神奈
強化系念能力『
死亡後に発動する回復能力。
死念によって強大となったオーラで体を修復し、若干のオーラを増強した状態で復活する。
死後強まる念(死念)
念能力の持ち主が死んだあと残された念能力は消える。
しかし、強い思いを残して死んだ場合に念能力は消えず、さらに強力なものになることがある。
それこそが死念である。
通常、死念を念能力に組み込むことはできない。
神奈がもとより特質系の才があり、その上で金たゆまぬ鍛錬を積むことで身につける事ができた。
現時点から多田野会内部での武力戦闘を認め、それによって他の物より功績を得たものを時期会長とする。
しかし、ヤクザとは法の裏で動く、闇の中でこそ生きられる日陰者。
故に、表立って動くことは許されない。
これから伝える条件を守ることを義務とする。
一つ、争いを
一つ、戦争に参加するものは下北沢から出てはならない。
一つ、攻撃の際に本人ではなく、非戦闘員である親族を標的としてはならない。
一つ、組長が死亡した場合、その瞬間、組は消滅したとし、その元構成員を攻撃してはならない。
以上4つを厳守するものとし、破ったものには多田野会長直々に裁きを下す。
黙って波多野が読み上げる戦争の条約を聞いていた木村は、同時に少し胸をなでおろした。
組の人間ではない民間人に危害が及ばないよう、配慮がされている内容だったからだ。
しかし、直接、知られてはならない、という表現は少し気になる。
見られてはならない、ではなく、知られてはならない、ということは見られてもいいが、知らされる前に殺害し、抹消してしまえばいいとも言えてしまう。
どちらにせよ大手を振って行動するなということだが、最悪の場合を考えて無関係の人間を守る必要もありそうだ。
他にも、捉え方によってはなんとでも読めてしまう部分もある。そもそも、裁きとはどれほどのものなのか?
それら全て曖昧。それを踏まえたうえで、いかに解釈し、行動に移すか。
おそらくそれも試されている。
そのうえで最も功績を得たものーーここの表現も曖昧だが、その者が組長となる。
「ーー以上だ。異論や質問があるものはいるか?」
波多野の問いかけに対して、手を上げたのは大佐組長。
「はいはい。功績ってゆーてはりましたけど、それは奪った
「どう解釈するかはおのおのに任せるが、双方とも功績の一つとして考えてもいい。ただし、命を奪うという行為はそれほど重要度は高くないと伝えておく」
「ほー、金は命より重いってことですか?」
「違うな。敵といえど命を奪うというのはリスクが高いということだ。制圧できるに越したことはない。何より、戦争と言えど我々は同じ会に属する仲間だ。そのことも常に念頭においてほしい」
「なるほど。つまり、リスクが無いと判断したら殺してもええと」
波多野は一間を置き「判断は任せる」と返した。
「おおきに」
次に手を上げたのは間締。
「戦闘員でない親族は標的にしてはならないとありますが、戦闘員と非戦闘員の線引はどういったもので」
「わざわざ言わなくてもわかると思うが、攻撃の意思の有無だ」
「それだけじゃダメです。なにかしらの脅しをかけて、無理やり戦闘員にすることも可能になる。それらも裁きの対象としていただきたい」
「それでいいだろう。我々も、今後のことを考えて組の人間以外に危害を加えることは避けたい」
「ありがとうございます」
真締は安堵したかのように鼻から息をはいた。
この男、見た目通りヤクザらしからぬ真面目な倫理感がある。
この場にいるのが不思議なぐらいだ。
正義感とはまた別の計算があるのかもしれないが、覚えておいて損はないだろう。
いざとなったときに話し合いで解決できる状況があるかもしれない。
「はいはいはーい」
ふざけた子供のように手を上げたのは新庄。「裁きってい言ってましたけどぉ。それってどのようなものですか?」
「それに関しては答えない。相応の罰は受けてもらう」
「もしかして~、あんたたちが殺しに来るってことですかねぇ」
何を思ってか、新庄は頬をこれでもかと釣り上げる。「あんたがやってくれんすかぁ?」
「新庄」
あまりの言動に、平野が初めて口を開いた。それは重く、威圧のある声だった。「すこし黙れ」
「はーい」
おどけたように新庄はそう返し、言われた通り黙った。
「この世には常に守らねばならぬ法がある。しかし、法の通りに動いていては我々は存在しない。法の下に、抜け道を探り、境界線をなぞり、時に侵す。そうやって闇の中で生きていくもの……そうですよね、波多野さん」
平野は問うと波多野は小さくうなずいた。
「その通りだ」
「その中でいかにうまく動くか。問われているのはそこだ。今ここで決まり事を決めても大した意味はない。そもそも、守ることが前提ではあるがな」
そういって平野はギロリと、横まで新庄をにらみつける。「分かっているな」
新庄は大した反省の素振りを見せずに、肩をすくませておどけて見せる。
この二人、どうやら強い主従関係はない。
ある程度は平野の言うことが聞くが、新庄は自分の感情を最優先で動く。
こういうやつはたちが悪い。腕が立つならなおさらだ。
動きが合理的でなく、理解ができない。
やはり一番注意する人物はこいつだ。
「ほか、なにか質問はないか」
波多野の問いに皆、静まり返る。「ない、ということだな。それでは、いま事の瞬間から内部戦争を開始する!」
宣誓を叫んだ瞬間、不意に少し風が吹いたかと思えば、すでにその場から波多野は消えていた。
戦争は始まった。この場には組の人間しかいない。
ここで殺し合いを初めても何ら問題もない。しかし
「戻るぞ」
そう言っていち早く立ち上がったのは平野。
特に焦る様子もなく、ゆうゆうと外へと出ていく。
新庄がなにか駄々でもこねるかと思いきや、何事もなく一緒についていった。
「ホイじゃ、ウチらも帰ろか~」
「いやぁ、飯めちゃくちゃ美味かったぜ」
緊張している素振りのない豪と大佐も、続いて守衛と共に出ていくと、ゾロゾロとあとに続いて他の小さな組の長も部屋から出ていく。
戦争は緩やかに、しかし確かな緊張を持って始まった。
折を見て車に戻った時に、木村は目に入った異形に驚きを隠せなかった。
三浦は普段からオーラをひけらかすタチではない。温厚で、いつも川のせせらぎのように静かだ。
しかし、戻ったときの姿は違った。
明らかな戦闘体制。全身から突き刺さるようなオーラをまとっている。
通常ではない。
一瞬、能力によって操られているのではないかともよぎったが、車に乗るためにそばに寄った瞬間、それが間違いだとわかった。
「ケツの穴舐めろ」
一見すれば、三浦はただ卑猥な言葉を発したかのように聞こえる。
しかし、それは二人が、周りに悟られぬために取り決めた暗号。
ケツの穴舐めろは、田所を見つけた、そのメッセージ。
木村は震え立つ体を必死に抑えた。
「三浦さん、戦争が始まって気合が入るのはわかりますが、殺気を抑えてください」
「お、おっそうだな」
三浦から出るオーラは少し緩やかになるが、そう言われて簡単に収まるものではない。
木村とて、オーラの放出を抑えるのに手がいっぱいだった。
師範の仇がそばにいる。
そう思うと体が勝手に動き出しそうだった。
だが、三浦は偉い。
田所を目の前にしても動かなかったからだ。
二人は事前に取り決めをしていた。
決して一人では田所とはやり合わないことを。
秋吉師範が勝てなかった相手を、一人で倒せると思うほど木村たちは愚かではない。
戦う際は最低でも二人。決して相手の誘いには乗らない。
頭ではわかっていても、実際に田所を目の前にしてそれが全うできるかはわからなかったが、少なくとも三浦は自分を抑えた。
賢明です。そして、立派です。三浦さん。
木村が心の中で三浦を称賛すると「何してんの、行くわよ」と車から玲兎がこちらに呼びかける。
「行きましょう、三浦さん」
「お、そうだな」
木村は震える三浦の背中に手を添え、玲兎たちが乗るものとは別の、もう一台の車に乗り込んだ。
卯月達が乗る車は、リスクを避けるため、木村達が乗る車の後ろにつくように進んでいた。
中には運転手の玲兎に、後部席には卯月と日生。そして助手席にもう一人。
「んで、どうだったの」
そう玲兎に聞いたのは日生だった。「あいつら、反応はあった」
「反応はかなりね。田所の顔を見た瞬間、とんでもないオーラを出してたわ。ま、見守りすっぽかしていかなかったけど」
「でも、田所見っけたのをウチらには言わなかった、ってことわ」
「まあ、そういうことよね」
「ねえ、もうやめない? それぇ」
話に入ったのは、弱々しく話す卯月。「なんかさぁ、騙してるみたいですっごい心苦しいよぉ」
「そうですよぉ」
卯月に賛同してきたのは、助手席に座る小さな女性。
彼女の能力は5分以上の音声付き動画に写った人物の姿形に変身することができる『
理由は分からないが、田所の動画素材はネットに異常なほど転がっていたので、変身は簡単だった。
玲兎はめんどくさそうにため息を一つ落とした。
「あのねぇ、騙してるみたいじゃなくて実際に騙してるの。身内じゃないの。外の人間である彼らを試すのは当然のことよ」
「でもぉ」
「死んだ人とか使うのわぁ」
しょぼくれて文句を垂れる二人に「うるさい」と玲兎は断じる。
「こっちはね殺し合いしてんのよ。酷かろうがなんだろうが、やれるだけのことはやる。でなきゃ、死んでから後悔することになる」
「そのとおりだけど、誰にうるさいとか言ってんだよ、ケツデカバカ」
反応したのは日生だ。
「黙れ貧乳クズ。こいつら覚悟が足りないのよ、覚悟が」
「覚悟と関係ないから。次、卯月に生意気な口聞いたらぶち殺すよ。てかそれより、あんな奴ら仲間にしといて、お咎めなしですますき?」
日生の問に、全員一同に黙った。
「田所見つけたのに、ウチらに連絡しなかった。明確な敵でしょ、あいつら。今のうちに処分しといたほうが良くない」
「ひ、日生ぇ」
おどおどとビビリ散らす卯月を見ながら「まだ判断は早い」と玲兎は落ち着き払い答えた。
「あいつらは田所のことを言わなかった。これは不安材料ではある、でも明確な敵と決まったわけでもない。あいつらの能力は使える、今ココで手放すのは惜しい」
「それで背中刺されたら笑えるわね」
「背中は見せない。当たり前でしょ。あいつらは味方であっても……仲間ではない。信用する筋合いも、守ってやる筋合いもない。そうでしょ?」