病み村よいとこ一度はおいで!   作:兵庫人

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第9話

 病み村の奥地にある毒の沼地。その更にある洞窟、クラーグの住処。そこには今、四人の人影が集まっていた。

 

 四人の人影は、クラーグとその妹である混沌の娘、二人の従者であるエンジー、そして「トゲの騎士」の異名を持つダークレイスのカークであった。

 

「そうですか。ではリュウダの修行が終わればクラーナ姉さんはここに来てくれるのね?」

 

 このしばらくの間、クラーグと混沌の娘はカークにリュウダとクラーナの様子を調べてほしいと頼み、その報告をカークの口から聞いた混沌の娘は嬉しそうに笑った。しかし報告をしたトゲの騎士は両腕を組んであまり興味無さそうに話す。

 

「あくまでここに来るか考えるだけだ。本当に来るかは分からんな。あまり期待しすぎない方がいいんじゃないか?」

 

「カーク、貴様! 姫様に向かってその態度はなんじゃ!?」

 

 混沌の娘に対するカークの態度に、エンジーが這いつくばった体勢で怒鳴るが、カークは特に気にした様子はなかった。

 

「ふん。アンタには関係ないだろう、爺さん? 確かに俺は混沌の娘と誓約を結んだが、真に仕えているのは『あの女』だけだ。今回のような偵察だなんてつまらん仕事を引き受けたのも、その義理にすぎないんだよ」

 

「き、貴様……!」

 

 カークの言葉にエンジーが額に青筋を浮かべて再び怒鳴ろうとしたが、それをクラーグが止める。

 

「止めなさい、エンジー。この男に何を言っても無駄よ。……カーク、私達については別に良いわ。その代わり、あの子……『妹』のことは頼むわよ?」

 

「……言われるまでもない」

 

 クラーグの言葉に返事をするカークだが、その言葉は先程エンジーに向けたものとは違い、強い意志が感じられた。

 

「それだったらいいわ。……とにかく今はリュウダの結果待ちね」

 

 カークの言葉に一先ず納得したクラーグは、一つ頷いてみせると最近自分達の従者となった呪術師の青年のことを考えた。

 

 

「冥子先生! 今日も頑張りましょう!」

 

 そしてクラーグ達の話題に上がったリュウダはというと、昨日冥子の式神の暴走に巻き込まれたばかりだというのに、そのダメージを全く感じさせない元気さで冥子の仕事の手伝いに来ていた。

 

「藤沼クン、凄い元気ねー。私ー、もう来ないと思ってたわー」

 

 元気良くやって来たリュウダを見て冥子が驚いた顔をして言う。

 

 これまで冥子は何人ものゴーストスイーパーの助手を募集してきたのだが、その全てが冥子の式神の暴走に一回、多くても二回巻き込まれると逃げるように辞めていったのだ。それに加えて式神の暴走に巻き込まれても、翌日には元気良く現れたのはリュウダが初めてで、これには冥子だけでなく彼女の親や屋敷の使用人達も驚いていた。

 

「あの程度でへこたれる程やわじゃないですよ。それより冥子先生? 今日の悪霊退治の仕事なんですけど、作戦を考えてきたので聞いてくれませんか?」

 

「作戦ー? 一体どんな作戦ー?」

 

 周りの驚愕の視線なんて全く気にもせずにリュウダが言うと冥子は首を傾げた。

 

 

 冥子が式神を暴走させる原因の大半は本人のメンタルの弱さによるものだが、一体だけでもコントロールに大量の霊力を必要とする式神を常に十二体出して、コントロールのための霊力がギリギリしかないというのも原因の一つでもある。

 

 だから状況に応じた最低限の式神だけを出して戦えば暴走する危険性は減るはず。そう考えたリュウダは前世の知識を活用して、冥子にどの式神を出すか指示することにしたのだった。

 

「霊視能力を持つクビラは常に出しておいてください。敵の位置や数、強さに戦い方と言った情報を知るのは戦いの基本ですから」

 

「雑魚霊が多くいる場所ではバサラの出番です。一気に全て吸引しましょう」

 

「相手は目も耳が良くてうかつに近づけば逃げられてしまいます。だからここは瞬間移動ができるメキラで奇襲します」

 

「向こうは図体がデカいだけの敵ですから、アンチラの鋭い刃の耳で切り裂きましょう」

 

「スライムみたいな不定形の敵には石化能力を持って口から炎を吐けるアジラが適任です」

 

「相手が水の中にいるなら電撃能力を持つ水陸両型のサンチラ一択です」

 

「逃げ足が異常に速い敵は時速三百キロで走れるインダラで追いましょう」

 

「人に取り憑くタイプの悪霊ですか……。だったらハイラの力で俺達も精神世界に入り込みましょう」

 

「無抵抗な人間しか襲えない敵は変身能力を持つマコラで誘き寄せて、後は皆で袋叩きにすればいいんですよ」

 

「また逃げ足が速い敵、しかも今度は空を飛ぶタイプ……! だったら亜音速で飛べるシンダラで追いかけます」

 

「怪我人がこんなに……! 冥子先生、俺が悪霊と戦いますからショウトラのヒーリング(心霊治療)で怪我人の治療を!」

 

「見るからにパワータイプの悪霊は戦車並みの怪力を持つビカラで真っ向勝負といきましょう」

 

 ダークソウルのプレイヤーは周りの状況と敵の戦い方に応じて様々な装備を使いこなす(一つの武器、戦い方にこだわる一部の求道者は除く)、それに加えて前世で得た原作知識を使いリュウダは冥子に適切な指示を出していった。その甲斐もあって……。

 

 

「冥子先生! 十回連続! 暴走無しでの依頼達成おめでとうございます!」

 

「わーい! ありがとー!」

 

『『………………………………♩』』

 

 リュウダが冥子の助手になってから二週間が経過し、助手をする期間の最終日。丁度十回連続で式神の暴走無しで悪霊退治が出来たことにリュウダはクラッカーを鳴らして祝い、冥子もそれに喜ぶ。その後ろでは彼女の式神の十二神将も嬉しそうにしていた。

 

 敵はほとんど冥子の式神達が倒しているのでリュウダが悪霊を倒す機会はあまりなかったのだが、いきなり式神の暴走に巻き込まれて得られるソウルも人間性もゼロよりずっとマシだし、自分で考えた作戦が成功するのは嬉しいものである。

 

「本当にね〜。冥子も立派になって〜お母さまは嬉しいわ〜」

 

「あっ。お母さまー」

 

 リュウダ達が十回連続の依頼達成を喜んでくると、そこに冥子の母親が現れてリュウダに頭を下げてきた。

 

「リュウダ君〜。冥子が式神を暴走させずにこれたのも貴方のお陰よ〜。本当にありがとうね〜」

 

「いえ、そんな……。俺は少しアドバイスをしただけで……」

 

「ですから〜。これからも〜冥子のことをよろしくね〜」

 

「………え?」

 

 冥子の母親の言葉に思わず固まるリュウダ。

 

 そもそもリュウダが冥子の助手をしていたのは、無断で霊能力を使い悪霊を退治をしていたペナルティのためで、それも今日で終わりのはずだった。しかし今の冥子の母親の言葉は、まるでこれからも冥子の助手を続けるかのように聞こえた。

 

「あ、あの……。俺は今日で助手をや……」

 

「安心して〜。正式な手続きはもうしてあるから〜」

 

「え……あの……?」

 

 思わず異議を申し立てようしたリュウダだったが、冥子の母親はすでに彼を正式に冥子の助手にしたと言う。ちなみに今の彼女は穏やかに微笑んでいるように見えるが、その目は全く笑っていなかった。

 

 しかしそれもある意味当然かもしれない。

 

 冥子はこれまで何度も式神の暴走を繰り返して何人何十人もの助手に逃げられ、ゴーストスイーパー協会もあまりの被害の大きさに冥子のゴーストスイーパー資格の剥奪も検討しているという噂もある。そんな時に現れた彼女の式神の暴走を恐れず、それどころか適切なアドバイスをして式神の暴走を無くし、しかも自身も強力な霊能力を持つ助手であるリュウダを、冥子の母親が逃すはずがなかった。

 

 こうしてリュウダは正式に冥子の助手となったのである。

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