R×R ーレイパー×レイパーー   作:ケツマン=コレット

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念能力者図鑑



操作型能力 『香死期鼻(カグワシキハナ)

視界内にいる対象の鼻呼吸を封じる



22

 戦争が好きだと言う者。

 ましてや、前線で戦うとなれば、そう言える者はかなり少数だろう。

 ただ彼らは違う。

 人より秀でた力を持つ。

 それでなお、決して表立って動くことはできない、念能力者たち。

 人前にでて世界で活躍しようとするものは、いないことはない。

 しかし、それらはいつの間にか、ひっそりと消される。

 消して表にでてはならない。

 それがルール。それが念能力の掟。

 だが、この戦争。

 念があることを前提とし、それで戦うことを認められた彼には、愉悦と、高揚と、何より隠せぬ喜びの感情があった。

「いやはや、全力で戦えるのはいつぶりかな」

 頭は中央からまるっと毛がくり抜かれたかのようで、うなじともみあげだけが残ったハゲに、でっぷりとした体。

 あごひげは濃く太く、それは不自然にも、もみあげに繋がっている。

 一見、剥げたデブの様にも思えるが、どこか威厳を感じるのはその凛々しい顔立ちと雰囲気からだろうか。

 名は武田。豪組構成員。

「血沸きますなぁ、ハッハッハ」

 時刻は午前2時30分。

 GO殿の集会場には、武闘派の構成員が集まっていた。

 数は40ほどだが、全員が非能力者だ。

 固まっている彼らを見渡せる位置で、武田は扇子で自分の顔を仰いでいた。

「楽しそうっすね。戦争っすよ」

 オレンジ色の髪に日焼けした顔だが、どこか暗い様子でそういったのは、隣に立つ西岡。

「お主も少しは楽しめ。公の場で念が使えることなど、殆どないぞ」

「別にそんなの、いいじゃないすか。俺たちはひっそりやってりゃいいんすよ」

 西岡はふーとため息を漏らす。

 どうも戦争に乗り気ではない。

 ただ、全力で戦えることに、西岡の中で少しだけ喜びがあるのも事実だった。

「夢のない男だなぁ。貴殿もそう思わんか、優作殿」

 武田が振り返って、目を閉じて壁にもたれかかっている優作にそう伺った。

 短髪につなぎ姿の彼は、誰がどう見ても土方に見える。

 優作はその声に気づいたように、目を開いて、顔を上げると「え、なにか?」とほうけた様にそういった。

 どうやら眠っていたようだ。

「ああ、そうっすか」

 西岡が冷めたかの様にそういうと時、構成員達の空気に緊張感が走る。

 武田、優作、西岡の三人はそれに気がつくと、全員が一斉に出入り口へと目をやる。

 そこにいたのは豪組、トップ3人。

 聖也、真締、そして豪。

 その三人に向かって全員が頭を下げた。それを見てすぐ「いいよ、頭あげて」と豪がいった。

 頭が上がり、緊張の視線が豪に集まる。

「みんな、よく集まってくれた」

 部屋の反響だけではない。

 豪の声はよく響き、通る。

 まるで心に語りかけられているように。

「今日は戦いの日だ……準備はできてるか」

 豪の問いかけに強く答える者はいなかった。

 ざわざわと見合う構成員たち。

 残念ながら、全員がやる気というわけじゃない。

 それもそのはず。ヤクザ全員が新庄のような過激派じゃない。

 ただの喧嘩というのなら息巻いていたのかもしれないが、殺し合いの戦争となると、腰が引ける。

「できてる人間……のほうが、当たり前だけど、少ないよな」

 構成員たちの心を見透かすように、豪がそういった。「ただ一つ確かなのは、数日前、俺たちの仲間が殺されてるってことだ」

 ピンと糸を張ったかのような緊張が広がる。

「人はいずれ死ぬ。お前らはどんな風に死にたい?」

 問いかけると、それぞれ思案したかのような間がある。

「俺は……」

 豪は響くような声でそう言って、構成員たちを見渡した。「お前たちに覚えといてもらえば、それでいいと思ってる」

 その場の全員の目が、かっと見開かれた。

「そのかわり、お前たちが死んだら、俺も覚えといてやる! 強い仲間がいたことを、絶対に忘れない。俺たちは、死ねば光になる。太陽の光だ。今は3時ぐらいか。この戦いが終わったときには、死んだアイツらが俺らを照らしてくれるかもな」

 へへっと笑って、豪は鼻の下をかいた。「アイツらに、ダサいところは見せられねえよなぁ!」

 呼応するかのような大声を、全員が発した。

 先程までの浮足たっていた様子が嘘かのように、全員が歴戦の猛者のような、野獣の眼光になっている。

 それを見て、武田はどこか嫉妬を混じらせた様に、ニヤリと笑う。

 歯が浮いてしまうような、少年漫画の主人公が語りそうなことをいう。

 しかし、それで全員に覚悟をキメさせるというのだから面白い。

 この人間たちを鼓舞しろと言われたとき、ここまでにする自信は武田にはなかった。

 声の質や間、キャラクター、カリスマ性、それと美貌もか。それらがこれを可能にする。

「やはり王の器」

 気合を込めるように、扇子を左手の平にパシっと当てる。「では、参ろうか」

「おっしゃ、早く終わらせて、帰ってオナニーでもするか」

 伸びをして武田に続く優作、そして、静かに歩く西岡。

「はい、よーいスタート」

 

 

「どーゆーことじゃ! なんで栗金団(くりきんとん)本人と、あいつがまとめてた兵隊がどこにもおらんのじゃ!」

 組長室、大佐の怒号が響くと、マーズはビクっと肩を揺らした。

「えっと、わ、わからないです」

「割に合わないと思ったんじゃない?」

 マーズの隣で、緊張の様子が全くない神奈がそういった。

「まーあの人、殺し合いとかやる気ない感じでしたもんねぇ」

 更にその隣、咲蘭(さくらん)がいう。

 小柄で見るからに少女のような見た目だが、ぐっとそっている胸とその前で組まれた腕から、どこか分厚い印象を受ける。

「そういうタイプじゃん。お金も借りたもの借りっぱなしで。お礼の一つでもしたことあるの」

 更にその隣。軽あくびをしながら言ったのは紅海月(べにくらげ)。ツリ目に猫背。人より猫に近い少女。「私いってなかったっけ? アイツは信用しない方がいいって」

「あら? 私達の組に信頼する価値がある人間、いたことあったかしら?」

 薄ら笑いでそう返す神奈を、キっと大佐が睨んだ。

「しょうもないこと言ってる場合やないで。ほんまここが正念場や。頼んだであんたら。金は出す。全力でーー」

 バァン、という強烈な大破音とともに、床がかすかに揺れた。

 ここは地下の麻薬工場。地震でもない限り揺れることはないはず。

「何や!」

 とっさに窓に近づいて工場の中を除くと、大佐は絶句する。

 天井。上の工場から見たら床が、爆発があったかの様に穴が空いていた。

「こんちゃーす。戦争きました~」

 その穴の向こう。白い歯を見せて、遊びに来たかの様に笑う豪。

 むちゃくちゃをーー。

 瞬間、隣の窓ガラスが割れ、神奈が飛び出る。

 そのまま豪に突撃するかと思いきや、向こうからも飛び出た真締に止められた。

 宙でぶつかり合う二人の間には、金属同士を思い切りぶつけたかのような轟音が響いた。

「させない!」

「ザンネンネ、手負いじゃ私には勝てないわよ!」

 空中で体を捻り、蹴りを繰り出す神奈。

 うぐっと、唸り声が漏れるも真締の手のひらは祈りを作っていた。

三連突(三点バースト)

 鈍く光った真締から三連撃が繰り出されると、神奈は梱包場へと吹き飛んでいった。

「アイツは僕がやる!」

 天井を蹴って神奈を追う真締。

「まったく、ちょっとは考えて始めろよ」

 苦い顔をしながら豪の隣に経つ聖也がそう言うと、豪はハハっと白い歯を見せた。

「いやぁ~テンション上がっちゃってさ」

「お前は後ろで構えてろ、あんま前には出るなよ」

 聖也はそういって穴から地下工場へと降りる。

 それと同時。全3箇所の出入り口から豪組の構成員たちがなだれ込んできた。

 とっさに大佐は振り返り、三人残った三人に指示を出す。

「咲蘭と紅はそれぞれ、別の出入り口へいって、念能力者の相手してこい! 雑魚ども戦わせたら無駄死にするだけや。士気は向こうの方が高いやろうけど、数はこっちが上。地の利もある。とにかく、非能力者を守れ!」

「あの、私はーー」

 なにか語ろうとするマーズの頭を、ベシンっと大佐は叩いた。

「私を守るやつがおらなあかんやろ! あんたは私のそばに決まっとるがなアホ!」

 頭の叩かれた場所に、マーズは手を添えて「ごめん」と小さく謝った。

 糞が、やったるわ、やったろうやんか。

 大佐は決意をにじませながら、爪を噛む。

 アイツらぶっ殺したら、私が会長や。

 喧嘩うったこと、後悔させたるわ。

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