「……なさい。起きろっての!」
カークとの会話を終えて篝火で休んだリュウダが現実世界に戻ると、彼は何処かの建物の一室で椅子に座った状態で眠っており、目の前には美神の顔があった。
「やっと起きたわね。まったく」
「美神さんの前で居眠りするとか、いい度胸しとるな〜」
リュウダが起きたのを確認すると美神は胸の前で腕を組み、その後ろでは彼女の助手である横島がどこか感心しているような苦笑を浮かべていた。そしてリュウダの隣には巫女の格好をした若い女性の幽霊が宙に浮かんでいた。
「やっぱり生きている人間さんだったんですね。美神さん達が幽霊だって言うからお友達かと思ったんですけど……残念です」
リュウダの顔を見ながらそんな事を言う巫女の幽霊はおキヌちゃんといい、三百年に火山の噴火を収めるための人柱となり、死後は土地神となるはずだったが才能がなかったためずっと幽霊をしていると「思い込んでいる」幽霊である。そして最近、悪霊退治に山奥の旅館まで出向いた美神達と出会い、色々あって今は日給三十円で美神達の事務所で働いていた。
「貴方のことは色々と聞いたわ、藤沼
「……ええ、そうですよ。後、俺も貴女のことを色々と聞いていますよ、美神令子さん。横島の雇い主で日本でトップクラスのゴーストスイーパーだけど仕事で横島を囮にしたり盾にするのはいつもの事で、しかも横島に払っている賃金は時給二百五十五円。……貴女、日本の最低賃金と労働基準法って知ってます?」
「っ!? い、いい、今はそんなことどうでもいいでしょ!?」
美神の質問に頷いてからリュウダがお返しとばかりにカウンターパンチを言い放つと、彼女は明らかに狼狽えて後ずさる。ちなみに美神の後ろでは横島が「ええぞ! もっと言ったれ!」と言わんばかりの顔をしていた。
「と、とにかく! この最近聞く悪霊を退治しまくっている炎を使う幽霊って貴方のことよね? まず最初に聞きたいのは、何でそんなことをしていたの?」
「何で、ですか……。一言で言えば能力を強くするためでしょうか?」
嘘は言っていない。
リュウダが悪霊を退治して回っているのは、クラーナから呪術を習うと同時に呪術の火を鍛えるのに必要なソウルを稼ぐためである。それがクラーナがクラーグと混沌の娘の所へ行く条件なのだが、強くなるのはリュウダにとっても望むところであった。
「能力を強くするため、ねぇ? 要するに霊能力の修行ってこと? でも貴方、多少ならともかく、霊能力を使って悪霊を退治するにはゴーストスイーパー免許が必要で、貴方がしていたのは立派な違法行為なのよ?」
「……ちなみに、俺はどんな罪になるんですか?」
思っていた以上に大事になったことにリュウダが内心で焦りながら聞くと、美神はどこか含みのある笑みを浮かべた。
「ふふん。安心なさい。確かに貴方がしていたのは違法行為だったけど、悪霊退治をして回ったことで近隣の住人達から『助かった』という声も沢山あるわ。だから『あること』をしてくれたら今回のことは不問とするわ。……まあ、もっとも下手な罰よりよっぽどキツイと思うけどね」
今回の違法行為が不問となるのは正直助かるのだが、最後の辺りで同情するような表情となった美神に、リュウダは思わず不安となる。
「あの……一体何をさせられるんですか、俺?」
「簡単よ。そんなに悪霊退治がしたいのだったら、その手伝いをさせてあげるってこと。私の知り合いに『六道冥子』っていうゴーストスイーパーがいて、貴方には期間限定で彼女の助手をしてもらうわ。もちろん本人には連絡済みよ」
「………っ!?」
美神の口から出た人物の名前に、リュウダは思わず表情を強張らせた。