放出系念能力『
鳥を象った念弾を放つ能力。
念弾は形とした鳥によって性質が分かる。
『
鷲(53)を象った念弾。
聖也の技の中で一番威力が高い。
『
威力は低いがある程度の操作が効く。
『
それでも、あまり手応えを感じなかったのは、彼女が熟練した強化系だからだろうか。
神奈が勢いよく落下したのは、麻薬工場の梱包現場。
袋詰めされた物が、棚にずらりと並んでいる。
その棚の一箇所。
激突してひしゃげた場所から、肩を回しながら歩く神奈。
「いいパンチね。なかなかやるじゃない」
「それはどうも」
憮然とした態度で、真締は空手の構えをとった。「あなたの蹴りも、なかなかですよ」
冗談やお世辞でもなく、事実効いた。
蹴りを食らった箇所だけではない。
体の各所。死神から食らったダメージが、まだ体に残っている。
それでもこの戦い、休むわけには行かなかった。
豪の会長になれるかの瀬戸際の戦いだ。
それに、悪いことばかりではない。
まっすぐ豪に突っ込んできたのを考えるに、神奈の系統は強化系。
戦いは肉弾戦。それにおいて、真締には圧倒的な自信があった。
『
たとえ、手負いであったとしても。
ただ懸念があるとすれば神奈の態度だ。
『
事実、神奈も警戒をしているだろう。
ただ顔に張り付いたかのような、人を小馬鹿にしたニヤケ面、それが消えない。
秘策。『
迂闊に能力は使わない方がいい。
「チョイヤ!」
左の腕を上にあげた独特な体制から繰り出される神奈の蹴りを、腕で防いだ。
見たことのない動きだが、どことなく中国拳法に似ている。
戦いは単純な打撃の応酬となった。
受けては叩き、叩いては受ける。
真締は空手の動きで。神奈は中国拳法らしき動きで。
オーラ量も、身体能力もほぼ五分。
そうなると、体にダメージを残す真締が押される形になってゆく。
神奈の変則的な裏回し蹴りが、真締の顎を捉える。
グラリと揺れる視界。
このままではまずい。
『
神奈が追撃の構えをした瞬間、真締は両手を合わせた。
鈍く光る真締。
それに対し、神奈はガードの姿勢を取ることはなかった。
逆に更に一歩前に出て、完全なる『
ーーなっ待て。
そう思い、真締が手を止めようとした時、もう遅かった。
『
ガハっと、神奈は大量に吐血する。
「殺すつもりはなかった」
それに対し、真締は少し申し訳なさそうにいう。「ただ、これは戦争だ。悪く思わないでくれ」
拳を引き抜くと、そこから大量の血を吹き出した神奈は、うつ伏せに倒れた。
クソ、と思いながら真締は死体に背を向ける。
心中を不愉快な罪悪感が渦巻いたからだ。
やはり殺しという行為に、自分は向いていない。
ただ戦争を行う以上、避けては通れない。
今は自分を押し殺して、早く大佐組長をーー
瞬間、背後に突然現れた気配と、左の腹部に来る重い衝撃。
「ウグッ」
せり来る嘔吐感をこらえながら、とっさに前に出て、距離を取った。
そこの立っていたのは、殺したはずの神奈。
分身? それとも別人?
色々と考えたが、神奈の顔に付いている血の後から、死後、復活する能力であろうと理解する。
どうりで『
アレは焦ったわけではなく、確実に自分を殺させるため。
謀られた。
不意打ちのため、念でしっかりとガードができなかった。
ダメージが重い。
腹を抑えて跪く真締に、それをニヤけ面で見下ろす神奈。
「なーに勝った気でいたのよ。相手がチリになるまで油断しちゃだめでしょ。さ、
死。
それが脳裏をよぎる。
「なにぼさっとしてんのよ。殺し合いは油断してるやつからーー」
念を込め、跳躍の構えを見せた神奈。
しかし、眼前に視界を遮るように現れた白刃が、その動きを止める。
「何? 私とやる気なの、あなた」
珍しく軽い怒りの表情を見せる神奈は、その刀の持ち主を睨む。
それに対し、瑠璃魔は焦ることなく、冷淡な表情で返した。
「いえ、あなたとは一応、仲間ですので」
「へえ、その一応仲間に刀だして、どういうつもり?」
「この殿方は、私が斬りたく」
「なにそれ。いいとこ取りがしたいってわけ?」
意味深な間のあと、瑠璃まは答える。
「まあ、そう思っていただいて構いません。タダとは言いません、今回の大佐からもらう報酬は、全てお渡しします」
「いやん、それなら先ゆってやぁ」
先程の表情が嘘かのように、神奈の顔は明るくなる。「もう全然ええよ~。はぁ~あ、今日はフグ刺しでも食べよ~かしら。あ~プリプリィ~」
一気にご機嫌になった神奈は、スキップしながら別の場所へと移動していった。
「一応、感謝しておきます。ありがとう」
真締は腹を抑えながら立ち上がる。「ただ、何のマネですか。今は戦争中。情は必要ない」
「分かっています。これが殺し合いであることも。ただ……そうですね、これは恩返しです」
「恩返し」
「ええ、あなたは私を殺せたというのに、生かしていただきましたから。彼女は強い、万全ではないあなたでは勝てません。ここで死にます。死ねば恩も返せません。生き死にの世界、死ぬことは必然。ならばせめて」
瑠璃魔は真締に向かい、刀を構えた。「私くしの手で、殺したく。それがせめてもの恩返しです」
「それは、どうも」
応じるように、真締も構える。「まあ、僕は死ぬ気なんてないですけどね」
各所では戦いが始まり、喧騒が聞こえる。
その中で、まるで静寂にいるかのように二人は見合い、視線を交わした。
死の匂いがする。
「死体は、どちらに」
「海にでも」
麻薬工場、情報処理室。
「ちょ、ちょ、ちょっと待って下さい! 待って! 助けて! 待って下さい! お願いします! アアアアアアアア!」
構成員の命乞い虚しく、優作はその胸を手刀で貫いた。
「よっしゃお前ら、ここは制圧した。次いくぞ」
顔に返り血を拭いながら、周りの仲間にそう語りかけると、殺気と勢いが交じる雄叫びが帰ってくる。
ここは大佐組の麻薬販売の情報をまとめた場所。
他の場所は大部屋で、場所によってエリア分けされているが、ここだけはドア付きの部屋になっていた。
情報保持の観点からだろう。
出入り口の廊下から入ってすぐの場所にあったので、とりあえず入って殲滅したが、どうも様子がおかしい。
武装はしているだろう、だがこちらの攻撃に準備している様子がなかった。
狼狽、混乱、戸惑い。
そんな状況で能力者もいないのだから、一瞬で殺し切ってしまった。
何かがおかしい。
もしかしたら、ここにいる構成員たちは、戦争があることを知らなかったのではないか。
そうでなければ合点がいかない。
額をポリポリとかいていると、周りに仲間がいなくり、しんとしていることに気がつく。
「ヤッベ、早く
とっさにドアの外にかけようとした時に気がつく。
血の匂い。それも、1週間ぶりに射精した時のような、濃度の髙い。
仲間が向かったであろう、ドアの奥から香ってくる。
たぶん、アイツらは……。
半ばの確信とともにドアを開くと、そこは地獄絵図だった。
首が折れた者。吐血して倒れている者。頭がなくなっている者。体を分断され、臓物をぶちまけている者。
血で染まったその薄暗い廊下に、一人、ぽつんと立っているのは、背の低い少女のような女だった。
このやろう。
そう思いながら、優作はツナギの胸ポケットからタバコを取り出し、咥え、火をつける。
「お嬢ちゃん、こいつはどういうことだい」
女はその問いかけに、わざとらしく、はっとしたような表情を返した。
「え? なにこれ」
女は何も分かっていないかのように、周りを見渡した・。「ドロッとしてて……変な臭いで。でもクセになっちゃう感じの臭いで、ほっといたら固まる……あれですか……精ーー」
語り切る前に、優作が右フックを放つが、それはすらりと避けられ、壁に打ち込まれた。
後方へと下がる女は、不愉快な笑みを見せる。
「ーーなわけないですよね血液ですよね」
「くだらねぇこと言ってんじゃねぇぞ」
くそ、やっちまった。と優作は思った。
念能力者と非能力者を戦わせないために、能力者を分けて突入させたというのに、自分の不注意で10人ほど殺してしまった。
優作は敵の顔を凝視する。
成人はしているはず。だが背は小さく、目は大きく童顔。
敵の注意リストにあった、咲蘭。
躱した動きの機敏さを考えれば、操作具現化系統ではなさそうだ。
「てめぇこんなことして、タダで済むと思ってんのかよ」
『
能力を発動すると、優作のチリチリの髪の毛から、8匹の操作された蜂が出てくる。
「ふーん、見かけによらず、
薄ら笑みでそういう咲蘭。
それに対し、優作は極めて冷静な態度で返答する。
「注意しておく。毒に気をつけな」
「はーい」
冗談めいた返答とともに距離を詰める咲蘭。
それを迎撃しようとする蜂たちだったが、機敏な動きで左右に揺れた後、跳躍して天井を蹴ると、優作に飛び蹴りを放つ。
優作は腕をクロスさせ、なんとかガードするも、勢いに体2メートルほど後ろに飛ばされる。
チク。
「イタ!」
何かを感じた咲蘭は後ろに飛び、優作と更に距離をとった。
痛みの元である首筋を擦ると、そこは赤く変色していた。
「それ、8回刺されたら死ぬぜ」
優作はその刺され後を指差し、そういった。
『
そのままではただの蜂を操る能力だが、注意喚起と能力内容を説明することで、8度刺されると強制的に死亡する能力になる。
「わざわざ説明するってことは、それが条件の能力ってことでしょうか?」
手練ならそのことはすぐに理解する。
「さぁ、どうだろうな。まあ、信じなくてもいいぜ、お前が死ぬだけだ」
優作は勝機を感じていた。
依然、咲蘭から他の能力を使う気配がない。もしかすると念は強化系かもしれない。
純粋な強化系だとすれば、かなり練度の低い能力者だ。
操作系である優作が攻撃をガードして、ほぼ無傷だからだ。
ビンビンビンビンビンビンビンビン。
周りの蜂たちが、優作の高ぶりに合わせて羽音のボルテージを上げる。
時間を掛けてる暇はない。さっさと殺す。
蜂と共に距離を詰める優作。
反撃はあるだろうがガードは容易。
それに、あと7回刺せれば勝ちだ。
それに対し咲蘭はグッと足を踏み込んだかと思うと、跳躍し、右、左と壁を蹴って縦横無尽に動いて見せる。
体が小さい分、パワーはないが俊敏だ。
目線から一瞬だけ外れたかと思った瞬間、優作に向かってまっすぐタックルをしてきた。
避けられない、が動きは単純。
優作はガードを行いつつも、同時に蜂で迎撃する。
チク。チク。チク。
三度、蜂が指した後、咲蘭が優作に激突した。
このまま一気に叩く気か。
問題ない、その間に後4度させる。
そうなれば勝ちーーそう思っていた。
咲蘭は優作にぶつかった後、その勢いのまま優作の後方、出入り口に向かって走り出した。
振り返り、咲蘭の背中を見ながら、優作は逡巡する。
逃げる。戦争を捨てると言うことか。
もう戦いに参加しないというのであれば、特に問題はないが、また別の入り口から入って、非能力者を叩かれても面倒だ。
『
ここは追う。
追撃の判断した優作は、その背中を追った。
動きは咲蘭の方が若干速いが、追えないことはない。
このままどこかに消えてくれるなら、優作はまた戦場に戻るだけだ。
百合工場の外に出て、咲蘭はなぜか工場の屋上に飛んだ。
もちろん優作も天井に乗る。
工場の電気は着いていない。
月明かりの中、薄っすらと咲蘭の背中だけが見えた。
逃げない。ここで勝負する気だろうか。
周りにもちろん味方はいないし、この暗闇では蜂の動きを捉えるのは難しいはず。
先程の細い廊下とは違い、ここは広い。咲蘭の攻撃が当たることはないだろう。
「鬼ごっこは終わりか?」
「う~ん、そうですね。追っかけられるのあんまり好きじゃないんで。恋も追われるより、追う方が好きなんですよねぇ」
「へー、そう」
素っ気のない返事と共に、咲蘭の周りに蜂を展開する。「ところでなんでこんなところに来た。死ぬ準備はできたってことか?」
「うーん、そうですねぇ。あんまり人様に見せるものでもないですし」
「そうか、じゃあな」
蜂たちが一斉に向かうが、咲蘭は背中を見せ、一切動く様子はない。
チク。チク。チク。チク。
心のなかでそう思ったと同時、さっさと戦場に戻ろとう考えていたが、すぐに違和感に気がついた。
手応えがない。
『
それがない。
そして、視線の先にいる咲蘭。その影も倒れる様子がない。
違和感はそれだけではなかった。
この女……こんなに大きかったか。
少女のシルエットが膨らんで見えた。
自分より小さい、背丈は高校生くらいのものだったが、いつの間にか自身を越し、肩幅も広く、足も力強い。
優作の頬を汗が伝った。
まるで、別人。
「お、お前いったいなんだ」
震える声で問う優作に帰ってきたのは、先程とはうってかわって、野太く、筋肉を感じる声だった。
「あんまり見せたくないのよねぇ、元の姿。こんなゴツい体、女の子らしくないでしょ!」
突如、近づいてくる咲蘭の影。
その姿はシルエット通り、2メートルほどの身長に筋骨たくましい肉体へと豹変していた。
毒針は刺さっていた。しかし、その筋肉と念に守られた体を穿けなかった。
「ひっ!」
振りかぶられた光速の右ストレートはガードをする前に、優作の顔面に直撃した。
体は投げられたボールのように吹き飛び、天井を2回跳ねて、百合工場となりの雑居建物に激突して停止した。
道路に落ち、瀕死の虫のようにピクピクと体を揺らした。
「へえ、生きてるんだ。結構強いじゃない」
いつの間にか、頭の隣に経つ咲蘭。
「な、なぜ力を
「理由は2つ。切り札は隠すものでしょ」