デート・ア・ライブの二次創作は初めてなのですが、頑張ります。
「いつ来ても、ここはいい眺めだ」
夕暮れ時の公園。見晴らしのいいその場所で、ひとりの男が柵に手をかける。夕焼けに美しく染まった街並みを、両の瞳でじっと見つめていた。
「君も、そう思うだろう?」
横を向き、隣に立つ少女にそう尋ねる。すると彼女は、少しの逡巡の後、小さく、しかし確かにうなずいた。
「俺はさ。こういう景色を、もっと君に見ていってほしい。これからも、ずっと」
少女の綺麗な瞳を真っ直ぐ見据えて、彼は偽りのない言葉を紡いでいく。
「たとえ君が、精霊という存在だとしても。過去に、何があったとしても」
自らの気持ちを伝えるべく、彼は彼女に向けて右手を差し出す。
「君に、生きていてほしいんだ」
驚いたような顔をして……しかし、少女は上品な笑みを浮かべる。
そして、差し伸べられた手を、ゆっくりとした動作でつかみ――
*
「………」
夢を、見ていた気がする。覚めるのが惜しいような、素敵な夢だったと思う。
ジリジリと鳴り響く目覚まし時計のスイッチに手を伸ばしつつ、五河士道はその夢の内容を思い出そうとする。
……確か、士道は囚われの姫君(巨乳)を救うために立ち上がった勇者という役柄だった。
町一番の鍛冶屋に作ってもらった剣を手にして、魔王の潜む悪魔城へと旅立ったのだ。
道中で女騎士(巨乳)や魔法使い(巨乳)と出会い、パーティーを結成。魔王の部下のモンスターとの苦しい戦いを乗り越え、ついに悪魔城にたどりついた。
そして、魔王と対峙して……
「それからどうなったんだっけ」
うんうんうなる士道だが、残念ながら冒険の続きは記憶から抜け落ちてしまったらしい。
いつまでも布団の上にいるわけにもいかないので、諦めて部屋を出ることにした。あまり余計なことをしていると、仕事に遅れてしまうからである。
「今日も冴えない顔だ」
眠気を払うため、洗面所で顔を洗う。その際鏡で自分の顔を見て、士道の口からはそんな感想がこぼれていた。
彼自身はダンディな男を理想としているのだが、どうにも生まれつき童顔ならしく、子供っぽい雰囲気が抜けきっていない。顎から生える無精ひげが、なんともアンバランスだった。
「ひげを剃るのは飯の後にしよう」
ようやく目もぱっちり開いてきたところで、士道は妹の部屋の前まで移動し、軽くノックした。
「琴里。朝だぞ」
返事はない。
中に入ると、すうすうと可愛らしい寝息をたてる五河琴里の姿があった。
今年で14歳になる妹の容貌は、兄の贔屓目を抜きにしてもなかなかレベルが高いと士道は感じている。そろそろ彼氏のひとりでもできるんじゃないかと戦々恐々であるが、いまだ彼女の口からそのような話は聞いたことがない。
「ほら琴里。起きろ―!」
ゆっさゆっさと体を揺らすと、顔をしかめながらも彼女の目がゆっくりと開いた。
「む、むう……なにー?」
「朝だぞ。起きなさい」
「学校、明日からだよー?」
「もう明日からなんだから、当日寝坊しないように早起きする癖をつけておくべきだろう」
「……本音はー?」
「俺は朝から仕事なのにお前だけぐーすか寝てるのは気に食わん」
「さいてーなおにーちゃんだー」
ぷくーと頬を膨らませると、琴里は頭から布団をかぶってしまった。どうやらまだ起きる気はないらしい。
「そういえば、なぜか魔王の姿が琴里だったんだよな」
夢の中で魔王役を演じていたのは、士道の妹である琴里だった。現実では天真爛漫な可愛い少女が、鞭でビシビシ部下の悪魔をなぶっていたのはギャップがすさまじかった。
ただ、一瞬妙に似合うと感じてしまったのはなぜだろう。
「あんまり遅くまで寝てるんじゃないぞ」
最初に言ったことは事実でもある。今日までだらだらした生活を送っておいて、明日いきなり早起きするのは結構きついものだということを、士道は学生時代にしっかり経験している。
「なんで教員は春休み中にも仕事があるのかねえ」
琴里の部屋を出て階段を下り、リビングへ。愚痴りながらも朝食を軽く済ませ、歯を磨いて身だしなみを整えてスーツを着用する。
この毎朝の一連の流れも、1年続ければ完全に習慣と化してしまっていた。
「さて、そろそろ行くか」
余った時間で目を通していた新聞を机の上に置き、鞄を持って玄関に出る。
すると、ちょうどその時2階から琴里が下りてきた。どうやらちゃんと起きたらしい。
「行ってくるからな。ちゃんといい子にしてるんだぞ」
「おー……」
まだ眠いのか、ごしごしと目蓋をこすっている。声にも覇気がない。
「帰りは夕方くらいになると思う。お昼は昨日のカレーの残りでも食べといてくれ」
「わかったー。お仕事がんばるんだぞ、おにーちゃん」
「おう」
軽く手を挙げてから、士道は玄関から外に出た。
*
五河士道。年齢23歳、独身。恋人もいない。
「五河先生、おはようございます」
「おはよう」
職業、高校教師。担当科目は現代国語。
「先生おはよー!」
「おう、おはようさん。よそ見しながら走ると危ないぞ」
正門をくぐって職員室に向かう途中、士道は部活動で登校していた生徒達とあいさつを交わす。
都立来禅高校に雇用されたのは、今から1年前の出来事である。地元の大学に通っていた彼は、運よく自宅からそう遠くないこの学校に就職することができたのだ。
1年間授業を受け持ち、様々なことを経験した結果、今ではある程度自信を持って仕事に励むことができている。いろいろよくしてくれた先輩の先生方には感謝してもしきれないと、士道は心から思っていた。
「おはよう士道くん!」
「こら、教師を君づけで呼ぶんじゃありません」
「あはは、怒られちゃった」
年齢が近いこともあり、士道は生徒達からかなりフレンドリーな態度をとられている。慕われているということで、それ自体は悪い気分ではないのだが、やはりわきまえるべきラインが存在するのも事実なわけで……そのあたりのさじ加減が非常に難しい。
*
「五河先生。この書類のコピー、お願いできますか」
「あ、はい。わかりました」
先輩から新たに仕事を受け取った士道は、早速コピー機のある場所へ向かう。幸い先客はいなかったので、スムーズに使用することができた。
「もうすぐ昼か」
どこかに食べに行こうかとも考えた士道だが、デスクワークが結構残っていることを思い出す。新学期開始直前とあって、仕事が溜まってしまっているのだ。
しばし腕を組んだ後、できるだけ早く帰りたいと考え、昼食は抜きにすることを決断した。
「さて、頑張りますかね」
無事書類のコピーを終え、自らの席に戻る。
「気合十分ですねぇ。これ、どうぞ」
そんな彼の手元に、湯呑みがコトリと置かれた。中身は日本茶のようである。
「岡峰先生。ありがとうございます」
「いえいえ、お気になさらず。自分のを淹れてきたついでですからぁ」
岡峰珠恵。士道と同じく来禅高校の教員で、その愛らしいキャラクターから生徒達にも人気の存在である。士道的チャームポイントは、微妙にサイズの合っていない眼鏡だ。
「五河先生には、明日から頑張ってもらわないといけませんからねぇ」
「はは……正直、結構不安ですよ。2年目でもう担任任されるなんて」
本年度、士道は2年4組のクラス担任を受け持つことになっている。初めて背負うことになる大役に、緊張していないと言ったら嘘になる。
「それだけ五河先生が評価されているということですよぉ。もっと自信を持ってください」
「だといいんですけどね」
「それに、先生をサポートするために副担任の私がいるんですよぉ? 困ったときはいつでも頼ってください」
「……ありがとうございます。ほんと、岡峰先生がいてくれてよかった」
人当たりのいい彼女が力になってくれるのは、士道としてもうれしいことだった。もちろん、なんでもかんでも頼ってしまわないよう、気を引き締めるのも忘れない。あくまで珠恵は副担任で、メインで生徒達をまとめるのは彼自身の仕事なのだから。
「俺、頑張ります」
「はい!」
改めて気合いを入れ直し、仕事に取りかかる士道。家から持ってきたノートパソコンを開き、作業途中のフォルダを呼び出す。
「……ところで、五河先生」
「はい?」
隣から声がかけられた。どうやら珠恵の話はまだ終わっていなかったらしい。
「五河先生って、彼女いたりするんですか?」
「……いないっす。募集中ではあります」
ぐさっと心に突き刺さる話題を持って来られてしまった。心の中で嘆く士道だが、だからといって23にもなって女性との交際経験がほぼ皆無という悲しい現実は変わらない。
「そ、そうなんですか。実はですね、私も今、フリーなんです」
「はあ」
「私、もう29なんですよね。親からも、早くいい人見つけなさいってことあるごとに言われてて」
「それは、大変ですね」
椅子に座ったまま、珠恵はじりじりと士道との距離を詰めてくる。彼女が何を言いたいのか、なんとなく士道にもわかってきた。
「あのですね……五河先生は、私みたいな女性はどうですか?」
うつむき加減で指をもじもじさせながら、彼女は士道に問いかける。結構な本気具合が伝わってきたのは、彼の気のせいではないだろう。
だからこそ、答えは慎重に選ばなければならない。
「俺……」
しばらく言葉を考えた後、士道は意を決して口を開いた。
「俺、彼女にするなら巨乳の子って決めてるんで」
「がーん!」
ついでに言えば、もっと大人のエロスを感じる体つきの人が好みだ。
「うぅ……そうですよね、こんな子供みたいな体型の女、誰も欲しがりませんよね」
「いやいや、岡峰先生普通に可愛い系だし、全然需要ありますって」
世の中には幼い体型を好む男もいるらしい。士道もそのくらいのことは知っている。知っているだけで、到底同意はできないのだが。
……結局、傷心の珠恵を慰めるのに10分ほど要してしまったのだった。
*
「おにーちゃん。今日の晩ごはんは?」
「喜べ。ハンバーグだ」
「おー! 太っ腹だー!」
「そうだろうそうだろう。お兄ちゃんのこと好きか?」
「愛してるぞおにーちゃん!」
五河士道はシスコンである。妹のことが好きで好きでたまらないのである。
ただ、さすがに妹と結婚したいとまでは考えていない。たとえ琴里が血の繋がっていない義理の妹だとしてもだ。
「琴里はまだ胸ちっちゃいしな……いや、仮にでかくなっても欲情なんてしないけど」
誰に対してのものかもわからない言い訳を口にしつつ、士道はひき肉をテンポよくこねていく。
五河家の両親はそろってエレクトロニクス企業に勤めており、仕事の都合上2人とも長期間家を空けることが多い。その間の食事担当は士道なので、自然と料理は最低限こなせるようになっていた。
ちなみに、食費その他の生活費は基本的に琴里のぶんまで士道が負担している。社会人のくせにいまだに実家から出ていない以上、最低限そのくらい払うのが筋だと考えたためだ。
「琴里ー。明日の準備、ちゃんとできてるか?」
「うん、ばっちり」
「そうか」
明日からは新学期が始まる。騒がしい生徒達に囲まれる生活が、また幕を開けるのだ。
大変だろうが、それでもやりがいのある仕事だと士道は思う。教師になったことを、後悔はしていない。
「あーっ!」
「どうした?」
「筆箱入れるの忘れてた!」
「おいおい、しっかりしろよー」
騒がしくも明るい妹の姿に、思わず笑みがこぼれてしまう。
できることなら、この平凡で平穏な日常がずっと続いてほしいと、そんなことを思う士道だった。
……そんな彼のささやかながら傲慢な願いは、いとも簡単に崩れ去ることになる。
大きな選択を迫られるその瞬間は、刻一刻と迫っていた。
年齢を上げて性格も変えたらほとんど別キャラじゃないか、という意見もあるかと思いますが、根本のお人好しな部分は変わっていないのでどうかご容赦を。
次回から原作1巻の内容に入ります。よろしくお願いします。