R×R ーレイパー×レイパーー   作:ケツマン=コレット

28 / 29

念能力者図鑑

 紅海月

 特質系念能力「100万回食べた猫(ねこなべのナマエ)
 
 自らの体を猫の形状に変体させ、その身体力を向上する。
 
 念で耳や尻尾を作るがそれによって、能力のイメージ自分の中で作り上げることで、実際に身体能力や念の威力があがる。



27

 

 咲蘭は駆けていた。

 いつもは隠している本当の姿。

 身長2メートルの筋骨隆々の体はそのまま、建物の屋根伝いに進む。

 向かう先はどこでも良かった。とにかく、下北沢から。この戦争から逃げ出したかった。

 その体からは左肩から先がなくなっていた。

 焼かれたかのような傷口が痛み、左肩を掴む。

 と同時に震える。

 あの時、豪と相対したときのことを思い出し。

 もう嫌だ、あんなやつと戦うのは。

 勝てるわけがない。アイツは……狂ってる。

「どこにいこうとしてるんだ?」

 突然、背後から声が聞こえ、止まって振り返る。

 闇の中、3メートル先の民家の屋根に乗る男。

「条約をきいていなかったか。戦争参加者は下北からは出られない」

 その男は多田野会。多田野直属兵、大坊。

 右手にはリボルバーのピストルが握られていた。

「私はもう参加しないわ。この腕をみてよ。これで戦えるわけないでしょ」

「戦えるかどうかは問題じゃない。一度戦闘したやつは、戦争が終わるまでここからは出られない。その先からは下北じゃない」

「出るなら殺すってわけ?」

 大坊の持つリボルバーが、月明かりでギラリと光ったような気がした。

「従わなきゃ撃つぞゴルァ」

 数秒の間、大坊を見つめた後、ふっと笑って咲蘭は踵を返した。

「はいはい。直属兵の方の命令だもん。従うーー」

 咲蘭は一瞬、ぐっと踏み込んだかと思うと、大坊へと突撃した。「わけないだろ、死ね!」

「死ぬのはおめーだ」

 冷静に大坊は、リボルバーで自分のこめかみを狙った。

自分を撃つ(スーサイドショット)

「は?」

 パンっという快音。

 弾丸は放たれた。

 グラリと大坊は態勢を崩したが、コケる前に踏みとどまる。

「あんた……なに、して」

 疑問の声とともに気がついた。

 頭の中に鈍い痛み。広がる血液の感覚。

「うそ……これ……わた」

 バタンと落ちる巨体。

 その頭部には大坊が自分へ打ち込んだ場所に弾痕があり、血が吹き出していた。

自分を撃つ(スーサイドショット)』は、ルールを破ったもの、破ろうとしたものに、死の弾丸を与える。

 

 

 ガコっと重い天ドアを開けると、そこは監視事務所の地下室だった。

 いつもは瑠璃魔がここで円を貼っている。真締がカチコミにきた場所だ。

 いざというときは麻薬工場から隠し地下通路で、ここに逃げられるようになっていた。

 この戦いは負けだ。

 栗金団が逃げたことや、翡翠が先に死んでしまったこともあるが、向こうの戦力が想定以上に高かった。

 だが、問題ない。

 組員たちや念能力者も、また金で雇えばいいだけの話。

 トップである大佐がいれば、存続は容易い。

 すでに構成員候補や能力者の傭兵に、話もつけてある。

 とりあえず今は逃げて、さっさと車で隠れ家に逃げよう。

 そう思っていた時、ある異変に気がつく。

 物音がしない。

 上の建物では構成員たちがいるはずだが、人の気配を感じなかった。

 変だなと思い、ドアを開けて上の階にいったとき、大佐の目に入ってきたのは異様な光景。

 事務所の1階。

 そこは来客用にソファーやガラス張りの机。

 組事務所らしく仕事用の机もある。

 基本的にはヤクザらしく、ぶっきらぼうに座っていたり、取り立てなども行っているが、今は違う。

 部屋の隅から一列に並び、正座。

 全員が豪教の経典を必死に読み込んでいる。

 そして、それを行わせたのであろう、豪本人が、来客用のガラス机の上に座り足を組んでいた。

 豪の周りには信徒らしき、白フードの者が4人いる。

「あ、おじゃましてまーす」

 足を組んだまま、軽い調子で豪がそういった。

 大佐はちらりと出口を見る。豪の奥だ。邪魔される、走ってはでられない。

「ここはウチらの管轄の事務所やねんけど、何やってんねやろ」

「ん? あー、ちょっとここであんたを待ってたんだけど、そしたらソッチの構成員たちが、俺の教えに感動したみたいで、経典よませてあげてんだよね」

 読ませて上げているという割には、構成員たちは自発的に読んでいるというより、殺されたくないから読まされてる様にみえる。

「ソッチの兵隊はどうも使えないみたいだし、これで一騎打ちだな」

 豪はいった。「どうする。一対一(タイマン)する? そういうの苦手っていうなら、降参って手もあるぜ」

「そうやなー。どうしようかなぁ」

 大佐は返事をしながら、チラチラと後ろの自分が出てきたドアをみる。

 まだか。

「なに? なんか待ってるーー」

「チェリアー!」

 豪が何かを言いかけた時、独特な掛け声と共に大佐の後ろのドアが衝撃で金具は壊れ、豪へと飛んできた。

 豪はそれをサラリと横に避ける。

 入ってきたのは神奈。

 緊急収集を行ったので、秘密路を駆けて来たようだった。

 神奈の体からは淡い赤色の、鳥の跳ねのようなオーラを纏っている。

不死鳥降臨(フェニックスモード)

 神奈が短時間で10回以上、死亡から復活した時になる強化状態だ。

 この状態なら、体術だけなら真締を上回る。

「神奈! アイツを()れ、私は逃げる」

「お、いいオーラしてんねぇ」

 ニヤリと笑った豪は、隣りにいる白フードの信徒の肩に手を乗せる。「そんじゃあ、俺達もパワーを見せちゃおうかな」

 ブツブツと、いくつか豪は信徒と言葉を交わすと、信徒はブルッと体を震わせたかと思うと、その場に力なく倒れた。そしてーー

「あんた……なに?」

 驚いた様子で聞いたのは神奈。

 神々しい。思わず跪きたくなってしまうようなオーラ。

 それを豪が纏っていた。

 凄まじい濃度だった。まるで倒れている信徒のオーラを奪ってしまったかのように。

「これが俺の念能力『GO is GOD』 仲間の分だけ強くなれる。そういう能力さ」

 豪がそういった刹那。

 瞬間移動かと思うほどの速さで、神奈へ簡単に触れられる距離に近づく。

 とっさに神奈が攻撃しようとしたが、先に豪の拳が神奈の腹を貫いた。

 血肉と内臓が弾け飛び、大佐の頬に当たる。

「ヒッ……ヒィ!」

 大佐は腰を抜かしてその場にへたり込んだ。

 『不死鳥降臨(フェニックスモード)』の神奈を、赤子のように扱うやつから逃げられるはずもない。

「おいおい、ビビってる場合じゃないだろ。反撃のチャンスーー」

 ドカっと、話している豪の顎に復活した神奈の蹴りが当たる。

 拳は依然、腹を貫通しているがその状態で復活した。

 不意打ち。それも念を集中させた蹴りがあたったので、それなりにダメージがあったのか、拳を引き抜いてグラリとして後ろに下がったが、まだまだ余裕のある表情だった。

 圧倒的な差。

 それを感じた神奈の頬に、恐怖の汗が伝う。

「あんた……なんなの。なんでそんなに強く」

「いってんだろ、俺は仲間の分だけ強くなれるって。お前、面白い能力してんねぇ。普通じゃ殺せなさそうだ。なら、これならどうだろう」

 豪はバックステップすると、また一人の信徒の隣に立つ。

 ボソボソと、何かをつぶやくと、語りかけられた信徒はブルブルと体を震わせた。

「よ、よろしいのですか」

 信徒が震えた声でそういうと「ああ、頼む」と豪は返した。

「ハアアァ! 素晴らしい!」

 狂乱し、フードを外して顔を掻きむしる信徒。

 知らない男だった。どこにでもいそうな顔。

 少なくとも豪組の幹部ではない。

「ついに、ついに! 私もあなたの一部に!」

 男は数歩、神奈へと近づく。

 まだ攻撃が当たる距離ではない。神奈と大佐は身構える。

「ああ、この上ない幸福です! どうか、我が身をその後光へとお収めください!」

 男からオーラが発せられている。

 それは不安定で、荒々しく、そしてどこか神々しい。

 マズい。

 直感し、大佐は横に飛んだ。

「神奈、避けーー」

「神の御本へぇ!!」

 叫んだ男の体が内側からまばゆく発光したかと思うと、一本の閃光となって神奈へと襲いかかった。

 たとえ超人といえど、身体能力で避けれるものではなかった。

 ジュっという音とともに、神奈は光に包まれる。

 光が消えると、神奈の姿もそこにはなくなっていた。

 臭いがした。

 何度も嗅いだことがある、人体が焼け焦げた時に漂う、脂肪の焦げ付いた臭い。

 ふと、視界の隅に映る、黒いカゲ。

 恐る恐る、大佐が振り向くと、そこは壁。

 黒く、神奈の体の形をした影があった。

 男の放った閃光が、神奈を焼きつくし、壁にその後を残したのだ。

 復活。

 その言葉が大佐の脳裏によぎったが、神奈の『7転び∞起き(フェニックス)』は、死亡した時、残りの無事な体の部位から復活していく。

 全身を焼き付くされてはどこから復活するというのか。

 想定外……こんなことは、ありえない。

 そして、この光を放った張本人。

 あの男の姿もなかった。

「あんた……何なんや。何の能力なんや、これは」

「んあ? だからいってんじゃん、俺の能力は仲間の分だけ強くなるって」

「だから、それが意味わからんっていってんねん。さっきの消えた男も、ソッチの倒れてから起きひん男も、あんたのパワーもーー」

 ハッとして、とっさに大佐は手を口に当て言葉を止める。

 まさか……嘘だ。そんなのことはありえない。

 とある想定。それが脳裏をよぎると、頭の中がサっと冷たくなった。

 それは人がやることじゃない。

 恐怖で頭の中が真っ青になると、ニヤケながら豪が近づいてくる。

「ちょ、ちょっとまちや」

 後退り、神奈の影の隣に背をつける大佐。「降参。降参や。無理や、あんたにはかなわん。もう二度と顔出せへんから。私の工場も金も全部やる。頼む、殺さんで」

「あーん、ここで降参かよぉ。どうすっかなぁ、今いいとこなのになぁ」

 何かを考えるように顎に手を置き、その場をウロウロとした後、残った信徒の一人の元へ向かい、肩に手をおいた。

「大佐組長さぁ、わかるかな。ゲームで新しい超必殺技を覚えたらさ、昔の苦戦してたザコに撃ちに行きたくなる気持ち」

 さっと、頭から冷や汗が吹き出る。

「ちょ、ちょっとーー」

「コイツらにとっても、これはチャンスなんだよ。それと、今は必殺技かましたい気分なんだ」

 白い歯を見せて、豪はニコっと笑った。「んじゃな」

 発光する信徒。

「ちょっとま、私はーー」

 次の瞬間、大佐は光に包まれた。

 

 

 ピピピピ……ピピピピ……。

 瑠璃魔のポケットの中で通信端末が震えた。

 それは瑠璃家の連絡ツール。

 依頼(ミッション)が終了したことを告げるアラーム。

 それがなったのは、尻もちを付き、両手を床について倒れている真締の首元に、刀を添えた時だった。

「どうやら……終わったようです」

「なに?」

「私の雇用主が死にました。私の仕事も、これでおしまいです」

 瑠璃魔は刀を引き、柄の中にしまった。「命拾いしましたね」

「命拾いだって?」

 真締は膝に手をついて立ち上がる。「何度も殺せるタイミングはあったはずだ。手を抜いていたな」

 その問いに瑠璃魔は背を向けた。

「さあ、戦いに夢中で忘れておりました」

 すっとぼけたかのようにそういった後「一つ……よろしいでしょうか」と付け加える。

「なにか?」

「あの、豪組長という方。どのようなお人ですか」

 質問の意図がわからず、真締は眉を寄せる。

「それは、どういうことだ。彼は僕らの組長。僕の親友だ」

「信頼、されているのですね」

「当たり前だ!」

 探るような問いに、真締は声を大きく答えた。

 その後、なにか思案するような深い間を持って、瑠璃魔は答えた。

「彼に……なにか感じたことはありませんか。例えば、邪悪ななにかを」

「それはっーー」

 反論しようと思った。

 豪はそんな男ではないと。

 だが、あの時の光景。無邪気に、何の邪念もなく人を消した時のことを思い出す。

「お気をつけて。私は数多の人間の汚れた部分を見てきました。そのうえでいいます……彼は少なくとも、人ではありません」

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。