うたわれるもの 琥珀の軌跡   作:ななみ

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落涙

 話が本題へ入ったのは、ウルトリィの制止を振り切りムントが茶を淹れ直している間であった。ウルトリィの見立てによると、コゥーハの指輪には強い力が備わっており、その力を調整する術法が非常に特殊であるという。故にその指輪を見せてほしいこと、指輪を入手した経緯について等々を知りたいとのことであった。

(わたくし)の知らない術法ですので、是非とも拝見したいと思った次第です」

 ウルトリィの姿勢にコゥーハは息を呑み、静かに頭を垂れる。

 相手の回答にウルトリィは礼を述べ、小さく付け加えた。

「……それと。ムントが、コゥーハ様の指輪を気にしているようでして」

「ムント様が?」

「はい。指輪のことを知っているような口ぶりでしたので。もしかしたら、ムントの昔話が聞けるかもしれません」

 嬉しそうに両手を合わせるウルトリィの言葉に、コゥーハの左側で沈黙をしていたカミュが身を乗り出した。先程の説教を聞き流していた不満の表情そのままで、ムントに聞こえない声で二人に質問する。

「ねえねえ。ムントって。昔から()()だったの?」

 口を尖らせるカミュの疑問に、ウルトリィは考えるように自身の口元へ指を当てる。

「私が幼い頃から()()でしたから、ひょっとすると、昔も()()だったのかもしれません」

 えー……。とカミュは机に顎を乗せた。

「ヤダなぁ。あ、でもその前に、ムントの若い時ってどんなんだろう? 全然想像つかないや」

「カミュは知らないかもしれませんが。ムントはああ見えて――」

「ああ見えて?」

 期待の視線を送られた、ウルトリィの表情が硬直する。

「ああ見えて……」

「見えて?」

 尚も期待で目を輝かせるカミュから、ウルトリィは視線を逸らした。困ったように眉を下げ、頬に手を当て、やがて苦い顔で微笑む。

「……――昔から、ああだった気がします」

 やっぱり~。とカミュは天を仰ぐ。その直後、戻って来たムントが人数分の茶を机に置き、席に着いた。

「何がやはり、で御座いますかな?」

「ムントはやっぱりムントだったってことだよ。うん」

「はぁ……」

 姫様は時折難しいことを仰ると、カミュの言葉を咀嚼するように考え込むムントの隣――コゥーハから見て正面、入口付近に座るウルトリィが、コゥーハへと視線を向けた。やや耳と尻尾を上げつつコゥーハは頷き、自身の左手に右手を伸ばした。

 綺麗に拭かれた机の中央に置かれたのは、一つの指輪。石座の上に座る琥珀(コゥーハ)を始め数か所に傷や錆びがあるものの、鉱石の左右の肩に彫刻された装飾は非常に細かく一部の狂いも無く対称であることから、制作者の情熱と実力の高さを窺い知ることができる代物である。実際に鑑定してもらったことはないものの、未だに美しい形状を保つそれは、皇城の宝物庫に収められている高価な装飾品と並べても恥ずかしくない物であったに違いない、とコゥーハは自負すると同時に、過失とはいえ厠へ落とした等々、粗末に扱ってきたことを改めて反省する。

 これは、と眉を寄せるムントの正面で、うわぁ、とカミュは大きな青い瞳を輝かせる。

「触っても()い?」

 問われる視線をウルトリィに送られ、コゥーハは大きく首を上下させた。

 笑顔を弾けさせつつカミュは指輪を手に立ち上がり、様々な角度から指輪を眺めた。ひとしきり鑑賞した後、ん~……、と眉を寄せつつ首を傾げた。

「この指輪、なんか他のと違うような。変にキラキラ光ってるし。裏側に、文字みたいなのが彫ってあるし」

 こほん、とムントは軽く咳払いをし、カミュの手から指輪を取り上げ、定位置に置く。

「法具ですな」

「法具?」

 むくれるカミュに、ムントは席に座るように促した。

「先日お教えした内容でしたが。覚えておりますかな」

「えっ?! ええと。うーんと……う~ん」

 あははは、と笑いながら座るカミュに、ウルトリィは眉を下げて微笑し、ムントは眉を上げて溜め息をついた。

 法具とは。基本的に、四の神――火神(ヒムカミ)水神(クスカミ)風神(フムカミ)土神(テヌカミ)、何れかの神を宿した装飾品、あるいは護符や武器のことを指し、それを身につけることで神の加護――神の違いによって様々だが、市場で出回っている物のほとんどは、術法発動に掛る負担の軽減や威力の増大、持っている者へ降り掛かる術法の軽減、体内を巡る神の力を調整し病気に罹りにくい躰を作る、等々である――を受けられる。コゥーハの持つ指輪の場合は、琥珀(コゥーハ)をあしらっているので、土神(テヌカミ)の加護が得られる、といった具合である。

 ムントの説明に、へぇ、とカミュは感心の声を上げた。その様子を一瞥し、ムントは更に説明を続ける。

「とはいえ。法具は誰もがおいそれと作れる代物では御座いませぬ。道具を作る術はもとより、術法に精通した者が神を宿した素材を用い、力を効率よく引き出すあるいは制御する術法を施しつつ作られる物。無論、修復する際も、作成した者と同等の知識を使いますな。また、作成者と宿る神の相性もあり、故に非常に希少価値が高く――」

 高価な物なんだね、と言いつつ再び指輪を光にさらすカミュに、姫様、とムントは窘めた。

 二人が指輪を取り合う光景を見つめながら、コゥーハは思いを巡らす。

(つまり……実質は、オンカミヤリュー族にしか作れない、修復できない代物、というところでしょうか)

 訓練次第では収得できるという術法。しかし身に付けられたところで、法具を用いない場合において、火神(ヒムカミ)を宿す者であれば種火をつけるのがやっと、とのことである。文献によれば、法具を作成する条件の一つには、ある程度の――実戦で使える程度の術法が使えることと記されていた。その程度に術法を扱える種族は、オンカミヤリュー族のみである。コゥーハ自身、文献の信憑性も疑ったことはあるが、書かれていた内容が、オンカミヤムカイの頂点である賢大僧正(オルヤンクル)の次の地位である僧正(ヤンクル)の口から発せられたことは、とても重い。

 それに、とムントはカミュから指輪を再度取り上げる。がっかりした様子で肩を落とすカミュの前――コゥーハの見据える視線の真ん中に再び指輪が置かれる。

 とん、という無機質な音が、胸を突く。

「これは、その法具の中でもさらに特別な……各國にある社に奉る法具の一つ」

 初めて知る情報に、コゥーハの顔が驚きで歪む。

「では、これは」

 うむ。とムントは姿勢を正した。

國師(ヨモル)着任の折りに渡される、國師(ヨモル)である証を示す法具の一つ。新しい國師(ヨモル)が誕生する度に法具は新しく作られるため、二度と同じ物は存在しません。鉱石に宿る力も他の法具に比べて強いこともあり、施す術法も特殊かつ複雑。存在する数が数だけに、目にする機会も無い事からして。……姫様が御存じではなくとも、勉強不足だと恥じる事は御座いませぬ」

 ムントに視線を向けられ、ウルトリィは俯く顔をはっと上げた。頬に手を当てつつ微かに曇った笑みを消し、ムントに向かって恭しく頭を下げた。

 視線を逸らし、戸惑うように頬を掻くムントと、その様子を見ながら目を細めるウルトリィ。木漏れ日に乗ってやって来る温かい空気と共に周囲を暖かくしていく二人の空気にカミュは目を瞬かせる。やがて、ほっと息を吐き、ウルトリィに向く目を細め、笑った。

 若干身を乗り出し、笑顔で自身を指差すカミュに、ムントの眉が上がる。

「……姫様は。もう少し、お勉強された方がよろしいかと」

「む~」

 ぶつぶつと不満を漏らすカミュを一瞥し、ムントは説明を再開する。

「社で任務をこなす間は祭壇へ奉り、一歩でも外へ出て任務を全うする場合は、かの証である法具の一つを身に付けるが決まり。國師(ヨモル)の任を辞する場合は、他の法具と共に國に返上すること、となっております」

 閉じる口にぐっと力を入れ、コゥーハは俯く。視線の先、指輪がある周辺に、薄い影が降りた。

 重い沈黙。仄かに暗くなった室内。その場にいる全員の動きが止まり、コゥーハの首筋を一筋の汗が滴る。

 湿気を含んだようなやや冷たい空気を呑み。コゥーハは乾いた唇を震わす。

「じ、自分は」

「知らないのは当然で御座います。これは我が國でも、國師(ヨモル)以上の地位の者しか知らない事実。別段知られて困ることでもないものの、軽く話すものではない、と厳しく言い聞かせておりますからな。それに」

 当時のケナシコウルペがオンカミヤムカイとの國交を断絶していたことを考えると、國師(ヨモル)だったこと自体も口にしなかったのではないか、と問われ、コゥーハは素直に頷いた。

 当然でしょうな。そう視線を落としたムントの一言は、低く、小さく、吐息のように柔らかく、コゥーハの胸を掴む。

 コゥーハはアトゥイの庇護のもと育った。幼き日の記憶や、たったいま確認した事実、何より自分がここに存在している事こそが、それを証明している。感謝は一生を懸けても足りないであろうし、どんな謝辞を並べたところで気持ちの全てを表現できるとも思えない。しかし、それとは全く別の感情が、コゥーハの胸を引っ張る。

 冷たい視線。日常では一度たりとも見せなかった、夢で見たその顔が、頭を掠める。

 コゥーハの歳の娘がいるにしては、アトゥイはやや若い。実年齢よりも若く見られると本人は語っていたものの、コゥーハが五の歳になった時のアトゥイの容姿は、ウルトリィよりも若い。仕事に励み、美味しい物を食べ、気の置けない仲間と笑い、美しい女性との恋に落ちる――そんな日々を送れるであろう人生の絶頂期を、アトゥイは全てコゥーハの世話につぎ込んでいた。その態は過保護を通り越し、危機迫る時も度々見受けられた。決して自分に何かあってはならない、覚悟のような。時に重く、時に恐ろしさを抱く、愛情とは異なるように見える何か。

 自分に注がれたアレは。本当に愛情だったのか、と。

(……っ)

 ふと浮かんだ思考に、コゥーハはぐっと口を噛んだ。刹那、木を叩く音が右側から響く。

 机の端を見つめる視界の中には、琥珀(コゥーハ)の指輪と、添えられた皺の多い片手。そっと離れゆく腕の先で、自分をじっと見つめるムントに、コゥーハの唇が僅かに離れる。

 精悍な顔つきとは裏腹に。コゥーハを見る双眸に、非難の色は無い。優しげで、穏やかな、しかし回答を求める力強さを内包する黒い瞳に、コゥーハはくっと眉を動かす。渦巻く感情がどうあれ、コゥーハの中で回答は決まっていた。

 僅かに腰を上げ、コゥーハは半歩後退する。背を正し、両手を床に付き、三人に目を向ける。

「ムント様、ウルトリィ皇女にカミュ皇女、お願いの儀がございます」

 カミュも?! とたじろぐカミュの右側で、コゥーハは頭を床につける。

「養父の――いえ。この、國師(ヨモル)アトゥイの指輪を、オンカミヤムカイへと返上させて頂けないでしょうか」

 ふむ……、と考え込むように腕を組むムントに、二人の視線が集中した。瞳を潤ませる大きな青い瞳と、静かに返答を待つ緑がかった青い瞳に眉を寄せ、髭を捻りつつ、くすんだ色に輝く指輪へと目を落とした。

 しばしの沈黙を経た後。咳払いをし、ムントはコゥーハに回答した。

「お断り致しますな」

「なっ」

 いえ、と上がった頭を再び下げたコゥーハに、顔を上げなさい、と指輪に目を向けることなくムントは促した。

 下げた視線の先で、組まれた両手が机に置かれる。

「それは、國師(ヨモル)アトゥイの所持していた指輪に似てはいますが、模造品」

 ムントの一言に、三人が驚くように目を見開いた。息を呑んだ二人を代表するように、ウルトリィは静かに問う。

「それは……本当なのですか、ムント」

國師(ヨモル)着任の折。アトゥイに直接手渡した(わたし)が、間違える訳がありません」

 視線を落とし、動揺を隠せないコゥーハを一瞥し、ムントは静かに目を瞑る。

「確かに、アトゥイが國師(ヨモル)の任を解任され破門された後、かの法具だけは行方不明になっておりますが。十年程前にあやつを見つけ、法具の在りかを問い質したところ、『最も信頼し、最も愛する者に、その証として譲り渡した』と言いましてな」

 コゥーハの視界が、ぐらりと動いた。

「その後アトゥイは息を引き取ったこともあり、法具の行方は未だ不明。彼の言葉が正しければ、その持ち主もおそらくは、アトゥイの意志を尊重して手放さないでしょう。また、あれは貴重とはいえさほど強い力を宿している訳ではないため悪用されることもないだろうと、これ以上の捜索は……」

 言葉を切ったムントが見えない程に、コゥーハの視界は揺らいでいた。おさえる右手を超えて両方から溢れだす涙は、机の端とコゥーハの膝、茶色の床を瞬く間に濡らし、胸の鼓動と共に止まる事は無い。

 顔が、手が、喉が。コゥーハの身体全体を、こみ上げてくるモノが焼く。目頭の熱さが瞼を閉じることを拒否し、せり上がる言葉は焼かれた喉のところで停止する。枯れない涙と、声にならない嗚咽。以前に経験したモノとは正反対の鼓動と共に制止できない何かが、コゥーハの理性を吹き飛ばしていく。

「コゥーハ様」

 ウルトリィの声が、コゥーハの後ろから掛った。同時に、柔らかな感覚がコゥーハを包む。

 包み込む両手に促されるままコゥーハは振り返り、相手の胸に顔をうずめた。身体を抱きしめられ、背中を撫でられ、それでも治まることのない感情。しかし頭を撫でられた刹那、理性と共にそれは爆ぜた。

 叫びに近い嗚咽を発した後の記憶をコゥーハは覚えていない。

 自身を抱く両腕と流す涙越しに見えた茶色の光が、とても暖かかったことを除き。

 

 

 

 

 

※※※

 

 

 

 

 

 客人が去った後、カミュは部屋の隅で写経の続きをさせられていた。しんみりした雰囲気が残るなか、墨をする音が響く。

 カミュがちらりと盗み見た先では、ムントが茶を啜っていた。その隣で、ウルトリィが嬉しそうに笑う。

「ムントがあんなにお喋りだとは思いませんでした」

「い、いえ……ちと長話が過ぎたようですな」

 申し訳ありませぬ、と謝罪するムントに、ウルトリィは静かに首を振った。

 暖かな日差しに照らされ、無音が続く部屋。違和感に気づいたのか、ムントはカミュに鋭い視線を投げる。すかさずカミュは机に向き直り、肩と共に翼を折り畳みながら墨に手を置く。いそいそと墨がすられること数回。そっと、ウルトリィが口を開いた。

「良かったのですか?」

 これのことですかな、とムントは琥珀(コゥーハ)の指輪を机の中心に置いた。

「でしたら先程申し上げた通りに御座いますれば。それに、この法具は術法が書きかえられている故、万が一これが真作であったとしても、それを証明する術は、オンカミヤムカイの学者達を集めたとて見つかる事は無いと思われます」

 そういうことにしておきますね、微笑するウルトリィに、全て真実に御座いますなれば、と断定するような口調でムントは返した。

「ムントは、コゥーハ様とお会いしたことがあるのですか?」

 一拍置いて。机の中央――客人の大事な忘れ物を見据えつつ、ムントは小さく頷く。

「十年程前に、此処から北西にあるアララカの都で。アトゥイの葬儀(ハハラ)の折に、一度だけ会ったことがございます。何分昔の事ですので、最初は別人かとも思いましたが」

 尤も彼女は覚えているかどうかは分かり兼ねますが、とムントが茶を啜る隣で、ウルトリィは自身の湯呑みを持つ手を強くする。

「コゥーハ様の……いえ。先ほどお話に出てこられたアトゥイ様とは、どんな御方だったのでしょう」

「くそ生意気な若造でしたわい。あやつの引き起こした騒動に、どれだけ手を焼いたことか。あれを思えば、姫様達の悪戯の方がよほど可愛げがあるというもの――」

 ムント? というウルトリィの声に、ムントは口元を押さえた。ばつが悪そうに咳払いをした後、残りの茶を飲み干し、机に湯呑みを置いた。

 単調に響いた音が、部屋に居る全員の口元を上げさせる。

「興味のある物に対してはとても積極的で、賢く、元は学者だったこともあり頭の固い部分はあれど、優しい……というのが、周囲の評価でしたな。確かにあやつの研究――特に術法に関するものは、目を見張る物も多く御座いましたが。いかんせん、性格が」

 あからさまな拒絶、面倒な事を押し付けられた時のような表情で、ムントは小さく唸った。気を取り直すように間を置き、補足する。

「当時は戦乱絶えぬ西部の小國に派遣となったというのに、これで争いは起こらなくなるだろうと笑う、何とも呆れるほど前向きな思考と、自意識過剰も部分を持ち合わせておりましたな」

 破門と言っていましたが、というウルトリィの質問に、ムントの眉がくっと上がる。同時に、視線がくっと下がった。

「人を殺めた、そうですな」

 静かに吐かれた言葉に、ウルトリィとカミュは息を呑んだ。

 『調停者』たるオンカミヤムカイ――ひいてはオンカミヤリュー族の役割の一つに、各國間の武力衝突を調停する武力派遣というものがある。雇兵(アンクアム)の術士はその最たるもので、争いを治めるために大陸各地の紛争地帯に赴き、その力を以て務めに励んでいる。その中で()()()()()大神(オンカミ)の名の下で行われるため()()()()()()ものの、それ以外――私利私欲で人を殺すことは、戒律に反する重罪として、相応の刑に処される。

「詳しくは――……存じません。そのことで國師(ヨモル)としての任を解かれ、かつ戒律を破ったと判断されたために破門された、ということは聞き及んでおります。十年程前に消息を掴み、彼が一時的に滞在しているという屋敷を訪ねた際には……本人は隠しておりましたが、大神(オンカミ)の元へ召される寸前。後は、お話した通りで御座います」

 別人、でしたな、とムントは小さく呟いた。

 湯呑みを持つ、皺の多い手に力が入る。その真上で、穏やかな口元と黒い瞳がゆっくりと揺れた。

「そこには、家族を……娘を愛する男しかおりませんでした。家に置いてきた妻や息子はどうしているだろうか、自分から家を出ていこうとしている娘が心配だ、と」

 中央にある指輪に手が置かれ、乾燥した指の隙間から茶色の光が漏れ出る。

「娘には、生まれながらにして奇妙な能力があるという。そのことで敬われ、利用され。陰では嫌悪され、拒絶されてきた。腫れ物を触るかのように扱われてきたし、血が繋がっていないこともあってか、自分もそのように扱ってしまった時期があったと」

 墨をする音がぴたりと止み。部屋は一瞬、沈黙に包まれる。

「そしてそれは、自分がこの世界を見せてやりたいと娘を連れ回したからではないか。誰とも関わることのない土地で、ひっそりと暮らした方が娘のためだったのではと――」

「そんなことない!」

 語る声を遮るように、カミュの机から激しい音が上がった。同時に、机に乗る文具一式が跳ねた。

「そんなことないよ。だってあの人――」

 両手をつき、その勢いのまま叫んだカミュだったが。目を丸くする二人に言葉を詰まらせ、ゆっくりと視線をずらす。言葉にならない小さい声をあげながら、机上に散乱した文具を整頓し始める。

 硯が傾いたことで取り返しのつかない状態になっている部分を見下げ、かくっと肩を下ろすカミュに、ウルトリィの声が掛る。

「カミュ?」

「えっ、あっ、えっーと。……ごめんなさい。も、もちろん、片付けるよ」

 その前に、と苦い笑いを向けながら、カミュは腹部を擦る。

「飲み過ぎちゃったみたいで。一通り片付けたら、行ってきても()いかな?」

 では私もご一緒に、と腰を上げたムントに、女性二人から侮蔑の視線と一枚の雑巾が浴びせられた。




謝罪と補足:
・ブログ投稿時のものから一部描写(設定)をカットしました。申し訳ありません。
・前話と今回の話が、以前ブログに投稿していたものを若干修正したものです。これにて、別サイト様で以前投稿していた全話の投稿を終えた形となります。次回からは本当の意味での最新話となりますので、投稿した際にはお読み頂ければ幸いです。
・用語が間違っておりましたので修正しました、申し訳ありません。
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