R×R ーレイパー×レイパーー   作:ケツマン=コレット

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 聖也

 放出系念能力『鳥の軌道(バードショット)

 鳥を象った念弾を放つ能力。
 念弾は形とした鳥によって性質が分かる。

鷲の軌道(イーグルショット)
 鷲(53)を象った念弾。
 聖也の技の中で一番威力が高い。

燕の軌道(スワローショット)
 威力は低いがある程度の操作が効く。


24

 『三連突(三点バースト)』は空中で放ったとはいえ、直撃をしていた。

 それでも、あまり手応えを感じなかったのは、彼女が熟練した強化系だからだろうか。

 神奈が勢いよく落下したのは、麻薬工場の梱包現場。

 袋詰めされた物が、棚にずらりと並んでいる。

 その棚の一箇所。

 激突してひしゃげた場所から、肩を回しながら歩く神奈。

「いいパンチね。なかなかやるじゃない」

「それはどうも」

 憮然とした態度で、真締は空手の構えをとった。「あなたの蹴りも、なかなかですよ」

 冗談やお世辞でもなく、事実効いた。

 蹴りを食らった箇所だけではない。

 体の各所。死神から食らったダメージが、まだ体に残っている。

 それでもこの戦い、休むわけには行かなかった。

 豪の会長になれるかの瀬戸際の戦いだ。

 それに、悪いことばかりではない。

 まっすぐ豪に突っ込んできたのを考えるに、神奈の系統は強化系。

 戦いは肉弾戦。それにおいて、真締には圧倒的な自信があった。

 『三連突(三点バースト)』の間合いで戦えるのなら、負けはない。

 たとえ、手負いであったとしても。

 ただ懸念があるとすれば神奈の態度だ。

 『三連突(三点バースト)』を食らったものは、すぐにその威力と速さを警戒するはず。

 事実、神奈も警戒をしているだろう。

 ただ顔に張り付いたかのような、人を小馬鹿にしたニヤケ面、それが消えない。

 秘策。『三連突(三点バースト)』に対して、有効な手があると考えられる。

 迂闊に能力は使わない方がいい。

「チョイヤ!」

 左の腕を上にあげた独特な体制から繰り出される神奈の蹴りを、腕で防いだ。

 見たことのない動きだが、どことなく中国拳法に似ている。

 戦いは単純な打撃の応酬となった。

 受けては叩き、叩いては受ける。

 真締は空手の動きで。神奈は中国拳法らしき動きで。

 オーラ量も、身体能力もほぼ五分。

 そうなると、体にダメージを残す真締が押される形になってゆく。

 神奈の変則的な裏回し蹴りが、真締の顎を捉える。

 グラリと揺れる視界。

 このままではまずい。

 『三連突(三点バースト)』を使うほかない。

 神奈が追撃の構えをした瞬間、真締は両手を合わせた。

 鈍く光る真締。

 それに対し、神奈はガードの姿勢を取ることはなかった。

 逆に更に一歩前に出て、完全なる『三連突(三点バースト)』の間合いに入る。

ーーなっ待て。

 そう思い、真締が手を止めようとした時、もう遅かった。

 『三連突(三点バースト)』の1撃目が神奈の首元を捉え、貫通していた。

 ガハっと、神奈は大量に吐血する。

「殺すつもりはなかった」

 それに対し、真締は少し申し訳なさそうにいう。「ただ、これは戦争だ。悪く思わないでくれ」

 拳を引き抜くと、そこから大量の血を吹き出した神奈は、うつ伏せに倒れた。

 クソ、と思いながら真締は死体に背を向ける。

 心中を不愉快な罪悪感が渦巻いたからだ。

 やはり殺しという行為に、自分は向いていない。

 ただ戦争を行う以上、避けては通れない。

 今は自分を押し殺して、早く大佐組長をーー

 瞬間、背後に突然現れた気配と、左の腹部に来る重い衝撃。

「ウグッ」

 せり来る嘔吐感をこらえながら、とっさに前に出て、距離を取った。

 そこの立っていたのは、殺したはずの神奈。

 分身? それとも別人?

 色々と考えたが、神奈の顔に付いている血の後から、死後、復活する能力であろうと理解する。

 どうりで『三連突(三点バースト)』の際に一歩前に出てきたわけだ。

 アレは焦ったわけではなく、確実に自分を殺させるため。

 謀られた。

 不意打ちのため、念でしっかりとガードができなかった。

 ダメージが重い。

 腹を抑えて跪く真締に、それをニヤけ面で見下ろす神奈。

「なーに勝った気でいたのよ。相手がチリになるまで油断しちゃだめでしょ。さ、2回戦()やりましょ」

 死。

 それが脳裏をよぎる。

「なにぼさっとしてんのよ。殺し合いは油断してるやつからーー」

 念を込め、跳躍の構えを見せた神奈。

 しかし、眼前に視界を遮るように現れた白刃が、その動きを止める。

「何? 私とやる気なの、あなた」

 珍しく軽い怒りの表情を見せる神奈は、その刀の持ち主を睨む。

 それに対し、瑠璃魔は焦ることなく、冷淡な表情で返した。

「いえ、あなたとは一応、仲間ですので」

「へえ、その一応仲間に刀だして、どういうつもり?」

「この殿方は、私が斬りたく」

「なにそれ。いいとこ取りがしたいってわけ?」

 意味深な間のあと、瑠璃まは答える。

「まあ、そう思っていただいて構いません。タダとは言いません、今回の大佐からもらう報酬は、全てお渡しします」

「いやん、それなら先ゆってやぁ」

 先程の表情が嘘かのように、神奈の顔は明るくなる。「もう全然ええよ~。はぁ~あ、今日はフグ刺しでも食べよ~かしら。あ~プリプリィ~」

 一気にご機嫌になった神奈は、スキップしながら別の場所へと移動していった。

「一応、感謝しておきます。ありがとう」

 真締は腹を抑えながら立ち上がる。「ただ、何のマネですか。今は戦争中。情は必要ない」

「分かっています。これが殺し合いであることも。ただ……そうですね、これは恩返しです」

「恩返し」

「ええ、あなたは私を殺せたというのに、生かしていただきましたから。彼女は強い、万全ではないあなたでは勝てません。ここで死にます。死ねば恩も返せません。生き死にの世界、死ぬことは必然。ならばせめて」

 瑠璃魔は真締に向かい、刀を構えた。「私くしの手で、殺したく。それがせめてもの恩返しです」

「それは、どうも」

 応じるように、真締も構える。「まあ、僕は死ぬ気なんてないですけどね」

 各所では戦いが始まり、喧騒が聞こえる。

 その中で、まるで静寂にいるかのように二人は見合い、視線を交わした。

 死の匂いがする。

「死体は、どちらに」

「海にでも」

 

 

 麻薬工場、情報処理室。

「ちょ、ちょ、ちょっと待って下さい! 待って! 助けて! 待って下さい! お願いします! アアアアアアアア!」

 構成員の命乞い虚しく、優作はその胸を手刀で貫いた。

「よっしゃお前ら、ここは制圧した。次いくぞ」

 顔に返り血を拭いながら、周りの仲間にそう語りかけると、殺気と勢いが交じる雄叫びが帰ってくる。

 ここは大佐組の麻薬販売の情報をまとめた場所。

 他の場所は大部屋で、場所によってエリア分けされているが、ここだけはドア付きの部屋になっていた。

 情報保持の観点からだろう。

 出入り口の廊下から入ってすぐの場所にあったので、とりあえず入って殲滅したが、どうも様子がおかしい。

 武装はしているだろう、だがこちらの攻撃に準備している様子がなかった。

 狼狽、混乱、戸惑い。

 そんな状況で能力者もいないのだから、一瞬で殺し切ってしまった。

 何かがおかしい。

 もしかしたら、ここにいる構成員たちは、戦争があることを知らなかったのではないか。

 そうでなければ合点がいかない。

 額をポリポリとかいていると、周りに仲間がいなくり、しんとしていることに気がつく。

「ヤッベ、早く戦場(現場)戻んなきゃ」

 とっさにドアの外にかけようとした時に気がつく。

 血の匂い。それも、1週間ぶりに射精した時のような、濃度の髙い。

 仲間が向かったであろう、ドアの奥から香ってくる。

 たぶん、アイツらは……。

 半ばの確信とともにドアを開くと、そこは地獄絵図だった。

 首が折れた者。吐血して倒れている者。頭がなくなっている者。体を分断され、臓物をぶちまけている者。

 血で染まったその薄暗い廊下に、一人、ぽつんと立っているのは、背の低い少女のような女だった。

 このやろう。

 そう思いながら、優作はツナギの胸ポケットからタバコを取り出し、咥え、火をつける。

「お嬢ちゃん、こいつはどういうことだい」

 女はその問いかけに、わざとらしく、はっとしたような表情を返した。

「え? なにこれ」

 女は何も分かっていないかのように、周りを見渡した・。「ドロッとしてて……変な臭いで。でもクセになっちゃう感じの臭いで、ほっといたら固まる……あれですか……精ーー」

 語り切る前に、優作が右フックを放つが、それはすらりと避けられ、壁に打ち込まれた。

 後方へと下がる女は、不愉快な笑みを見せる。

「ーーなわけないですよね血液ですよね」

「くだらねぇこと言ってんじゃねぇぞ」

 くそ、やっちまった。と優作は思った。

 念能力者と非能力者を戦わせないために、能力者を分けて突入させたというのに、自分の不注意で10人ほど殺してしまった。

 優作は敵の顔を凝視する。

 成人はしているはず。だが背は小さく、目は大きく童顔。

 敵の注意リストにあった、咲蘭。

 躱した動きの機敏さを考えれば、操作具現化系統ではなさそうだ。

「てめぇこんなことして、タダで済むと思ってんのかよ」

毒針注意(Beexic)

 能力を発動すると、優作のチリチリの髪の毛から、8匹の操作された蜂が出てくる。

「ふーん、見かけによらず、搦手(そっち)タイプなんですねぇ。こんな狭いとこで戦っても、不利じゃないですかぁ?」

 薄ら笑みでそういう咲蘭。

 それに対し、優作は極めて冷静な態度で返答する。

「注意しておく。毒に気をつけな」

「はーい」

 冗談めいた返答とともに距離を詰める咲蘭。

 それを迎撃しようとする蜂たちだったが、機敏な動きで左右に揺れた後、跳躍して天井を蹴ると、優作に飛び蹴りを放つ。

 優作は腕をクロスさせ、なんとかガードするも、勢いに体2メートルほど後ろに飛ばされる。

 チク。

「イタ!」

 何かを感じた咲蘭は後ろに飛び、優作と更に距離をとった。

 痛みの元である首筋を擦ると、そこは赤く変色していた。

「それ、8回刺されたら死ぬぜ」

 優作はその刺され後を指差し、そういった。

毒針注意(Beexic)』は操作した蜂を使う念能力。

 そのままではただの蜂を操る能力だが、注意喚起と能力内容を説明することで、8度刺されると強制的に死亡する能力になる。

「わざわざ説明するってことは、それが条件の能力ってことでしょうか?」

 手練ならそのことはすぐに理解する。

「さぁ、どうだろうな。まあ、信じなくてもいいぜ、お前が死ぬだけだ」

 優作は勝機を感じていた。

 依然、咲蘭から他の能力を使う気配がない。もしかすると念は強化系かもしれない。

 純粋な強化系だとすれば、かなり練度の低い能力者だ。

 操作系である優作が攻撃をガードして、ほぼ無傷だからだ。

 ビンビンビンビンビンビンビンビン。

 周りの蜂たちが、優作の高ぶりに合わせて羽音のボルテージを上げる。

 時間を掛けてる暇はない。さっさと殺す。

 蜂と共に距離を詰める優作。

 反撃はあるだろうがガードは容易。

 それに、あと7回刺せれば勝ちだ。

 それに対し咲蘭はグッと足を踏み込んだかと思うと、跳躍し、右、左と壁を蹴って縦横無尽に動いて見せる。

 体が小さい分、パワーはないが俊敏だ。

 目線から一瞬だけ外れたかと思った瞬間、優作に向かってまっすぐタックルをしてきた。

 避けられない、が動きは単純。

 優作はガードを行いつつも、同時に蜂で迎撃する。

 チク。チク。チク。

 三度、蜂が指した後、咲蘭が優作に激突した。

 このまま一気に叩く気か。

 問題ない、その間に後4度させる。

 そうなれば勝ちーーそう思っていた。

 咲蘭は優作にぶつかった後、その勢いのまま優作の後方、出入り口に向かって走り出した。

 振り返り、咲蘭の背中を見ながら、優作は逡巡する。

 逃げる。戦争を捨てると言うことか。

 もう戦いに参加しないというのであれば、特に問題はないが、また別の入り口から入って、非能力者を叩かれても面倒だ。

毒針注意(Beexic)』の能力は後、4回で発動する。

 ここは追う。

 追撃の判断した優作は、その背中を追った。

 動きは咲蘭の方が若干速いが、追えないことはない。

 このままどこかに消えてくれるなら、優作はまた戦場に戻るだけだ。

 百合工場の外に出て、咲蘭はなぜか工場の屋上に飛んだ。

 もちろん優作も天井に乗る。

 工場の電気は着いていない。

 月明かりの中、薄っすらと咲蘭の背中だけが見えた。

 逃げない。ここで勝負する気だろうか。

 周りにもちろん味方はいないし、この暗闇では蜂の動きを捉えるのは難しいはず。

 先程の細い廊下とは違い、ここは広い。咲蘭の攻撃が当たることはないだろう。

「鬼ごっこは終わりか?」

「う~ん、そうですね。追っかけられるのあんまり好きじゃないんで。恋も追われるより、追う方が好きなんですよねぇ」

「へー、そう」

 素っ気のない返事と共に、咲蘭の周りに蜂を展開する。「ところでなんでこんなところに来た。死ぬ準備はできたってことか?」

「うーん、そうですねぇ。あんまり人様に見せるものでもないですし」

「そうか、じゃあな」

 蜂たちが一斉に向かうが、咲蘭は背中を見せ、一切動く様子はない。

 チク。チク。チク。チク。

 ()った。

 心のなかでそう思ったと同時、さっさと戦場に戻ろとう考えていたが、すぐに違和感に気がついた。

 手応えがない。

 『毒針注意(Beexic)』の8回刺さったときの能力発動は、感覚で分かるはずだ。

 それがない。

 そして、視線の先にいる咲蘭。その影も倒れる様子がない。

 違和感はそれだけではなかった。

 この女……こんなに大きかったか。

 少女のシルエットが膨らんで見えた。

 自分より小さい、背丈は高校生くらいのものだったが、いつの間にか自身を越し、肩幅も広く、足も力強い。

 優作の頬を汗が伝った。

 まるで、別人。

「お、お前いったいなんだ」

 震える声で問う優作に帰ってきたのは、先程とはうってかわって、野太く、筋肉を感じる声だった。

「あんまり見せたくないのよねぇ、元の姿。こんなゴツい体、女の子らしくないでしょ!」

 突如、近づいてくる咲蘭の影。

 その姿はシルエット通り、2メートルほどの身長に筋骨たくましい肉体へと豹変していた。

 毒針は刺さっていた。しかし、その筋肉と念に守られた体を穿けなかった。

「ひっ!」

 振りかぶられた光速の右ストレートはガードをする前に、優作の顔面に直撃した。

 体は投げられたボールのように吹き飛び、天井を2回跳ねて、百合工場となりの雑居建物に激突して停止した。

 道路に落ち、瀕死の虫のようにピクピクと体を揺らした。

「へえ、生きてるんだ。結構強いじゃない」

 いつの間にか、頭の隣に経つ咲蘭。

「な、なぜ力を(がぐ)じてた」

「理由は2つ。切り札は隠すものでしょ」

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