日も高くなった昼前。定時報告を終えた兵士を見送り、ハクオロはぐっと背伸びをした。一向に減る気配のない木簡の山に覆われた自身の書斎を見渡す。
「頃合いか」
完全に足音が聞こえなくなった廊下へ鋭い視線を送りながら立ち上がり、ハクオロは本日の日程を振り返る。
今日は半期に一度、一日かけて行われる調練の日である。故に昼過ぎからの謁見もなく、謁見の準備に時間を要するこの時間も本来であれば空いているはずなのだが、と溜め息を吐く。
ハクオロが暇なときに限って、まるで休む事を許さないといわんばかりにベナウィは仕事を押し付けてくる。政務が早く終わったかと思えば、次の案件を差出し。新しい調練の内容を立案し終えれば、躰がなまってはいけないと誘導してハクオロを演習に参加させる。逃げ出す……否、一時休憩すれば書斎へ連れ戻され全てが終わるまで監視され。拒否すれば、苦しんでいる民を盾に取り――実際に苦しんでいる者達は存在するし、ハクオロも彼らを救う手だてを常日頃考えてできる限りの手を尽くしているのだが、さすがに自分一人に求めすぎてはいないだろうか、とハクオロは苦く口を結ぶ。それでも、コゥーハ曰く『下の者に気を遣い過ぎ』な性格が災いしてか、結局はベナウィが求める仕事量を消化している日々を送っていた。
ただ。今日も空き時間に仕事を押し付けられたものの、少しばかり体が違った。
(ベナウィは一日ずっと兵士達の指導で、少なくとも昼過ぎまでは私の所へ来ることは……おそらく無い)
背中で隠した小さな拳を突き上げる。
誰も来ない廊下の左右を注視し、コゥーハから聞いた警備の配置や抜け道を思い出すハクオロの頭に、一つの疑問がよぎる。
(さて。今日は何処へ行こうか)
たまにはあてもなく皇城を巡るのも悪くないか、と思った刹那。正確な回答をするように、ハクオロのお腹が鳴った。
「……そう、だな。まずは腹ごしらえだな」
赤くなった顔を掻きながら、誰かいないか、とハクオロはわざとらしく確認する。いないな、では仕方あるまいと微笑しつつ、廊下へと一歩踏み出した。
昼食を済ませ――厨へ立ち寄った際、「まさか……貴方様は……」と齢を重ねた庖丁師に土下座をされハクオロは困惑したが、何とかして頭を上げさせ軽食を作って貰った――ハクオロは上機嫌で廊下を歩き始める。気分が向いた場所で右へ左へ曲がりながら、先程の食事を今度エルルゥに作って貰いたいものだと頷く。
(何というおかずだったか)
いつも以上に真剣な顔つきで敬礼する衛士に手を振りつつ、ハクオロは側の階段を上る。新しく造られた美しい廊下へと目を向け、歩き出す。
記憶にない道があれば、通ってみる。目的もなく皇城を散策する際にハクオロが心掛けていることの一つである。理由は単純で、その方が新鮮かつ面白いからである。
(第一。毎日毎日同じ道を歩き、同じような書簡に目を通していると気が狂いそうになる。たまには――そう、たまには。違う風景を楽しみたいものだ)
おっと。とハクオロは十字路で立ち止まり、知らぬ道へと進行方向を変える。広場とは違う趣のある中庭、ムックルを丸々包み込んでしまうであろう巨大な影を作り出す立派な大木、故郷を思い起こさせる肥沃な土の香り……心身を癒すような気持ちの良い木漏れ日が背中を押したことも手伝い、まだ見ぬ部屋へと、知らぬ場所へと、縁側を歩くハクオロの心は常に前へと進んでいく。
「この部屋は……清掃中か」
側にあった階段を上った場所から一番近い部屋を覗き、邪魔をしてはいけないな、とハクオロはそっと戸を閉めた。その後も気になった幾つかの部屋をこっそり覗きつつ、好奇心を携え廊下をひたすら歩いていく。右へ左へ気の赴くままに進路を決め、振り向くことはない。途中、仕事に勤しむ女官達に挨拶をし、やや埃っぽい窓の縁が気になれば立ち止まり、もう少し綺麗にするように伝えておかねばな、と独りごちた。
ひとしきり歩いた後。疲労を感じ、ハクオロは廊下の柱へ背を預けた。ふっと窓の外を眺め、兵士達の掛け声を聞いた直後。ハクオロの背筋に冷たいものが走った。
不味い。緊張した面持ちでハクオロは周囲を確認する。が、誰も……最も会いたくない該当の人物がいないことに胸を撫でおろした。やれやれ、と息を吐きながら辺りを見渡し――
(ここは何処だったか)
見た事があるような、しかし記憶にないと思われる光景が周囲に広がっていることに、目を丸くする。
等間隔にある支柱、支柱に備え付けてある発光石、立派な梁に掛かる質素な飾り布、格子状の窓。廊下の構造自体は皇城のどの場所でも、さほどの差異はない。しかし、僅かな違い――支柱や梁の木目、小さな飾り布に描かれた模様、窓や発光石の大きさ、部屋数などといった特徴の組み合わせが廊下の印象を大きく変え、その廊下独自の体を擁している。ハクオロも、それらの組み合わせを参考に場所の特定をすることがある。
だが。現在眺めている光景は、ハクオロの記憶に無い。あるのかもしれない、と感じるも、ハクオロは思い出せない。
故に――
(…………)
一瞬。ハクオロの思考が停止する。
「ま、まさか」
その続きを口にする事をハクオロは全力で阻止する。皇城で仕事をする者として、皇城の主たる
手に浮かぶ汗を必死に拭いながら、ハクオロは更にあらゆる記憶を辿っていく。だが、途中からコゥーハから聞いた抜け道の記憶とが一緒くたとなり、更に混乱する。
「と、とにかく」
人を、見つけよう。とハクオロは呟く。第一、広い皇城を全て把握している者など一人もいない。そう言い聞かせるように頷こうとするが、何故かベナウィの憮然とした顔が浮かび、歯噛みする。
「あ、あいつはそうかもしれんが。れ、例外だ!」
むむむ、と腕を組み、ハクオロは足早に廊下を歩き始める。この際誰でも……いや、ベナウィでなければ誰でも良い、と心中で思いつつ角を右へ曲がり、少し行ったところで立ち止まった。
「ん? あれは」
廊下の前方、左手にある部屋は空いている。その手前で、尻尾を揺らしながら中の様子を窺う一人の女性の名を、ハクオロは呼んだ。
「エルルゥ?」
ハクオロが声を掛けると、エルルゥの尻尾がぴくんと上がる。
「どうした。そんなところで」
しーっ、とエルルゥはハクオロの口に人差し指を当て、そっと部屋を覗く。
部屋はそれほど広くはない。ハクオロが日頃から閉じこめられている――否、仕事をする書斎よりも狭いように見える。日当たりが良くないのか、昼間だというのに窓から差し込む光は少なく、木簡の山と筆記具が置かれた文机の側にある発光石が輝いている。部屋の二カ所には棚があり、貴重品である紙でできた巻物や折本、木簡や予備の筆記具やらが、取り出すのも一苦労な程にびっしりと綺麗に収納されている。文机の隣にも盆の上に乗った木簡の山がいくつも存在し、さらに部屋が狭く感じられる。
(……すごい、圧迫感が)
良くこんなところで仕事ができるものだと、誰かも分からぬ部屋の主にハクオロは感心する。
部屋には二人。文机越しに向かい合い、共に正座をしている。胸当てをしているからして、いずれも武官である。筆の向きから、一方的に相手を叱っている臙脂色の服を着た男がこの部屋の主と思われ、茶色の尻尾と耳を垂らし項垂れる相手はその部下の女性と見える。
(って)
ハクオロの身体が硬直する。
「何故、此処にベナウィとコゥーハがいる」
まさか、と身体を震わすハクオロに対し、え? とエルルゥは首を傾げた。
「ここはベナウィさんの書斎ですよ」
予想が的中し、そ、そうか、とハクオロは一歩後退る。
(ちょっと待て。この前来た時と、随分様子が違う気がするんだが)
前はもっと広かったはずだが。そう思いつつハクオロがコゥーハの後ろへ目を向けた先には衝立があり、奥の様子は一切見えない。それが部屋をより狭く感じるようにしているのだろうか、とハクオロは腕を組む。
「しかし……
先程まで陥っていた状況を含めた過去の経験から、皇城は無駄に広い、とハクオロは常々思っている。事実、
(この前見つけた部屋……髪を手入れするだけの部屋が、あんなに広いとは。更に驚いたのは、そこで未だに多くの者が働いていることなんだが)
そういった無駄部屋の整理も兼ねて、皇城の縮小工事を提案したハクオロだったが。
(國の威信に係わるとか、人員と予算が足りないとか、理解できなくもないが……)
提案を持ち出した際は二日酔いだったこともあるのか、巧く相手に丸め込まれてしまった。時期をずらし、もう少し具体的に内容を詰めた上で再び提案してみるか、とハクオロは考えている。
「で、エルルゥはベナウィに用事か?」
「いえ。コゥーハさんに、お薬の材料を補充して貰おうと思って」
足下にある木簡に目を向けたエルルゥに、成程な、とハクオロは再び部屋へ目を向ける。
「しかし。確かに、あれでは入り辛いな」
苦笑するハクオロにエルルゥは眉を下げ、廊下の窓に浮かぶ陽を見つめる。
「もう、一刻と半分くらい経ったんですが」
「何?」
ハクオロが思わず咳き込み、エルルゥがハクオロの背中を擦った。その膝立ちする足が、微かに震えている。
(ま、まさかエルルゥはその間ずっとここにいたのか?)
さすがにないだろう、と思いつつも、ハクオロはそこに触れない。
「コ、コゥーハは一体何をしたんだ?」
「ベナウィさんに無断で、ウルトリィ様のお部屋に行った、とベナウィさんが言っていました。この前のことじゃなくて……その後に。コゥーハさんが言うには、忘れ物をしたとかで」
「他には」
他、ですか、とエルルゥは困ったように視線を彷徨わせて、微笑した。
「指輪が直ったとか、聞こえましたけど。それだけですよ。多分」
「……それだけ?」
ハクオロはぐっと息を吐き、こめかみを押さえる。
「それだけで。説教が一刻半続くのか?」
続くぞ、という男の声が掛かり、ハクオロは右側を向いた。
ハクオロよりやや背が低い、袖のない茶色の服を着た茶髪の若い男が、しかめ面で腕を組んだ状態で廊下の壁にもたれ掛かっていた。いら立ちが募っているのか、両足の間を隠すように垂れる朱の模様が描かれた白い飾り布や、足首に達する裾がすぼまった朽葉色の袴、男の右側へ流れるように上がる前髪や尖った肌色の耳が、佩いた二振りの刀と共にカタカタと音を立てて揺れている。
ハクオロは慌てて男の口を人差し指で塞ぐ。
「オ、オボロ。いつの間に?」
ついさっきだ。と男――オボロは声を落とし、小さな黒い瞳を丸くする。
「兄者こそ、どうしてこんなところへ? 兄者からしてみれば、此処は余程の用事が無い限りは、一番近づきたくない場所じゃないのか?」
迷ったんだ、とは言わず、ハクオロは咳払いをした後に話題をずらす。
「ベナウィの説教とは、それほど長いものなのか?」
ああ、とオボロは苦々しい表情で呟く。
「俺なんて。あいつと組手した時に『隙あり』って叫んだだけで説教されたんだぞ。しかも地面に正座で、一刻。一刻だぞ!?」
「いや……それは。災難だったな」
ハクオロは力なく笑う。
(何故、隙を見せた相手に向かって『隙あり』って叫ぶ?)
相手の笑顔の裏を知ってか知らずか。オボロは憮然とした顔を下げる。
「一緒に喰らったクロウの野郎に言わせると、アレは軍の中では一種の恒例行事らしい。ただ、何でもアレを喰らうと出世するっていう言い伝えがあって、兵士達の間では喰らいたい奴がごまんといるとか……全く。暢気な奴らだぜ」
ハクオロはしばしコゥーハとベナウィを見つめ、成程な、と呟く。
二人の姿に、エルルゥと、
「ハクオロさん?」
「それだけ期待されて……目を掛けられているということだろう。関心がなければ、ああも熱心に叱ったりしない」
「あ……」
エルルゥは部屋の二人を見つめ、ふふっ、と笑う口に手を当てた。その笑顔はどことなく寂しい。
「そうですね」
兄者? と怪訝そうに腕を組んだオボロに、ハクオロは笑う。
「オボロはそれだけ期待されているってことだ。ベナウィにな」
「んな馬鹿な。あいつは自分が気に食わん行動に文句をつけたいだけだ」
更に眉を寄せ、オボロがベナウィに対する文句を並べ始めた。ベナウィに負けず劣らず熱弁を振るうオボロに対して、ハクオロが苦笑しながら相槌を二回打った頃。ハクオロの肩を優しく叩く手があった。
ハクオロさん、オボロさん。とエルルゥは部屋を指さす。
「終わったみたいです」
三人が部屋を覗くと、部屋の主のため息が廊下へ流れた。
ベナウィは立ち上がり、追うように入り口へ目を向ける。
『と。いうわけです。聖上も、以下の点を留意頂いた上で、今後は政務に勤しんで頂きたく思います』
背筋に悪寒が走り、ハクオロは首を引っ込めた。しかし無駄な行動だと理解し、怪訝な表情で部屋に入るオボロの後へ続く。
「いや、その」
「御理解、頂けたでしょうか?」
理解も何も、全く聞いていなかった。とは言わせぬ鋭い視線にたじろぎつつ、善処する、とハクオロは呻いた。
「いつから分かっていた?」
「彼女に槍の振るい方を話していた辺りでしょうか。オボロが来たのは、
「そ、そう、かもな」
ベナウィへと歩み寄るオボロを眺めながら、ハクオロは額を――仮面を叩く。
(皇女達の部屋に無断で訪ねた事を咎めるところから、どういう経緯で、そういう説教になる?)
理解できない。というより、聞きたくない。とハクオロは苦々しく口を曲げた。
オボロを片手で制し、ベナウィは部屋の入り口で固まっているエルルゥに向かって口を開く。
「エルルゥ様もいらしていましたか。申し訳ありません。彼女にご用ですか?」
「は、はい……」
感情の起伏が乏しいベナウィから、困惑の表情が見て取れた。珍しい、とハクオロは目を丸くする。
非常に嬉しそうな――否、泣きそうな顔で尻尾を振りながらコゥーハはエルルゥに抱きつき、恭しく木簡を受け取る。その隣、怒鳴るオボロを無視し、エルルゥに頭を下げるベナウィに、ハクオロは首をひねる。
(何故。私とオボロの気配に気づいて、エルルゥの気配に気づかなかった?)
ハクオロは顎に手をやる。
嘘はついていないだろう。エルルゥの気配に気づいているなら、コゥーハの説教は後回しにし、先に用事を済ませるはず。コゥーハが部屋を出なければならない状況になったとしても、後で呼び出せば良いだけの話。
それだけ熱心に怒っていたのか。あるいは、とハクオロは先日の出来事――ベナウィと飲んだあの時を思い出す。その話や今の出来事から、一つの結論を導き出した。
(女性……という存在に。鈍感、ということなのだろうか。いや、女性の視線や好意に鈍感、ということなのか)
だとしたら鈍過ぎる。あまりにも。
頭を掻くハクオロに、ベナウィの声が圧し掛かる。
「聖上。許可を」
「……は?」
一同の視線がハクオロに集中する。
「す、すまない。一体何の話だ?」
疲れているんじゃないか? と心配するオボロとエルルゥの隣で、ベナウィは目を伏せる。
「本日の訓練内容を一部変更させて頂きたいので、その許可をお願いします。これから聖上が御視察される内容の件ですが」
ちょっと待て。とハクオロは震える声で制する。
「時間が押しているから中止する、とか言うんじゃないだろうな?」
「いえ……御視察をお取り止めになっても訓練自体に影響はございませんので、一向に構いませんが。その場合は書斎にお残しになっている御政務を続けて頂くことになりますが、如何なされますか」
いや! と即否定したハクオロに対して訝しむ目で一瞥し、いえ、とベナウィは姿勢を正す。
「本日御視察頂く予定でした組手の件で。私との組手を希望する者が予想以上に多いため」
「人数を減らすような、予選のようなものを行いたい、ということか」
頷くベナウィの隣で、オボロが嬉しそうに指を鳴らす。
「面白そうじゃねーか」
「言っておきますが。オボロは聖上と一緒に見学するように」
何っ!? と身を乗り出すオボロを宥め、ハクオロはベナウィに向き直る。
「確か。今回の希望者は全員部隊長だったか」
くっと顎を引いたハクオロに、ベナウィは眉を上げる。
「彼らの実力を把握すること。それが今回の組手の目的です」
「……お前の事だ。それだけではないのだろう」
黙り込むベナウィから視線を逸らし、ハクオロはコゥーハを見る。目を丸くする相手に、良くもそんな顔をするものだ、と心中で吐きつつ、他の理由を述べる。
法の改正後も、女性兵士の必要性というのは度々議題に上がっていた。その理由の一つに、コゥーハがそれ相応の実力を見せてないというのに部隊長の地位にいることがある。ベナウィとコゥーハの関係がある事も――正確には噂であるが――周囲に知られつつある事もあり、ベナウィが贔屓をしているのでは、といった意見を遠回しに言う者も少なくない。
「要は。実力を示せ、ということだ。すまんが、これは命令だ。正直なところ、実力次第では文官への異動も考えている。故に、良い結果を出して貰う事を期待している」
「……」
俯くコゥーハと心配そうに彼女を見るエルルゥを眺めながら、ハクオロは腕を組む。
文官と武官、どちらを希望するかと問うた時。コゥーハは武官を希望した。選んだ理由は、武官として必要なそれなりの教養と最低限の
教養だけを言えば、コゥーハは他の文官に引けを取らない。上手く立ち回っているのか、文官達との仲も仕事上だけでいえば決して悪くないし、とある部署からコゥーハを引き入れたいという奏上も何回かあり、ハクオロの口からコゥーハにそれとなくその旨を伝えた事もある。しかしコゥーハは全てを断り、希望が叶うのであれば武官でいたい、という意思を示した。理由を問えば、先程挙げたような事項のみを並べ誤魔化ながら。
(ベナウィもベナウィで、私の好きなようにすれば良いと丸投げするし。話題の触りに入ると、無駄な話をする暇があるならと木簡を押し付けるし……)
部屋に残してきた山々を思い出し、ハクオロは寒気の走る腕を擦った。
大丈夫ですか、とハクオロを心配するエルルゥの側で、沈黙していたコゥーハが顔を上げた。ハクオロの意を判っているのかいないのか分からない、にっこりと笑った普段通りの表情でベナウィへと質問する。
「どの位、でしょうか」
「手を抜かない事が絶対条件です。最低でも全試合数の半分は。出来れば、クロウと引き分けて下さい」
無茶苦茶です、と呻くコゥーハを遮り、ちょっと待て、とオボロは声を荒げる。
「なんであいつは参加で、俺は駄目なんだ?!」
「
う゛っと声を詰まらせたオボロと、相手をじっと見据えるベナウィ。只ならぬ緊張が漂い始めた部屋の隅で、どうしたら良いかとおろおろするエルルゥの手を、コゥーハはそっと握った。
「大丈夫ですよ。隊長、いつになく楽しそうですし。ただ、目をかけられたオボロ様には、恐れながら同情致します。最初の内は、心が折れそうな位に厳しいですから」
同感だ、とハクオロは微笑う。だが、コゥーハの次の一言でその表情は引き攣る。
「……目をつけられている聖上は今後も大変かと、恐れながら思いますが」
どうしたら逃れられる? というハクオロの問いに、耐え忍ぶしか方法を知りません、とコゥーハは目を細めた。
報告:2013/2/11 に、地の文の一部を加筆修正しました。