R×R ーレイパー×レイパーー   作:ケツマン=コレット

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プロローグ

 レイパー協会、本社。

 世界各地に存在するレイパーを束ね、すべてを管理する364階建てのビルがここ、新宿の一等地には高く存在していた。

 ビルの300F以上の階層は未開通(バージン)エリアと呼ばれており、レイパー協会の中でも上層部のものしか入れない場所であり、中の情報は処女のアナルのように固く閉ざされている。

 その300階を超え更に上へと向かうエレベーター内で、木村は緊張の面持ちで目的の階への到着を待っていた。

 二つ星レイパーの木村とて未開通エリアへ入った回数は指で数えられる程度だが、いつもなら緊張はない。いつもであれば。

 数日前から木村の師範、秋吉との連絡が取れなくなっていた。

 レイパーのすべてを教えてもらったといっても過言ではない恩師だ。

 師範の音信不通と突然の呼び出し。

 これが悪い結果に結びつかないことを願うばかりだ。

「秋吉師範代」

 隣でボソリとつぶやくのは同じく2つ星レイパーの三浦。

 同じく秋吉から教えを受けた一人だ。

 特に周りの弟子よりも何倍も修行を受けていた三浦は他の誰よりも秋吉に恩義を感じている。

 三浦の感じる不安は木村のそれを上回るものだろう。

「大丈夫ですよ。あの人なら」

 木村は励ますようにいう。「あの人が負けるところ、想像できますか?」

「お、そうだな」

 軽く返す三浦だが表情は依然、暗いままだ。

 エレベーターの扉が開き薄暗い廊下を二人並んで歩き、目的の部屋に入るとそこは狭い会議室だった。

 中は廊下と同じく薄暗い。そこに机を挟んだ向こう側にこちらに背を向け立つ人影が1つ。

 それがこちらに振り返ったとき、木村、三浦の二人は静かに息をのんだ。

 現レイパー協会会長、ドラゴン田中。その人がその場に立っていた。

 会長直々。一体なぜ?

「単刀直入にいう」

 思案するまもなく、田中は二人に言い放った。「秋吉が殺された。犯人は田所浩二」

 二人の目がカッと見開く中、田中は続けた。

「1週間後、指定暴力団、多田野会による内部戦争が発生する。そこに田所はいる。今ここに、二つ星自然(ナチュラル)レイパー、三浦。二つ星犯罪者(クライム)レイパー、木村。二人に告ぐ、特A級指名手配犯である田所浩二を狩れ(レイプ)しろ」

 

 

「念を……教える!?」

 真締(マジメ)は声を荒らげて驚いた。

 ここはGO教の総本部。白を貴重とした西洋風豪邸、GO殿の一室。

 隣には1000人ほどが入れるホールがあり、今はそこでGO教の創設者、豪が信者に教を説いている。

 ここはその待合室だ。

 白を貴重とした広い部屋で、ソファーが2つとその間に机が置かれてある。

「声がでけぇよ」

 向かい側のソファーに座る聖也は苦い顔をして言った。

「いや、でも……そんな事したら、ダメだろ。念はだれかれかまわず教えていいものじゃない。だから今まで豪にも教えていなかったのに、いきなりそんな事言われたら……困るよ」

「分かってるさ。ただ、聞いちまったみたいなんだよ、念の存在を教祖様が」

「誰に」

「多田野会長だよ」

 その名前が出ると、真締は出そうとしていた言葉を飲み込んだ。

 全国810万人もの信者を抱える一大宗教、GO教。

 その裏の顔は多田野会の暴力団、豪組であった。

 ときに経典で、ときに暴力で、この世を思うままに動かそうとしている。

「昨日、ガンボリア宮殿に多田野会の全組長が集まったよな」

 聖也の問に、真締は頷く。

 二人で護衛をして送ったからだ。

「その時に言われたんだとよ、多田野会で内部戦争を行うことと、ついでに念をしっかり身につけておけってさ」

 内部戦争については知っていた。

 多田野会長はすでに114歳を超えており、いつ命が終わっても不思議ではない。

 そこで問題となるのは跡取りである。

 弱肉強食のヤクザの世界において、力は絶対的なもの。

 多田野会の会長は他を服従する力を持つものではくてはいけない。

 それにふさわしいものを確かめるため始めるのがこの内部戦争。

 この結果により、時期組長が決まることになる。

 裏の戦争には裏の力が必要となるのは必然。

「そのための念、か」

 真締はため息を漏らしながら言った。

 念はそれを身につければ誰しも拳銃の所持と同等かそれ以上の力を持つ事ができる。

 そのため多くに広めることは暗黙の了解として行わないことになっている。

 今まで組長である豪にも伝えていなかった理由でもある。

「まあいいんじゃねぇの」

 聖也は軽い調子で言った。「そもそも大きい組の組長で念知らないのうちぐらいだろ。ヤクザなんて裏世界、念がなきゃ生きてけないし」

 真締は眉間にシワを寄せて思案する。

 今までは自分と聖也で豪のことは守ればいいと思っていた。

 しかし、相手がヤクザの組となると話は変わる。

 全力で、しかも念を持って殺しに来るとなれば二人で守り切れるという自信はない。

 だが……それでも。

 真締には1つ疑念があった。

 もし念を習得したとなったとき……。

「あ、話は終わった?」

 不意に豪が部屋に入ってきた。

「豪、終ったの?」

 真締がそう聞くと、豪はその色黒の肌とは対比的な真っ白な歯を見せて、屈託のない笑顔を見せた。

「おう! みんなで拍手喝采。今日も最高の集会だったぜ」

教祖というにはあまりにも快活でくだけた返事。

 しかし、このすべてを包み込むような明るさが何よりも人を惹きつけるのだ。

 だから、真締も聖也も彼のもとにいる。

「んじゃさ、改めて」

 豪は真締の隣にどかっと座った。「教えてくれよ。念」

 真締は聖也と目線を合わせる。

「そんな考え込まないでさ。パパパっと教えてオワリ! 平気でしょ?」

 おどけた様子で号がいうと、聖也は教えてやれよ、っといったふうに豪を顎で指した。

 真締ふうっと息を漏らした。

 こうなっては教えないわけにはいかない。

「わかった、教えるよ」

 

 

 念とは簡単に言えば生命エネルギーだ。

 生きるもの全てに存在し、それを自在に操るのが念使いと呼ばれる。

 一度使いこなせるようになれば、常人では考えられないようなパワーや特異な超能力を使うことができる。

「なーるほど、それが念ねぇ。で、なんでこっちに移動したの?」

 先程まで集会を行っていたホールへ移動しながら、念の基本的なことについて真締が教えると、豪は軽い様子でそう聞いた。

「念を練るとなると、なるべく広く静かな空間の方がいいから。集中力がますしね。まずは念の基本から」

 真締は息をはくと、体の奥底にある精孔を開き、全身からオーラを放出させる。

「おぉ、スッゲー威圧感。ビンビンじゃん」

 ギンギンのペニスをみたホモのように豪は興奮している。

「これは念における(レン)と呼ばれるもので、念を()るともいう。体の精孔を開いて生命エネルギー、俗に言うオーラを放出してる状態だ。このままだと全快でひねりっぱなしの蛇口。だからエネルギーが枯渇して、最悪死ぬ。これを(テン)で体の周りにとどめる」

 真締は放出している念を体に沿うように留める。

「へえ、気配が変わった。でも威圧感はある。ジリジリした感じだな」

「生命は常にオーラが頭の先から出しっぱなしの状態になっている。僕たち念使いはこの纏で常にそれをとどめているんだ。次は(ゼツ)。精孔を閉じる」

 言葉通り、真締は全身の精孔を限りなく閉じて、念がほぼない絶状態となる。

「この状態は通常、常に開き、少しずつ放出しているオーラを止めているから、体力の回復向上や隠密に役立つんだ。どう、目の前にいるのに気配が薄い感じしない?」

 真締がそう聞くと、うーんといって豪は首をかしげた。

「いやぁ、お前もともと影薄いからよくわかんねーや」

 不自然な沈黙がその場に流れると「そう」といって真締はちょっとショックを受けながら続ける。

「最後に(ハツ)。これが念の集大成。念をコントロールして力を得たり能力を発現するんだ。僕は身体の強化が得意な強化系」

 真締は念を練ると、それを足に集中させ少しかがむ。

「念を使えば、こんな風に―ー」

 真締がジャンプすると、その体はホールの天井近く、4メートルほど飛び上がり、何事もなかったように着地した。「これだけのパワーを得られる」

「ほおぉ! すっげぇー!」

 豪はホモガキのように目を輝かせた。「んじゃさ、さっさと教えてくれよ、そのやり方!」

「うん、まずは纏から。体から流れ出ているをオーラを感じてとどめてみよう」

「あぁ!? 纏から? やだよ。発から教えてくれよ、発から」

「気持ちはわかるけど、発は念の集大成。急には教えられないし、そもそも使えないよ。まずはじっくり纏かやろう」

「えー、その纏ってやつ、どんぐらいやったら発までいけんのさ」

 ふてくされ顔で豪がそう尋ねると真締は、ぱっと手のひらを広げて見せた。

「大体ハチゴー」

「ハチゴー!? マジでぇ?」

 豪は声を荒げると指を折って数を数える。「85時間ってことはお前、大体4。休憩とか入れると5日か? 長すぎるぜオイ」

「いや時間じゃなくて日。85日」

 真締が訂正すると、豪はやれやれと言った様子でわかるように肩を落として見せる。

「真締さぁ、その慎重なのはいいと思うけどよぉ、内部戦争までもう1週間きってんだぜ? お前は俺がそんなことチマチマやってるうちに死ねっていいたいのか?」

「いやでも、念ってのはそもそもゆっくり、それこそ1年や2年をかけてーー」

「真締」

 不意に聖也が会話を遮った。「いいよ、豪の精孔、開いてやれよ」

「何言ってるんだよ! そんな事しちゃ、ダメダろ!」

 無理やり精孔を開くということは、念をコントーロルできなかったとき、最悪死ぬと言うことだ。

 そんなリスキーなことを、組長である豪に勧められない。」

「いいんだって、こいつには才能がある。お前も念能力者ならパッと見でわかるだろ」

 確かに、聖也のいう通りだった。

 稀に念能力者ではなくても、無意識に微弱ながら念を使っている者がいる。

 それがまさしく豪だ。

 彼の強烈な求心力は、念の影響が少なからず影響している。

 そう、それは分かっていた。分かっていながら、時間のかかる方法、遠回りを行おうとしていた。

 そんじゃ、そいつ()っちゃおうよ。

 1年前。いつもと同じ、屈託ない笑顔で彼は言った。

 しょーがないじゃん、あいつがいるとうちらが暴力団だってバレちゃうし。

 利己的。正義も悪もない。そこになんの罪悪感もない。遊び半分で虫を殺すような、純真無垢な子供。

 パパパっとヤッてオワリ! 楽しょーでしょ?

 豪には感謝もしているし、尊敬もしている。

 一生守ると、自分自信に、聖也と豪に誓った。

 それでも、心にいるもう一人の自分、深層心理でどうしても豪に念を教えてはならないと警告をしている。

ヤクザなど暴力の世界。非道なことなど大いにある。

 それでも、非道と非情はやはり違う。

「え、まじで? やっぱり?」 

 豪は才能があると言われたことを見るからに嬉しそうに言った。「そんなこったろうと思ったぜぇ。俺って初めてやるスポーツとかでもプロに勝っちゃったりするし、その辺の才能やっぱあだよな、これマジ」

「いやぁ……でも」

 真締はなんとか適当な理由を探すが、言葉は出ない。

「へーき、へーき。俺はどんなことでも最初っから結構できる天才タイプだから、大丈夫だって安心しろよ」

 真締はグッと口をつぐんだ。

 もう、こうなったら止められない。

「わかったよ。背中見せて」

 真締めがそういうと、おうっといって豪は背中を向けた。そこに手を添える。「今から僕の念を使って君の精孔をガン掘りする。それによってオーラが大量に溢れ出るから、落ち着いてコントロールして。わかった」

「おーう、任せときな」

 豪の軽い返事に、真締は少し真剣な顔になる。

「ほんとに死ぬかもしれないんだからな」

「分かってる分かってる。任せとけって。ほら、こいよ」

 まったく、と思いながら「いくよ」と念を込めた手のひらを背中にあてて、精孔をガン掘りした。

 瞬間、豪の全身からオーラが溢れ出る。

「ウォ、スッゲ!」

「息を整えて!」

 興奮したかのように驚く豪に、真締はすぐさまいった。「目を閉じ、息を整えて全身のオーラを体に留める意識……で」

 そこまで言ったところで、真締は目を見開き、言葉を止めた。

 纏ができていた。

 すに豪はオーラをコントールし、放出して霧散しないように体にまとっている。

「おっとと、いい感じいい感じ」

 まるで久しぶりに平均台に乗ってみたような感想だった。

 ここまで才覚のある人を見たことがない。

 100年。いや1000年に一度の逸材。

 豪はオーラを足に集中させると飛び上がり、3メートルほど跳躍して肩から落下した。

「いってぇー! 空中でどうやってバランス取るんだよ!」

 痛いと言っている割には、その顔は嬉しそうだった。

「水見式、やるか。準備してくる」

 聖也がそういった。

 念には大まかに分けて6の系統がある。

 強化系。オーラによる身体や物体の破壊力の強化を得意とする系統で、攻撃、防御ともに伸ばしやすく一番戦闘に向いている系統。真締はこれに該当する。

 放出系。オーラを体外へ排出することを得意とする系統。攻撃方法が主に中距離となるのでこちらも戦闘向け。聖也はこれだ。

 操作系。特定の物体や生物を操作する系統。基本は搦め手となるため撹乱向けだが、人を操作する能力となれば一撃必殺となりえる。

 特質系。その名の通り特異な系統。他の5系統に当てはまらないものはすべてこれに分類される。能力は人それぞれ大きく異なり一概にどんな能力といった形がない。全く戦闘に向かないものから、多くの人間を一度に殺めることのできるものもある。

 具現化系。念能力によって物体を具現化させる能力。具現化したものは念の操作によって見えなくしたり、通常ではあり得ない異能を付与することができる。こちらも相手の相性によっては一方的な戦闘ができる系統だ。

 変化系。オーラを別の性質に変化させる能力。例えば火に変化して相手を焼くことなどができる。単純かつ応用が効きやすい能力でオールマイティな使い方が可能だ。

「はぇ~、そんでその6つのうちどれが一番あたりなの?」

 ホールから待合室に戻るさなか、真締からの説明を聞いた豪はそう聞いた。

「能力はどれも一長一短で、どれが一番とかはない。まあ、戦闘向きでいうと強化、放出。次点で変化って感じかな」

「なるほどな、自分の系統以外の能力は使えないのか?」

「いや、強化系でも変化や具現化を使うことはできる。でも効率は悪くなるから基本は自分の系統やそれと相性がいい系統以外は使わないのがベスト」

「相性?」

 そのセリフに豪は引っかかったようだ。「そんなのあるの」

「うん。わかりやすくいうと系統は6角形の形に相性を分けられる」

 そういって真締は空中に指で六角を作って見せる。「頂点が強化系としたときに、時計回りで角に放出系、操作系、特質系、具現化系、変化系となる。この際に隣り合っている系統、強化系の場合は放出と変化が次に使いやすい系統となる。逆に操作と具現化の能力は相当な鍛錬を積まないと扱えないし、対面にある能力はほぼ使えないと言ってもいい。まあ強化系の対面にある特質は、他の系統の場合でもなにか天性を持たないと決して使うことのできない、特別なものなんだけどね」

「へえー、奥が深いねぇ。そんで、これは何」

 待合室のソファに座った豪は机の上にあるコップを指差す。

 それには水がいっぱいに汲まれてあり、水面には葉っぱが1つ浮かんでいる。

「これは水見式といって、自分の系統を調べる伝統的な方法。コップにオーラを包むようにして錬を行えば、系統によって水や葉っぱにそれぞれ変化が生じて、例えばだけど強化系だと水が溢れーーちょ、豪!」

「ん、どしたん? 錬すればいいんだろ、こんな風に」

 強化系は量が変わる。放出系は色が、操作系は葉が動く。具現化系は不純物が現れ、変化形は味が変わる。そして、特質系はそれ以外の、なにか特異な反応。

 豪が錬を行った水は強烈なまばゆさをもって光、部屋全体を照らしていた。

「やっぱりか」

 ぼそりと聖也がつぶやく。

 真締も予見はしていた、豪が特質系なことは。

「まっぶ。なにこれ」

 豪が尋ねると、真締はまばゆさに眉を潜ませながら答える。

「僕も見たことがない。こんなの」

 特質系。神々しいことだけは確か。

 しかし、その強烈な光を受けて豪の背中にできた影。

 それがどこまでも深い、闇のように見えた。

 

 

内部戦争、2週間前。

 

 ずっと気配があった。

 今日は下北で弟子たちと軽く呑んだ帰りだ。

 家にはまっすぐに向かわず適当な夜道を、暗く、人がいない方へと歩いて行く。

 気がついたのは5日前。禍々しいオーラを感じた。

 近くもなく遠くもない。家にいても、外にいても、定期的に監視されている。

 油断しているところを襲うのか? そうとも思ったがこちらが隙きを見せても襲ってくる気配はない。

 命を狙われた経験は少しだけある。

 今までのそいつらとは違う。

 戦いを求める、浅黒く、淀み、臭い。その気配。

 歩き続けて1時間。秋吉はふと目に入った大きな工場の門を飛び越え、中にはいった。

 背後の気配もそれに続く。

 深夜3時6分。

 駐車場は広く。等間隔で並ぶ電灯からは今にも消えそうな淡い光を放っている。

 秋吉はいつ何時でも戦える用、常に空手着だ。

 黒の帯をきゅっと締めると、光の無い闇の中、近づいてくる気配と秋吉は対峙する。

「やっぱり、お前か」

 そう口にすると暗がりの中から、あいつは出てきた。

「お前って、昔見たく名前で読んでくださいよぉ、秋吉師範代♥」

 田所浩二。特A級指名手配犯。

「クソが」

 眉間に血管を浮かせた秋吉はそう吐き捨てると、全身から凄まじい量のオーラを練る。「誰が呼ぶかよ」

 それをみて田所は快楽を感じているかのように笑みを浮かべた。

「いいですねぇ、秋吉さぁん。さあヤりあいましょう」

 この男は待っていた。

 こちらがマックスを出せるコンディションで、邪魔が入らない戦いをできる場所を。

 快楽殺人気でありバトルジャンキー。

 そして8年前。秋吉の弟子3人を惨殺し、突如として姿を消した男。

 ―ー殺す。

 念は思いの力。強い殺意は強大なオーラに転化される。

エンジン全開!(フルスロットル)

 秋吉はケツ穴から勢いよく念を放出し、マッハ1の速度で田所に接近する。

振り上げた拳を叩きつけるも田所は後方へ避け、拳が床に打ち込まれるとコンクリートが爆ぜる音が響いた。

 チっと舌を鳴らして離れる田所を見上げると、奴は一瞬右手でケツを触ったかと思うと、その手にはオーラを纏っていた。

 両手を合わせたかと思うと、そのオーラは粘着質なガムのように伸び、両手の間に一本の線を作る。

 元弟子である田所の能力は知っていた。

 1つはトランプ。常に持ち歩いているそれをオーラで包み、切れ味を増したそれでの攻撃。

 そしてメインの能力。オーラに自分の腸液を混ぜ合わせ出来あがる、ゴムとガムと腸液の性質を持つ『バンジーファック』(伸縮自在の腸液)

 伸ばすも縮むも、付けるも外すも滑らせるも、田所次第。

 単純明快、故に厄介。

 打撃を受ければ腸液をつけられ引き付けられる。物体につけて飛ばしたり、体に巻き付けられれば拘束も可能。

 時間をかければかけるほど様々なものに腸液をつけられ、戦術的優位を取られる。

 しかし、秋吉はレイパー教会最速の念能力者。

 放出系念能力『エンジン全開』(フルスロットル)

 ケツから放出されたオーラは体をマッハに加速させ、そこから放たれる拳は並の能力者では不可避かつ確実に絶命に至る。

 レイパー教会念能力者では木村についで最強と呼ばれる男。

 小細工は使わさん。

 秋吉はケツから再噴射。一気に田所のとの距離を詰める。

 田所の両手には腸液。しかし、たとえそれをつけられたとしてもそれを利用される前に粉砕すればよし。

 推進力をそのままにマッハ1のアッパー繰り出すも、田所は顔を引いてそれを躱す。

 しかし、秋吉はそのまま体をひねらせ、後ろ回し蹴りを胴にくらわせる。

 骨の軋む音とともに、田所吹き飛び、5m後方の電灯にぶち当たった。

 田所の激突したポイントから電灯は折れ曲がり、先端の電工部分がコンクリートに接触。火花を散らす。

 アッパーの時点でかなりの推進力が死んだ。殺せる程の攻撃ではない。

 それでも足は止まるだろう。だが、

「つ~かま~えた」

 地面に手を付きながらも不敵に微笑む田所。

 その右手から伸びた腸液が秋吉の右足に付着している。

 体に腸液を着けられると秋吉のような打撃系の能力者は、体勢を崩されやすくなり一気に弱体化となる。

 与えたダメージを考えても田所が若干有利、といったところ。

 問題はない。

 秋吉は懐から小刀を取り出すと、それにオーラを纏わせ、切れ味を増し、腸液を切った。

「8年前、弟子を殺されたときから、俺はお前を殺すことだけを考えてきた。準備してないわけ無いだろ」

「小道具は使わない、拳だけで十分……じゃなかったでしたっけ?」

 田所はゆっくりと立ち上がりながら、その昔、秋吉との思い出を口にする。

「心意気など、糞食らえだ。お前を殺すためなら、俺はーー」

 悪魔にでもなってやる。

 秋吉は突撃。今の田所には避けられる余裕はない。

 左脇腹へ向けた拳はとっさに上がった田所の足に防がれる。

 田所は防御のため、足にオーラを集中させていた。それでも秋吉の拳はそのスネを砕き、その足は折れ曲がる。

 再度吹き飛ばされた田所はコンクリートを擦れ、転がる。

 そのさまを見ながら、秋吉は目の周辺にオーラを集約させた。

 (ギョウ)。オーラを一点に集める技。

 体外に出されたオーラは陰と呼ばれる絶の応用技で、念能力者からでも見えなくすることができる。

 この凝を目に行うことで、絶や陰を破ることができる。

 いま田所から伸びているオーラはない。

 逃げ場はない。足も奪った。

 純粋無垢な殺意のオーラを纏った秋吉は、倒れている田所に急接近してその脳天に拳を打ち込んだ。

 巻き上がるホコリが履けると、首を少しだけ曲げて間一髪で拳を避ける田所が目に入る。

 ここでケリをつける。

 コンクリにめり込んだ腕を引き抜き、オーラを込めた左拳を再度頭に打ち込むも、田所は右手を上、左手を下にして腸液を伸ばして壁のように展開する。

 左拳は腸液に包まれるも、そのまま田所の顔面をとらえた。

 腸液で勢いは殺され、そのヌメリにより威力は少しだけ弱まるも秋吉の力を鑑みれば十分なダメージになる。

 ここで殺す。

 左拳に腸液が付きながらも何度も田所の体に拳を打ち込む。

 右手には離れたときにすぐさま腸液を切れるように、小刀を持っておく。

 顔、胸、腹。着実にラッシュでダメージを与える。

 15発ほど打ち込んだだろうか、田所の膝が秋吉の右の横っ腹を抉る。

「グッ!」

 攻撃にオーラを集中させていため、なかなかの痛手を追った秋吉はすぐに後方に飛ぶと、そのさなかすぐさま左手の腸液を切った。

 その間、田所は逃げるかのように腸液を電灯に飛ばし、付着させ、縮小させると電灯のてっぺんに飛び乗って、こちらを見下ろした。

「結構……やりますねぇ!」

 おどけたように田所はそう言っているが、頭へのダメージで意識は混濁。体もうまく動かないはずだ。

 交わしてやる言葉はない。ダメージが残っている間に決着を付ける。

 一瞬、凝で観察。

 依然、田所から腸液は伸びていない。

 秋吉は錬で強大なオーラを生み出すと、それをケツに一点集中。

 秋吉の肌は浅黒く変色し、体は若干膨張。ドクドクと脈打つ血管が浮き上がり、今にも射精しそうなパンパンのペニスのようだ。

 『エンジン全開』(フルスロットル)は通常、自分がコントロールできる範囲かつ、肛門の安全性を考慮し最大をマッハ1としている。

 それをも超える速度。肛門を犠牲にして得られるマッハ2。

 絶命不可避の必殺技。

『炎神戦魁』(オーバースロットル)

 秋吉は発射された。

 秒速約19㎞。

 回避不可能。防御も無意味。

 思案すらする間も無い、音を置き去りにした世界。

 その刹那、秋吉は確かに見た。

 これまでに無い、不気味に微笑む田所を。

『バンジーファック』(伸縮自在の腸液)

 体が少しだけ右に逸れる。

 走馬灯のように脳裏をよぎる。脇腹への膝蹴り。

 想像する。腸液が脇腹に付着し、地面にそれを飛ばし、繋げる田所を。

 見ていなかった、自分の体を。

 見れなかった。上に逃げたから。

 すべて策略!

 地面と脇腹を繋いでいたであろう腸液に引っ張られ、秋吉の体は目標であった田所の右隣を通過、無論そこには田所が両手を広げ、腸液が広げていた。

 包み込まれる体。

 それは田所を軸に、その速度を保ちながらゆっくりと軌道を曲げていく。

 ハンマー投げの用に田所の周りを一回転し、地面に衝突した。

 衝突時の音。もはやそれは爆発音。

 地面が揺れ、中央の深さ1 メートルほどのクレーターを作り出した。

「ガッ……グァ……」

 背中から打ち付けられた秋吉は、まるで羽をもがれ衰弱した虫のように手足を震わせ、動けないでいた。

 体制を立て直して、反撃をしなくては。

 そう思い、震える体を起き上がらせようとしたとき、両肘両膝にトランプが突き刺さり、動きを止められた。

 そして、そばに降り立ち、見下ろす田所。

「秋吉師範代……楽しかったですよ♥」

 最後、眉間に打ち込まれたトランプ。

 薄れゆく意識と視界。かすかに映る悪魔の笑顔。

 時が止まったかと思うほどに、ゆっくりと流れる時間。

 戦いの日々、弟子たちとの思い出。

 最後に一番弟子、三浦。二番弟子、木村の姿。

 戦うな、三浦、木村。

 こいつには誰にも敵わない。

 

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