R×R ーレイパー×レイパーー   作:ケツマン=コレット

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 木村
 
 具現化系念能力『三色(トリオ)ナイフ』

 三本のナイフを具現化する。
 それぞれ柄の部分に丸く色が塗られてあり、赤、青、黄色の三色。
 ナイフは色に対応した能力になっている。

 特質系念能力
逆襲時間(なめてんじゃねーぞ)
 サングラスを駆けている間だけ発動可能。
 発動中はすべての念系統を100%の適性で使用することができる。
 使用時間はコンディションによって左右されるが、だいたい36分ほどで、それに近づいていくと念の使用が困難になる。

調色(パレット)ナイフ』
逆襲時間(なめてんじゃねーぞ)』を使用している間だけ使用可能な能力。
三色(トリオ)ナイフ』が進化した能力で、12種類の能力を使い分ける事が可能。
 ただし、ナイフは3本しか具現化できないので、一度に使える能力は3つまで、同じ能力を2つ同時に使うこともできない。


15

 終わった……のか?

 建物の物陰に隠れていた拓哉は恐る恐る顔を出した。

 卯月には敵わない。

 捕獲どころか殺害も難しいだろうと判断し、拓哉は蓮がやられた段階で(けん)に回っていた。

 自分の白濁液は出尽くした。

 後は鎖帷子の中、背中に隠していた輸血パックで保管している保存液が2つ、

 これらは保存がきくが、鮮度は確実に落ちているためその場で出したものより威力精度ともに落ちる。

 これは決して攻撃目的で使うことはない。

 拓哉の能力『躍動する白液(リビングホワイト)』は弾に限りのある能力であるため、自分がその時に生み出せる分を使い果たした時、逃走や防御に使用する最後の生命線。

 これを使用した後は、拓哉といえど並の念能力者程度の戦闘能力になってしまう。

 だが今、理由は分からないがあの強大であった卯月は倒れ、爆撃を思わせる念も萎えた。

 現状、卯月組の一人も()れていない。

 わざわざ戦力を集めて、ここまで来た。手ブラで帰るわけにもいかない。

 脳裏によぎる、平野の顔。

 今はリスクを犯す時。

 拓哉は保存パックを手刀で切り裂くと、2体の『白の特攻兵(アクメソルジャー)』が立ったその瞬間、後ろから感じた禍々しいオーラ。

 振り返るとそこに立っていたのは、その衣服はボロボロとなり顔が半分焼け焦げた新庄と、体を一段と膨張させた蓮。

「卯月……卯月はどこだ」

 新庄は焼けた顔に手を添えながら、反対の目はギョロっと開いて卯月を探している。

 蓮からは言葉は無い。

 かわりに荒い息と、食いしばった口の脇から泡のようなものが吹き出ている。

 この状態の蓮は対話はできないが、万全の状態の拓哉を上回る戦闘力となっている。

 双方とも確かにダメージはあった。

 だが蓮は『アングリーアンクル』によって戦闘力を上げ、新庄は立っているのがやっとという雰囲気だが、怒りでその体を叩き起こしている。

 智はまだ動かないが息はある。

 敵戦力は日生が分身込みで5体。

 玲兎に木村。

 柚子湯は非戦闘員。

 勝機が脳裏をよぎり、拓哉のサングラスの奥の目がカッと見開くとほぼ同時、不意に視界の隅で爆発が起こる。

 それは新庄と同じように、全身がズタボロになった梓が放った『青春爆弾(オレンジボム)』だった。その対象は倒れていた神奈。

 仲間割れ? そうとも思ったが黄金に煌めきながら復活する神奈を見て、違うと悟った。

「はぁぁぁぁ生き返るわぁぁぁ」

 不死鳥が如く蘇った神奈。その隣に肩で息をする梓が立つ。

「うっさいな。私はけっこうギリだから、神奈がなんとかしてよね」

「まっかせなさいって。あんたがいる限り、私は無限に戦えるから!」

「ギリって言ってんじゃん。時間かけないでよね」

 

 

 思考の間はなかった。

 卯月が霧雨魔理沙になったときから、オーラを使い切り一時、気を失うことは想定の範囲内。

「あれ……ココァ」

 虚ろな様子で目が冷めた卯月。

 それに対し、玲兎はすぐさま『球形中世(カプセルワールド)』の最後のボールを投げつけると、白い煙が放出し視界を遮った。

 白煙に飛び掛からんとする平野、大佐組の者たち。

 それを日生の集団が攻撃し、食い止めた。

 日生の能力が攻撃対象とできるのは卯月、もしくは卯月を守っている状態の日生へ攻撃した者。

 それとは別に、卯月から半径3.6m以内なら無条件で攻撃ができる。

 日生の分身は本体と全く同じ戦闘能力を有し、その力は強化系念能力者の神奈と同じレベルだ。

 条件は厳しいが非常に強い能力と言える。

 だがしかし、この能力は防衛には最適でも、逃走には適していない。

 卯月と離れられないということは、卯月だけを逃がすことができない。

 ……これしかない。

 玲兎は卯月の側へと降り立つと、白煙の向こうにいるであろう日生の背中に視線をやると、苦虫を噛んだように眉を寄せた。

 

 

 キツイ。

 日生の頬に汗がうたう。

 神奈はほぼ1体と同じパワー。そこに梓の援護もあるため、1体だけでは抑えられない。

 蓮には確実に2体をあてがわなければならないし、それを補助するように手数の多い拓哉が動く。手負いとはいえ新庄も厄介。

 白煙によって意識がそれたため一瞬は足止めができたものの、明らかに日生と分身だけで止められる戦力じゃない。

 抑えられない。

 それを確信すると同時、ぐっと左腕を後ろに引かれる感触があった。

「日生、逃げよう!」

「卯月!」

 手を引いたのは卯月だった。

「私らがめいいっぱい足止めする」

 白煙から出てきた玲兎がそういった。「あんたらは行け」

「玲兎」

 議論の言葉は不要だった。

 卯月組の頭脳である玲兎が出した指示に、日生は悪態はついても従わないことはない。

 それが卯月のためだと確信があるから。

 ただ一つ引っかかる事がある。

 玲兎が前に出ている。

 そもそも戦闘向けではない能力者。

 今も戦いの傷は深い。

 それが時間を稼ぐということは、おそらく命を賭すということ。

 それが一番、卯月が生き残る確率が高いということ。

 様々な思いが刹那の間に巡る。

「卯月は任せて」

 日生がそっとそう言うと、玲兎は敵に目を凝らしながら「ええ」と軽く答えた。

 それを聞いた後、日生は卯月を抱え、分身とともにその場をさった。

 

 

 一斉に飛び立つ日生達。

 それにすぐさま反応した平野組、大佐組の者たちも同じように後を追おうとする。

「待て!」

 木村が咄嗟に新庄へ投げた『赤小刀(レッドナイフ)』は簡単にはたき落とされた。

 と同時、しまった、と木村は悔いる。

 足止めをするなら戦力的に蓮や神奈を真っ先に標的とするべき。

 『マスタースパーク』の直撃を食らって、激しいダメージをおっている新庄は後回しにするべきだった。

 だが、木村の本職は世界中の指名手配犯を狩る、クライムレイパー。

 新庄と相対してから、この男の顔が木村の頭から離れなかった。

 それが、判断を誤らせた。

 新庄はその場にとどまったが、他の者達は卯月を追って言ってしまった。

 もうこうなっては仕方がない。すぐさま新庄を再起不能にするために『逆襲時間(なめてんじゃねーぞ)』を発動させようとしたその瞬間、木村の動きは止まる。

 新庄の様子がおかしかった。

 どこかやる気がなく、ほうけたような表情だ。念も弱い。

 体に刻まれたダメージが深いこともあるだろうが、それ以内のなにか理由がありそうだった。

 その顔に先程まで放っていた殺気もやる気も無い。

「あれぇ……オメェがやったのか」

 新庄は語りかけた。

 攻撃を仕掛けた木村にではない。

 視線はその後方にいる玲兎に向けられている。

 木村は肩越しに玲兎を見たが、彼女は眉間にシワを寄せたまま答えようとしない。

 フヘヘ、と謎の笑いを見せた新庄は「まあ、だったらいいや。俺帰る」と言ってフラフラの状態で背を見せた。

「卯月組長に伝えといてくれよ、お前は絶対に俺が殺すってな」

 怒りと殺意。

 突然、それらを内包したドス黒いオーラを纏った新庄は、卯月達とは別の方向へと飛び、その場をさった。

 数秒の間。

 状況が飲み込めない木村は、玲兎に問い詰める。

「玲兎さん。新庄の言っていたことは、いったいどういうことだ。それに、なぜ君は敵を追わない! 手負い達とはいえ、日生だけではアイツらを退けるのは無理だ!」

 強い剣幕で詰めたてるが、玲兎の表情は重く、日の出ていない空のように暗い。

「大丈夫……大丈夫よ」

 口を開くと、か弱い声で玲兎はそう答えた。「卯月なら、大丈夫。こっちの異常事態もすでにウチらの仲間が気がついてるはず。援軍が来るのは、そう遅くない」

「そういう話をしているんじゃない。このままでは君のボスのーー」

 木村は不意に、口を閉ざした。

 周りを見る。

 いない。自分たち以外、誰も。

「玲兎……お前、まさか」

 木村は思わず息を呑む。

 予想はおそらく当たっていたのだろう。玲兎は険しい顔のまま、目だけを木村に向けた。

「最終手段。これしかなかった」

 

 

 日生は必死に逃げていた。

 本体は卯月を抱えながら、分身たちは敵の相手をする。

 だが簡単ではない。

 分身たちには自我は無い。

 それらの視覚を共有し、操作をしているのは本体の日生飲み。

 通常の戦いならまだしも、逃げながら、それも卯月を守りながらの戦闘は非常に厳しい。

 目的は人の多い市街地に出ること。

 その結果、敵はどういう行動を取るかは分からないが、少なくとも戦争の条例に違反することとなったら、自由は利かなくなる。

 すでに200メートルほど先に市街地は見えている。

 もうすぐで目的地につく、はずなのだが、日生にはあまりその考えがなかった。

 それよりも気になること。

 声も、顔も、匂いも、形も、すべて同じ。彼女だ。だがーー

「ひ、日生。大丈夫?」

 傍らに抱える卯月がそう問うと「ええ」と日生はいつもの調子とは違い、淡白に返す。

 考えないようにしていた。気にしないように努めた。

 それでも、本能が邪魔をする。

 髪のかき分け方が、視線が、息遣いが、イントネーションが、手の動かし方が、汗のかき方がーー

 何より、漂う空気が違う。

 どうあがいてもそれらは感覚として、感じてしまう。

「あ! 日生、もうすぐ市街地にでるぞ。そうすればアイツらもーー」

 不意に、日生の足が止まると、卯月を抱えていた手から力が抜ける。

「あ痛て」

 顔面から落ちた卯月は、鼻を押さえながら日生を見上げた。「イテテ、おぅ、ど、どうしたんだよ日生。早く逃げないとーー」

 そこまで言うと、卯月は言葉を失った。

 日生の表情。

 それはまるで地獄を眺めているかのような。それでいて、今にも泣き出しそうな。

 絶望とも、失望とも感じ取れる、そんな表情をしていた。

「卯月はね、緊張すると、声が裏返っちゃうの。」

 死が間近の患者のような声で、日生はそう語りだした。「周りのことなんて見えなくて、指摘してあげないとなんにもできないんだから。先のことなんて考えない、今その時にしたいことをするの。自分のことより人のことで泣くような、優しい子で。ココアのバンホーテンが大好きで、おやつに食べないとちょっと不貞腐れちゃって。そんなところが可愛くて、大好きなの」

 日生が笑ったような気がした。

「ひ……日生?」

 恐る恐る問うと、日生は静かに卯月を見下ろした。

「ねえ、柚子湯。言っといてくれない?」

 柚子湯の名前を言われた瞬間、卯月に変身した柚子湯は電流が走ったかのように体を硬直させて、かすかに揺らした。

「あ! いや、あの。ごめんなさ……日生さん!」

「あの玲兎(ケツデカバカ)に……卯月は頼んだ」

 瞬間、日生の口から大量の鮮血が吹き出ると、糸の切れた人形のように、その場に倒れた。

 

 

 日生。

 特質系念能力『I Need You(ワタシヲアイシテ)

 

 特定条件下で強化されたオーラと、見えない糸で操作された人形をあやつることができる。

 

 もし条件を破った場合、心臓が巻き付かれてる糸によって破壊され、死ぬ。

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