R×R ーレイパー×レイパーー   作:ケツマン=コレット

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 念能力者図鑑

真締

 強化系能力『三連突(三点バースト)

 手を合わせ、祈りを込めたあと、平時の何倍ものパワーで3連正拳突きを放てる能力。

 通常、手を合わせるという動作に隙が生まれるはずだが、その狂気とも取れる鍛錬により、刹那の祈りと化した。


21

 蓮は緊張していた。

 卯月組へのカチコミが失敗に終わり、空気は最悪。

 後部座席に座る平野も、眉間に深いシワを刻んだまま、一言も発することはない。

 平野組は賭けていた、この卯月組吸収作戦に。

 結果、作戦は失敗し、数人の念能力者を失っている。

 この一連の出来事で確実にパワーバランスは崩れた。

 トップだった平野組は、おそらく3番手ほどに落ち込んだだろう。

 あのとき、卯月組長を殺せていたなら。

 そう思うと、ハンドルを握る手に自然と力が入った。

 どうすれば良かったのか。自分に何か、もっとできることはなかったのか。

 そんなことを考え、街頭に照らされた道路を睨みつけていると、携帯が震えた。

 監視からの連絡だった。

「組長。豪組が動いたみたいです」

 携帯を取り出し、内容を確認する。「豪組の……真締が、単騎で大佐組の事務所にカチこんだみたいっす」

 蓮の声は動揺でかすかに震えていた。

 単騎でカチこむなど、やってることは鉄砲玉。

 それを幹部が行うことなどありえない。

 異質。何か不可解なことが起きている。

「蓮、この状況、どう見る」

 不意の平野からの質問。

 蓮は姿勢を崩さずに答えた。

「おかしいです。豪組のナンバーツーである人間が、単身で乗り込むなんて。何よりもまずいのは、この件で真締のやつが戦争からリタイヤするかもしれないこと」

「そうなると、どうなる」

「現状、大佐組と豪組は一触即発。それでも動かないのかは、戦力的にイーブンで、他の組からの漁夫の利があるかもしれないから。ただ、現状平野組(ウチ)はすぐに動けないし、卯月組も自分のことで手がいっぱいです。そこで、もし真締が死んだら、大佐組は豪組を潰し、一気に会長に近づきます!」

「いま、優先するべきは真締君の命だ。今いる念能力者を集め、大佐組のシマに向かうぞ」

 

 

 車の中は、やけに静かだった。

 隣に座るのは、現在は敵組の平野組長。

 運転手は若頭の蓮。

 平野組ツートップといた。

 それだけではない。

 前や後ろには、念能力者を詰め込んだ車が数台。

 状況が状況なら、これは拉致に近いことをされていると考えていい。

 だが真締はどこか落ち着いていた。

 今日は、色々なことが起きすぎた。

 もう疲れている。慌てふためく余裕もない。

 ただ、目の前で起きることに、身を任せるしかなかった。

「随分と信用してくれるみたいだね」

 平野はこちらに目もくれず、まっすぐ前をみてそういった。「素直には乗ってはくれないと思ったんだが」

「見ていただければ分かる通り、僕にはもう抵抗する力もない……乗れと言われれば、乗るしかないです」

「おいテメェ」

 真締の言葉に引っかかったのか、蓮がフロントミラー越しに睨みつけた。「組長が送ってくれてるってのに、何だテメェは。喧嘩うってんのか」

「蓮、お前は運転に集中しろ」

 叱りつけるように平野がそう言うと、うす、といって蓮は黙った。

「悪いな、真締くん。蓮も気が立っているんだ、許してくれ」

「いや……僕こそ、ちょっと礼儀がなかったです。すいません。疲れてて、ちょっと、変な言い方しちゃいました」

 そう言うと、蓮は納得したように軽くうなずく。

 また、数秒の沈黙の後、真締は平野に聞いた。

「変な意味じゃないんですが。僕を助けたのは、どういった意図でしょうか。あなた方にとって、僕は目障りな存在です……あの場で殺されていれば、平野組として、利点が多いんじゃないですか。見返りを求めてくれたほうが、まだ自然だ」

 平野は以前、前を向いたまま、顎に手をおいてまじまじと考える仕草を見せる。

「確かに。君さえいなければ、と何度か思った。何故助けたのかは……それは自分で考えてくれ。現状の敵である僕から、わざわざ言うことではない」

 やはりだが、はぐらかされてしまった。

 今日は不可解なことが多すぎる。

 カチコミに行ったというのに、そこの組長からもてなしを受け、そこからとんでもない殺人者と戦い、別の組長に助けられている。

 理解ができないが、何か大きなうねり。

 誰かの画策か陰謀に、自分が利用されている気がしてならない。

 それがしこりのように胸につっかえ、不愉快だ。

 蓮の運転する車と、周りを付いてくる護衛車は、法定速度など守らず、豪殿まですぐさま到着した。

「次に合うときは、敵かもしれませんよ」

 降り際に真締がそう言うと、

「そうならないことを願う」

 平野の返事の後、ドアは閉じられ、車はすぐにその場をさっていった。

 夜は随分と流れ、ぼんやりとした白い光がかすかに世界を照らしていた。

 

 

 大佐の背中はわなわなと震えていた、そして、

「このボケタレが!」

 右拳を机に振り下ろし、バアンっと壊れんばかりの音が組長室に響く。「あの白デカノッポ、いつから知っとったんや!」

「おお、お、落ち着いて、大佐」

 オドオドと、弱々様子で静止しようとするのは、大佐組幹部のマーズ。

「落ち着いてられるか! なんであんたも黙ってそれ見て帰っとんねん、平野組の一人でも殺しとかんかい!」

 感情のままに投げた葉巻が、マーズの額に当たる。

「ご、ごめん」

「それ、火つけろ!」

「あ、うん」

 マーズは床に落ちた葉巻を拾い、先端を指でちぎると、大佐に咥えさせて火をつけた。

 すぐに力強く吸い込み、白煙を吐き出す。

 マーズに当たっても仕方ないことは分かっている。

 分かってはいるが、苛立ちが溢れて仕方がない。

 状況は最悪だった。

 田所との関係は継続。あの脳みそがイカれている殺戮狂は、何をしでかすかわからない。

 なおかつ、真締は生きている。

 死んでくれたのならお釣りがあったはずだが、これでは面倒を抱え込んだだけだ。

 頭をワシャワシャと掻き乱したあと、深く葉巻を吸って、ほんの少しだけ落ち着きを取り戻す。

 もう考えても仕方がない。

 いつ、どのように平野がこちらの動きを察知したのか、それが気になるが、それも今は隅においておく。

 それよりも、気になることがあった。

「ほんで、卯月組の動向はどうやねん」

「あ、うん。その、組員の殆どは絶縁状が出されてった。まあ、首ってことだね。でも、卯月組は解散してないし、念能力者たちはまだ在籍中だった」

 ギリっと、大佐は歯をくいしばらせた。

 一難さって、また一難。

「つまり、最悪の状態ってかんじか」

 

 

「なるほど、それは面倒だ」

 平野組組長室。

 真締を送って返ったあと、蓮と共に、拓哉が状況を報告したあと、平野がつぶやくようにそう言った。

「下手に構成員を抱えれば、それらを守るために防衛をする必要がある。それがなくなった今、適当に隠れて、機を見てこちらを狩る。ゲリラ戦法が取れるというわけだ」

「いやでも、でもっすよ?」

 戸惑った様子で、蓮が言った。「実質、解散すよね。能力者だけで組って存続できるんですか?」

「組として最低限の人数なんて、決まってはいない。上納金を収められれば、組は組だ。それと、卯月組は他の組とは根本的な違いがある」

 

 

「あいつらのシノギってさ、メインはクッキー作りじゃん」

 豪が聖也に、考察を語る。「つまりはヤクザをキープする必要ないってわけ。もちろん、ヤクザじゃないとできないこともあるだろうけど、俺たちほど多くはない。クッキー売ってればメシ食えるんだから、それだけでいいから、いつでもヤクザやめてOKってわけ」

「なるほどなぁ」

 聖也はその説明に、納得するように頷く。「ただよぉ、破門にされた奴らはどうなる。そのまま以降は手切れか? それで納得するかな」

「なーにいってんだよ。また組に戻せばいいじゃん」

「んあ? いや、そんな破門しといて、簡単には戻れないだろ。破門って普通一生もんだろ」

 豪はニカっと笑って、白い歯を見せる。

「聖也、頭が硬ぇな」

 

 

「会長になればいい」

 卯月組は現在の組員だけ乗せた、3台の車を連ならせて進んでいた。

 その一つの中で、助手席に座る玲兎は、後部座席の木村と三浦に説明する。

「破門だの何だの言っても、会長の言うことは絶対。人権なき子供たち(ガバ穴チルドレン)だった者たちは、いつガン掘りの被害にあうかわからない。私達が勝って、彼女たちを戻すしかない。それを承諾して、みんな破門を受けてくれた」

「なるほど、そういうことか」

 つぶやくようにそう返したのは木村。「突然、事務所を捨てると言って、驚いた」

「驚いたって言うなら、私達もだけど……あんたら、ほんとについてくるのね」

 木村は、横目で三浦と見合った。

 そう、木村たちはこの卯月組についていくと決めた。

 確かに、ゲリラ戦法というのはこの状況において、非常に効率がいい。

 それでも、これはかなり苦肉の策とも言える。

 本来なら、組をどっしりと構えて戦えるに越したことはない。

 それができなくなった現状がこれだ。

「まあ、あんたらが続けるって言うなら、それでもいいけど。ただ戦況を見ればウチはーー」

「なんで見る必要があるんですか」

 玲兎の言葉を、木村はそう遮った。「僕らはレイパーです。受けたミッションは簡単には投げない。ですよね、三浦さん」

「お、そうだな」

 三浦はニヤリと笑って、そう同調した。

 

 

 トントントントン。

 大佐は一人、組長室の机を指先で叩く。

 それと同調するように、膝も上下に動いている。

 この状況、どう転じるか、どう動くか。

 いくら思案しても、どうあがいても身を切る思いで動く他、解決はない。

 すべてがうまく運んでいれば、こんなことにならずに住んだものの。

 どうする、あれをするか。嫌でもーー

 その時、不意の携帯電話の音で大佐はビクっと体を浮かせた。

 いつもならこんなことで驚きもしないが、今は田所の件で気が立っている。

「なんや! 今忙しいんや!」

 そうぶっきらぼうに電話を出ると「あ、もしもし?」と軽い口調の、聞き覚えのある声が聞こえた。

 こいつは、豪組長。

「大佐さんですか? どうもこんにちはーっす」

 組長間の会話とは思えない軽さで、豪はそう続けた。

「おお、豪組長やん。ちょうどええ、あんたらに言いたいことがあってん。そっちのアホ幹部がカチコミしてくれてな。うちの幹部の一人がまだ寝込んでるわ。どう落とし前つけてくれんねん」

 大佐はまくしたてるようにそういった。

 それは、豪がこれから言おうとしているのを先に察知し、遮ろうとしたからだ。

 今はまずい。やるとしても、今じゃない。

 そんな必死な思いとは裏腹に、豪は薄ら笑みが浮かぶかのような声で返す。

「いやぁ、こっちは話にしにいっただけっすって。それに、先に手を出してきたのはそっちみたいじゃないっすか」

「はぁ!? あのさぁ、人のシマに入ってきて、それで事務所に来るなんて、そんなもんカチコミやろが」

「うん、じゃあそういうことでいいっすよ」

 予想外の返答に、大佐は返事に詰まる。

「あ、あんた。本気で言ってんのか」

「本気も本気っすよ。もう戦争始まって5日ぐらい経つ。せっかくのこんなイベントなのに、みんな裏でコソコソしてて、動いてないのはウチらだけ。もう我慢汁タラタラっす」

「そっちの真締もだいぶ疲れてるやろ、ちょっと待ちぃーー」

「待たない」

 豪は断じるようにそういった。「やりましょうや。豪組と大佐組の、全面戦争」

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