起こったのか説明してくれた。
「今日の仕事はさ……屋敷に住み着いた悪霊を退治するっていう、よくある仕事だったんだよ? だけど途中でその悪霊が大量の低級霊を呼び出したと思ったらこちらに投げつけてきたんだ。……そしたらあの女、いきなり俺を盾にしやがって……!」
(やっぱりか……)
説明をしているうちにその時のことを思い出したのか、悔し涙を流しながら言う横島の言葉を聞いてリュウダは納得した。
横島はアルバイトで「ゴーストスイーパー」と呼ばれる悪霊を退治する霊能力者の助手をやっている。そして彼が言った「あの女」とは、横島の雇い主であり日本で最高と呼ばれているゴーストスイーパー「美神令子」のことなのだが、この美神令子という女性は「守銭奴」という言葉だけでは足りないくらい金にうるさい上に、常に自分が最優先で他の人間なんてあまり気にかけない性格をしていた。
そのため横島は仕事の度に悪霊を呼び寄せる囮にされたり攻撃の巻き添えをくらうなど酷い目に遭っており、今回も酷い目に遭ったようだった。しかもそれで報酬が日本の最低賃金を更に下回る時給二百五十五円。
普通ならとっくに逃げ出してもおかしくないのだが、根っからのスケベである横島は外見は極上の美女である美神の側にいるためにアルバイトを続け、隙あらば彼女にセクハラをしているのでお互い様と言えるだろう。
(あれ? そういえばこの世界って呪術使えるのかな?)
まるでダークソウルのスライムのような低級霊を見てリュウダはふとそんなことを思いつく。考えてみればこの世界には霊能力も超能力も普通にあるため、ダークソウルの呪術も
試しにリュウダが右手に意識を集中させてみると右の掌の小さな火が灯り、それを見た彼は横島の後ろに回ると横島の背中に張り付いている複数の低級霊達に掌の火を向ける。
「横島。熱いかもしれないけど我慢しろよ。……発火」
「え? 一体何……だぁぁっ!?」
『『………!!』』
リュウダが呪術を発動させると呪術の炎で低級霊達は一瞬で消滅し、熱くはなかったもののいきなり背中に火を出された横島が驚きの声を上げる。
「藤沼! お前は一体何を考えとるんだ!?」
「悪かったって。でも霊もいなくなったんだしいいだろ……っ!?」
抗議の声を上げる横島に返事をしていたその時、リュウダは自分に何かが流れ込んでくる感覚を覚えた。
それはダークソウルの世界でも何度も体験した感覚。倒した相手のソウルが自分のものとなる感覚で、しかも流れ込んできたのはソウルだけではなく……。
(これは、人間性? ソウルだけでなく人間性も俺の中に入り込んできた?)
ダークソウルの世界では亡者を倒すとごく稀にソウルと一緒に人間性を得られる時があり、今リュウダが感じた感覚はまさにそれであった。
どうやらこの世界の悪霊を倒してもソウルと人間性を得られるようであり、それを理解したリュウダは心の中で笑みを浮かべる。
(これはソウルを集めるチャンスかもしれないな)
やっぱり続かない?