別れを告げて 作:あいす
5人に囲まれているその妖怪は、例え何をされてもただじっと痛みを堪えるのみだった。しかし、人間より強い力を持つ妖怪であるのならやり返すことくらいは容易い筈だ。妖怪である少女はどうして、何も言い返さないのだろうか。だが、そんな事は先程駆けつけてきた少女には関係無かった。
「やめなさい!!」
怒気を含んだ彼女の声に、子供達は慌てて逃げて行った。妖怪の少女は蹲ったままで、どうやら虐めを行っていた5人がまだそこにいると思っている様子だ。そんな妖怪の少女に人間の少女は先程とは違う優しい声色で問いかける。
「大丈夫?」
その声に、妖怪の少女は顔を上げ閉じていた目を開く。状況が理解出来ていないのか、少しだけ怯え震えている。そんな彼女に、人間の少女は続けて話した。
「安心して!もうあなたをいじめてた人たちは追い払ったわ!」
その言葉を聞き、妖怪の少女は状況を理解したのか安堵の表情を見せる。そして、ぎこち無い作り笑いを浮かべ言った。
「あ、ありがとう。あなたが来てくれなかったら私……」
再び表情が曇っていく彼女。そんな彼女の表情を見た人間の少女は、少しの沈黙の後こう言った。
「私、
人間の少女、阿孋に聞かれ妖怪の少女は困惑した様子で答えた。
「えっと……
望未は少し恥ずかしそうにしながら答える。彼女の名前を知れた事に嬉しくなった阿孋。気づいた時には、既にその言葉を発していた。
「望未ちゃんって言うのね!ねえ望未ちゃん。もし良かったら私と友達にならない?」
「えっ……?う、うん。」
急に言われて思わず吃ってしまった望未だが、その表情は笑っていた。先程の作り笑顔とは違い、心から出た笑顔。だが、阿孋を見つめるその瞳は憂いを帯びているように感じた。
「あっ!私、そろそろ帰らないと!」
あれから暫く談笑していた阿孋と望未だったが、既に日が地平線へと沈みかけており阿孋は自分が家に帰らねばならない事を今更思い出した。家に帰った時の両親の顔を想像し、阿孋の顔は絶望へ染まっていく。まだまだ望未と話したい阿孋だが、これ以上家に帰るのが遅れてしまうが最後。両親が般若となって阿孋を待ち構えることだろう。そもそも、家を抜け出している時点できつく叱られるのは必然なのだが……それは兎も角。
阿孋は急いで家に帰る為、立ち上がり望未へ言う。
「じゃあ、私帰るね!またね、望未ちゃん!」
「うん。じゃあね、阿孋ちゃん」
望未の言葉を聞いた事を確認し、阿孋は走り出した。阿孋が風を切る度、吹き付ける夕風が頬を撫でる。
両親にこっぴどく叱られることを自身で理解しているというのに、阿孋は何処か清々しい気分だった。