特質系念能力『GOisGOD』
発動には協力者が必要な
協力者は豪教の敬虔なる信徒であることが条件で、それに対して豪が能力を発動すると念能力者として覚醒させることができる。
その後、覚醒者は死念を使用し、豪へ能力やオーラの一時的譲渡や、高濃度の閃光になることも可能。
「なにを……言っているんだ」
戦争は終わった。
大佐組長が死亡したことを通達した瞬間、大佐組の構成員たちは一斉に降伏。
そもそも忠誠心もなく、逃げ出さないために戦争のことも知らされていなかった彼らは、降伏に抵抗はなかった。
ただ、そんなことはどうでもいい話だ。
今は豪の話し。
咲蘭を倒し、彼女から秘密路の話を聞いて、先回り。
その大佐と助けにきた神奈を殺害。今に至る。
そして、その際に使用した念能力。
「んあ、だからよ」
そこはいつものGO殿、来客室。真締、聖也、豪の三人だけがいる。「死念ってあるだろ。死後強まる念ってやつ。それを自由に使えないか考えてたんだよ。利用すれば熟達した人間じゃなくても、強力な力になるからな。そこで考えたのが、誰かに代わりに死んでもらう方法だ。豪教は俺が作ったけど、死への恐怖をなくすために死ぬことは素晴らしいことで、最終的には光になると教えてる。まあ、俺の一部になると解釈するわけだ。これで俺は熱狂的な信徒の数だけ死念のパワーが使えて、あいつらは喜んでーー」
「なにを言ってるんだ君は!」
真締の怒号はGO殿全体に響き渡るほどだった。
「おいおい、どうしたんだよ急に」
豪は悪びれる様子もなくそういう。
「豪、君はーー」
「おい、真締」
前に出そうになった真締の体を、聖也が手を前に出して制する。「ちょっと落ち着け」
キッと、真締は聖也を睨んだ。
「君は落ち着いてられるのか。こんなのーー」
「気持ちは分かってる。でも、落ち着いて話せよ。話が前に進まねぇし、らしくねぇ」
真締は粗くなった呼吸を整え、豪をにらみながら。
「そうだな」
といってソファに座り、左手で頭を抱えた。「これは……君が考えた能力なんだな」
「ああ、そうだぜ」
軽い返答。
叫びたくなるような感情を、ぐっと押し殺す。
「それで、死んでいく人間に、なんとも思わないのか」
「俺が死んでくれって頼むんじゃない。希望制だよ。自発的にくるやつじゃないとしないさ」
「だとしても……そんなのは間違ってる」
「いやぁ、考えかた次第だって。正直いうけど今こまってるんだよ。早く光になりたいってやつがいっぱいいてよ。次はまだかってうさくてーー」
突然、立ち上がる真締。
それで豪は言葉を止める。
下を向く真締の顔は暗く、今にも人を殺しそうな勢いだった。
「ちょっと……頭を冷やしてくる」
二人には目も合わせずに、真締は部屋から出た。
外。GO殿には庭があり、サッカーができるほどに広い。
その真中で呆然と空を眺める。
頭が考えることを放棄しているようだった。なにも考えが浮かばない。
「真締」
後ろから声がする。
聖也だ。真締は振り返らない。
「聖也。君は納得してるのか」
なにかを考えるような間があった。
きっと頭でもかいているのだろう。
「正直言うと……俺も完璧に正しいとは思えねぇ」
「正しいわけがないだろう。命を、まるで使い捨てみたいに」
「ただ、別に強制してうるわけじゃねぇ。自分の意思で命を豪のために使いたいってなら、もうそれは……そいつらの問題であって、俺等は関係ない」
「希望とかどうとか関係ない。そんな能力の存在自体がおかしいんだ」
「豪がおかしいっていいたいのか」
真締は振り返り、聖也と見合った。
「そうだ。やっぱり、豪に念能力なんて、教えるべきじゃなかった」
ふーっと、聖也は重い溜息を漏らす。
「だったら、もう辞めるのか。お前と俺の二人で、アイツを会長にするんじゃなかったのか」
「豪を……会長にしてもいいのかな」
「んなもん、会長にしてから考えようぜ」
会長になってからじゃーー
そう思った真締は、諦めたかのようにため息をついた。
「それもそうか」
「だろ。ほら、さっさと戻ろうぜ。たかが1勝しただけだ。まだまだ戦争は続くぜ」
「ああ、そうだな」
先に歩いていき、豪殿に向かう聖也の背中、それを見ながら真締はつぶやいた。
「ごめん、聖也。決めたよ……僕が責任を取る」
僕が……豪を殺す。
パチパチと火の着いた薪が、時折割れて火の粉を散らした。
その赤い点がふわふわと浮かぶのを、木村はじっと見ていた。
下北は大きい。
市街地から遠く離れていない場所にも、田んぼや山のある地域がある。
その一つ。白麗山の9合目ほどにある、白麗神社。
ボロボロで小さく、遠目から見たらバス停のようにも見えるが、確かに立派な神社だ。
卯月組、念能力者一同は、ここに身を隠していた。
木々の生い茂る山だ。簡単に見つかることはなさそうだった。
「そろそろね」
その焚き火の奥。
対面に座っていた伶兎がそういった。
「動くのか」
そう問いかけると「ええ」と返事をして立ち上がった。
「豪組と大佐組がカチ合って、豪が勝ったと連絡があった。一気に豪組が会長に近づいたってわけ」
「邪魔だな。だが、豪組も疲弊している」
「そう……だからそこを狙う。行くわよ。豪組長を倒しに」
ヤクザの情報網は広い。
それは組織の規模が大きくなるに連れて、比例する。
ただ、情報が入ってくるものの、大半はガセが占める。
白麗山に怪しい動きがある。
その情報も溢れたガセの中の一つだった。
上の人間たちも、わざわざ信憑性の低い情報を調べさせはしない。時間と労力の無駄だ。
もし、そんなものを調べる奴がいるのだとしたら、暇を持て余し、組内で地位を上げたいと思う者。
「わぁ、ここが白麗山ですか」
周りの木々を見渡してそういったのは、逆三角ボディビルダー体系の向井。
「ここは7合目で、向こうから卯月組らしき女がいたというんだ。早くそこへ行こうよ」
そういったのは鈴木。
向井と比べると一回り小さく見えるが、体はガッチリとしている。
彼らは二人は平野組構成員であり、念能力者。
表立った戦争もなく、ただ手をこまねいている戦闘員は、平野組には多数いた。
そのため、このように自ら動き、手柄をたてようとするものは少なくない。
二人共、絶があまり得意ではないが、なるべく抑えながら白麗山を進んでいく。
8合目に入って少し歩いたところ、木々の開いた場所に大きな川が見えた。
そして人影が一人。
こちらに背を向けて釣りをしている、長身の女。
こんな場所で一人釣り。
怪しい。オーラは無いが匂う女だ。
「お嬢さん、すこしーー」
向井が話かけようと一歩前に出たとき、不意に鈴木に肩を掴まれたかと思うと、視認できない速さで何かが眼の前を横切った。
それは女が持っていた釣りの先端。釣り針だった。
「いまので
釣り針はヘビのようにうねり、女が手にもつ竿にくるくると巻き付いた。「ソッチの男が止めなきゃ、
向井、鈴木。両名の心拍がドンっと上がる。
それは眼の前の女が卯月組の戦闘員、幸村だっったからだ。
噂はガセではなかった。ここに、卯月組長はいる。
好機。これを報告すれば、かなりの評価につながる。
別に戦う必要も、始末する必要もない。今は逃げることを考える。
「釣りの邪魔をして、失礼しました」
一般人を装った鈴木がそういった。「僕らはたまたま迷い込んだだけでして、私有地であったなら謝ります」
「下手な芝居ね。その程度の絶で私を騙そうと思ってるなら、大間違いなんだけど」
鈴木の眉がピクっと動くと、横目で向井と見合う。
このまま踵を返して逃げてもいい。
ただ、ここは山奥で向こうの知り尽くしたフィールド。そこで戦うのは不利だ。
その結果、最悪なのは逃げてる最中に分断されて、各個で戦わされること。
仲間が他の場所にいないとも限らない。こうなったらーー
『DEAD ROOM』
鈴木が能力を発動した瞬間、透明の壁が3人の4方を囲った。
『DEAD ROOM』は透明な念の壁で対象と自分を89.3メートル四方で囲い、周りに邪魔をさせない能力。
それは放出系である向井に取って、最も戦いやすい距離感だ。
『
向井は左拳を胸の前に突き上げると、念弾が顔の前のあたりに浮き出した。
それを右の拳で撃つと、視認できないほどの速さで幸村に飛んでいく。
幸村がとっさに飛んで避けると、念弾は後方の森へと着弾した。
強烈な土煙と共に、爆発音をあげ、大量の木々が弾け飛ぶ。
「大惨事ね」
川辺におりた幸村は冷静にそういった。「辞めてほしいわ。川が濁る。あなた達みたいな自然を大事にしない奴ら、大嫌い」
返す言葉はない。
向井が2発目の『
敵を『DEAD ROOM』で捕らえ、『
二人の必勝パターンだ。
2発目は避けた幸村の足元に炸裂。強烈な水しぶきをあげ、その中に幸村は消えた。
鈴木はそこに詰めいらない。
『
飛沫の中から幸村が出てくるのを待っていると、出てきたのはまた釣り針。
鈴木はそれを余裕を持って下がり、避ける。急な攻撃だったが、避けれない速さではない。
そして確信する。
幸村の念能力はあの釣り竿。
釣り竿は具現化したものか、もしくは実物のものを強化したもの。
具現化系の能力者なら、手元にないからといって油断してはいけない。陰によって見えなくすることが可能だからだ。
だが、その可能性は薄い。
具現化系はいつでも使える特殊能力のついた武器を、すぐに出し入れできる分、適応力が低い。単独の守衛には適していない。
この状況とうねった釣り針の動きから察するに、実物の竿を強化した放出操作系の分類である可能性が高い。
それならーー
「サイドチェスト!」
鈴木が叫ぶと「了解」と向井は返答して3発目の念弾を用意する。
サイドチェストは念弾を撃ちつつ、距離を詰めろの合図。
武器を強化するタイプの強化系や操作系なら、持っている武器を無力化すれば勝ち。
おそらく釣り針になにか念能力による仕掛けがある。
無理して詰めはしない。『DEATHROOM』によって援軍は絶対にない。スキがあったときに一気に竿を叩く。
幸村が竿を振りかぶったかと思うと、思い切り振りおろし、釣り針を鈴木に飛ばす。
距離はしっかりと取ってある。余裕を持って避ける。
前に出て、鈴木の隣まで来た向井が4発目の念弾を打ち込むが、それは横に避けられ上に逸れて空に消えていった。
それでいい。無理に足元に打てば、視界が悪くなる。
「ダブルバイセップス」
ポツリと向井がいう。
次の攻撃と同時、肉体で追撃を行うという意味。
静かに頷く鈴木。
攻撃の気配、それを感じたのか幸村は竿を回し、頭上に釣り針を回転させる。
風切り音を何度か鳴らすと、向井の方に竿をふった、がすぐに竿を横にやり、針は鈴木へと向かう。
とっさのことにあっけに取られる鈴木。
釣り針は二の腕に刺さったが、体を引いていたことで引っかかりはせずに、二の腕から肘にかけての切り傷だけですんだ。
「今だ!」
鈴木が叫ぶ。
攻撃をして態勢が崩れている、今がチャンス。
向井が4発目を準備し、鈴木はすぐに飛び込めるよう、腰を少し落として構える。
胸筋が興奮でピクピクと痙攣する。
勝利の予感だ。
全力で『
これで幸村は確実にーー
瞬間、鈴木の耳をつんざく破裂音。
衝撃で吹き飛ぶ体。全身に響くダメージに、止まらない耳鳴り。
気がつくと地面に突っ伏していた。
口に入った土を吐きながら顔を上げると、そこに映っていたのは、こちらに向かって『
その時、気がつく。幸村が伸ばしている手。
それには釣り糸が握られており、まっすぐ向井へと伸びていた。
「手釣りってご存知かしら? 立派な釣りなのよ。私の念能力は『
笑みを作ってそう語る幸村。
やはり、操作系念能力者。
執拗に攻撃力の高い向井ではなく、補助役の鈴木を攻撃していたのはブラフ。
確実に向井に攻撃を当てるための。
「鈴木さんっ……鈴木さん、ああ!」
狼狽する向井。
意識はあるのだろうが体の自由はきかないようだった。
戦闘不能の鈴木。操作された向井。
こうなってはもう、まな板の上の鯉。
向井は目を閉じ、ただ捌かれるのを待った。
「ーーっていうわけで、僕は雇用主を失くしちゃったわけなんだ」
「それで……うちに来たというわけか」
平野組、組長室。
平野と田所。
「豪って子とヤり合いたい。フィールドを準備をしてくれるなら、彼を殺してあげるよ」
その心中になにを思うか。
瞑目し、静かに思案を始めた。