優乃
操作型能力 『
視界内にいる対象の口呼吸を封じる
やれやれ、こんなとこから始まるとは。
と思いつつも、とりあえず豪の作った穴から覚醒剤工場へと、聖也は降り立った。
工場のど真ん中。メインの覚醒剤製作所。
カラフルな薬液が、チューブを通ってビーカーや試験管に詰められている。
熱烈な歓迎、があるかと思っていた。
非能力者の20や30を相手する予定だったが、そのような洗礼はなく静かだ。
敵がいないわけじゃない、先程までせっせと覚醒剤を作っていたのか、割烹着にマスクをしている構成員がピストルや日本刀を持って、周りにまばらに10名ほど見える。
それでも、攻撃する様子も、近づく様子もない。
手を出さない様に言われているのか?
それ以前に、状況と飲み込めていない雰囲気も見える。
どうもきな臭い。そう思った瞬間、顔にめがけて飛んできた念弾を首を傾けて避けた。
「私が合図したらこいつを殺せ!」
そう叫びながらやってきたのは、優乃。
その後方には頭に包帯を巻いた桜も見える。
とっさに、近くにあった机の下に聖也は潜り込んだ。
アレは真締の報告にあった、能力者姉妹。
流石にアレを相手しつつ、周りの奴らに責められたら俺といえど苦しい。
ならーー
聖也は自分の体を包む様に両腕を交差させ、胸の前でクロスを作った。
そのまま跳躍。
机の少し上までくると、飛び立つ鳥のように、両手を広げる。
『
聖也を中心に八方へと広がる、念で作られた羽。
それらは周りの構成員たちを貫いた。
「姉様、後ろへ!」
手負いの桜をかばう様に、優乃は全身を堅で固めて前に出る。
各所からうめき声が聞こえ、バタバタと大佐組構成員が倒れる。
堅で固めているというのに、優乃の体は各所から血が吹き出る。
防御を固めた念能力者でこの威力なら、非能力者はショットガンを全身に浴びたようなものだ。殆どが死んでいる。
息があるものもいるが、戦闘に参加はできない。
「やるじゃん」
フラスコなどを踏み砕き、机の上に降りた聖也は笑って見せた。「雑魚なら今ので死んでるぜ」
「優乃、行きなさい! 援護する!」
「分かりましたわ!」
桜は左手、優乃は右手に、槍型に固めた念を握り、優乃が近づいて来る。
なるほど、と聖也は思う。
鼻呼吸と、口呼吸の阻害と、中途半端な能力と思ったが、最初からコンビネーションを前提とする能力にすることで、放出系の念能力の威力をあまり落とさないようにしている。
念も弱くないーーただ、考えが甘い。
真締を仕留められなかったお前らに、
「俺を討てる分けないだろ」
親指の付け根を重ね合わせ、手で鳥の形を象る聖也。
念を込め、それを前に突き出す。
『
鷲を型どった念弾がその手から放たれる。
距離は十分にあった。警戒もしていた。
しかし、その速さ。
優乃はとっさに横に避けたが、右の肘を弾がカスり、切断。
優乃の右腕が血を拭きながら宙を舞った。
「ウグッこ、このチンカス野郎っ」
「ゆ……の」
ハッとした優乃は、目を見開いて振り向く。
そこに見えたのは、左の鎖骨あたりを中心に、念弾によってポッカリと穴が開き、力なく膝をついていた桜の姿。
「逃げ……な……さい」
床に落ちた桜はそういって事切れた。
「素直に遺言、聞いとけよ」
両手を広げて、優乃に語りかける聖也。「俺はいいぜ、邪魔しないならな」
何も語らず、ただ桜を見つめていた優乃は、ゆっくりと顔を聖也のほうにやった。
その顔に、聖也は言葉を失う。
優乃の目は白目が黒く、瞳孔は血の様に赤く染まっていた。
鮮血を散らしたような匂いの、圧縮された念が、体の周りを漂っている。
殺意。逃げる意思なし。殺す。
そう思った瞬間に気がつく。
息ができない。鼻も口も。
死念。
桜の優乃を思う気持ちが、死後、優乃に自分の能力とオーラを受け渡した。
『
聖也は胸の前で手を交差させたが、優乃の放った槍を躱すた、構えを解いてその場でしゃがむ。
速い。
反撃の姿勢を取ろうとするが、一瞬にした間を詰めた優乃の裏拳が、聖也の頬を叩く。
衝撃で横に吹き飛び、床を転げ、机に激突して止まる。
依然、息はできない。
優乃は間髪おかずに追撃の姿勢。
とっさに起き上がる聖也は、低姿勢のまま、左手を前にし、弓を番えるような構えを見せる。
『
低く、鋭い軌道をした念弾を飛ばすが、それを優乃は軽く避けて見せると、胸を蹴り、仰向けに倒れた聖也の肩に槍を突き立てた。さらに腹を踏み込み、身動きを取れなくする。
呻く聖也。息は一度もできず、視界が霞む。
「簡単には殺さない、なぶって殺す」
優乃のギョロリとした目が聖也を更に睨むと、首を締め付けられるような感覚になる。
「ウグっ……カッ」
締めつけは顔を近づけられると、更に強くった。
「死ね……死ねっ……死っ」
瞬間、聖也の眼前は赤く染まった。
それは優乃の背中を貫いた、燕の念弾。
優乃は見えていなかった。
燕は低空から上へと軌道を変え、孤を描き、自分の心臓めがけ向かっていたことに。
『
もたれかかってきた優乃の死体を、聖也はどかすと、ふーっと深呼吸をして立ち上がった。
「やべぇやべぇ、結構ヤバかったぜ」
顔に掛かった血を拭っていると、後ろから近づく足音に気がつく。
振り向くとそこに立っていたのは神奈。
「あら! ちょうど終わったとこかしら。次は私の相手してもらおうかしら」
その顔には誰の返り血か、顎のあたりが赤く染まっている。
脳裏によぎる、真締の顔。
「真締はどうした?」
「さあ、どっかで死んでるんじゃない?」
「そうか」
視線を鋭くした聖也は、手を重ね、鳥を作る。「お前を殺して、ちゃっちゃと探しにいく」