「はっはっはっ……!」
ある日の朝。リュウダは朝のジョギングをしていた。
冥子の助手になった時からリュウダは、ダークソウルの経験と能力だけに頼らず、自分自身も鍛えた方が良いのではと考えてはいた。そして最近エリナと現実世界で再会して、彼女も冥子の助手になったのをきっかけに、こうして朝のジョギングを日課としているのであった。
ジョギングを始めたのはつい最近だが、それでもこうして自分の身体を鍛えるのが楽しく思えてきたリュウダは、気がつけば走りながら歌い出していた。
「どの道~の、達人も~、一日じゃ成り立ってない~♪」
リュウダが歌い出したのは「うる星やつら」や「極楽大作戦!!」と同じ、サンデーで絶大な人気を誇ったマンガのアニメのオープニング曲である。
前世でそのマンガのファンであったリュウダは、楽しげにオープニング曲を歌いながら走っていた。……そのせいか彼は背後から近づいてくる存在に気がつかなかった。
「弱い自分に、負けそうならば~♪ そんな自分、鳥かごに入れ~♪ 谷へ突き落とせ~♪」
「ほう? 中々過激な歌だね?」
「え? ……えっ!?」
突然横から聞こえてきた声にリュウダがそちらを見ると、そこには予想外な人物の姿があって彼は思わず驚きの声をあげる。リュウダの視線の先には、理知的で穏やかな雰囲気の男が興味深そうに彼を見ており、リュウダはその男のことを知っていた。
岬越寺秋雨。
さっきまでリュウダが歌っていたオープニング曲のアニメの原作であるマンガ「史上最強の弟子ケンイチ」の登場人物で「哲学する柔術家」の異名を持つ柔術の達人である。
(な、何でここに岬越寺師匠が……? いや、待て。岬越寺師匠がここにいるってことはもしかして……)
予想外の人物の登場に驚いていたリュウダは、ある可能性に気づくと秋雨の周囲を見てみた。すると秋雨は走っておらずトラックのタイヤの上に座っていて、秋雨の前方には彼が座っているタイヤと繋がっているロープを身体に巻き付けて走っている、リュウダと同い年くらいの男の姿があった。
(やっぱりいた……『ケンイチ』)
白浜兼一。
元々は「フヌケン」という不名誉なアダ名をつけられるくらい臆病な性格の、何処にでもいる男子高校生であったが、とあるきっかけでここにいる秋雨を初めとする複数の武術の達人の弟子となり、様々な戦いに巻き込まれることになる「史上最強の弟子ケンイチ」の主人公である。
(ウソだろ……!? この世界ってケンイチの要素もあったのかよ?)
この転生した世界が「うる星やつら」と「極楽大作戦!!」だけでなく「史上最強の弟子ケンイチ」の設定もあったことにリュウダが驚いていると、秋雨が話しかけてきた。
「ああ、急に話しかけてすまなかったね。君が随分と楽しそうに歌っていたからつい気になってしまってね」
「そ、そうですか……」
秋雨の言葉にリュウダが内心で驚きながら答えると、秋雨は急に何かを考え始める。
「それにしても、弱い自分を鳥かごにいれて谷に落とすか……。ふむ? ……ケンイチ君? 今度の休みに山にでも……」
「行きませんよ!?」
秋雨の言葉を遮って、秋雨が乗るタイヤを引きながら走る兼一が大声を出す。
「何故だね? 山は嫌いかね?」
「今の会話をしておいて、よく何故だなんて言えますね!? ここで僕が山に行ったら、檻か何かに入れられた状態で高い所から突き落とされる新手の地獄が待っているだけじゃないですか!」
(まあ、それはそうだろうな……)
首を傾げながら聞いてくる秋雨に兼一が大声で答える。そしてそれを横で聞いてリュウダが内心で頷いていると、突然兼一が涙目でリュウダを睨んで叫ぶ。
「君も! 変な歌を聞かせないで! そのとばっちりが僕にくるんだから!」
「お、おう……? それはすまなかった」
あまりの兼一の気迫にリュウダが思わず謝ると、秋雨が楽しそうに笑う。
「はっはっはっ。二人とも仲が良さそうでなによりだ。だがそろそろスピードを速めようか? それ、スピードアップ!」
バシィン!
「ギャアアッ!? 殺せー! もういっそ殺せー!」
秋雨によって背中に鞭を打たれた兼一は悲鳴を上げながら加速し、リュウダは走り去っていく兼一と秋雨の背中をただ見送ることしかできなかった。
(実際に見ると凄まじい特訓だな……。頑張れよ、兼一)