R×R ーレイパー×レイパーー   作:ケツマン=コレット

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 瑠璃魔

 特質系念能力『陰詩使(インゴロイド)

 
 平時は制限されたオーラしか使えなくなるが、自分で作った詩を歌い、それに対応した技を繰り出す間だけ、全力以上の力でオーラを使える能力。


20

 仲間を殺されたと、伝えられた時と同じ気持ちだった。

 確かに、翡翠は敵の組員だ。

 それでも、自分を守ろうとして運転手をしてくれていた、一時的な仲間だ。

 きっと家族や、夢もあっただろう。

 それを、いったい、なぜ。

 額に青筋を立て、ゆっくりと歩道橋の上に立つ男を見上げる。

 真締の知らない男だった。

 身長は170cm程だろうか。

 肩幅は広く、服の上からでも膨らんだ筋肉が分かる。

 闇夜に溶け込みそうな皮膚の黒さに、汚物特有の臭さ。

 野獣を思わせるような、スケベ眼光。

 この人間を表す、そのすべてが異様だった。

「お前は誰だ!」

 ガラにもなく、真締は声を荒らげていた。

 男はトランプを一枚、指にはさみ、それで口元を隠して答えた。

「死神」

 カッと目の奥が熱くなる感覚があった。

「ふざけるな!」

 真締は跳躍、同時に祈りの構えを見せる。

 そのまま『三連突(三点バースト)』をくりだすが、死神はするりと避け、足元の歩道橋が砕け散った。

 車道に着地し、3メートルほどの距離で双方見合う。

「お前の目的は何だ。なぜ彼女を殺した」

 真締が問いかけると、死神はあざ笑った。

「目的は君と戦いたかった。彼女は……弱かったんだ。もうちょっと頑丈なら、おもちゃにもなれたかもね」 

 ビキビキっと、真締の額に分かりやすく青筋がたつ。

「どこの組の者だ」

「僕は群れないよ。意味を感じないから」

 それが冗談なのか、事実なのか。

 もう真締にはどうでも良かった。

 初めてかも知れない。

 他人にこんなにも、純粋なる殺意を持ったのは。

 真締は足元に拳を打ち込むと、砕けた大きなコンクリートを目の前に打ち上げ、それに『三連突(三点バースト)』を放った。

 大小まばらになったコンクリを、ショットガンのように撃ち込みながら、真締は死神に向かって駆けた。

「『伸縮自在の腸液(バンジーファック)』」

 死神は一瞬だけ、ケツを触ったかと思うと、粘着性を持った念が、その両手に付着していた。

 両手を上下にして、壁のようにそれを展開したかと思うと、コンクリート片がその念に止められ、コンドームのように伸びると田所の鼻先で止まる。

 ゴムか。

 後一歩、死神まで近づいた真締がそうおもった瞬間、コンクリ片がゴムの反動で跳ね返ってきた。

 両腕を前に出し、全身にオーラを纏ってそれをガードする。

「ゴムとガムと腸液の性質があるんだ」

 そう語りながら、死神はトランプに念を纏わせ、太ももを切りつけようとするが、余裕をもって真締は後方へ避けた。

 すぐさま追撃にトランプを3枚を投げられるも、すべて左手で難なく掴む。

 手に持っているときのトランプは、非常にオーラの質が強く、ガードしても切り傷を追うだろう。

 ただ、念をゴムの性質にしていたところを見るに、系統は変化系。

 放出系とは相性が悪く、手から離したトランプの殺傷能力は低い。 

 ブラフの可能性があるが、ガムの性質を持ち、粘着力があるというのであれば、あの能力にふれるのは良くない。

 つまり死神が力を発揮できるのは、自分の肉体の周りでのみ。

 ヒットアンドアウェイで、常に相手の有効範囲外で戦うのが、この場合最適。

 そしてそれは、真締が最も得意とする戦術。

「すごいパワーしてるけど、なんかスポーツとかーー」

 死神が何か語りかけてくるが、無視して距離を詰め、祈りを構える。

 『三連突(三点バースト)』が放たれるが、死神は腕をクロスにして、オーラを集中。なおかつバックステップで衝撃を殺して耐えた。

 後ろへ吹き飛ぼうとする体を、地面に手をついて死神は止めた。

 死神の身体能力はかなりの物。

 通常であればあの一撃で倒れるものがほとんどだが、とっさのバックステップで『三連突(三点バースト)』の有効射程からギリギリ外れ、なおかつ衝撃を殺した。

 瑠璃魔の戦闘眼とはまた違った、動物的な本能。

 圧倒的なバトルセンスを感じた。

致命傷(クリティカル)は避けたと、思ったんだけどね」

 不敵な笑みを浮かべた死神は、震える両手を真締に見せる。「これじゃ、オナニーできなくなっちゃうね。責任とってくれるかな」

 好機。

 戦闘能力の下がった死神に、トドメを刺すため、駆ける真締。

 後一歩、死神に拳が届く距離。が、その時に気がつく。

 体が前に引っ張られている。

 重心が前のめりになり、上体が傾く。

 まずい。この感覚。やられた。

 とっさに眼にオーラを集中させると、肩についたゴムが見えた。

 見えなかった。陰か。いつの間ーー

 バコっと顔面に衝撃を感じ、勢いで体が上に浮くのを感じた。

 死神の拳だった。

 死神は腕を痛めていた。それでも、威力十分。かなり効く。

 浮いた体を着地させ、死神を睨みつける。

 攻撃力、防御力はこちらに分がある。まだやれる。ただーー

「もう隠しても意味ないかな?」

 そう言って死神は 念を見えにくくする、陰を解いた。

 見えてきたのは、死神の左手から、真締の頬と肩に伸び、引っ付いているゴム。

 具現化、変化系と相対する場合は、この陰を警戒して眼にオーラを集めるべきだったが、真締はそういうことが苦手だった。

 死神はこの念を、ゴムとガムと腸液と言っていた。

 もし、吸着や伸縮、潤滑すらもコントロールできるのだとしたら。

 嫌な汗が、うなじから沸き立つ。

 それは死の予感を感じたから。

「羽や手足をもがれた虫はね、最初はもがくんだよ」

 死神は嬉々として、そう語りだした。「自分の運命を受け入れられないんだろうね。でもね、そのうち動かなくなるんだ。あれは諦めたんだろうか、それとも疲れてしまったのか。どんな気持ちなんだろうね。今から君の手足をもぐけど、教えてほしんだ。どんな気持ちになるのか」

 イカれ野郎め。

 真締は駆けた。

 もうゴムをつけられた以上は、距離を取ることはできない。

 離しても引っ張られてしまう。

 それなら、いっそのこと近距離で戦う方がいい。

 肉弾戦では分がある。そのまま叩き潰すしかない。

 後3歩で拳が届く距離、死神がぐっと右手を下にすると、また体は床に落ちそうになる。

 とっさに、真締はコンクリの床に『三連突(三点バースト)』を放つ。

 砕けたコンクリが舞い、煙幕となり、亀裂の入った足場は機動力を奪う。

 この距離での煙幕は、ゴムの伸びる位置で場所が分かる以上、死神が有利。

 それでも、これしか手はない。

 煙幕の中、的確に真締に蹴りが撃ち込まれ、左の腹部にめり込む。

 内蔵を吐き出しそうな感覚の中、根性でそれを耐えて、死神へと一歩踏み出す。

 距離は十分。地面は砕け、逃げるのも難しい。

 煙の中でかすかに見える死神の姿。

 それにターゲットした。

 『三連突(三点バースト)

 必中の予感があった。避けられない自信があった。

 しかし、死神の体は一瞬にして後方へ飛び、真締の攻撃は空を撃った。

 何故だ。姿勢や地面の状態から考えれば、避けることは不可能のはず。

 疑念が渦書く中、見えたのは死神の背中から、後方の地面へと伸びるゴムの念。

 ゴムの伸縮を利用した高速移動。いつの間にーー

 それを考える間もなく、真締の攻撃後の隙をついた、死神の4連撃が体を撃つ。

 ガードするだけで精一杯だった。

 死神の攻撃された箇所は、もれなくガムが付いており、動きが制限される。

 腕が胴に貼りついて動かなかった。これでは腕を利用して、攻撃ができない。

 焦りの出た真締に、死神の投げたトランプが、太ももに3枚突き刺ささり膝をつく。

「まずは、左腕からいこうかな」

 トランプをオーラで包んで、振りかぶり近づく死神。

 避けられない、反撃もできない。

 腕はほとんど動かないが、右の肘から先はギリギリ動く。

「ウオオオォ!」

 全力を出し、右の手のひらを左のひらに近づける。

 顔が真っ赤に変色し、血管がはち切れそうな勢いだった。

 プルプルと震える右手は、ゆっくりではあるが左手に近づく。

 いける。死神が来る前にーー

 交錯する意思。かすかに巡る走馬灯。その刹那、死神と真締の間に落ちる、一本の竹刀。

 コンクリを砕き、それが突き刺さると死神も真締も、動きが止まる。

 双方、視線が相手ではなく、竹刀の軌道線上、発射された場所を見た。

 真締が砕き、半壊した歩道橋。

 その上に、平野組若頭、蓮が立っていた。

 彼だけではない、周りに念能力者らしき影が、二人を囲っていた。

「はぁ、邪魔が入っちゃったね」

 落胆の表情を見せた死神は、そう言って後方に飛び、闇の中に消えていく。「次は、死ぬまでやろう」

 完全に姿が見えなくなると、体を拘束していたゴムが解けた。

「やあ、真締くん」

 影の中から一人、近づき、語りかけてくる。

 その顔を見て、真締は目を丸くした。

 平野組、組長。平野。

「大変だったね。近くに車を停めている。送ろうか」

 

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