R×R ーレイパー×レイパーー   作:ケツマン=コレット

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念能力者図鑑

三浦

強化系念能力『知恵捨(チエス)テ』
自らのIQを著しく下げる制約により、元より強力な身体強化を更に高める。
発動後、敵と味方の判別ぐらいしかできなくなり、細かな戦術や駆け引きなどができなくなる。(その辺は全般的に木村に任せている)
強化系念能力は相手の罠などにはまりやすい反面、身体強化による攻撃、防御、速度の向上はどの場面にも汎用性が高いため、戦闘に一番向いている能力といわれている。


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 内部戦争2日前。

 

 

「その死念ってなに」

 豪は真締との念特訓のさなかそう聞いてきた。

 場所はGO殿の一室。

 客室で飾られた花など以外は何もない場所だ。

 二人は立って向かい合い、豪は両手に沿うようにオーラの塊を移動させている。

 会話をしながらここまでできるのには、相当な訓練がいるが豪はほんの数日でやってのけてしまっている。

「死念。死後の念とも言うんだけどね。念というのは思いの力だ。死ぬ瞬間に抱く強烈な思いは、念に強く反映する事がある。その瞬間だけ自分の能力を超えた力を使えたり。死した後に念が長く残ったりするんだ」

「ほーん。つまり、念能力者が死ぬ瞬間っていうのは、常に警戒しなくちゃなんねーってことね。そいつがどんな強烈な思いで死ぬかわからないから、下手な殺し方をしたら逆に殺されかねない」

「うん、そういうこと」

「そんで昨日聞いた括約と活躍っての。リスクを取れば何倍もパワーが跳ね上がるってやつ。つまり念っていうのは、やりようによってはどんな格上の相手でも、死やそれ相応の覚悟やリスクがあれば、相打ちに持っていけるってことだよな」

 そう言いつつオーラをの塊を移動させている豪を、なんとも言えぬ表情で真締は見つめる。

 能力者どうしの戦いに置いて、想定と想像は勝利には不可欠な要素。豪はそれがすでに備わっている。

 念を習得して1週間も経っていないにもかかわらずだ。

「まあ、間違ってはいないけど。覚悟ってのはそう簡単にできるもんじゃない。ほら、死ぬ気でやるって心では思っていても、死ぬ勇気なんてないでしょ」

「確かにそうだな。ただ、死への考え方を変えれば……人は簡単に死ねる」

 死への考え方?

 その言い回しに「どういうこと?」と真締は聞いたが、豪は返答しなかった。

 眼の前の虚空に目を凝らしながら、ブツブツと小さな声で何かをつぶやいている。

 集中モードだ。これに入った豪は周りの声が聞こえなくなる。

 頭の中は凄まじい勢いで考えを巡らせているのだろう。

 そう思っていると、不意に真締は眉ひそめる。

 豪の背中に何かが見えた気がした。

 なにかの見間違いかとも思ったが、それは豪のオーラが強くなると、しっかりと確認ができるほどになってきた。

 羽。白く輝く羽が豪の背中から見える。

 これはきっと豪の能力。

 死念。活躍と括約。

 これを聞いた瞬間に集中モードに入ったということは、きっと能力にそれらを組み込むつもりでいるはず。

 しかし、豪は自らを犠牲に何かを得ようとするタイプではないはずだ。

 いったいどうするつもりだ。どんな能力になるつもりだ。

 不安か、恐怖か。それとも畏怖か。

 真締の心中から悪い予感が湧き出て止まらなかった。

 

 

 

 同日、百合天国工場

 ここでは日中、百合の造花を作り全国に販売する工場として稼働しているが、その地下では、覚醒剤を作り大佐組の収益(シノギ)となっている地下工場があった。

「ーーってなわけで近々、身内での戦争がある。そこであんたらに手を借りたいってわけや」

 組長である大佐は黒の革椅子に座り、タバコを咥えそういった。

 ここは地下工場の一室。

 地下工場全体を見渡せる上の方にあり、中は金の額に飾られた絵画や、トラの剥製など、金が有り余っているという雰囲気をこれでもかと醸し出している。

 大佐から呼び出され説明を聞いていたのは二人。

「気が乗りませんね、仲間内で、それも大した理由もなく殺し合いなど」

 やる気なさそうにそう答えたのは瑠璃磨(ルリマ)

 頭にはかんざしをして、左手には愛刀、「へし切長谷部」を携えている古風な女。

「理由なら大いにある。次期組長の座をもらうためや」

「それが大したものではないと言っているのですが。まったく、やはりヤクザと言うのは愚かな方々なのですね」

「おてんと様に祝福されながら生きようとは思ってへん、なんとでも言ってくれ。ただ、黙って手伝ってくれたらええ」

 瑠璃磨はふうと、1つため息を落とす。

「ええ、いいでしょう。ただ、今回限りであなたとの関係は断ち切らせていただきます。十分に借りは返したはず。もうサービス期間は終了しても良いでしょう?」

「ええでええで、組長なれるならもうなーんもいらん、笑顔で見送ったるわ。ほんで、あんたはどうなんや神奈(かんな)

「あたし?」

 瑠璃磨の隣でそういったのは、声が甲高く長身の女、神奈。

「やるに決まってるじゃな~い。私は理由とか理屈とかどうでもいいの、お金よお金。お金が貰えればそれでいいの」

「せやんな~、神奈はそう言ってくれると思ってたでぇ。報酬は弾むから、組長なってからもよろしくなぁ」

「お金、お金。どうしてそう求めるのですか」

 瑠璃磨はそういいながら、窓の外、下に広がる覚醒剤工場を眺めた。「幸せに生きていけるお金はすでに持っているのでは?こんな非道なことまでして、必要以上に求めても、新たに乾きを生み出すだけですよ」

「な~に言ってんのよぉ」

 神奈は特徴的なおばさん口調でそう返す。「お金があればいっぱい美味しいものも食べれるし、色んなとこに行けるのよ。お金はいくらあってもいいわ」

「生きてご飯が食べられるだけで、十分幸せなのでは?」

「ただ生きてるだけなら、死んだも同然でしょ。せっかく生きるなら楽しまなきゃ。それにお金があったら、あんただってこんなとこに巻き込まれることもなかったでしょ?」

 数秒の重く、ひりついた沈黙。

 瑠璃磨の刺さるような視線を、神奈は薄ら笑みで返した。

「まあ、確かにそれはその通りかもしれませんが、巻き込まれた原因は私の弱さにあります。お金のせいではありません」

「あらそう。ま、どーでもいいけど」

「あなたと何度か同じお仕事をしましたが、やはり相容れませんね、不愉快です」

「そう? 私は別になんとも思ってないけど」

「まあまあ、ギスギスした話はその辺にしてぇや」

 そういって大佐は二人に手のひらを見せた。「仲良くしてとは死んでも言わん。ただ、指示にはしっかりしたがってな」

「分かっていますよ、それより……」

 瑠璃磨は誰もいない方角、右後ろあたりに視線を移す。「内部戦争は2日後では?」

「せやけど、それがどうしたん」

「私の(エン)に二人。4時の方向。動きからして敵ですね」

 (エン)。「纏《テン》」と「(レン)」を組み合わせた高等応用技術。

 通常体の数センチにまとっているオーラを必要な分だけ、自分を中心に円形に広げ、そのオーラに入ったものを感知することができる。

 円の広さは人によりけりだが50mもあれば達人の粋。

 瑠璃磨はそれを超す100mまで広げる事ができる。

「この工場には念能力者の守衛がいますよね?」

 瑠璃磨が問う。

「ああ、そうや」

「私の感知が間違いなければ、おそらく死んでいます」

 

 

 夜の百合工場は静かだ。

 地下では覚醒剤を休みなく作っているが、百合工場は6時には機械は止まり、7時には従業員全員が帰った後は、大佐組の構成員、無能力者3名、念能力者2名の合計5名で見張りを行う。

 今宵は満月。

 夜空には雲もなく、月明かりが照らしている。

 その下、大佐組構成員、念能力者のスポンジが月に向かってポージングをキメていた。

 服装はふんどし一丁で、体は筋骨隆々だ。

 守衛にしてはあまりにも目立っている。

 そのスポンジにゆっくりと近づく影が1つ。

 竹野内(たけのうち)、年は30後半。渋いヒゲがよく似合う整った顔をしている。

「ん! んん!!?」

 その影に気が付き、スポンジは大げさに叫び、ボディランゲージを交えながら竹野内に語りかける。「そこの君! なんのようだね! ここは造花の工場! 入っては行けないよ!」

「暑苦しいな。まあ、人を近づけないようにするのが守衛。それには適任か」

 スポンジとは対象的な、冷淡な言葉で竹野内は返す。

「守衛!? 違う! 私は通りすがりのマッスル! さあ帰りたまえ!」

 竹野内は、はあと息を漏らす。

「念能力者かどうかぐらい、パッと見でわからないのか?」

「なにぃ! 君ももしやアビリティギフテッド(念能力者)なのかなぁ!?」

「ああ、そのアビなんとかだ」

 竹野内は錬で全身からオーラを練りだし、戦闘態勢を見せる。「ホラ、ヤろうぜ」

「ぬうううぅぅ! 細い細い細ぉぉぉい!」

 スポンジも体からオーラを放ち、上腕二頭筋をアピールするマッスルポーズを見せた。「オーラで肉体を強化するだけでいいのか? 肉体を強くすれば更に強くなる! 精神も鍛えられてオーラも強くなる! 結局筋肉! 最後は筋肉! 攻撃、防御ともに純粋強化される強化系こそが最強! そこに筋肉合わされば無双! 小細工など無意味! 無価値!」

「御託が多い。手短にやろう。早くこい」

「言われなくともやってやるわ! もやし人!」

 スポンジは飛び上がり3mの跳躍を見せると、右手に一点にオーラを集中した。「喰らえ! 『ビッグバンマッスル』」

「末端がこれなら、ボスのランクも知れるな」

 竹野内は悠然と、宙にいるスポンジを指さした。「『キャンセル』だ」

 

 

ーー私が契約したのは内部戦争の期間のみです。今はあなたを手助けする義理はありません。

「あの頭でっかちめぇ! チョトぐらい協力してくれてもええやんけ!」

 大佐は神奈と2人、襲撃のあった場所へ走っていた。

 瑠璃磨はなんともお硬いことを抜かし、さっさと帰ってしまった。

「まあいいじゃない、私がいるんだから」

 神奈は軽い調子でそういった。

「あほか! 単身で乗り込んできたヒットマンやぞ。そういう奴は2つに1つ、敵地に乗り込んでも簡単に帰れる自信があるか、玉砕覚悟でウチに突っ込んでくる奴か。どちらにせよ最悪や!」

「はぁ~あ、ほんとにあんたって心配症よね。私がいるじゃない。私は絶対に負けない、知ってるでしょ」

 大佐は何も言わず、ただ眉を寄せた。

 彼女は負けない。それはよくわかっている。しかし、負けないことと無敵であることはイコールにはならない。

 何が起きるのかわからない。それが念能力だ。

 この慢心が戦いに響かなければいいが。

 そう思いならが工場の外に出て、スポンジが守衛をしていた場所まで走る。

 そこに待ち受けていたのは、血溜まりを作って倒れるスポンジにそれを椅子にして座る渋い顔の男。

 男はやってきた2人を見ると、眉をあげて驚いたような表情を見せた。

「おいおい、ボスが直々に来るのかよ」

 ボス。

 この男のことは一切知らないが、向こうはこちらが組長であることを知っているらしい。

 おそらく組の関係者。

「能力者がやられた重大事件や、うちもでないとな。よくもやってくれたな、能力者は貴重なんやぞ、落とし前は高くつくで」

「こいつが貴重? あんただって分かってるだろ。こんなパワーだけのバカ、頭の回る無能力者のほうがよっぽど使えるって」

 かねがね同意するが、仲間を殺されてから言ってみろと大佐は思う。

「いけ! 神奈!」

「アチョオオオォオ!」

 神奈はダッシュして男に向かって跳躍した。

 この男がどんな能力かはわからないが、純粋強化系のスポンジを難なく倒しているあたり、おそらく力押しで戦っても無意味な特殊戦闘タイプ。

 まずは神奈を向かわせて、敵の能力傾向を探る。

 神奈が飛び蹴りをかまそうとするさなか、大佐は凝でその様子を観察する。

 瞬間、男は右手をあげて神奈を指さした。

 放出系か?

 それを神奈も予想したのか、指さした先である自分のみぞおちあたりを両手をクロスしてガードする。しかし、

「『キャンセル』だ」

 男がそういった瞬間、神奈の目の前に別の中国人らしき男が現れた。

 中国人はパンチをくり出すと、神奈の胸をガードされた腕ごと貫いた。

 背中から貫通した拳が出るとともに、血肉が弾ける。

 絶命したであろう神奈の体からは一切の力が消え、その場に倒れると同時、中国人はすぐさま拳を抜き、後方に引いて闇の中へ消えていった。

「策もなく突っ込む。あんたらの得意技かい?」

「まずは突っ込まな、なんもわからんやろ」と返答しつつ、大佐は思案を巡らせる。

 神奈は強化系。打撃では基本的に同系統でないと負けることはない。

 もう一人のヒットマン、闇の中にいる中国人は瞬間移動を使っていた。

 空間を飛び越していく系統は放出系。少なくとも得意系統は強化系ではない。

 しかし、神奈は一瞬にして屠られた。何故か。

 一番気になったポイント、ヒゲの男の能力。

 ヒゲが指をさして「キャンセルだ」といった瞬間、神奈からオーラが一瞬にして消えるのが見えた。

 ブラフの可能性もあるが、おそらく指さして「キャンセル」と言葉を発すると、その指先の対象のオーラを限りなく0に近いか絶状態にする特質系能力。

 故に神奈は腕ごと体を貫かれた。

 発動条件のゆるさから効果時間は0.1秒と満たない時間だろう。その刹那に、息を合わせて瞬間移動の中国人が攻撃をする。簡単なことではない。

 能力を無効化されてたとなれば初見での対応は不可。分かっていてもあの発動条件を妨害する方法は限られる。

 コンビネーションは完璧。そしてヒゲの男の余裕。

 並の能力者では太刀打ちできないほどの強敵だろう。だがーー

「残念ながら、うちらは並じゃない」

編集者の極意(スキルマイスター)

 大佐が能力を発言させると、左手にタブレットが現れた。

 現状、このタブレットに意味はない。『編集者の極意(スキルマイスター)』は協力者がいて初めて戦える能力だ。

 しかし、念能力者が何かしら能力を発現させたとなると、相対する敵は否が応でも反応してしまう。

 男は手を胸のあたりまであげて、いつでも指させる状態にしている。

 中国人がどのポイントに瞬間移動するかは分からないが、もし大佐のすぐそばに移動ができるならば、すでに能力を発動させて攻撃をしてきているはずだ。

 おそらく男の周辺限定。神奈へ攻撃をかんがみるに男の周囲1メートルほどのみに瞬間移動が可能と見られる。

 近づかなければ向こうに決定打はない。しかし、こちらがどういった能力かわからない以上、迂闊には近づけないはずだ。

 目を離さず、双方動かず。ジリジリとした時間が流れる。

 弦を張ったような空気。それを解いたのは我慢の限界に達した大佐だった。

「いつまで倒れとんねんアホンダラ! はよ復活して攻撃せんかい!」

 そう叫んだ瞬間、ヒゲの男は気づいてしまった。

 足元の死体。神奈の体が薄っすらと鈍い光を放っているのを。

 男がすぐさま後方へ飛んで距離を置くと、死んだはずの神奈がゆっくりと起き上がった。

 神奈の服の胸部は、拳が貫通したときにできた穴があり、周りに血が滲んでいる。

 しかし、貫かれたはずの肉体、大量に流血したであろう心臓部には、傷一つない肌色の皮膚が見えている。

 神奈は悠然と両手をあげて、輝く肉体を男に見せた。

「はぁ~~、生き返るわぁ~~」

「ゆっとる場合か!」

 神奈の能力『7転び∞起き(フェニックス)

 死亡後に発動する強化系能力。

 死後の念により増長したオーラで傷ついた細胞を高速修復し、心臓を再鼓動。

 何度、殺されたとしても復活することができる。

「このアホめ! そのままどついてたら倒してしまいやったのにぃ!」

「このレベルの相手に雑な不意打ちなんて通用するかしら?」

「ええからはよこっち来い! ちゃっちゃとこいつ倒すぞ!」

「はいはい」

 神奈は跳躍し後方一回転ひねりをして大佐の隣に着地する。

「無駄なことすな!」

 大佐は『編集者の極意(スキルマイスター)』を発動。タブレットに手形の線が浮かび上がる。「合わせろ! 神奈!」

 手形に合うように神奈が手を置くと、神奈の脳内に新しい念能力の情報が流れ込んでくる。

 『編集者の極意(スキルマイスター)』はタブレットに表示された手形に、手を添えた者の能力を新たに自分が作った能力に編集できる。

 条件は相手の能力を実際に見る。そしてその能力について質問し、相手の答えを得る。

 この2点をクリアしたもののみ編集可能。

 ただし、編集された対象者の能力適性は変わらないので、神奈に具現化系や操作系能力を付与してもまともに使うことはできない。

 神奈の『7転び∞起き(フェニックス)』を編集して付与したのは放出系能力『瞳の奥の万華鏡~冬に見たアタナの(まなこ)~』

「なるほど、なるほどなるほど」

 神奈は男から目を離さず頭に流れ込んだ念能力の情報を理解していく。「このだっさい能力名はどうにかなんないの?」

「なんでやねん、めっちゃ洒落てるやろ。そんなことはええねん、はよあいつ倒してこい」

「わかったわ」

 神奈はゆっくりと歩き男に近づいていく。

 男はこちらが何からの能力を発動したことはわかっており、警戒態勢だ。

 狙いは大佐の命だろうが、無理と判断すればすぐに逃げるだろう。

 だから、簡単には逃げられない能力にした。

 神奈は男の5mほど手前で歩く軌道を変えて右に曲がる。

 すると、その体からもう一体、全く同じ姿の分身がでてくると、それは左にあるき出した。

 2人に増えた神奈。それは少し歩くとまた同じように2人がそれぞれまた2人に増え、8、16、と倍々に数をましていく。

 まずい。

 その感情が男の顔から漏れ出る。

 一歩後ずさりしたときに、男は気がついた。

 自分の後方にも神奈の分身が出ていることに。

 神奈の『瞳の奥の万華鏡~冬に見たアタナの(まなこ)~』の能力は、自分の姿を空中に映し出す能力。

 空中に投影された姿に攻撃性はなく、すべての物体をすり抜ける。

 単純明快な能力だが、攻撃がどこから来るのかもわからないので純粋に強力。

 加え男の能力、指さした対象のオーラをなくす能力は、能力者本体を指差さなければ攻撃を止めることはできない。

 これが大佐の『編集者の極意(スキルマイスター)』真骨頂。

 相手の能力に合わせ、明確に弱点をつく能力をぶつける。

 自分の理解力と協力者がいれば、負けることはないまさに最強の能力だと大佐は自負している。

 大佐が勝利を確認した笑みを浮かべると同時、男は突然、後方へと駆け出した。

 そこには神奈の姿が8人ほど。

 負け濃厚と判断し、逃走を選んだ。

 すぐさま神奈も走り出すと、すべての分身が全く同じ動きを取り、円が狭まっていくように男の方へすべての分身が集まっていく。

 神奈の念能力は放出系に変化したため、強化系の肉体強化は若干落ちている。

 それでも神奈のほうが明確に速い。

 男と4人の神奈が交錯する瞬間、

「『キャンセル』だ!」

 一番近い2人を両手で指差し、男は能力を発動。

 2体の幻影は消えるが、予想通り神奈本体のオーラは消えない。

 すべての神奈が男の背をめがけ一斉に拳を振りかぶった瞬間、そこに中国人の男が瞬間移動してきた。

 神奈の拳、本体のみの攻撃が中国人の右横腹にめり込む。

 すかさずその拳をつかんだ中国人は、神奈の頬に拳を返すが、残念ながら格が違う。不意を付かれたときと違いほぼダメージは入っていない。

「あたしは優しいからねぇ」

 神奈は何事もなかったかのように、掴まれていない左腕を悠然とあげ、そのまま中国人の胸部を貫いた。「同じ一発でゆるしてあげるわ」

「同じて、そいつは生き返られへんやろ」

 大佐は歩き、神奈の隣に立ってそういった。

「あら、なら喧嘩なんて売ってこなければいいのに。というかあの渋顔の男は追わなくていいの?」

「ええよ、ウチだけじゃどうにもならん」

「逃したら厄介だと思うけど。私が掃除してきてもいいわよ」

「やめとき、あの能力は闇に溶け込まれると厄介や。こっちの能力はバレてもーたかもやけど、コンビの片方を殺せたならまあ、プラスマイナスプラスやろ。それにや」

 大佐は夜の闇に目を凝らした。「ウチの(たま)狙いに来たってことは、2人ボッチってわけじゃないかもしれんしな。今日はちょっと気張ってここ守っといてや」

 ふうと一息吐いた後、大佐は中国人の死体を見下ろした。

 単体では神奈に及ぼないしにしても、コンビネーションは完璧だった。

 戦力的に見ても組の人間ならかなりの上層だ。そんなものがなぜわざわざリスクを犯して自分を狙いに来たのか。

 組同しの争いは基本はご法度。そればバレれば多田野会長が黙っていない。

 そもそも内部戦争がもうすぐあるのだから、それが始まれば大手を振って殺しにこれるはずだ。

 これほどの能力者が、なぜ今。

 深まる謎の中、もやもやとした発散できない感情だけがのこった。

 

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