西岡
具現化系念能力『
白と黒のマネキンのような人形を具現化する能力。
打撃攻撃を行え、武器も持たせることもできるが、基本的に戦闘能力は低め。
『
『
「ハッハッハッハ! さあ道を開けよ、狙うは将軍首よ!」
その光景は異様だった。
麻薬工場内は紛争の真っ只中。
銃弾や怒号の飛び交う中、戦いのど真ん中を赤い甲冑を身にまとい、黒茶の馬に乗った武田が敵を蹴散らしながら進んでいた。
右手に握る、風林火山と書かれた軍配団扇を打撃武器の様に振り、大佐組構成員たちを蹴散らしていく。
そのさなか、視界の隅に写った中二階にある、工場全体を見渡せるように作られた部屋が目に入った。
匂う。あそこにいる。
「あそこだ『
武田が扇でそこを指差すと、馬は上体を起こし、轟くような鳴き声をあげた後、力強く進んだ。
幅が広めの階段を、飛ぶように上って言った後、鉄の扉を馬のタックルでこじ開けて中に入った。
薄暗い部屋。
高級絨毯に金の装飾品たち。その中でも、ツヤの強い木目の机が目立つ。
その奥に立っていたのは、
「君が軍師かな?」
こちらにキリッした、普段から人を睨んだことがないのか、ぎこちない様子で鋭い視線を飛ばすのは、幹部のマーズ。
「ふむ、組長はどこに?」
ギリっとした表情のまま、マーズは答えない。
「大佐組長は策士と聞く。策士が戦の時にまず最初に作るのは……抜け道」
武田の探るような問いに、マーズの表情がかすかにブレる。
「……その、机の下かな」
「ここは……通さない」
マーズの周りを冷たく、湿気たようなオーラが漂う。
「なるほど、ではいざ尋常に」
武田が扇を目の前に構えた。扇の火の文字が発光し横に降ると、それは火をまとい、長い槍(形的には巨大なディルド)とかした。「勝負!」
念能力『風林火山』
4種の能力を扇から発動し、使うことができる。
『火』は扇が炎の巨大ディルドとなる。
「ハァ!」
槍で机を貫くと奥にいたマーズは横に躱す。
同時、口の下に手を添え、白い息を吹き出すと、それは空気中の水蒸気を凍らせ、キラキラと光った。
『
息の当たった武田の左肩が、白く覆われて凍るも、
「甘い!」
と肩をぐるりと回すと、氷は簡単に砕けた。「この程度で、ワシを取れると思うな」
槍を横に降ると、マーズの腕のガードに当たった。
接触部の服は焼け、切り傷は赤くただれた。
「熱っ、この」
マーズは自分の手のひらに息を吹きかけると、氷が固まっていきそれは氷の剣となった。
『
さらに、床に息を吹きかけると、孤を描いて武田に続くよう氷の道ができる。
『
スケートの様に氷の上を滑り、武田へと詰め寄るマーズ。
槍は大きい分、取り回しが悪い。
懐に入り込んだマーズは剣を武田の胸に突き立てた。
確かに武田の胸にめがけていた、しかし、剣は空を斬り、そこに武田の姿はなかった。
消えた?
そう思った瞬間に、マーズの頭を武田の扇が叩き、衝撃で横に吹き飛んだ。
「フム、見えなかったかな」
そう言って構えた武田の扇には、火ではなく林の文字が光っていた。
ハッとして受け身を取って視線を上げるマーズだったが、すでにそこには武田はいなかった。
視界の隅にかすかに動いた影だけ見える。
どこ……。
カンっとまた突然、扇で顎を打ち上げられ、連続して腹に扇がめり込んだ。
『林』 動きが俊敏となり、その動きから音が消える。
ヨロヨロと後退しながらよろめくマーズに、武田は語りかける。
「正直にいおう、貴様は弱い。念に才は感じるが、ワシには遠くおよばんだろう。無駄に命を落とすことはない、去れ。ワシは弱き者に興味はない」
「うる……さい」
体を震わせながら、マーズは睨んだ。「大佐は私が守る」
「弱いものは何も守れん」
「うるさい!」
叫びと共に、思い切り息を吸って『
先程放ったものとは違い、圧倒的な威力。
触れれば即氷結。息すらできぬ程、極寒の空気が床を凍らせながら武田へ迫る。
武田は冷静に扇を前に出すと、山の字が光った。
『山』 身動きができなくなるかわりに、強固なオーラが体の周りを纏う。
氷結の風は武田の周りを避けるように別れ、武田は祈っているかのように静かに佇んでいた。
「終わりかな」
『山』を解いた武田は肩についていた霜をはらった。「最後の忠告だ。去れ。でなければ殺す」
太い眉をぐっと近づけ、威厳のある声でいった。
肩で息をするマーズ。そっと目を閉じた後、負けじと睨み返した。
「私も、忠告する。これ以上やるなら、そっちが死ぬことになる。私は、大佐を傷つけようとするやつを、許さない」
その忠告に、武田は憮然とした表情で返した。
「なるほど、まだ力を隠しているというのか。ならっーー」
『林』の速さでマーズの裏に周り、『火』のディルドを発現する。「ならば見せてみよ!」
マーズの体を貫く槍。
心臓を狙った。だが、
「ウグッ、痛い!」
間一髪。マーズが両手で槍の軌道をそらし、それは肩を貫いていた。
氷の息を吹くも、武田は軽く躱してさがる。
「抵抗すれば、更に苦しむことになる。潔く逝ねぃ」
マーズは貫かれた肩に手を添えながら、大量の汗を流していた。
「た、大佐は……私が」
「案ずるな。その大佐という女も、ワシがすぐにあの世に送ってーー」
刹那。
マーズの冷たく、見開かれた目が武田を捉え、言葉に詰まった。
そして、その練りだされるオーラ。それに付随するイメージ。
武田はそのオーラに街一つを軽く飲み込む雪崩を連想した。
「ダネッ……ダネダネ(調子に乗りやがって)」
怒りで我を忘れた時、マーズの言葉はポケモン語になる。
「ゼィッ、ゼニゼニィ(大佐を殺すって。そんなのは許さない)」
額から吹き出る汗。胃からこみ上げる嘔吐感に、武田は打ち震え、笑っていた。
雑兵だと思っていたが、違った。これはとんだ掘り出しものだワッ。
「カゲ、カゲカゲ(大佐を傷つける奴は)……ピッピカチュウ(凍って死ね)」
マーズの纏っていたオーラは変化し、純白のドレスへと変わり、頭の少うえには半透明のベールが現れ、全身を覆う。
『
「チャモッ、チャモチャモッ!(この痛み返すよ。氷結に変えて)」
マーズが何かを包み込むように両手をだすと、その中に光り輝く念の塊が作られ、少しだけ上昇し鷹と思うと、そこから放たれた氷結が部屋全体に渦巻いた。
『
「ヌォッ、ヌオオオオ」
その寒さは念を纏ったとしても一気に身動きできぬ程になった。
マーズ本人はドレスとベールによって氷結からは守られているのか、静かに佇んでいる。
『山』でも長く耐えることはできない。ならばーー
『風林火山・終』
武田の最終奥義。
『風』の『鬼穴毛』 『林』の速さ 『火』の槍 『山』のオーラを纏った状態となる。
この間は『山』を発動していても動くことができるが、使用後は1日絶状態となる。
その後の戦闘は不能となるが、使わざるをえない。
「進め! 『
マーズとの距離は2メートル。普通なら一瞬で進める距離を、ブリザードを正面から受けながら、それに抗うように、一歩ずつ進む。
髪と髭は氷果てて落ち、まぶたは閉まらず、四肢の感覚はすでにない。
後もう少しのところで『
同時、武田は跳躍し、マーズに迫った。
「喰らえぃ!」
炎の槍を前に突き出し、ベールを突き破った。
が、その先、マーズの鼻先、ほんの数ミリ前で槍は氷付き、止まった。
全身が固まり、槍を前に出したまま動かなくなった武田は、ぎこちなく笑ってみせた。
「なる……ほど。一歩、及ばず……か」
「私をここまで傷つけなかったら、あなたは死なずにすんだ」
「死なず……? 何を言う。戦地こそ……武士の墓。死こそがほーー」
バリっと、武田の顔に亀裂が入ると、そのままボロボロと崩れ、小さな氷くずへとなった。
武士がどうだか、私の知ったことではない。
私は大佐を守りたいだけ。
そのためなら、いくらだって殺してやる。
……たぶん。……きっと。