蓮
強化型念能力「アングリーアンクル」
自らの怒りの量に比例してオーラが強化される。
蓮は武器として竹刀を使い、それにオーラをまとわせて攻撃する。
手に持っている武器を強化するのも強化系の得意な技だが、平時から身につけている物でないとその効力は半分ほどとなってしまう。
内部戦争、開始20分前。
理由は会食。しかし、それが開戦を伝えるための集会であることは、そこにいる全ての者が理解していた。
ガンボリア宮殿の広い和室には多田野会の全組長、総勢36名が縦2列に向かい合わせで座布団に座り、目の前に運ばれた食事を食べていた。
空気はピンと張り詰め、静かだった。
誰かが決めた訳では無い。だが上座の4つは自然と四大組平野、大佐、豪、卯月の4人が座っていた。
通常、組長以外はここには入れないはずだが、この4名には2人ずつの守衛が後ろに立っている。
それに異論を示すものはいない。
ヤクザの世界。力の社会。
強者が全てのルールを決める、ということか。
木村はそんな風に思いながら会食を眺めていた。
卯月の守衛として選ばれた木村は、日生と共に卯月の後ろに立っていた。
なぜ傭兵である自分がここに選ばれたのか玲兎に問うたら「使えそうだから」と答えられた。
実力は認めている。しかし、三浦とツーマンセルでは動かさせる程の信頼はしていない。
レイパーである木村たちと雇用関係にある卯月組との関係が、ここに現れていた。
会食の場にいる組長たちは典型的なヤクザたち。
派手なスーツにそれぞれイカツいサングラスに、ネックレスなど、簡単に想像できそうな者たちだ。
それとは対象的に4大組は四者四様、組長も守衛も個性的だ。
卯月の右斜前に座るのは平野組長。
四大組の中で一番、構成員が多く組自体が大きい。
和服を来ており、威厳のある姿でゆっくりと食事をしている。
誰がこの中で最も権威があるのか、と問われれば誰もがこの男を選ぶだろう。
守衛の名前も日生から聞いている。
まず左の男は蓮。平野組の若頭だ。
若頭という地位を考えれば通常、守衛には選ばれない立場だろう。
戦力をかわれてか、はたまたなにか別の目的があるのか。
わかることはただ一つ。誰よりも焼け付くようなオーラを飛ばしていると言うことだ。
実力は中の中かといったところか。
そしてその右隣。
木村はその男のことを知っていた。
田所と同じ特A級指名手配犯、新庄。
不愉快な笑みを常に浮かべ、こちらをニヤニヤしと見ている。
認めたくはないが実力は折紙付だ。注視しなければならない。
次は卯月の右の席、大佐組長。
インテリヤクザというのだろうか、威圧感はないが金勘定を常にしているような表情がうかがえる。
大佐は2年前に組長になってから破竹の勢いで組をここまで大きくした策略家。
知略では右に出るものはない。
その後ろに立つのは神奈と瑠璃磨。
両方とも金で雇った傭兵と聞いている。
神奈は高身長で肩幅も広い。
衣類のうえからでもわかる鍛え抜かれた肉体に、周りに纏うオーラと佇まいから強者の余裕が感じられる。
その左隣、目を閉じ静かに立っている瑠璃磨。右手には日本刀を持っている。
この女はヤバイ。木村は直感的にそう思った。
身にまとうオーラ量が少なく、一見か弱く見える。
しかし、感知の得意な木村は気がつく。オーラの質が違う。
弱者を装っているのか、それとも何かしらの条件を自分にかしているのか、それは分からないが、とにかくこの女との戦闘は避けたい。そう思わせる雰囲気があった。
卯月の対面、豪は白シャツにジーンズパンツという出で立ちで、出された食事をうまいうまいといいながら食べていた。この中の誰よりも会食を楽しんでいる。
勝手か故意か。それは分からないが全身から輝かしいオーラを放っていた。
念能力者としても相当な実力。おそらく特質系だろう。
後ろの2人も強い。
真締と聖也。
聖也はポケットに手を突っ込み、リラックスしている様子だが、その目は常に警戒体制だ。
その隣の真締。
こちらは直立不動。
一切の油断はないということが見て取れる。
双方ともに実力者だろう。場馴れしている様子だ。
戦力的なバランスでいうとここの2人が一番高いといってもいい。
そして木村の前に座る卯月。
顔は真っ青で、まったく箸が進んでいない。
叱られた子供のように、背を丸くしてこじんまりとしている。
誰も彼女のことを一組を任された人間だとは、思いもしないだろう。
その守衛に、この僕、木村。そして左隣には,卯月の言いつけ通り殺気は抑えているが、その目は今にも周りの人間たちを射殺しそうな日生が立っている。
他の守衛よりも、味方だというのにこの女の方をどうしても警戒してしまう。
「コロス……コロスコロスコロス」
なにやら呪文めいたものをブツブツと呟いている。
憶測ではあるが守衛として最適な能力。しかし、性格は圧倒的不向き。
外で車番をしている三浦と、変われるなら変わりたい。
「そこの
突然、瑠璃磨が木村に向かって話しかけてきた。
「お隣のお嬢さん、少し静かになりませんか。気がそれますし、周りの方に迷惑です」
かねがね同意する意見だった。
「すまない」
そういって日生の方を見ようとしたとき「はぁ? なんだよてめぇは」と日生は食って掛かった。
「こっちが何してようが勝手だろ。ババアは黙ってろ」
「ずいぶんな物いい。知性を感じませんね」
日生の挑発を、瑠璃磨は軽く流してみた。
「うっせぇな、私が若いからって嫉妬すんなよ。今ここで目のシワ一つ増やしてやろうか?」
「そう言ってる割には、攻撃的なのは口だけですね。オーラから攻撃の雰囲気を感じませんね。以外にお利口さんなのか……それとも何か攻撃できない別の理由があるのですか」
「あぁ?!」
防御型の能力を看破されたことに、日生は少しの戸惑いを見せる。「糞ババアが、これ以上老いたら可愛そうだから今ここで殺してやる。私なりの慈悲の心でな」
「おい日生!」
戦争前で殺気だっているのだろう。木村が割って入ろうとしたときに「を? なに? 今からおっぱじめるの」と入ってきたのは新庄。
「いいねぇ、待つのにあきてたとこなんだよ。ちゃっちゃとやろうぜ」
「ちょ、何いってんすか、新庄さん! だめっすよ」
と蓮が新庄の腕を引っ張る。
「おい君たち!」
次は真締。「やめないか、会食中だぞ」
「真面目君は黙ってろよ」
「何だと!」
真締の返答を皮切りに、守衛たちの言い争いが始まる。
「やめとけ真締」
「誰でもいいから始めようぜぇ」
「私は参加しないわよ」
「ヘイ、構わねぇ。殺すぞ」
「構いません。来るなら来てください」
「雑魚だけ帰れよ。あとは私が殺す」
「一万円くれたらしゃぶってあげるよ?」
「やっぱり僕は王道をゆく、ソープ系ですかね」
「お前らクルルァついてこい」
『静粛に』
瞬間、ピタリと言い合いが止まる。
耳に覚えのない、重い声。その場にいなかったはずの男に、全員が思わず口を閉ざした。
声の主はちょうど、4大組長の真ん中にいつの間にか立っていた。
おそらく念能力。ここの守衛たちは能力者としてハイレベルな者たち。それらに気づかれずにここに侵入するのは、至難の技。
多田野会長には二人の側近がいる。
大坊と波多野。それぞれが一軍隊に匹敵する戦力があるとの噂がある。
その噂は、なまじ間違ってはいないだろう。
この男はその二人の内どちらかだ。
「初対面のものもいるな」
全員の視線を集める中、男はゆっくりと語りだした。「自己紹介をしよう。私は波多野。多田野会長に変わり、ここに戦争の開戦を宣言しにきた」
照りつける日差しは三浦のハゲ頭を照らしていた。
車番を任された三浦は、車が並ぶ駐車場で自分を乗せてきた車の前で立っている。
そこにあるのはヤクザらしく全て黒塗りのトヨタセンチュリーだった。
三浦の他にも番として組員の物がちらほらいる。
待つのにはなれていた。それは自然との戦いにおいての基本だったからだ。
隣にはボンネットに越しかけてお茶をすする玲兎がいる。
「ぷはぁ、今日もいい天気」
これから戦争が始まるというのに、ずいぶんと呑気な様子だった。「あんたも座ったら」
「いや、オラは大丈夫だゾ。心遣い、感謝するゾ」
「あっそう。んじゃ、私は遠慮なく中で待つわ。あ~ケツが蒸れる」
といって玲兎はデカケツを持ち上げて、車の中に入っていった。
車の助手席でくつろぐ玲兎を見たあと、三浦はガンボリア宮殿を見上げる。
中で一体、どのようなことが起きているのだろうか。
そんなとこを思っていたとき、視界の橋、400mほど先、止められていた車の間に、人影が見えた。
瞬間、三浦は目を見開いた。
見間違えるはずがない。
汚く、臭そうで、色黒。目のそばにキモイボがあるあの男はーー
「田所」