R×R ーレイパー×レイパーー   作:ケツマン=コレット

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 念脳能力者図鑑

 優香

 具現化型念能力『彼女は蜃気楼(ミストガール)
 
 絶状態になった時、透明になり、その場に自分の幻影を残す能力。
 透明化は一方からのみ有効で、少しでも別角度から見ると完全な透明になっていない一対一(タイマン)向け能力。



12

 ーーバァン

 突然の大破音。

 そしてバックミラーに見えたトラックを確認して、玲兎はブレーキを踏んだ。

「てゅわあああああ」

 車内には卯月とタイヤの叫び声が響き渡り、車が止まった。

 すぐさま後方を確認すると、潰された3つ目の護衛車にトラックから降りてきた敵構成員ーー恐らく能力者が見えた。

 襲撃。しかし、監視員からの連絡はない。数は少数か。

「え、なっ、え、ドゥ、え?」

 それは声なのか鳴き声か、とにかく卯月はうろたえていた。「ドッ…もうわけわかんねぇもう!」

「柚子湯、卯月を見といて。いくよ、日生」

「おう」

 錯乱する卯月を隣に座る柚子湯に任せ、玲兎と日生は車から出た。

 どんなやつかは知らないが、数は少ない。とりあえずぶっ殺す。

 そう思いながら外に出て、二人がドアを締めた瞬間、後ろから風を着る轟音が鳴る。

 とっさに振り向いたときにはもう木村が乗る車はなかった。

 消失したのか、飛ばされたのか。

 それを考える間はなかった。

 木村たちが乗っていた車があった場所当たり。そこに人影が2つ。

 バリバリのオーラを放つ二人。見るからの実力者。

 とっさに直感する。

 私では絶対に勝てない。それぐらいに強い。

 さっと血の気が引く。

 組長の護衛ということでそれなりの戦力を引き連れてきたが、ある程度、事務所に残しておく必要がもちろんある。

 消えた木村と優香を除き、この場にいるのは自分、日生と柚子湯。

 柚子湯は戦闘向きではないことを考えると、非常にまずい状態だ。

「おい豚」

 襲撃者の二人へと視線を向けながら日生は言った。「そっちは任せた」

 玲兎も日生と同じ考えだった。

 強者の二人組は日生に任せ、トラックの男を自分が引き受ける。

「ええ、分かった」

 玲兎は後部座席を覗き込み、柚子湯の目を見た。「こっちでコイツラを引き付ける。あんたらはスキを見て逃げて」

 そう言うと、玲兎はふうと一息ついて、日生と目を見合わせると、日生は「死ぬなよ……死ぬとしても、卯月逃してから死んで」そういった。

「そうするわ」

 双方、敵の元へと歩きだした。

 視線の先、トラックから降りてこちらに歩いてくる男には見覚えがあった。

 平野組の構成員、淳平だ。

 短気で粗暴。すぐさま暴力に走る問題児。

「おめぇ、玲兎だな」

 純平が足を止め、そう聞いてきた。

「だったら何よ」

「お前、どっちかってと非戦闘員(ホワイトアナル)だろ? 怪我したくねぇならそこどけや」

「あんたバカ?」

 玲兎は両手に念能力『球形中世(カプセルワールド)』を発現する。「組長置いて逃げるやつがどこにいんのよ」

 具現化系念能力『球形中世(カプセルワールド)

 ガチャポンのカプセルのような半円球を両手に持ち、その間に入った物体を100分の1の大きさにして収納できる。

「てめぇよぉ……いま俺のことバカっつったか?」

 バカ、の単語に反応して淳平は額に筋を立てて、見るからにキレた。

 簡単に頭に血が上る単細胞なら、勝機はある。

「あんた以外どこにいるのよ。脳みそ詰まってないんじゃーー」

 玲兎が言い切る前に、淳平は拳を構えて一気に飛んできた。

 ちょうど目の前に玲兎はカプセルを上下に構えるが、効果範囲の直前でピタリと止まった淳平は腕を引いてローキックを繰り出し、玲兎の右足に直撃した。

 淳平は拳にオーラを集約させていたため、足のオーラは少ない。

 しかし、具現化系の玲兎に対し、恐らく淳平は見るからに強化系。

 オーラの差以上に適正、そして筋力の差が違う。

 その場で膝を折る玲兎を、淳平は見下ろした。

「どーだよおい、バカに跪かされる気分はよぉ」

「うっさいわね!」

 玲兎はポケットから取り出したビー玉ほどのカプセルを投げる。『球形中世(カプセルワールド)』を解除すると、そこから10匹の毒蛇が放たれる。

「うぉ! っぶねぇ」

 ケリで半分以上の蛇を屠った淳平は、少し距離を取った。「へー、そんな使い方もできんのか。ま、ザコのやり方だな」

「ちょっと攻撃当てただけで何喜んでんのよ」

 バカだと思っていたが簡単に罠には引っかからなかった。戦闘経験はそれなりに豊富と考えた方がいい。

 玲兎は指に挟んだ2つのボールを構えた。

 『球形中世(カプセルワールド)』は4つまで収納物をキープできる。

「勝負はこっからよ」

 

 

「フー、フー」

「蓮さん、あんま入れ込んだらダメっすよ」

 体に力が入り込み、竹刀を力いっぱいに握りしている蓮に対し、拓哉(タクヤ)はそう行って蓮の胸を軽く拳で叩いた。

 漫画『BLEACH』の原作者、久保帯人。その裏の顔は平野組幹部の拓哉だった。

 大きなサングラスをかけ、筋骨粒々の上半身にはノースリーブの鎖帷子(くさりかたびら)。上半身に比べて貧弱すぎる下半身はジーンズだが股間部分がまるっとちぎられており。陰部は隠れるように黒鉄のファールカップが添えられている。

 これは拓哉が本気での戦いだけに身につける戦闘着だ。

 車から出てこちらを迎撃しにきた相手は日生。

 卯月組の最高戦力。

「相手があれだから気持ちが入るのは分かるけど、そうなると頭も回らないしスピードも落ちる。バトルの基本スタンスは脱力っすよ」

 といってもそんなこと急にできる訳がないが「ウ、ウス」と蓮は答えて、とりあえず肩の力を抜いた。

「こっちは平野組の拓哉と蓮だ」

 拓哉は声を張り上げて、10メートルほど先の日生に言った。「戦力差は分かるよな。大人しく卯月を渡せ。殺さねぇからよ」

「はぁ!?」

 日生は自の左腕に右の爪を立てると、ひじから手首にかけて、まっすぐ切り傷をつけていった。「もっぺん行ってみろよ、変態野郎。そのカルパスみてぇな乳首、引きちぎってやるよ」

 爪の傷から血が滴ると、それはゆっくりと凝固し形が作られていく。半円を描き、カマの刃のようになったそれを、日生は構えた。

 なるほどそういう能力か、と拓哉は思った。

 百戦錬磨の念能力者、日生。卯月組にカチコミに入ったもので、日生に傷をつけた者は一人もいないと聞く。

 血液を操作しているが、どちらかといえばそれはサブの能力で、血による攻撃の威力を上げる強化系がメインだろう。

 調達した武器を強化するよりも、肉体や体から分泌されるもののほうが強化はたやすい。攻撃範囲が広いうえ、あれで斬られたら防御は困難。

 それを分析すると同時、よぎる疑問。

 ほんとにこの能力が全てか?

 確かに強い。オーラ量を見たところ平時の蓮を軽く上回るだろうが、それだけで生き残れるほど念能力の世界は甘くない。百戦錬磨と呼ぶには程遠い戦力だ。

 人づての噂など尾ひれがつくものだが、それにしても乖離(かいり)が有る。

 怪しい。しかし、時間はない。

 戦力を分断させたが、一対多の戦闘に入った新庄がどこまで時間を稼ぐかも、真面目に仕事をするかもわからない。ここはやるしかない。

 『躍動する白液(リビングホワイト)

 拓哉は両の乳首を指でつねると、黒鉄のファールカップの隙間から念で操作された白濁液が吹き出た。

 それは命を持っているかのようにうねり動き、2体の人形となって拓哉の両隣に降り立った。

白の特攻兵(アクメソルジャー)

 念で操作した拓哉の白濁液を人形に固めたもの。

 中は空洞だが念の強化によって、強度は鉄に近い。

 しかし、空気に触れ続けると砕け落ちていくため、継続戦闘時間は10分が限度。

 両手は槍のように尖っており、人体なら簡単に貫くことができる。

「行くぞ、蓮さん!」

「ウス!」

 蓮を先行させ、それを補助する形で兵隊が日生へ向かう。

 蓮がオーラを込めた竹刀を「YO!」と叫び振り下ろすも、日生は難なくカマで受け止めた。

 受けた日生の足元のコンクリートが砕けて体が数ミリ沈む。

「なに、これが平野組の若頭? ずいぶん未来が無いわね」

「あぁ!?」

 一歩、距離を取って蓮は睨みを効かせた。「てめぇ状況わかってんのか? 殺されねぇように売女見てぇに媚売ったほうがいいんじゃねぇかオイ」

 蓮は『アングリーアンクル』の効果で、怒りでオーラ量を上げていく。

 それでも、まだ日生に及ぶ様子はない。

「媚? あんたらみたいなザコに売るわけ無いでしょ。そっちの臭いのも攻撃してこないし、やる気あるの? あんたら」

 臭いの、とは『白の特攻兵(アクメソルジャー)』のことだ。

 事実、蓮の攻撃タイミングで追撃ができたが、拓哉はそれを止めていた。

 もちろん理由もなく様子を見ていた訳では無い。

 なにか臭う。それは白濁液がではなく、日生の行動がだ。

 先程、蓮の攻撃を受けたが反撃の意思が無いように思えた。

 挑発めいたセリフからも、まるでこちらの攻撃を誘おうとしているかのような、迎撃型(カウンタータイブ)の香りがした。

 そして、それは恐らくあたっている。

 拓哉は気がついていた。周りの建物からいくつもの念の気配があり、それが蓮が攻撃をしたタイミングで呼応するように動いたことを。

「……蓮さん、少し下がって」

「え?」

 拓哉と蓮のやり取り、それを見た日生は即座に距離を詰める。

 それと同時、あり得ない光景が広がった。

 四方の建物から一斉に、5人の日生が飛び出た。

 全員が同じ顔、同じオーラ、同じ血のカマ。

 瞬時に拓哉はポケットに入っていたティッシュの破片を、前にいる蓮の周りに散らした。

事後硬直(ハードホワイト)

 白濁液はティッシュを媒体とすることで、更に高度を増す。

 『白の特攻兵(アクメソルジャー)』を液体化し、更に拓哉が白濁液を追加すると、それらは宙を舞うティッシュを繋いでいき、蓮を守るドームと化した。

 しかし、日生たちのオーラを込めたカマで簡単に砕いて見せた。

「ウォ!」

 壁を砕いている間に、なんとか後方へと飛び出し、間一髪で攻撃を避けた蓮は、拓哉の隣に立った。「あ、あっぶねぇ! 拓哉さんなんですかあれ!」

「……何すかねぇ?」

 眼前に広がる光景に、拓哉は蓮と共に息を呑んだ。

 日生が6人。

 分身なのだろうが、もはやどれが本人かもわからない程に全員が似通っている。

 それでいて個々の能力も高い。

 先程の『事後硬直(ハードホワイト)』のドームは即席で作ったとはいえ、弾丸すら通さない堅牢な壁だ。

 それを一撃で壊せるのは強化系の能力者でしかありえない。

 分身系能力は能力に割くメモリが多い。主に具現化系か放出系。それもかなりの制約が必要となる。

 強化系のパワーを、ましてや分身側が持つことなどありえない。

 だが、目の前の日生はそれをやってのけている。

 具現化系を思わせる分身の精巧さ。放出系レベルの遠隔範囲。操作系レベルの操作精度と数。そして、強化系のパワー。

 そこから導き出される結論。日生は特質系、もしくはーー

 拓哉は崩れた『事後硬直(ハードホワイト)』を液に戻すと、再集結させ小さな『白の特攻兵(アクメソルジャー)』を作り出し、向かわせる。

 それは攻撃目的ではなく、6人の日生の隙間、卯月の乗る車へと向かっていた。

 すぐさま攻撃される、と思いきや、日生の分身の脇を2人を通り抜けると、3人目にしてやっと血のカマでの迎撃を受けた。

 通常、日生のオーラで包まれ、強化された攻撃なら一方的に潰されるだろう。

 しかし、『白の特攻兵(アクメソルジャー)』は少し砕かれ、後退はしたものの破壊はされていない。

 むしろ日生のカマのほうが砕け、ダメージが有るように見える。

 その光景を見て、拓哉のサングラスの奥にある瞳がギラリと光る。

 見えた。日生(こいつ)の弱点。

「ほんと、やる気ないなら帰ったら? キモ北京原人」

 日生は挑発してくるが、攻撃した日生は崩れたカマが見えないように、他の体の裏に隠れている。

 それは明らかな錯乱の現れ。

「蓮さん」

 拓哉が呼びかけると、明らかな不安の見て取れる顔を、蓮は向けてきた。

「た、拓哉さん……これ、どうしましょう」

「落ち着いてください。蓮さん、取りましょう」

「取る? いったい、何を」

「卯月の身柄(ガラ)。いや、(たま)だっていい。ここで取りましょう」

 そう言って拓哉は乳首を引きちぎれんばかりに捻った。

 拓哉が1日で放出できる白濁液量は1ガロン(約4リットル弱)

 それによって生成できる『白の特攻兵(アクメソルジャー)』は人形で戦闘能力を有する場合は8体が限度。

 すでに2体とドーム用に1体分が使われている。

 拓哉の黒鉄から白濁液が滝のようにあふれると、それは5体の『白の特攻兵(アクメソルジャー)』となって、拓哉の周りに出現した。

「さあ、行くぜ」

 臨戦態勢を取る拓哉に、それに身構える日生。

 平野さん、蓮さん……俺はあんたらを組長にするぜ。

 

 

「チックショウォォーーウグ」

 額から血を流し、コンクリートの床に突っ伏す玲兎の頭を、純平は踏みつけた。

「おい、もっぺん聞くぞ。コンクリにキスしてるお前と、立ってる俺。どっちが馬鹿だ」

 戦力差は圧倒的だった。

 『球形中世(カプセルワールド)』は相手を収納さえしてしまえば、一撃必殺の能力だが、捉えられなければ意味がない。

 今まで相対する敵は、少し揺さぶれば簡単に捉えることができた。

 でも、こいつは違う。

 顔や言動からしても見るからに低IQ。

 しかし、前線で常にやってきたこの男の経験量は圧倒的。

 直感や経験からくる憶測で、こちらの攻撃をいなしてくる。

 このレベルの能力者と、玲兎は戦ったことがなかった。

 戦闘訓練を行ったツケだ。

「バカは私です。ごめんなさいっつたら、命だけは助けてやるよ。ホラ、言えよ」

 純平は玲兎の頭を、足でグリグリと踏み回した。

 この……ボケ野郎。

 歯を食いしばる玲兎は、踏まれている頭をゆっくりと回し、純平を睨みつける。

「誰がゆーかよカス。女相手に粋がるバカ猿以下の頭金玉野郎が」

「ふーん」

 言葉とは裏腹に額に青筋を立てた純平は、足裏にオーラを一点集中させた。「じゃあ死ねや」

 落ちてこようとしてくる足を、玲兎は目の端で捉えたまま、じっと睨みつけていた。

 決して目は閉じなかった。このクズ男に自分が弱っているところを見せるのは、プライドが許せなかった。

 ごめん、卯月。日生、あとは頼んだ。

 死への覚悟を決めた玲兎は、胸の中で2人へ思いを馳せたと同時、突然として純平の姿が消えた。

 不意のことにぼおっと、雲のない空を眺めていると「間に合った」と隣から声がした。

 体を上げて、横に向くとそこにはグラサンをかけた木村が立っていた。

「木村!」

「またせたな。さあ、反撃開始だ」

 『逆襲時間(なめてんじゃねーぞ)』を発動させた木村は、サングラスのブリッジを人差し指で押した。「床……舐めさせてやるぜ」

 

 

 卯月組と平野組の衝突。

 それを遠方のビル上から眺めている女の2人組がいた。

「お! なんか援軍が来たみたいだぜ」

 念を込めた指を輪にして、望遠鏡代わりに使っている(あずさ)は興奮気味にそういった。「これは一発逆転かもだな」

「逆転! なーに言ってんのよ」

 隣で腕を組む神奈は呆れた様子でそう返した。「長引かれちゃうと帰るの遅くなるんだけど。さっさと勝負決めなさい、私お腹すいたの」

「一応、みかんとか持ってきてるぜ」

「そんなのいらないわよ! ちゃっちゃと卯月を()って帰って、肉食べるわよ!」

「ああ、了解」

 梓はペロっと唇を舐めて見せた。「いいタイミングで、サクっと行こうぜ」

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