「……ん? ここは?」
気がつくとリュウダはダークソウルの世界の病み村にある篝火の前で座っていた。
「そうか。俺、あの時に眠ってしまったんだな」
リュウダは向こうの現実世界で眠ったり気絶すればこのダークソウルの世界にやって来る。周囲を見回した彼は、自分が現実世界で美神令子に悪霊退治をしているのを見つかってしばらくした後、夜も遅かったこともあって眠ってしまったのだと理解した。
「うわ〜……。本当にどうしよう? 勝手に悪霊を退治しているのをよりにもよって美神令子に見つかるだなんて……。俺、あの人には極力関わりたくなかったんだけど。もう現実世界に帰りたくないなぁ……」
リュウダは敵に殺されたり、一日に使える呪術を使い果たしてそれを補充するために篝火で休めば、現実世界に戻ってしまう。しかも現実世界の彼は、許可無く霊能力を使い勝手に大量の悪霊を退治したことで美神令子に捕まっている真っ最中であった。
その事を思い出してため息を吐きながらも、リュウダは今日もクラーナの元へ呪術を習いに行くのであった。
「よし。それではソウルもそれなりに集まってきたので、今日は呪術を一つ伝授してやろう。その呪術は『不死の魅了』と言う」
「不死の魅了っ!?」
現実世界のことでテンションが低めであったリュウダだったが、クラーナが伝授してくれる呪術の名前を聞いて一気に目を輝かせた。
不死の魅了とは、自我を失った不死人である亡者を魅了して一時的に味方にするという呪術なのだが、ゲームでは効果がある敵が少なく「ネタ枠」という扱いであった。しかしこのダークソウルの世界に転生したリュウダは、不死の魅了にネタ系のスキル以上の価値を見いだしていた。
「不死の魅了! その名の通り、不死人を魅了させるチートスキル! その対象は別に亡者だけじゃなく他の不死人にも使えて、ここにいる以上クラーナ師匠も不死人のはず! だから不死の魅了をクラーナ師匠に使えば俺に惚れてくれることも「やっぱり伝授はなしで」……何でですかぁっ!?」
「そんな欲望まみれなことを言っておきながら何故とか言うか?」
望んでいた呪術の伝授を取り止めになってリュウダが抗議の声を上げると、クラーナが呆れ果てた声をだす。すると彼はその場で寝転びしつけの悪い幼児のように手足をバタつかせる。
「ヤダヤダヤダァッ! 不死の魅了、伝授してくれないとヤダァッ! お願いしますよ、クラーナ師匠!」
「ええい! みっともない真似は止めんか!? さっさとソウルを集めてこんか、この馬鹿弟子がぁっ!」
不死の魅了を伝授してほしいとリュウダが子供のような駄々をこねると、クラーナの怒声が病み村に響き渡った。
「ーーーーー!」
リュウダがクラーナに叱り飛ばされてから数時間後。病み村に近い、見渡す限り溶岩の海のマップ「デーモン遺跡」で巨大な悲鳴が聞こえた。
悲鳴の主は、常に火で焼かれた巨体に複数の目と虫のような触腕を持った異形のデーモン「爛れ続けるもの」。
爛れ続けるものはデーモン遺跡のボスモンスターの一体で、その巨大な触腕と口から出す炎を武器に戦い、まともに戦えば非常に強力な敵である。しかし目に見える近くの敵には触腕でしか攻撃しない癖があり、その触腕の攻撃も近くの岩場を盾にすれば回避は容易く、しかも触腕へのダメージはそのまま本体へのダメージとなるのである。
前世のゲーム知識でその事を知っているリュウダは、デーモン遺跡に行くと爛れ続けるものに戦いを挑み、こうして勝利を納めたのであった。触腕を失った爛れ続けるものが溶岩の海に沈んでいき、それと同時に大量のソウルを得た感覚を感じると彼は満足そうに頷いた。
「よし。流石はボスモンスター、大量のソウルを持っているな。……それに」
そこまで言うとリュウダは、ある意味デーモン遺跡に来た最大の目的である物を手に取る。手に取ったのは、クラーナが装備しているのと同じで、彼が内なる大力を使った時に変身する黒いローブ、「黒金糸シリーズ」の装備であった。
「黒金糸シリーズの装備ゲット! これでクラーナ師匠とペアルックができる!」
「クックックッ……。随分と楽しそうじゃないか?」
リュウダが黒金糸シリーズの装備を手に、クラーナに聞かれたら盛大に火葬されそうなことを言って喜んでいると、背後から何者かの声が聞こえてきた。
「っ!? 誰だ! ……って、え?」
突然背後から聞こえてきた声に、リュウダが即時に臨戦態勢となって振り返ると、そこには無数のトゲがついた全身鎧と兜を装着した騎士が立っていた。
騎士の名前はカーク。
現実世界でリュウダが使っているトゲの盾の本来の所有者で、闇に堕ちた騎士「ダークレイス」の一人。他のダークレイスとは異なる全身鎧と兜を装着していることから「トゲの騎士」と呼ばれているだけでなく、「皆殺しのカーク」の異名で呼ばれている。
(な、何でカークがこんなところに? ……いや、待てよ? そう言えば確か、デーモン遺跡はカークが出現するマップだったか?)
リュウダが自分の迂闊さに内心で舌打ちしていると、カークは何も持っていない手を見せて話しかけてきた。
「そんなに警戒するな。……お前なんだろう? 最近新しく混沌の娘と誓約を交わした混沌の従者は? 俺は『先輩』として顔を見に来ただけだ」
「混沌の従者の、先輩……?」
カークの言葉を聞いて呆気に取られた後、前世の知識を思い出す。
ゲームのカークとは全部で三回戦うことができるのだが、三回カークを倒すと混沌の娘の近くにカークのものと思われる遺体が出現し、それを調べることでカークが装備している全身鎧や兜が手に入るのだ。
その事からネットでは、「カークはダークレイスでありながら混沌の従者の一人でもあり、クラーグと同じく混沌の娘のために不死人を襲って人間性を集めていたのでは?」という考察があった。そして今のカークの言葉からリュウダはネットの考察が正しかったのだと確信する。
「お前のことは色々噂になっているぞ? お前が暴れまわっているお陰でこの数百年、陰気で沈んだ空気の病み村が、まるで嵐の夜か祭りの日のように賑やかになっているとな」
カークの言う「暴れまわっている」というのは、クラーナから呪術を習うソウルを集めるために病み村のモンスターと戦っていることだろうが、一体誰が噂をしているのか気になるリュウダであった。
「そ、そうですか……? それはどうも……」
「一つ忠告しておいてやる。『蛇』の奴はすでに貴様に目をつけているみたいだ。これからも混沌の娘達の側にいたければ気をつけることだな」
「え? それってどういう……」
「じゃあな」
カークはそれだけを言うと宙に溶けるように消えて、リュウダはしばらくカークがいた場所を呆然と見つめていたのだった。