R×R ーレイパー×レイパーー   作:ケツマン=コレット

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 念脳能力者図鑑

 拓哉

 操作系念能力『躍動する白液(リビングホワイト)

 自らの白液を媒体としてそれを操作、強化して戦う念能力。
 白液の自ら固まる性質と念による強化で強度はかなり高い。
 拓哉が排出する白濁の濃さに比例して、強度も上がる。
 しかし、白液は体外に出て空気に触れると時間経過で崩れていくため、外に出た白液の有効効果時間は10分ほど。
 一度出したものは中に戻すことはできない。
 
 継続戦闘能力は低いが、高い汎用性と攻撃性を持ち合わせている。


13

「まずウチと豪組でちょっとしたイザコザが起きる。それがこの戦争(ゲーム)のファーストアクションや」

 開戦が告げられてから4時間たらずが経過したときだった。

 葉巻をふかしながら、大佐は組長室にて2人にそう話しだした。

 一人は神奈。もう一人は大佐組、女構成員の梓。

「ふーん、まずうちから動くんだな」

 オレンジ色の髪をした梓はわんぱくな男児の用に、両手を頭に添えてそういった。「以外だなー。大佐ってこういうときは一番に動かない印象」

「お、賢いやん。実際のところはドンパチは起こさへんねん。まあ雰囲気だけ醸すって感じかな」

「理由と理屈は?」

 神奈が腕を組みながらそう聞いた。

「まず理由。第一にバトルのはウチと豪と平野。卯月組は防衛しか考えてないからこの三組の内で始まるねんけど、まあどの組もすぐには動かん。今のこのパワーバランスで普通に戦い始まったらどれが勝つかわからん運ゲーや。みんな動きたくない。ほんで、平野組がウチと同盟組んでる間に絶対にしたいのが、卯月組の戦力吸収や。卯月組は中々戦争をしない、ヤクザらしからぬ組やけど、卯月のカリスマ性があって日生、優香、やみんと数は少ないけど念能力者としてレヴェルの高い奴らも集まってる。もしあの戦力が平野に入ったら正面から戦って勝てる見込みはない」

「じゃあウチが先に卯月組を吸収すればいいじゃない!」

「あのなぁ、卯月組がウチらの下につくと思うか?」

「あ、ないわ」と神奈が即答すると「ないね」と梓もすぐに続いた。

「やろぉ? 金や地位目当てのあんたらと違って、あいつらほしいのは『人権なき子ども達(ガバアナチルドレン)』がまともに生きられる場所や。卯月組がなんかあったときに、下につくとしたらヤクザとしてしっかり基盤のある平野組。もしくは宗教観がちょっと引っかかるけど豪組か。ウチらはほんまにラストのラストやね。なにせ平野組の狙いは卯月組。すでに手練を向かわせてるやろな」

「それってあんたの憶測じゃない? 」

 と神奈。「この開戦してすぐにそんな大胆な動きをするとは思えないんだけど」

「確かにそうやけど、ほぼほぼ確実や。ウチの予測が当たらんかった試しがあるかぁ?」

「まあ、ないわね」

「やろぉ?」

 そう大佐は言うが、実のところ平野組に入っている内偵から、幹部の姿が見当たらないという情報をすでに得ていた。

 身内にも情報を隠し、印象も込みで操作し周りを操る。

 それが大佐という女。

「まず、ウチらと豪組でちょっとした戦争前の雰囲気を出して、平野組を確実に動かさせる。そうなったときに2人にやってほしいのは、平野組が卯月組長を強襲してゴタゴタしてるタイミングで逆にあんたらで卯月を()るか拉致(らち)ってほしい」

「んえぇ?!」

 驚きの声を上げたのは梓。「ウチら平野と同盟組んでんじゃないの?」

「せやな。だから平野組の人間と攻撃はせんといてな」

「いや、そうじゃなくて」

「たまたま攻撃するところが同じってだけや。争う気はない」

「……それっていいのか?」

「ええに決まってるやん! ウチらが約束したのは双方、攻撃をせえへんってだけやで」

「さすがって感じね」と神奈。

「まあな。ウチらと同盟組むってことはそういうことや。あんたらにお願いしたいのは、卯月の抹殺。絶対に他のやつに見られずに跡形もなく消してほしい」

「なにそれ」

 バイオレンスなお題に、神奈が反応を見せた。「殺すって。拉致《らち》って卯月組と交渉したほうがいいんじゃないの」

「できるならそうしてほしいけど、平野組は総力で襲ってくるからそれむずいやろ? だから殺して隠してまうんや。そしたら、ウチらが身柄(ガラ)持ってるっていって、平野組と卯月組の交渉を阻止できる。一番やりたいのはそこや。平野組に卯月組を吸収させたくない。そこであんたら2人が適任や。特攻って言ったら神奈。あんた以上はおらん」

「そうね!」

「ほんで死体ごと消しされるのは、梓、あんたや」

「まあ、そうかもな」

「2人ポッチやけど、宇月組かて黙って組長を殺させはせんやろ。戦いだしたらそれなりの接戦になるはずや。双方が疲弊したときに、あんたらが全部かっさらったり。もちろん、成功したら報酬は弾むでぇ~~」

 

 

 なぜ、向こうからさっさと攻撃してこないのか。

 拓哉は不敵な笑みを構えながら、冷静に状況を思案していた。

 それは日生が迎撃型(カウンタータイプ)だからなのは確実だろう。

 そうでないなら、さっさと分身たちでこちらに攻撃を仕掛けているからだ。

 正直言って、あのオーラを持った日生6人が一斉にこちらを攻撃してきたら勝ち目がない。

 それはせずに、拓哉や拓哉の念能力に対しては攻撃せずに、狙ったのは蓮だけ。

 こちらが先程向かわせた小さな『白の特攻兵(アクメソルジャー)』に対して、日生は迎撃したがその際に使用したカマはかなりのダメージを受けていた。

 つまり、変形した血のカマをぶつけただけで、それを念で覆ってはいない。

 卯月の防衛を第一にする日生のことを考えると、念能力の発動条件は卯月、もしくは卯月を守っている日生を攻撃すること。

 『白の特攻兵(アクメソルジャー)』に念を使用して攻撃をできなかったのは、明確な攻撃の意思なく卯月へと向かったからだ。

 この繰り出されている念の練度を見るに、恐らく懸けているのは自らの命。

 ならばなぜこちらの前に出た? 能力を簡単に発動させるなら卯月から離れなければいい。

 理由は2つ考えられる。卯月を逃したかったことと、こちら側が考えもなくすぐに攻撃してくると思ったのだろう。

 甘い……大甘。

 防衛特化の能力故に戦闘経験が少ないのだろう。

 格下と戦いすぎだ。ザコとの戦闘経験は死への感覚を鈍らせる。

 念能力とはただ暴力的なものじゃない。その真価を発揮するのは想像力(インスピレーション)芸術(アート)があってこそ。

 念能力者同士の戦いとはそれの削り合い。

 日生。お前にはそれが足りない。

 だから俺に負けるのさ。

「蓮さん! 俺に続いて!」

「オルルルァ!!」

 5体の『白の特攻兵(アクメソルジャー)』を先行させ、その後ろに蓮が続く。

 それに身構える日生。

 1メートルほど手前、先頭の『白の特攻兵(アクメソルジャー)』が飛び上がったかと思うと、パンッという乾いた音と共に破裂した。

高濃度飛散(ホワイトバースト)

 空気中に白濁液を飛散させ視覚を遮り、その強烈な匂いで思考を鈍らせる。

「ゲホッ……キモ!」

 すべての日生がとっさに袖で口を塞いだ。

 霧の中から一人の影が日生に近づくと

「オルルルァ! YO!」

 蓮が竹刀を振り下ろし、日生がカマでそれを受ける。

 衝撃と風で白濁の霧が散ると、すでにそこには『白の特攻兵(アクメソルジャー)』はいなかった。

 日生が周りを確認したときにはもう遅かった。

 すでに後ろには卯月の元へと向かう、『白の特攻兵(アクメソルジャー)』の背中があった。

「クソ! こいつ!」

 前の蓮には目もくれず、6体の日生は一斉に踵を返して後を追う。

 命の取り合いに置いて、1秒の遅れは致命的。

 卯月組長は念能力者としての実力は聞いたことがない。

 4体の念兵隊。そしてまだ別に組員はいる。

 取れる……ここで、卯月組を。

 

 

「玲兎さん。簡潔に伝える」

 駆けつけた木村は、まくしたてる様にそういった。「ここにいるのは三人だけじゃない。他にも3人ほど気配がある。現状の戦力で戦い続けるのは厳しい、早く卯月組長を連れてーー」

 左の頬に向かって打たれた純平の拳を、木村は軽く片手で掴んだ。

 その間に「頼んだ!」と玲兎はその場を離れて卯月元へと向かっていく。

「僕の名前は木村」

 掴んだ拳を強く握って、離さないままに木村は語る。「レイパー協会、といえばわかるか? 僕たちは卯月組に雇われている。実力差はわかるはずだ。これ以上、卯月組へ損失を与えようとするなら、命の保証はしない」

 返事はなかった。

 かわりにもう一方の純平の拳が返ってきたが、それを圧倒的に上回る速度で、木村の掌底が純平の腹を打った。

「カッ!」

 2メートルほど後方へ吹き飛んだ純平の顔は、苦悶に歪んでいた。「テメェ……この野郎舐めやがって! レイパーだかなんだか知らねぇがぶっ殺してやる!」

「警告はしたぞ」

 木村は能力を発現する。

 本来、木村の能力は『三色(トリオ)ナイフ』

 しかし、サングラスをかけて『逆襲時間(なめてんじゃねーぞ)』を発動している間、その能力は『調色(パレット)ナイフ』へと進化する。

 能力自体が強化されるだけではなく、元の3種だった能力が追加で9種。

 3つのナイフに対して、合計12種の能力のどれかを付与できる。

 当然、そのすべての能力を『逆襲時間(なめてんじゃねーぞ)』発動時間中、100%の適性で使用することが可能。

 それによる圧倒的汎用能力。最強のレイパーと言われている所以である。

「平野組舐めんな!」

 突撃してくる純平、それに対して木村は一本のナイフを投げる。

 とっさに眼の前に来たナイフに対して、純平は身を屈めながら、速度を落とすことなく避けた。

 この距離でそれを行うことは簡単ではない。

 受けることもできただろうが、それをするとナイフに付随する能力を受けてしまうかもと考えたのだろう。

 感が冴え、能力もある。だがーー

 ボンッと言う音と共に、避けたナイフは火を吹いて爆ぜると、純平は炎に飲まれ、横に吹き飛んだ。

炸裂する紅橙色の小刀(ヴァーミリオンナイフ)

 体を焼け焦がせながら塀の壁に激突した純平の足元にナイフが刺さると、木村はその場に瞬間移動した。

跳躍する藍緑色の小刀(アクアマリンナイフ)

「丈夫だな。時間が惜しいんだ」

 首に狙いを定め、ナイフを構える木村。

 ダメージを受けながらもそれを確認した純平は「クソッ!」と左手でガードするが、ナイフを横に降ると、左腕を切断し、そのままナイフが首に突き刺さった。

切り裂く紅色の小刀(クリムゾンナイフ)

 首から大量の出血をしながら、純平はその場に倒れ、木村はそれを見下ろした。

「身の程をわきまえるんだったな」

 

 

 もうすぐか。

 卯月が乗る車が見下ろせるポイント。

 廃墟の屋根の上から平野組、構成員、和装姿の智《さとし》。

 智の役割は卯月が逃げた際の追跡と、確実に卯月を(ヤれ)るタイミングで、強襲をかけること。

 純平も拓哉も戦いで足を取られており、卯月が逃げる素振りも見せないのでひたすら待っていた。

 戦いが動きたしたのはほぼ同時。

 右から玲兎が、左から4体の『白の特攻兵(アクメソルジャー)

 そして、その後ろから無数の日生。

 殺意の濁流とも見て取れるそれを見て、智は戦慄した。

 しかし、すぐさま恐怖をぐっと噛み殺し、懐から筆を取り出す。

 あの大群は恐ろしい。

 しかし今はこれ以上ない好機。

 平野組のために、ここは行くしかない。

 卯月の車へと一足先についたのは玲兎。

 トランクを強引に開くと後部座席へと入った。

 その次に『白の特攻兵(アクメソルジャー)』が車に後2メートルほど接近したところで、智は飛び出る。

筆はペンよりも強し(ソウルオブレター)

 念を墨に変化させ、それによって書いた文字の現象を発生させる事ができる能力。

 智は和紙を取り出すとそこに『炎上』の文字を書き込む。

 書いた文字のクオリティが高いほど、その現象は威力を増す。

 一世一代。

 最高の集中力をだして書き上げた文字は、最高の出来栄えだった。

 和紙を車の天井に貼り付け、すぐさま飛んで逃げる。

 この状況では卯月の拉致は不可能。最優先は殺害。

 『白の特攻兵(アクメソルジャー)』がやってくるのとほぼ同時。

 ボゥ、一瞬にして炎が巻き起こり、車は勢いよく炎に包まれた。

 卯月は逃げたか? それとも燃え死んだか。

 逃げたとしても『白の特攻兵(アクメソルジャー)』か自分が、日生が来る前にすぐに殺す。

 智は依然、空中にいて巻き上がる炎に目を凝らしていた。

 さあ……どっちだ。

 

 

 駆けつけた玲兎はトランクルームを念の力で強引に上げて、ある2つのアイテムを手にとって、後部座席へと入った。

 そこで見えたのは頭を抱えて震える卯月と、それに寄り添う柚子湯。

 折を見て逃げろと言っていたはずなのに、その様子はない。

 敵が思ったよりいたため、それは難しかったが、この様子ではただ恐怖に震えていただけだ。

「卯月! 何やってんのよ!」

 玲兎が卯月の肩を持って頭をあげさせると、そこには涙と鼻水でぐちゃぐちゃになった卯月の顔があった。

「玲兎ざん、ごべん」

 鼻水を撒き散らしながら、卯月はいった。「わだじ、弱ぐで。みんだを守れない。でも、おいで逃げれない」

 今にも殺されるかもしれない危機的状況。

 それでも、あまりの卯月らしさに玲兎は鼻で笑ってしまった。

「あんたがクソ雑魚ナメクジなのは知ってるわよ。でも、あなたは卯月じゃない……そうでしょ?」

 玲兎は2つのアイテム。

 頭にツバの大きな魔女帽子。そして箒を手に握らせた。

「わだじが……卯月じゃない?」

「そう、思い出して、あなたがいた場所。妖精のいる山、魔法の森、暗く湿った城。お花畑……神社」

 卯月の目が見開かれ、存在しない映像がその脳裏に流れているのがわかった。

「さあ……教えて、あなたの名前は?」

 

 

「卯月!」

 すぐに駆けつけようとした瞬間、巻き上がる炎を見て、木村は叫んだ。

 卯月が能力者なのは分かってる。

 しかし、能力値は下っ端に近い。

 あの苛烈な炎を耐えられるのか。いや、耐えられたとしても敵の数がーー

 思いを巡らせていたその時、突然、炎が風によってかき消されたと思うと、一つの影が凄まじい速さで、上空に飛んだ。

 それはジェット機のような速度で周りをぐるりと廻ると、燃え盛る車の上辺りで止まった。

 その場の全員が、自分のやるべきことを忘れ、上を見ていた。

 あれは……卯月……?

 宙を浮く箒にバランスよく仁王立ちして、その左右の足に玲兎と柚子湯が落ちないようにしがみついている女。

「全く。何だってんだぁ」

 その女はぶっきらぼうにそういった。「いきなり燃えたかと思ったら、変なのがいっぱいだ。まーた紅魔館の連中が変なやつらでも連れてきたのか?」

 その姿は確かに卯月。

 しかし、雰囲気が、口調が、佇まいが、明らかに違う。

「お前は……誰だ!」

 遠くの方で上半身の筋肉がすごい、鎖帷子を着た男が叫んだ。

「私が誰だってぇ? そんなに聞きたいなら教えてあげよう!」

 卯月似の女は、ピッと男に指さした。「私の名前は霧雨魔理沙(きりさめまりさ)。通りすがりの魔法使い、だぜ! 覚えときな!」

 

 

 卯月の念能力。

霧雨魔理沙(ウヅキコウセイ)

 自分を魔法使いと認識した時、彼女は少しの間だけ霧雨魔理沙になる。

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