「はい!」
ガキィン!
「……!」
暗い森の中で女性の声と硬いものがぶつかり合う音、そして少し遅れて重たいものが崩れ落ちる音が聞こえてきた。
「ずいぶんと強くなったな、エリナ」
暗い森の中でリュウダが音の発生源に視線を向けると、そこには先日知り合った不死者のエリナの姿があった。
今リュウダとエリナがいるのは、ダークソウルの世界にある黒い森の庭というエリアで、ここでリュウダはエリナの特訓を行っていて、特訓を始めてから今日で一週間になる。
エリナの足元を見ると、そこには三メートルはありそうな石の鎧を着た巨人が倒れており、先程聞こえてきた硬いものがぶつかり合う音と重たいものが崩れ落ちる音は、この巨人を倒したものであった。
黒い森の庭にはこの石の鎧を着た巨人が出現し、倒したらそれなりの量のソウルが得られるため、巨人を倒す手段さえあればこの黒い森の庭は絶好のソウルの稼ぎ場となる。そこに目を付けたリュウダは、自分の持つ初心者でも使えて石の鎧を着た巨人を倒せる武器をエリナに渡し、一週間巨人を倒し続けた彼女は最初見たときとは比べ物にならないくらいレベルアップしたのである。
「はい、『師匠』! 師匠のお陰でかなり強くなれました!」
リュウダの言葉にエリナは相変わらず元気のよい声で嬉しそうに答える。
エリナは自分の特訓に付き合ってくれたリュウダを「師匠」と呼ぶようになっており、最初は名前呼びでいいと言っていたリュウダだったが、今ではすっかり諦めてエリナの好きなように呼ばせていた。
「……それにしても。強くなったのはいいんだが、本当にそんな装備でいいのか?」
リュウダはエリナの特訓を始める時、彼女本人の意見と火継ぎの祭祀場にいた呪術師や魔術師のアドバイスを聞き、更には自分の持つ様々な武器をエリナに使わせて、彼女の
その結果、導き出されたエリナに一番相応しい
そしてリュウダの指示通り、エリナは一週間ただひたすら石の鎧を着た巨人を倒して集めたソウルを使って筋力を重点的に育て、立派な脳筋戦士となる。だがそんな彼女が選んだ装備は、リュウダの想像する脳筋戦士のとはだいぶ違っていた。
まずエリナが右手と左手に持っている武器は、強化クラブ(+10)と石の大盾。
強化クラブ(+10)はリュウダが渡した石の鎧を着た巨人を倒すための武器で、石の大盾はこの一週間でエリナが倒した巨人が落としたのを拾ったものだ。
この武器は特に問題ない。
強化クラブは耐久性が低い点を除けば序盤から終盤まで使える優秀な武器だし、石の大盾は装備するのに必要な筋力値さえあればゲームでもトップクラスの防御力を持つ盾だ。脳筋戦士となった今のエリナなら。この二つの武器を使いこなして大抵の敵を倒せるだろう。
リュウダが問題視しているのは防具の方である。
今エリナが身に纏っているのは白い古風なドレス。これは黒い森の庭に隣接しているエリア、狭間の森で発見した「ウーラシールシリーズ」と呼ばれる防具一式で、これもまだリュウダはギリギリ納得できた。
エリナも女性なのだから古風だが綺麗なドレスには憧れるだろうし、ウーラシールシリーズは物理防御はともかく魔法防御は高いので納得できる。しかしエリナは頭部に、本来のウーラシールシリーズのとは違う防具を装備しており、この頭部の防具が最大の問題であった。
ずだ袋。
これはリュウダが巡礼の旅に出る時、ミルドレットから餞別としてもらった彼女の予備なのだが、どういうわけかエリナはこのずだ袋を気に入って装備したのである。
話をまとめるとエリナは、白い古風なドレスを着て頭にずだ袋を被り、手にはトゲ付きの棍棒と大きな盾を持つという姿をしていた。
この姿は脳筋戦士の不死者……プレイヤーと言うよりもプレイヤーに襲いかかってくる敵キャラ、それもダークソウルと言うよりもブラッドボーン辺りに登場しそうな敵キャラのようであった。
「はい! 可愛いし、強いし、気に入ってます!」
「そ、そうか……」
リュウダの言葉にエリナは元気良く返事をし、彼は彼女の返事に色々と言いたいことがあったがその言葉を飲み込んだ。
ダークソウルは装備を変えるとキャラクターの外見が変わり、性能と外見を兼ねた自分だけの防具の組み合わせを作れるのもダークソウルの魅力の一つである。リュウダも前世のゲームの時から今でも、黒金糸シリーズの頭部と胴体、そして呪術師シリーズの腕と脚部を組み合わせを愛用してこだわりを持っているため、エリナのこだわりに口を出すのがはばかられた。そう……。
他人の格好に口出しするのは歴戦のダークソウルのプレイヤーとして無粋の極みなのである!
「まあ、お前が気に入っているならそれでいいか」
「はい! ありがとうございます!」
リュウダがそう言うと、黒い森の庭にエリナの元気の良い声が響き渡った。