特質系念能力『
平時は制限されたオーラしか使えなくなるが、自分で作った詩を歌い、それに対応した技を繰り出す間だけ、全力以上の力でオーラを使える能力。
仲間を殺されたと、伝えられた時と同じ気持ちだった。
確かに、翡翠は敵の組員だ。
それでも、自分を守ろうとして運転手をしてくれていた、一時的な仲間だ。
きっと家族や、夢もあっただろう。
それを、いったい、なぜ。
額に青筋を立て、ゆっくりと歩道橋の上に立つ男を見上げる。
真締の知らない男だった。
身長は170cm程だろうか。
肩幅は広く、服の上からでも膨らんだ筋肉が分かる。
闇夜に溶け込みそうな皮膚の黒さに、汚物特有の臭さ。
野獣を思わせるような、スケベ眼光。
この人間を表す、そのすべてが異様だった。
「お前は誰だ!」
ガラにもなく、真締は声を荒らげていた。
男はトランプを一枚、指にはさみ、それで口元を隠して答えた。
「死神」
カッと目の奥が熱くなる感覚があった。
「ふざけるな!」
真締は跳躍、同時に祈りの構えを見せる。
そのまま『
車道に着地し、3メートルほどの距離で双方見合う。
「お前の目的は何だ。なぜ彼女を殺した」
真締が問いかけると、死神はあざ笑った。
「目的は君と戦いたかった。彼女は……弱かったんだ。もうちょっと頑丈なら、おもちゃにもなれたかもね」
ビキビキっと、真締の額に分かりやすく青筋がたつ。
「どこの組の者だ」
「僕は群れないよ。意味を感じないから」
それが冗談なのか、事実なのか。
もう真締にはどうでも良かった。
初めてかも知れない。
他人にこんなにも、純粋なる殺意を持ったのは。
真締は足元に拳を打ち込むと、砕けた大きなコンクリートを目の前に打ち上げ、それに『
大小まばらになったコンクリを、ショットガンのように撃ち込みながら、真締は死神に向かって駆けた。
「『
死神は一瞬だけ、ケツを触ったかと思うと、粘着性を持った念が、その両手に付着していた。
両手を上下にして、壁のようにそれを展開したかと思うと、コンクリート片がその念に止められ、コンドームのように伸びると田所の鼻先で止まる。
ゴムか。
後一歩、死神まで近づいた真締がそうおもった瞬間、コンクリ片がゴムの反動で跳ね返ってきた。
両腕を前に出し、全身にオーラを纏ってそれをガードする。
「ゴムとガムと腸液の性質があるんだ」
そう語りながら、死神はトランプに念を纏わせ、太ももを切りつけようとするが、余裕をもって真締は後方へ避けた。
すぐさま追撃にトランプを3枚を投げられるも、すべて左手で難なく掴む。
手に持っているときのトランプは、非常にオーラの質が強く、ガードしても切り傷を追うだろう。
ただ、念をゴムの性質にしていたところを見るに、系統は変化系。
放出系とは相性が悪く、手から離したトランプの殺傷能力は低い。
ブラフの可能性があるが、ガムの性質を持ち、粘着力があるというのであれば、あの能力にふれるのは良くない。
つまり死神が力を発揮できるのは、自分の肉体の周りでのみ。
ヒットアンドアウェイで、常に相手の有効範囲外で戦うのが、この場合最適。
そしてそれは、真締が最も得意とする戦術。
「すごいパワーしてるけど、なんかスポーツとかーー」
死神が何か語りかけてくるが、無視して距離を詰め、祈りを構える。
『
後ろへ吹き飛ぼうとする体を、地面に手をついて死神は止めた。
死神の身体能力はかなりの物。
通常であればあの一撃で倒れるものがほとんどだが、とっさのバックステップで『
瑠璃魔の戦闘眼とはまた違った、動物的な本能。
圧倒的なバトルセンスを感じた。
「
不敵な笑みを浮かべた死神は、震える両手を真締に見せる。「これじゃ、オナニーできなくなっちゃうね。責任とってくれるかな」
好機。
戦闘能力の下がった死神に、トドメを刺すため、駆ける真締。
後一歩、死神に拳が届く距離。が、その時に気がつく。
体が前に引っ張られている。
重心が前のめりになり、上体が傾く。
まずい。この感覚。やられた。
とっさに眼にオーラを集中させると、肩についたゴムが見えた。
見えなかった。陰か。いつの間ーー
バコっと顔面に衝撃を感じ、勢いで体が上に浮くのを感じた。
死神の拳だった。
死神は腕を痛めていた。それでも、威力十分。かなり効く。
浮いた体を着地させ、死神を睨みつける。
攻撃力、防御力はこちらに分がある。まだやれる。ただーー
「もう隠しても意味ないかな?」
そう言って死神は 念を見えにくくする、陰を解いた。
見えてきたのは、死神の左手から、真締の頬と肩に伸び、引っ付いているゴム。
具現化、変化系と相対する場合は、この陰を警戒して眼にオーラを集めるべきだったが、真締はそういうことが苦手だった。
死神はこの念を、ゴムとガムと腸液と言っていた。
もし、吸着や伸縮、潤滑すらもコントロールできるのだとしたら。
嫌な汗が、うなじから沸き立つ。
それは死の予感を感じたから。
「羽や手足をもがれた虫はね、最初はもがくんだよ」
死神は嬉々として、そう語りだした。「自分の運命を受け入れられないんだろうね。でもね、そのうち動かなくなるんだ。あれは諦めたんだろうか、それとも疲れてしまったのか。どんな気持ちなんだろうね。今から君の手足をもぐけど、教えてほしんだ。どんな気持ちになるのか」
イカれ野郎め。
真締は駆けた。
もうゴムをつけられた以上は、距離を取ることはできない。
離しても引っ張られてしまう。
それなら、いっそのこと近距離で戦う方がいい。
肉弾戦では分がある。そのまま叩き潰すしかない。
後3歩で拳が届く距離、死神がぐっと右手を下にすると、また体は床に落ちそうになる。
とっさに、真締はコンクリの床に『
砕けたコンクリが舞い、煙幕となり、亀裂の入った足場は機動力を奪う。
この距離での煙幕は、ゴムの伸びる位置で場所が分かる以上、死神が有利。
それでも、これしか手はない。
煙幕の中、的確に真締に蹴りが撃ち込まれ、左の腹部にめり込む。
内蔵を吐き出しそうな感覚の中、根性でそれを耐えて、死神へと一歩踏み出す。
距離は十分。地面は砕け、逃げるのも難しい。
煙の中でかすかに見える死神の姿。
それにターゲットした。
『
必中の予感があった。避けられない自信があった。
しかし、死神の体は一瞬にして後方へ飛び、真締の攻撃は空を撃った。
何故だ。姿勢や地面の状態から考えれば、避けることは不可能のはず。
疑念が渦書く中、見えたのは死神の背中から、後方の地面へと伸びるゴムの念。
ゴムの伸縮を利用した高速移動。いつの間にーー
それを考える間もなく、真締の攻撃後の隙をついた、死神の4連撃が体を撃つ。
ガードするだけで精一杯だった。
死神の攻撃された箇所は、もれなくガムが付いており、動きが制限される。
腕が胴に貼りついて動かなかった。これでは腕を利用して、攻撃ができない。
焦りの出た真締に、死神の投げたトランプが、太ももに3枚突き刺ささり膝をつく。
「まずは、左腕からいこうかな」
トランプをオーラで包んで、振りかぶり近づく死神。
避けられない、反撃もできない。
腕はほとんど動かないが、右の肘から先はギリギリ動く。
「ウオオオォ!」
全力を出し、右の手のひらを左のひらに近づける。
顔が真っ赤に変色し、血管がはち切れそうな勢いだった。
プルプルと震える右手は、ゆっくりではあるが左手に近づく。
いける。死神が来る前にーー
交錯する意思。かすかに巡る走馬灯。その刹那、死神と真締の間に落ちる、一本の竹刀。
コンクリを砕き、それが突き刺さると死神も真締も、動きが止まる。
双方、視線が相手ではなく、竹刀の軌道線上、発射された場所を見た。
真締が砕き、半壊した歩道橋。
その上に、平野組若頭、蓮が立っていた。
彼だけではない、周りに念能力者らしき影が、二人を囲っていた。
「はぁ、邪魔が入っちゃったね」
落胆の表情を見せた死神は、そう言って後方に飛び、闇の中に消えていく。「次は、死ぬまでやろう」
完全に姿が見えなくなると、体を拘束していたゴムが解けた。
「やあ、真締くん」
影の中から一人、近づき、語りかけてくる。
その顔を見て、真締は目を丸くした。
平野組、組長。平野。
「大変だったね。近くに車を停めている。送ろうか」