具現化系念能力「
自らの肉体へ刻まれたダメージに比例して強力な念体「サイバーZ」を生み出すことができる
ダメージ量に応じて3体まで具現化することができるが、数が増えるに応じて一体のオーラ量は減っていく。
具現化系能力が最も苦手とするのが放出系で、次点で操作系のため、自らの体から離したうえで強大な力を出すことは不可能である。
それを持ち前の技量、鍛錬と、「ダメージを受ける」という制約によって強化し、強化系念能力者である蓮を一方的にほふるほどの力を得ることができた。
内部戦争、開始5時間前。
木村と三浦は卯月組の事務所内、最奥の部屋へと案内されている途中だった。
組長に合わせる。
玲兎が突然そう言い出し、木村と三浦を呼び出した
今現在、2人は事務所内の一室を借りて寝泊まりしていた。
すでに護衛任務が始まっていることと、それと監視の意味もあるのだろう。
実質的な組員と言っても差し支えない状態だが、組長である卯月と顔を合わせることがなかった。
最初から信頼されないだろうとは思っていたが、この戦争開始日まで合わないとは想定していなかった。
「本当はもっと早く合わせるべきだったんだけどね」
と組長室まで案内するさなか、玲兎は説明する。「護衛対象がわからなきゃ、守りようもないし。ただ、ウチの幹部がどうもあんたを信じらんないって、今日まで間延びになってたの」
「なるほど……先程から感じるこのオーラは、その幹部のものか?」
組長室に近づくにつれ、感じるどす黒いオーラ。
強大で重く、殺意がこもっている。
オーラの感知に鈍い苦手な三浦でさえ、額に脂汗をにじませるほどだ。
「何人いるんだ」
木村は問うた。
オーラの感知を得意とする木村は、そのオーラの発生源が一つではないことを感じ取っていた。
5人ほど。最低でも3人いる。しかし、
「一人よ」
玲兎は嘘ぶく様子もなくそう答えた。「冗談を言ってるんじゃない。ただ、あいつはそういう能力、とだけ伝えておく……不思議じゃない? こんな戦闘員も
「防衛力」と三浦がボソリとこぼす。
「木村。あんたが来るまで、あたしの中で一番強い能力者はあいつだと思ってた」
玲兎はおそらく組長室ーー息苦しくなるほどの混沌としたオーラを放つそのドアの前で、足を止めた。「あんたの能力を知った時、驚いたわ。それでも、私の考えは変わらない。あんたでもあいつにはかなわない。今は時期が時期だからピリピリしてる。部屋に入ったらあいつの言う通りにして。でないと、たとえ味方でも命の保証はできないから」
玲兎がドアを開いた瞬間、それは見えた。
組長室。そこには重厚な机と椅子、来客用のソファー。
組長机の奥に卯月が座っているが、それは目に入らなかった。
その隣に立っている女。オーラの発生源だった。
金髪に清楚な顔立ち。
睨まれているわけではない。しかし、眼光が、雰囲気が、そして決定的にオーラが、こちらを敵視し、いつでも殺してやるというメッセージを伝えている。
玲兎に続いて部屋に入り、木村と三浦2人並んで立った。
「お初にお目にかかる。僕の名前はーー」
「おい」
端的に挨拶を述べようとしたときに、殺意の塊に遮られた。
「何勝手に喋ってんのよ。死にたいの?」
「ちょっと、やめなさいよ。一応仲間なのよ」
咎めるように玲兎がそういった。
「仲間? 傭兵の間違いでしょ。そもそも私は最初から必要ないっていってるでしょ。私がいれば十分」
「この件は卯月に承諾を得てる。守り手は一人でも大いに越したことはない」
「ゴミがいくらたかってもゴミの山にしかならない。馬鹿なんじゃないの」
「一人でできることなんて程度がしれてるでしょ。そっちこそもうちょっと理屈考えて喋れよ、能無し」
「今なんつった」
「能無しっつったんだよ」
殺戮のオーラと玲兎のオーラが混じり合い、今にも爆発しそうな一触即発の雰囲気をかもした。
木村も三浦とともに、戦闘態勢に入る。
2人が衝突した瞬間に止めに入るために。
「ちょちょちょ、ストーーップ! ストップ!」
ピリついた空気を打ち破ったのは、組長である卯月だった。
2人の視線上に手をブンブンと振っている。
「ねぇやめてよぉ~。もうさぁ、仲間なんだからぁ、仲良くしてよぉ。ねぇお願いだよぉ」
震え、恐怖し、おどける卯月を見て木村は思った。
きっと三浦も同じ考えだっただろう。
これが、組長?
「ズズズッ、ズビーズズズ、ズズズズ」
組長室に響くのはそばを啜る音ーーではなく、卯月が号泣して鼻水を啜る音だった。
ドアの向こうで聞いたならば、そばを啜る音で疑わないだろう。
自分たちがここに来た理由。師範代の秋吉が殺された話をした途端、大粒の涙を流しだした。
「それはそれは……辛かったですね。ズビー」
どでかい鼻水音だ。それにつられて、三浦も「そうなんだゾ」と目頭を抑えて涙を流しているが、木村はなんとも言えない表情をしていた。
共感してくれるのは嬉しいが、ここまでとは。
「ほら、卯月」
先程から殺意を向けてきた女は
日生はハンカチを取り出すと、卯月の鼻にあてがい、鼻水を拭き取る。
「ありがとう、日生」
卯月は感謝を述べてから木村たちに向き直った。「まあ、あの本当にありがとうございます。あれだったら犯人探しは私達も手伝うから」
「ちょっと、何いってんの」
玲兎が割って入った。「私たちは戦争のために彼らを雇ったの。てかもう始まるから、そんなことしてる暇ないし」
「別にいいんじゃない」
と日生。「護衛は私だけで十分だし。あんたたちだけでそいつ探しに言ったら? 邪魔は少ないほうがいいし」
「はぁ? なんべん同じことを言わせんのよ。あんた頭スローロリスなの?」
「クソ雑魚ナメクジは黙ってて」
「ちょちょちょ!」
またピリついた空気になりそうなのを見て、卯月は慌てていった。「あ! 日生、私ココア飲みたいなぁ。あのバンホーテンの!」
血に濡れた剣山から突然、鮮彩な花が咲いたかのように、日生の表情は笑顔に変わった。
「ちょっとも~卯月ったらぁ。すぐに買ってくるからちょっとまっててねぇ」
そのさまを見てなるほど、と木村は思った。
知略の玲兎に暴力の日生。そしてその水と油を卯月の持ち前のキャラクターでなんとか取り持っている。
そういう風にしてこの組は成り立ってきたのだろう。
ある種のカリスマ性とでもいうのだろうか、やはり組の長というだけあって才質がある。
咲いた花がまた剣山に戻り、それは木村と三浦に向けられた。「能力は
「ありがとう。できるだけのことはさせてもらう」
と木村。「こちらとしても、君のような
防衛力。
木村のその言い方とニュアンスを感じ取り、玲兎と日生は横目で視線を合わせたが、三浦と卯月は何も気づいていない様子だった。
木村は過去の経験と、持ち前の感知能力で気がついていた。目の前にいる日生は本体ではないことを。
ほぼ本体に等しいオーラと見た目に擬態をしているが、おそらく具現化された本体の分身か、精密に作られた人形を操作している。
周り5点から発せられてるオーラも、おそらく分身のもの。本体は5点のどれかか、もしくはここにはいない。
具現化だろうが操作だろうが、これだけの数を操作して通常このオーラ量はありえない。
だとすれば強烈な括約と活躍(制約と誓約)が必要になる。
能力が使える場所がこの事務所のみ、とも考えられたが、それだと組長である卯月がここから移動ができなくなる。
となると卯月の周辺のみ。それだけでは制約が薄いので、迎撃限定。卯月へ攻撃するもののみに対して能力が発動可能と考える。
そしてそれを破った際に抱えるリスクは、自らの命。
ならばこのオーラ量と数も合点がいく。
「おい。あんた私の能力いったの」
日生が玲兎に問うた。
「いうわけないでしょ」
「じゃあなんでこいつは知ってる感じなわけ?」
「僕は二つ星レイパーだ」
木村が割って入った。「自分で言うのも何だが、レイパー内でもトップの能力者だ。舐めてもらっては困る」
「ふ~ん」
日生は品定めをするように、木村と三浦を見た。「ただのバカってわけじゃなさそうね。期待はしないけど、まあ、認めといてあげる」
「それは助かる」
卯月組の中核をなすのはおそらくこの3人。
まだ信頼はされていない。ただ、とりあえずの信用を得れたと考えていいだろう。
あとは田所を見つめるのみ。
僕たちのミッションは田所の
依頼を受けたとはいえ、所詮コイツらは社会秩序を乱すヤクザたちだ。
コイツらを裏切ったからといって、誰が僕たちを責める。
渡したバッジは奪い返してもいいし、コイツらが破滅してからゆっくり取り返してもいい。
レイパーでなくなったっていい。
約束を守る気など、はなからない。
秋吉師範の無念を晴らす。
そのためなら何だってする。