女神「暇なのでヒト雄をTS異世界転生させますわ!」 作:怪文書製造機withノベリスト
現世 田中吉政
愛莉『ありがと〜!いや〜よしちゃんはやっぱ頼りになるねぇ!』
吉政「いつものこととはいえ気を付けて下さいね。愛莉の悪い所はそういう所ですよホント。」
愛莉『あはは!よしちゃんお母さんみたい!』
吉政「まったく…では明日までにはお願いしますね。」
愛莉『了解です!サー!んじゃね〜またあした〜!』
吉政「えぇ、また明日。」
携帯電話から耳を離し、ポケットへ入れる。
夕暮れ時、愛莉と共に下校した私は、普段より少し遅い時間に自宅に帰ってきた。
差しづらくなった鍵を開け、年季の経ったドアノブを捻り扉を開ける。
「ただいま戻りました。」
誰もいない廊下に声が響く。
今の時間帯は父と母は仕事場に居て、自宅には私一人だけだ。
いつもの調子で靴を脱ぎ揃えて、2階の自分の部屋に向かう。
私の足音が、静かな空間に音を残す。
自室に入り、引き出しの中のカッターナイフを手に取る。
慣れた手つきで切れ味を確認する。問題無さそうだ。
何度も行ってきた動作をなぞる様に身鏡の前に立ち、服を脱いでいく。
一つ一つボタンを外して行くごとに、心臓が早鐘を打ち鳴らし、身体に熱を送り込む。
最後の肌着を脱ぐ。倒錯的な昂揚感が思考を侵し、支配する。
鏡を見る。そこには、全身に切り傷の跡を残す醜い獣の姿が映っている。
傷跡を指でなぞる。
傷は塞がっていて痛みは無いが、その時の痛みがぶり返し身体が疼く。
吉政「んっ……。」
私はカッターナイフの刃を自分の胸元に押し当て、ゆっくりと自らの皮膚に沈めていく。
鋭利な刃の先端が皮膚に穴を穿ち、徐々にその身を沈める。
刃は湿り気を帯びた音を響かせながら、肉をこじ開け、その硬質な触感を伝える。
その孔からは、熱を持った体液が押し出される様に刃の輪郭を伝い滴り落ちていく。
身体の内に籠った熱が吐き出され、その感覚によって熱い吐息が口元から溢れる。
吉政「あっ……!」
遅々とした手つきで、焦らす様に刃を下へと向かわせていく。
熱った肉を掻き分け、彼女を想い、この身体に消えない傷跡を残す。
その刺激的な官能に思わず身が跳ねる。
秘められた熱が解放され、背徳的な悦びが脳を満たす。
吉政「はぁっ……!」
思考を侵していた熱が発散され、徐々に正常な思考が戻ってくる。
鏡を見る、そこにはカッターナイフを突き立て、血を流す私が映っている。
唐突に思考が覚める。
この様な姿を両親や愛莉が見たらどう思うのだろうか。
吉政「……」
強い罪悪感と嫌悪感に促され、隠す様に後始末を始める。
カッターナイフにこびり付いた血を拭き取り、傷口を手当てする。
吉政「いたっ!」
いつもの様に消毒液を掛けると、
普段以上に滲みる痛みを感じる。深く切りすぎた様だ。
吉政「……」
初めは、自らの獣性を戒めるための行為だった。
その痛みを体に刻み、自らを律する為のものだった。
愛莉に欲情してしまう自分が許せなくて、罰してやりたくて、
その獣性が鎌首をもたげる度に何度も、何度も躾ける様に体を傷つけた。
だが今はどうだ、この浅ましい獣はそれにすらも悦びを見出している。
日に日に強くなっていくこの衝動に歯止めが効かなくなってきている。
夢の内容も徐々に過激なものになってきている。
もう止められない、私には止め方がわからない。
いずれあの夢が現実ものになるではないかという恐怖が私の身を苛む。
鏡を見る、映るのは醜い男の姿。愛莉に親友などと嘯き、
腹の内ではその劣情の捌け口にしている浅ましい獣の姿。
私の願いはただ愛莉と平穏に、彼女の親友として、一緒に過ごしたい。ただそれだけだ。
だがこの雄としての悍ましい獣性は、それを嘲笑い、そして彼女を傷つけようとしている。
鏡の中の男と目が合う。嫌悪と憎しみが湧き上がる。
彼女をこんな目で見る存在になりたくなかった。
彼女をこんな感情で汚す存在になりたくなかった。
吉政「…醜い、醜い、醜い、醜い、醜い、
もしも私が、醜悪な、醜い男ではなく、彼女と同じ女として生まれていたら…
軽い、何かを弾く様な音が部屋に響き渡る。
「あ〜、盛り上がっているとこ悪いんですけど、ちょっと良いですかね。」
思考が停止する。
視界には鏡を通して背後に人影が映り込んでいる。
瞬きをした瞬間に現れた。その事実を脳が理解することを拒む。
「驚かせるつもりは無かったんですがね、
声を掛けるタイミングがよく分からなくなってしまいましてね、えぇ。」
抑揚のない女の声が耳に入る、聞いた覚えのない声だ。
これは幻覚なのだろうか?
「まぁ、突っ立ってないでほら、とりあえずこっちを向いてくださいよ。」
鏡の中の女が軽い音と共に指を鳴らす。
突如、上半身が私の意思とは関係なく勢いよく旋回する。
足がもつれ、床に身を打ち据える。
余りに唐突な出来事に呆然とする。
「あ〜失礼、人間相手にはちょっと強すぎましたね。立てますか?」
吉政「え、ええ……」
差し出された手を流されるままに掴み、立ち上がる。
手の触覚が、彼女が生きている生物だという情報を伝える。
幻覚にしては生々しい触感だ。であればこれは幻覚ではない?
「まぁ、一旦服を着たらどうですか?」
吉政「あ、はい、そうします。」
促されるままに服を着直す。
なんなんだこの状況は。
目の前には見慣れない女。さっきまではいなかった。急に現れた。
窓を見る。鍵は閉まっている。玄関の鍵だって閉めたはずだ。
これは一体どういう状況なんだ?
混乱する思考を無理矢理回し、質問を絞り出す。
吉政「あ、…あの…誰ですか?貴方。」
リスト「あぁ、私はノベルティア・リスト、まぁリストとでも呼んで下さい。」
吉政「はあ…。あの……不審者、ですよね?警察呼びますよ?」
リスト「ん?あぁ人間って困った時は、警察っていうのを呼ぶんでしたっけ。
確かその道具を使って連絡するんですよね。ん〜構いませんよ、えぇ。気が済むまでどうぞ。」
吉政「はあ、そうですか…。」
目の前の、リストと名乗った女が感情の感じ取れない声音でそう告げ、指を鳴らす。
私は回らない頭で、促されるまま警察へ連絡を取ろうとする。
『おかけになった電話番号は、電波の届かない場所にあるか電源が入っていないためかかりません。』
…繋がらない、もう一度掛ける。
『おかけになった電話番号は、電波の届かない場所にあるか電源が入っていないためかかりません。』
おかしい、携帯電話を見る……圏外?この街中で?さっきまで繋がっていたのに?
背筋に言い表せない悪寒が走る…いや、携帯の調子が悪いんだ、きっとそうだろう。
彼女の方へ振り向く。変わらず彼女は私を見つめ、そこに佇んでいる。
その目は深く澱んでおり、先程は感じなかった薄気味悪さを私に感じさせる。
リスト「ん?何か?」
吉政「あの、いえ、ちょっと携帯の調子が悪いみたいで…」
リスト「そうですか。で、次は何を?」
吉政「あ、はい、ちょっと家電で掛けてみようかな、と……」
私はなんで不審者に伺いを立てているんだ?
何故彼女はこんなに落ち着き払っているんだ?
リスト「えぇどうぞ、説明の手間が省けますしね。」
吉政「は、はい、その、失礼します。」
何かに急かされるように部屋を出ようとして、彼女のそばを通り過ぎようとする。
至近距離で目が合う。その目は、まるで塵でも見る様な冷めた目。
鳥肌が立つ。早歩きで一階のリビングの電話の元へ向かう。
吉政「はぁっ!、はぁっ!……」
荒れた呼吸を落ち着け、受話器を取る。
指を弾く音が響く。
……受話器からはいつもの音がしない。
震える指で通報番号を押す、なんの反応もしない。
電話の配線を見る。繋がっている。では何故?
とにかく、電話は繋がらない。であればどうする、どうする。
逃げなければ。一刻も早くこの不審者のいる家からでなければならない。
燻り出した恐怖心に急かされ、近場にあった窓へ駆ける。
夕焼けに染まった見慣れた外の景色が目に入り、焦燥感が少し和らぐ。
窓の鍵を開ける為に手を伸ばし
指を弾く音が響く。
吉政「へ?」
窓の外が暗闇に包まれる。
鍵を開けようとする、開かない。
窓を目一杯の力で開けようとする。開かない。
吉政「な、なに、これ。」
窓の外は夜よりも暗い、なんの光も通さない様な黒で塗りつぶされている。
窓はどれだけ力を込めても僅かほども動かない。音すら鳴らない。
異常な光景、私の理性が削られていく。
リスト「で、」
吉政「ひっ!!」
振り向くと、それは変わらずに私を見つめ、佇んでいる。
その濁った球体には、まるで昆虫がもがいている様を眺めているかの様に、
なんの感情の色も示していない。
リスト「次は何を?」
無機質な音が耳に入る。その音には感情の起伏がまったくなく、
全ての人が持っているであろう感情の熱を一切感じさせない。
吉政「あ、……あ、……」
私は理解してしまう。
目の前にいるこの存在は人間ではない。
そして、この存在は私を閉じ込め、私に対して何かをしようとしている。
私の中の理性がひび割れてゆく。
吉政「※※※※※※※※※※※※!!!」
逃げなければ、逃げなければ。
震える足腰を奮い立たせ、玄関まで全力で駆ける。
壁にぶつかり、躓きながら必死になって玄関を目指す。
中々辿り付けない、一秒一瞬きが何十分にも感じられ、焦燥感が身を焦がす。
這々の体で漸く玄関の下へ辿り付き、ドアノブを掴む。
指を弾く甲高い音が廊下に響き渡る。
吉政「ひっ!!」
思わず身が竦み、目を閉じる。
吉政「あっ……。」
目を開くと、そこには見慣れた扉などなく、石でできた堅牢な壁がそこにはあった。
私の中の理性が音を立てて崩れ落ちる。
下半身から力が、逃げる気力が抜け落ちて、その場に崩れ落ちる。
理解してしまった。
私はあの存在からは逃げられない。
そして私は、今からあの存在によって何かをされるという事実が。
吉政「たっ助けて!誰か!誰か!」
石の壁に縋り付き、狂ったように叩く。
吉政「お父さん!!お母さん!!」
あの虫を見る様な目を思い出す。
これから行われることを想像してしまい、恐怖で気が狂いそうになる。
吉政「助けて!!愛莉!!ねぇ助けてよぉっ!!!」
顔がさまざまな液体でぐちゃぐちゃになる。
一向に誰からの返事もない。
リスト「さて、まぁこんなものですかね。」
廊下が軋む音と共に、無機質な音が背後から近づいてくる。
余りの恐怖に身体が動かない、声が出ない。
リスト「さっきから使っているのは魔法というものです。
これは素晴らしいものですよ。大体のことは何でもできる、夢がありますよね。えぇ。
そう思いませんか?貴方も。魔術というのは底のない穴、無限の可能性がそこにはあるのですよ、えぇ。」
平坦な音が急に狂った様な熱を帯び、狂気的な感情をちらつかせる。
この存在の思考が理解できない。予測のつかない言動に身が震え上がる。
リスト「さて、今までの流れで、
私があなた方とは違う存在だということがなんとなく理解できましたよね。
では、改めて自己紹介させて貰いますね、えぇ。」
私のすぐ後ろから、その音がきこえ
リスト「私の名はノベルティア・リスト。
魔神であり、叡智と記憶の守護者でもあり、我が主の忠実な従者でもあります。
そして魔術師でもありますね、えぇ。どうぞよろしく。」
私の意識はそこで途絶えた。