R×R ーレイパー×レイパーー   作:ケツマン=コレット

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 念能力者図鑑

 智

 変化系念能力『筆はペンより強し(ソウルオブレター)

 念を墨汁に変化させて、それによって描いた文字の現象を和紙と引き換えに発現させる能力。
 文字のクオリティに対して、発現する現象の威力が増す。




19

 静かに錬を始め、オーラ練りだす真締。

 それに対し、同じく静かに息を潜め、刀を構える瑠璃魔。

 双方戦闘態勢。

 後はどちらが動くか、そんな状況のとき、

「錬はしないのかな」

 攻撃ではなく、問いかけを行ったのは真締。

 言葉通り、戦闘態勢に入ったというのに瑠璃魔は錬をしてオーラを増幅させる気配がなかった。

 瑠璃魔は少しだけ驚いたかと思うと、ふっと笑った。

「あなた、この世界に向いてないですね。命の取り合いの中で、相手の心配など」

「いや、僕はーー」

 刹那である。

 瑠璃魔は距離を詰め、刀を振りかぶる動作を取る。

 見えていなかった訳では無い。

 一瞬の気の緩みにつけられ、反応が遅れた。

 とっさに頭を引くと、眼の前を切っ先が横切る。

 2歩後ずさると、頬の切り傷から血が流れ、顎をつたう。

 それと同時、額から汗が吹き出た。

 速い、ではない。上手い、と思った。

 オーラは弱いので実際に速さはない。

 ただ、体の動かし方や加速のしかた。人の反応がちょうど鈍るような、緩やかな動き。

 そして心の隙を捉えるのが上手い。

 あの一瞬で、研ぎ澄まされた戦闘技術を一気に感じた。

「目を狙ったのですが、さすが豪組幹部ですね」

「……どうも」

 そう返答して頬についた血を拭う。

「私のオーラに関しては、お気になさらず。私の能力『陰詩使(インゴロイド)』は、詩を歌わないと全力を出せないので、これが私のデフォルトです」

「そう、ですか。僕の能力はーー」

「隙が多い」

 また、一瞬で距離を詰められる。

 能力を説明され、思わず自分も行おうとした隙を取られた。

 ただ、今度はまだ意識をできていたので、軽く躱すことができた。

 後ろに飛ぶと同時に気がつく。

 歌っている、詩を。

「生を持つ美。死を持つ()

 すぐさま逡巡する先程の瑠璃魔の言葉。

 詩を歌わないと全力を出せない。

 まずい、と思っても避ける姿勢を取っていたため、すぐには詰め寄れない。

 それを分かっているのか、瑠璃魔は後方に跳躍しながら、詩を続ける。

「強きは独。目に残る彩映。その赤は血の色に似る」

 刀を握る瑠璃魔の両手に力が込められると、焦げ尽くすほどのオーラが吹き出た。

 速い、なんてものではなかった。

 瞬間移動とみれる跳躍で真締の右斜前に飛び、刀を構える瑠璃魔。

 ーー来るっ 斬らっ 首? いや、足っーー

 狭間に捕らえた瑠璃魔の視線。

 それは膝元に狙いを定めていた。

 とっさに跳躍する真締。

 同時に瑠璃魔が動く。

薔薇紅(ばらくれない)

 足の下を通る冷たい斬撃は、靴の足先をかすって、左に流れたた後、真締は着地した。

「……よくこの距離でお避けに」

 背中を見せながら、肩越しにこちらを見据える瑠璃魔。

 真締の背面の壁にはその威力を物語る切り傷が、右斜上に刻まれていた。

 コンクリートを完全に切り裂いているのか、壁の奥の外が隙間から見える。

 死んでいた。

 瑠璃魔の視線に気が付かなければ。

 跳躍が一瞬、遅れていれば。

 助かったのはたまたまだ。

 そう思うと同時、肺の底から空気を吐き出し、体から息を出し切る。

 呑まれてはいけない、と自分を戒める。

 恐怖は迷いを産み、自分の可能性を殺す。

 弱点もある、勝てない相手ではない。

 次の攻撃で決める。

 決死。

 覚悟を決めた真締は、瑠璃魔に向かって距離を詰めた。

 

 

 感じれば分かる。

 その練りだされているオーラは、一朝一夕でつくものではない。

 途方もない時間。凄まじい集中力をもってして、やっと手に入る力。

 敵ながら真締に対し、尊敬の念すら感じていた。

 だからといって、手を抜く瑠璃魔ではない。

 暗殺一家。瑠璃家の最高傑作。

 感情を黙し、完全なるパフォーマンスを出すすべを、瑠璃魔は知っている。

 純粋に戦闘力が上がる強化型は、制限をつけながら戦う瑠璃魔にとっては非常に厄介な相手。

 それでも、瑠璃魔は今までその手のタイプにも、負けたことはない。

 それは圧倒的、戦闘眼が瑠璃魔にはあったからだ。

 相手の動き、オーラの動き、意識の動き。

 すべてを察知し、相手の2手先を動く。

 故に、オーラにや身体機能に大きな差があったとしても、決して瑠璃魔が遅れを取ることはなかった。

 緊張も不安もなかった。真締が距離を詰めてきてなお、躱せる自信、いや確信があった。

 だた、次の瞬間、その確信は一気に消え去る。

 理由は真締が近づきながら行っていた、その動作。

 祈り。

 両の手の平をあわせて、真締は祈っていた。

 不可解なのは、その動作速度。

 両腕を開放している状態で、祈りの態勢0.019秒と、瞬きすら許さぬ速度。

 その反面、動作は非常に緩やかに感じた。

 いや、実際にそう見えた。

 まるで止まったときの中、走馬灯のように動くそれに、瑠璃魔は驚愕した。

 来る。何かが。

 神々しく、包み込むようなオーラを放ち、正拳突きの構えを取る真締。

 刹那。

 これまで感じたことのない、光速の3連撃が瑠璃魔を叩いた。

 

 

 真締の3連撃により、後方に吹き飛び、壁に打ち付けられた瑠璃魔。

 その姿は、砕け散ったコンクリートの粉塵によって見えない。

「ぼ、僕の念能力は『三連突(三点バースト)』」

 煙の向こうを睨みつけながら、真締めは自分の能力の説明を始めた。「祈りを捧げた後、ただ念を込めた拳で、3度叩く技。理由は知らないけど、祈った後は凄まじい力がでる。この能力をまともにくらって、立ち上がれたものはない」

 真締の見開かれた眼の隣を、汗がつたう。「ーーあなた以外は」

「あら……それは光栄ね」

 粉塵の中、額から血を流した瑠璃魔が立ち上がる。

 瑠璃魔が攻撃を食らっているときは、オーラの制限状態。

 圧倒的オーラ量の差があり、たとえ普通にガードしても、戦闘不能は逃れられない。

 ただ、あの一瞬。

 コンマ数秒の間に、瑠璃魔はオーラを刀に一点集中。

 刀に対し、凝の状態となり、その3連撃をすべて刀で受け止めた。

 防御の際にある程度、オーラを集中することはあっても、他の部分が完全に無防備になる凝を行うことは滅多にない。

 少しでも受けを誤れば、どうあがいても死に至るだろう。

 それでも、瑠璃魔はやってのけた。

「油断……いたしましたわ」

 完全に受けたといえど、ダメージを負った瑠璃魔は、痛みに耐えながらも真締を称賛した。「それほどのパワーを出せるとは。鍛錬……いや、あの様は、儀式といいましょうか。人生のかなりをそれに費やして、やっとたどり着けるものでしょう。どんなことを行ったのか、伺ってもよろしくて?」

 その問いに、真締が答えない。

 かわりに、正拳付きの構えを見せて言った。

「もう、気はぬかない」

「あら、冷たい」

 瑠璃魔の考えは分かってる。

 少しでも回復のため、時間を稼ぎたいのだ。

 前へーー

 そう思った瞬間、瑠璃魔の左手に握られていた刀の鞘が、真締のみぞおちを下からえぐった。

「うぐっ」

 食道をせり上がってくる内容物を、ぐっと押し込めていると、前にでた首めがけて、瑠璃魔は刀を振るう。

 それを見た真締は腕を上げ、前腕でそれを受けた。

 堅。オーラを一部に固めて、防御力を上げる技術。

 凝と違って、他の部分を絶状態にしない、防御に特化したオーラ操作技術だ。

 刀の切れ味を強化しているなら、通常簡単に受け止めることはできないが、瑠璃魔の制限時のオーラ出力なら、真締の堅で難なく受けられる。

「朝を嫌い、夜に踊る」

 前腕の堅によってオーラの減った胴体、へその下辺りを蹴飛ばして真締との距離を取る瑠璃魔は、刀を鞘に収め、詩を歌っていた。

「儚い恋は刺す香り」

 『三連突(三点バースト)』の威力は凄まじいが、弱点はそのリーチ。

 近づかなければ当てることはできない。

 いま距離を詰めても、後退して更に距離を取られるだけ。ならーー

 拳が届く距離ではない。

 だが、真締は祈りの姿勢を見せた。

 戸惑いが瑠璃魔の黒目を動かすとほぼ同時、真締は床に向かって『三連突(三点バースト)』を放つ。 

 床は壁よりも厚い。それでも、真締の拳は2人を下階へ落とすほどに崩壊した。

「っ可憐は月に寄り添い、共に眠る」

 落ちる姿勢のまま詩を続ける瑠璃魔。

 真締は、砕けた床の瓦礫を蹴り、一気に飛んだ。

 詠唱完了間近。

 瑠璃魔の体からオーラが溢れだそうとしていた。

月下美(げっかび)ーー』

 刀身が鞘から数ミリ出た瞬間に、真締の腕が、エルボーのように鎖骨辺りに食い込むと、そのまま二人まとめて床に激突した。

 2階は構成員の休憩室。

 机椅子、雑誌などが吹き飛び、粉塵が舞う。

 立ち上がった真締。

 そして、その足元。

 大の字になり倒れ、意識を半分失いながらも、決して刀を手から離さない瑠璃魔がいた。

 瑠璃魔に顔を動かす力も残っておらず、目線だけ真締の姿を捕らえている。

 完全なる決着だった。

 今、瑠璃魔に力は残っておらず、生殺与奪の権利を、真締は持っていた。

 肩で何度か息をしたあと、真締は口を開いた。

「僕は、本当は、話し合いに来たんだ。殺し合いに来たんじゃない」

 心苦しそうに、真締はそう語った。「流れとはいえ、こんなことになってしまって、申し訳ないと思う。正しさは、あなたにあった……だと思う……それでも、あなたを許せない。納得ができないんだ」

「なら……殺すのですか」

 瑠璃魔は血の咳をしながら、そう返した。

「そんなことはしなくない。ただ、謝ってほしい。彼らの命を奪ったのを」

 その要望に、瑠璃魔は目を閉じて、軽く笑ってみせた。

「謝れば、すべてを許すのですか」

「違う! ただ、納得がほしい」

「ヤクザの戦争に、正しいだの、納得だの」

「分かっている。おかしいのは僕だ……それでも、頼む」

「断れば、殺すのですか」

 1秒、2秒。

 考える間があくと、

「そうだ」

 真締は迷いながらも、力強く答えた。

「なるほど」

 瑠璃魔は、どこか安堵したかのように、ため息をはいた。「では、どうぞ」

 自ら死を受け入れるかのように、そう答えた。

 その様に、真締は驚く。

「な、死ぬ気か!」

「遠慮はなさらずに。この世界にいる以上、こういう顛末になることは分かっていました……たとえ、この戦争を乗り越えたとしても。いずれ戦いの中で醜く死ぬことになるでしょう。そういう運命です。それなら、あなたのような清い殿方に殺されたい」

 真締はゆっくりと、正拳突きを下段に構える。

「本気で言っているのか」

「もう、疲れました。この愚かな世界に」

 瑠璃魔の体から、これから眠りにつくかのように力が抜けた。「どうか、痛みなく、ひと思いに」

 強く唇を噛む真締は、同じように強く拳を握る。

 チ……チクショウ!

 拳は振り下ろされた。

 瑠璃魔の頭。それの少し右の床に。

「あら、ここは地獄でしょうか。現世の様子と大差ないみたいで」

「僕は話し合いに来た」

 瑠璃魔の冗談を無視して、真締はいう。「殺し合いに来たんじゃない。だから、殺さない。謝らないなら、僕はあなたを許さないだけだ。それに、あなたに取っては、死ぬことよりも、生きる事のほうが罰になる……そう思った」

「権利はあなたにあります。私をイカすも殺すもあなた次第です。ただ、これは戦争です。次にあったら、私はあなたをまた斬りますよ」

「分かっている」

 真締はゆっくりと、拳を引き抜いた。「次は僕も、殺す気で戦います」

「それは……楽しみ」

 そう言うと、ガクリと顔を横にして、瑠璃魔は気絶したようだった。

 息をめいいっぱい吸うと、真締は上を向いて吐き出した。

 強かった。次にヤり合ったら、勝てるとは限らない。

 しかし、かなりまずいことになった。

 話し合いだけで収めるつもりだったが、能力者の構成員を2人と傭兵一人を倒してしまった。

 ビルも破壊してしまっている。早くこの場を離れて考えをーー

「うーわ、めちゃくちゃやん」

 不意に聞こえた声。

 とっさに階段の方を向くと、そこには大佐組長が立っていた。

 その後ろには神奈と、もう一人女構成員。おそらく念能力者。

 ちらりと自分の後の窓を確認すると、

「おっと、待ちや」

 それを察した大佐は言った。「外にはウらの仲間が張ってるで。逃げられへん」

 考えを透かされ、真締の表情は固くなる。

「ハッタリだ。こんな早く、能力者を準備できる訳がない」

「ウチがあんたが来たのを、さっき気がついたとでも? うちのシマ入った瞬間から、あんたがここに来ることは分かっててん。そのために、瑠璃魔の居場所の情報を流してたんやからな」

 大佐には気をつけろ。

 昔に豪が卯月でも、平野でもなく、大佐にだけそう言っていたのを思い出した。

「まあ、ちょっと落ち着きぃや」

 大佐と後ろの部下が、ゆっくりと真締に近づいてくる。

 逃げられない。幹部の僕は、確実に殺されるだろう。ならーー

「いやー、わるかったなぁ」

 最後の最後。苦し紛れに暴れてやろうと思っていが、大佐がまるで敵意なく近づき、真締の体についたホコリを手で払うさまに、思わずキョトンとしてしまう。

「ほっぺたから血でてるやん。バンドエイド張ったろか? あ、絆創膏のことな」

「いや、いいです。これぐらい。それより、僕を殺さないのか」

 そう問いかけると、大佐は驚いたように目を丸くした。

「ええ、なんで? あんた話し合いに来ただけやろ。豪組長から連絡あったで。どーせ、ウチらの構成員から仕掛けたんやろうし、こっちが悪いんや。いやほんま、悪かったなぁ。うちの構成員、血の気多いからなぁ。ごめんなぁ」

 頭が追いつかなかった。

 カチコミ同然のことをした人間に対して、された組長が謝っている。

「いや、まあ。僕も、応戦してしまって。ここはそちらの事務所ですし。僕、カチコミみたいなもんで」 

「心広いなぁ。さすが豪組の幹部や。ささ、車も用意してるから、タクシーかわりに使ってや。今日は帰って、ゆっくりお風呂はいってなぁ」

 あれよあれよというままに、真締は大佐組が用意した車の後部座席に乗り、GO殿へと送られていた。

 正直、現実味がない。

 こんな展開、予想していなかった。

 まるで夢の中にいるかのようだ。

「あ、お初です」

 運転手が話しかけてきた。大佐の後ろにいた部下だ。「自分、翡翠(ヒスイ)と申します。命かけて真締さんをお送りますので」

「ああ、いや。どうも」

 他の組の構成員に、命をかける、と言われて真締は少し戸惑う。

「瑠璃魔の姉御とやり合って、おつかれみたいっすけど、自分も念能力者なので、敵が来たら……」

 突然、言葉が止まった。

「どうかしましーー」

 体を傾け、バックミラー越しに運転席を覗き込むと、そこに写ったのは、4枚のトランプが顔に突き刺ささり、息絶えていた翡翠だった。

 アクセルを踏み抜いているのか、速度が上がっていく。

 すぐにドアを蹴破り、外に出ると、コントロールを失った車は、ガードレールに激突して、横転した。

 夜は深く、人影はない。

 広い、4車線の道路の真ん中に立つ真締は、歩道橋の上に直立する、黒く、汚く、血と汚物を混ぜ合わせたような臭いを放つ、その筋肉質な男を見上げた。

 真締は直感で分かった。

 翡翠を殺したのは、この男だ。

「お前は……誰だ!」

 怒りを孕んだ真締の問いに、男は笑みで返した。

「死神」

 

 

 ただで返すわけ無いやろ。

 真締が死んだら儲けもん。豪組の戦力は半減するやろう。

 田所が死んでも、真締はただじゃすまんし、面倒な田所との関係もちゃっちゃと切れる。

 平野組は疲弊し、卯月組は解散寸前。

 その隙に豪組を潰せる。

 後はイージーゲームや。

 アホどもが。

 組長になるのは、ウチや。

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