放出系念能力『
肛門からオーラを放出。その推進力で攻撃する。
速度はマッハ1に達し、並の念能力者には何が起きているかわからないままに戦闘不能になる。
『
オーラを限界まで溜め込み肛門へのダメージと引き換えにマッハ2の速度に達する秋吉の奥義。
その威力から一日に1度の制限があり、2度目を使うとケツが弾け飛んで死ぬ。
「今日も取り立て楽しかったなぁ~。早く帰って鬼電(鬼のように電話をかけまくること)しなきゃ」
アクシードファイナンスと呼ばれる闇金を運営している
アクシードファイナンスの事務所百メートルほど手前、路地から突然人かげが飛び出たと思うと、腹に衝撃を感じ、痛みとともに気を失った。
「ぶぇあ! え……ここは?」
秀和は起きた出来事に困惑しながらも周りを見渡すと、すぐに蓮が顔を近づけ、睨みを聞かせた。
「よぉ、おはよう。どういう状況かわかるか?」
秀和は怯えた様子で首を横に振った。
ここは多田野会平田組の事務所の地下室。
鉄格子と壁にかけられた道具を見れば、拷問室も兼任していることはすぐに分かるだろう。秀和がいるのはその鉄格子の中だ。
平野組若頭の蓮の隣には、組長の平野も腕を組んで立っていた。
アクシードファイナンスのケツ持ちは平野組。
別の闇金とのトラブルやその他ゴタゴタなどを、いざという時に代わりに処理する立場にある。
簡潔にいうと親分子分の関係だ。
「あの……ごめんなさい、よくわかんないです」
秀和は震えながら、自分の胴にくくりつけられたロープを見たあと、顔を上げてそう答えた。
「君にはスパイの疑惑が立っている」
身長180センチの平野は、高く秀和を見下ろしながら組長らしく威厳を持っていった。「大人しく真実を答えれば命だけは助けよう」
「し、ししらないです。僕はただのアクシードファイナンスの従業員でし!」
秀和がそういうと、蓮と平野の二人は黙って顔を見合わせた。
「そうか、悪かったな」
先程までの形相が嘘かのように、蓮は優しく語りかけた。「喉乾いただろ、これを飲みな」
蓮は独房内のすみに床置きされていたペットボトルを1つ渡す。
「あ……ありがとうございます」
秀和の体は椅子にくくりつけられているが、手は自由だ。
秀和が喉を鳴らして水を飲むと、蓮はネクタイを外しながらゆっくりと後ろへ周り、そして、
「グゥ!」
そのネクタイで秀和の首を締あげると、手にあったペットボトルが床に落ち、水が広がる。
「いいねぇ」
ぐっとネクタイを締め上げる蓮の表情は恍惚に満ちていた。「俺はなぁ、お前みたいなクソガキの悶絶顔が大好きなんだよ!」
首を締めることに夢中になり、一向に要件を言わない蓮に対し、平野はしびれを切らし「蓮、少し緩めろ」と指示を出した。
「秀和君。君は豪組が運営しているGO殿に行ったことはあるか?」
「え……いや、行ったことないです」
「しらばっくれてんじゃねぇぞごら!」
蓮は壁にかけられた竹刀を手に取ると、秀和の太ももに打ち付けた。
「でぁ痛い!」
打ち付けられた部分は赤く腫れ上がり、秀和は悲痛の叫びをあげた。
「証拠は上がってんだよオラオラぁ!」
蓮は秀和がGO殿に入ろうとしている写真を顔に叩きつけた。
これでは、秀和は写真の内容を見れないだろう。
鼻でため息をついた平野は床に落ちた写真を拾い上げ、それを秀和の顔の前に突き出した。
「これは君だね。勝手ながら君の部屋も調べさせてもらった。GO教の経典も見つかった。言い逃れはできない。君が知っていることをすべて話せ。命が惜しいならな」
秀和はブルブルと目を震わせた後、強く首を横に振った。
「い、いや。それ僕じゃないです。僕はGO殿なんて行ってないでーーウギャア!」
赤く腫れ上がった腿に、更に竹刀が振り下ろされる。
「行ってるのに行ってないってのはおかしいよな。行ってるのに行ってないってお前おかしいだろそれよォ!コラァ?!」
怒りに顔を赤らめて竹刀を何度も振り下ろす蓮に、それに悶絶する秀和。
そのさまを平野はパイプ椅子にどかっと座り込み、眺める。
本来であれば調教拷問はその道のスペシャリストであり幹部の拓哉に任せているのだが、今は表の仕事である漫画家としての仕事が忙しくて不在だ。
拓哉の表の顔、久保帯人として週刊少年ジャンプで連載中のBLEACHがアニメ化の真っ只中だからだ。
BLEACHは平野組の収益の8割を締める。たかだか一人のスパイのために呼ぶわけにもいかない。
そもそも、この程度のミスを犯すやつは大した立場にもいないだろう、というのが平野の考えだ。
大した志もない。蓮の雑な拷問でもそのうち吐くだろう。
そう思っていた。
30分。
なかなかに壮絶な拷問だった。
水攻めからろうそく攻めまで一通り行ったが、秀和はなかなか口を割らない。しかもしれだけではなく、
「オジサンやめちくり」
言葉の端々や表情からまるで挑発をしている用に見え、それを感じると、
「吐けよオラァ!おい!YO!」
と蓮は更に力を強める。
蓮のやり方が悪いのか? それともこの秀和という男の忠誠心がそうさせるのか?
一発、ニ発、三発。
振り下ろされる竹刀を呆然と見ていたその時、気がつく。
「蓮、そこまでにしろ」
蓮は振り下ろそうとしていた竹刀を止めて、平野の方に振り返った。
額から汗を流し、肩で息をしている。
「平野さん。いや、こいつがだいぶタフでして。でももう少しで口を割りますよ」
「どうにしろ、こいつに時間を費やしている暇はない。後は拓哉が帰ってきたときに任せて、俺たちは――」
平野がそう言いかけたとき、不意に秀和と目が合う。
その目には、ほのかに薄ら笑みが浮かんでいた。
「『
気がついたことに勘づかれた。そう思った瞬間、平野は能力を発動させる。
懐から念が込められたロープが飛び出ると、平野はそれを操り、蓮の体に巻き付け、後方へ引かせた。
「『
瞬間、秀和も能力を発動。
秀和の影から謎の黒い手が飛び出ると、それは人の手とは思えないほどに伸び、蓮の喉を掻き切ろうとしたが間一髪、空を切った。
「蓮、大丈夫か?」
尻もちをついて隣にへたり込む蓮に、平野は言った。
「はい……大丈夫っす」
影からの手がかすり、切り傷ができた鼻をさわりながら蓮は返した。「すいません、気が付きませんでした。このバカが念能力者とは」
「気に病むな、私もさっき気が付いた」
念能力者とそうでないものは、体から出ているオーラで判別できるが、この秀和という男はそれを擬態していた。
簡単にできることではない。相当の手練だ。
「にょにょにょ」
秀和は先程の恐怖に打ち震えていた様子が嘘かのように、特徴的な笑い声とともに、口の脇から流れ出ていた血を拭った。「沢山痛めつけてくれたにょ。これで、僕の超人サイバーZは最大のパワーになったにょ。正義の力でお前ら悪の組織をぶっ潰してやるにょ!」
本性を示した秀和の影から、具現化されたサイバーZらしき念体が現れる。
その姿は正義の味方とは程遠い。
全身がおどろおどろしい黒と紫の間の色をしている。
全体は人形に固まっているが、輪郭は炎の用に揺らめいていてつかめない。
そしてその異質なオーラ。
そのワードが平野の脳裏をよぎる。
念能力の中で、相手の攻撃やダメージをトリガーとして発動する能力。
自発的に発動できない分、条件を満たしたときの威力は絶大。
秀和は蓮の竹刀を受けるさい、その部分だけ絶状態として受ける痛みをあえてましていた。
憶測だが、これは受けたダメージ量に伴に念体の力が増幅されるタイプだ。
蓮の30分による拷問は秀和の能力を最大限まで高めていた。
その擬態能力とオーラの量を見ても秀和は熟練者。
二人がかりでも勝てる見込みは薄い。
秀和はサイバーZにロープを切らせると、不敵に笑いながらサイバーZの隣に立つ。
外につながるドアは鉄格子の向こう。平野から見て右側。
出入り口は鉄格子の中央にあるが、鍵が閉まってある。
一旦外に出て体制を立て直すべきだが、もちろん対面している秀和もその考えは分かってる。
簡単には外に出してくれないだろう。
「平野さん」
竹刀を握る腕を怒りに震わせながら、蓮は言った。「俺が命がけで時間を稼ぎます。その間に外に出てください!」
蓮の能力は『アングリーアンクル』
怒りの感情に比例してオーラの量が増幅される強化型。
「今の俺は怒りの臨界点です! なんとしてでもクソガキぶっ殺します!」
そうは言っているものの、相手は完璧に条件を満たした迎撃型。
蓮の能力も同じく条件によってパワーが上がる能力だが、怒りとは条件がさほど難しくない。
リスクとはバネ。制約と覚悟が大きいほど、念は強く働く。
これを括約と活躍。制約と誓約とも呼ばれる。
たとえ秀和が格下で合ったとしても、括約を満たした相手に勝てる見込みは薄い。
内部戦争間近。
若頭であり戦闘員の中でも指折りの蓮をここで失いたくない。しかし、
「あいつに襲いかかると同時に、鉄格子を壊せるか?」
平野はそう問いかけた。
平野組の未来のため、自分がここで死ぬわけにはいかない。
「いけます! テメェのケツは、テメェで拭きます!」
蓮はツバを飛ばしながらそう激しく吠えた。
蓮、すまない。
平野は胸の中でつぶやいた。
「にょにょにょ。最後の会話は楽しんだかにょ?」
不愉快な笑い声とともに、秀和はそういった。
こちらがやり取りを行っている間も、秀和は攻撃する素振りを見せなかった。
こちらの出方を伺っているのか、具現化させた念体であるサイバーZの有効範囲外なのか、それはわからない。
「カウントダウンする」
平野はゆっくりと蓮の後ろに隠れながらそういった。「1で突っ込め」
「はい」
左手を蓮の背中に置くと、その体が震えているのがわかった。
怒りか、恐怖か。もしくは両方か。
平野の頬に、汗が一筋つたう。
秀和は変わりなく、こちらをみて笑っている。
「3…2…ーー」
瞬間、鉄格子の向こうの扉が開いた。
「お! やってんねぇ!」
そこに立っていたのはオールバックに紺のスーツ。
黒縁のプラスチックメガネがよく似合う、平野組戦闘員、
「新庄ッ!」
カウントダウンを忘れ、平野がそう叫んだ瞬間、
「2号!」
秀和が応じるようにそう叫ぶ。
影からサイバーZの2体目が現れると鉄格子を鋭利に尖った両手で切り裂き、一瞬でバラバラにしてそのまま新庄へと襲いかかる。
振り下ろされる2号の手の切っ先が新庄の額に触れようとした瞬間、
『ギザギザ鎖《チェーン》の
新庄の上げられた両手。それに握られていた念で作られた鎖が寸前のところで2号の手を止める。
鎖にはチェンソーのように小さな刃が並んでおり、高速回転して接点に火花を散らした。
「お、硬いねぇ! いい念してんじゃん!」
まるで新しいおもちゃをもらった子供のように新庄が笑うと
「オラアアァ!」
全身と竹刀にオーラを纏わせた蓮が、1号へと飛びかかった。
コンクリートすら簡単に砕いてしまうオーラを纏い振り下ろされた竹刀は、1号の振られた右手にぶつかり、一方的に爆ぜた。
その衝撃で吹き飛ばされた蓮を、平野は受け止める。
「じゃまするんじゃねぇ!」
新庄の声に平野が顔をあげると、新庄はゆっくりと悠然に、秀和の方へと歩いていっていた。
その背後にはいつの間にか倒されていた2号が、空中で細切れになって散り、宙に舞っている。
「こいつは俺の獲物だ。さあ、来いよ」
1号が新庄の方に向き駆け出すと、新庄も秀和に向かって駆ける。
1号の高速の手刀が、まっすぐ新庄の顔に向かうも、それをすり抜けたかのように紙一重で避けて見せると、そのまま脇を抜けて交錯する。
新庄の羽を広げる用に大きく上げられた両手には鎖が伸びており、それはいつの間にか1号の周りを覆っていた。
新庄が両手を交差して降ろし、鎖を引くと1号は鎖で何十にも巻きつけられ、完全に動きを封じられる。
鎖から出ている刃が回転すると、1号は壊れたラジオのような金切り声をあげた。
それを聞いた新庄はほくそ笑みながら、更に鎖を強く締め付けた。
「お、こっちが本体か。さっきのより頑丈だな」
「新庄! 後ろだ!」
飛びかかる秀和を見て平野が叫ぶも、
「分かってますよ」
まるで見えているかのように新庄は秀和の拳を背中を向けたまま避けると、振り向いてそのまま体に抱きついた。
「おい、クソガキ。全身36箇所を同時に刻まれたら、どんな風になるか知ってるか?」
「ヒェ! な、何でもするからゆるして」
「そういう言うなよ」
新庄はこれまでにないほど口角をつり上げた。「経験、経験。なんでも経験」
「新庄! やめーー」
知ってることを聞き出すために平野が静止しようとするも、それをいに返さず新庄は全身に絡みついた鎖の刃がチェンソーのような音とともに回転すると、秀人との体の間から血しぶきが上がった。
「痛い痛い痛い! やだぁぁぁぁ!」
秀和が悲痛な叫びを上げても、新庄は止めることはない。
「人ってさぁ、表面を裂かれてもなかなか死なねぇんだよなぁ。勉強になるよなぁ」
「ああぁぁぁもうやだぁぁぁぁ!」
もうこうなっては手遅れだ。
20分ほど切り刻まれ続けた秀和にはもう命はなく、新庄が両手を広げると肉塊がどかっとその場に倒れた。
もともと紺色だったスーツはすでにドス黒い赤色が多くを占めていた。
「ふう、部屋がびちゃびちゃでらっしゃるよ。片付けて差し上げろ」
新庄のその言葉は、若頭である蓮に向けられていた。
若頭は組においてナンバー2。ただの構成員である新庄より立場が上だ。
それに不満があるのか蓮は黙っていると、
「おい、片付けろよ」
と新庄は命令口調でいった。
「新庄、口を慎め」
間に平野が割って入る。「君が何もせず海外に逃げている間、蓮は組の若頭になったんだ。言葉を選べ」
新庄は数々の犯罪を単独で犯したため、現在日本国内ではA級指名手配となっている。
そのため3年前から海外逃げ、潜伏していた。
「関係ないでしょ。この世界じゃ強いやつが一番偉い」
「組織にいる以上、序列は守ってもらう。でなければ、他の者へのメンツが保てない」
「へいへい、わかりました。でも助けてあげたんすから、死体の処理ぐらいはしてくれてもいいんじゃないっすか?」
平野はふうっとひとつ息を吐いた。
「蓮……片付けてやれ」
「はい、わかりました。袋もってきます」
蓮は不満有りげにそういうと部屋からでていった。
「それで、新庄。日本で指名手配されているお前が、どうして帰ってきた」
「決まってんでしょ。始まるんでしょ、戦争が。なーに俺抜きで楽しそうなことしてんですか。俺も仲間に入れてくれよ~」
どこでそのことを。
そう思いながら平野は眉を寄せる。
「当然、君にも連絡をしようとしていた」
「でもしなかった。そんなハブらないでくださいよ~。俺の力が必要でしょ、平野さん」
その通り、この戦争に置いて新庄の力はほしい。
だが、統率が取れず命令も厳守しないこの男を、コントロールしきれる自信がなかった。
しかし、敵は思ったほどに強大だ。
先程の秀和レベルの相手が何人もいるのであれば、新庄の力は不可欠。
いまは毒を飲む時。
この男を扱いきれないなら、平野組に未来はない。
「安心してくださいって。そこそこ言う事聞きますから。そこそこね」
そう言って笑ってみせた新庄の顔は、まるでテーマパークに向かう子供のように、平野は見えた。