五河士道(23)によるデート・ア・ライブ   作:キラ

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緊急事態?

「ここか……」

 

 ゴールデンウィークが明け、5月も半ばに入ろうとしていた日のことだった。

 昼休み、士道達の暮らす地域に空間震警報が発令され、住民達はいっせいにシェルターに避難。

 その流れに逆らい〈フラクシナス〉に回収してもらった士道は、今回現れた精霊〈ハーミット〉との対話に臨むこととなった。

 

「もうすぐ、ここに精霊がやってくるんだな?」

『真っ直ぐそこに向かって来てるわ。ほぼ間違いないでしょうね』

 

 現在、士道は〈フラクシナス〉の転移装置によって街のデパートの内部に移動していた。ここまでの〈ハーミット〉の行動パターンから次の動きを予測して、琴里が彼を先回りさせている形である。

 

「ふうー……」

 

 無駄な力を抜きつつ、士道は先ほどの出来事を思い出す。

 学校を出る前に、彼はクラスメイト達と一緒にシェルターに向かっていた十香と出くわした。

 人波をかきわけて近づいてきた彼女は、心配そうな瞳でこちらを見上げていた。

 

『行くのか?』

 

 十香には、この警報が何を意味するものなのかを伝えている。

 だから、今から士道がどこへ向かうのか、わかっているのだろう。

 

『ああ。十香は、友達と一緒にシェルターで待っていてくれ』

 

 この半月ほどで、彼女はクラスメイトの多くと仲良くなった。ひとえに彼女の魅力ある容姿と、その純粋さによるものだろう。唯一、折紙とだけはいまだにまったくそりが合わないようだが。

 

『うむ、わかった。……私のような者を、助けてやってくれ』

 

 別れ際、十香にもらった言葉をしっかり胸に刻みこむ。

 彼女のためにも、折紙のためにも、琴里達〈ラタトスク〉のみんなのためにも。

そして、これから会う精霊のためにも、士道は頑張らなければならない。

 

『なに、緊張してるの?』

「そりゃ、まあな。見た目は小さな女の子でも、相手は精霊だし。てか、精霊じゃなくてもちっちゃい子と話すのは緊張するし」

『犯罪臭がするから?』

「そうそうお巡りさんが怖くて……なわけないだろ。話題を合わせづらいだけだっての」

 

 先ほど映像で見た〈ハーミット〉は、琴里と同い年くらいの外見の少女だった。十香とは違い、士道のストライクゾーンからは外れている。シスコンであってもロリコンではない。

 

『っと、くだらない話をしてる場合じゃないわ。士道、来るわよ』

 

 からかうような口調だった琴里の声が、一転して引き締まる。どうやら、精霊がすぐそこまで近づいているらしい。

 ぐるりと周囲を見渡す士道。見える範囲には、まだいないようだが――

 

『君も、よしのんをいじめにきたのかなぁ……』

「うおっ!?」

 

 頭上からの声にビクリと震え、士道は顔を上げる。

 いつの間にか、青い髪の少女が上下さかさまに宙に浮いていた。

 通常ならあり得ない光景だが、精霊ならその程度簡単に可能なのだろう。

 

「待ってくれ、俺は別に戦いに来たわけじゃないんだ」

『うん? そうなん? そういえば、いつもの人達がつけてるメカっぽいものもないねー』

 

 彼女の左手にはウサギのパペットがはめられており、言葉に合わせてぱくぱくと口が動いている。反対に、少女の本来の口は一切動いていなかった。

 腹話術か何かだろうか――一瞬そちらに思考が向かいかける士道だが、今は会話を続けることが優先だと思い直す。

 

「そう、今の俺は丸腰だ。なんならここで全裸になってもいいぞ」

『士道。あなたその言い回し気に入ったの? 実は露出願望があるわけ?』

 

 琴里の冷ややかなツッコミをスル―し、少女の瞳を見つめる。サファイアのような綺麗な色合いで、吸い込まれそうな感覚を覚えた。

 

『あっはっは! 可愛いレディの前で堂々と裸になるんだー。ちょっと興味あるけど、今はいいかな』

「そうか。とりあえず、俺に敵意がないってことはわかってもらえたかな」

『うんうん、ばっちり。なーんか他の人と雰囲気違うし、おにーさんはよしのんをいじめにきたわけじゃないっと。んでんで、実際何しにきたわけ?』

「何しに来たかっていうと、まあお話しだな。あんまり人間とそういうことする機会ないだろうし、どうだ?」

 

 十香と比べて態度が柔らかいため、士道の方も積極的に攻めることを選ぶ。

 しかし、さっきから彼女の口は一切動いていない。あまりに上手なものなので、本当にパペットが意思を持ってしゃべっているのではないかと錯覚を覚えるほどである。

 

『おお、いいねー。どーもみんな喧嘩好きみたいで、よしのんと話したいなんて人いなかったからね。あははっ!』

「人間全員が、君を襲おうとするわけじゃない。それは知っておいてほしい」

『あー、それはちゃんとわかってるって。今まで見てきたわけだし』

「え?」

 

 予想外の反応に、士道は思わず聞き返してしまった。

 見てきた……それはつまり。

 

『出てくるときに街を壊しちゃった時は、逃げ回るだけになっちゃうけど。そうじゃない時はあちこち散歩して、いろんな人を見かけるからねー』

『十香の時と同じ、空間震なしでの現界……しかもこの様子だと、結構な回数経験しているみたいね』

 

 つまり彼女は、十香よりも人間について詳しいということだろうか。

 そういえば、先ほどから『よしのん』という単語を口にしているが……。

 

「なあ。そのよしのんってのは、君の名前か?」

『いえーす。可愛いっしょ?』

「うん。いい名前だ」

『ああんっ。おにーさんってばお世辞が上手なんだから! ところで、そういうおにーさんの名前は?』

「俺は五河士道。五河が名字で、士道が名前だ」

『おっけー、士道くんだね。よろしくっ』

「おう、よろしく」

 

 よしのんの態度は、陽気でかなりフレンドリーだ。十香の時と比べると、相当話しやすいと士道は感じていた。

 

『名前をきちんと持っている上に、随分親しみやすそうな精霊ね。これは一発で最後まで行けるかも』

 

 琴里の声に若干の期待が混じる。士道としても、早くよしのんと仲良くなれるのならそれに越したことはない。

 

「よしのん。よかったら、ちょっとその辺散歩しないか?」

『いいよー、よしのんもここに何があるのか気になってたんだよね』

 

 退屈させないようにと提案したところ、思った以上の好反応が返ってきた。パペットを器用に動かし、ウサギが全身で喜びを表現している。

 

「よし。じゃあ出発だよしのん」

『おー! ……あ、ひょっとして今の、よしとよしのんをかけたダジャレ? あっはっは!』

「いや、違いますけど……」

『さっむい親父ギャグねえ。艦橋が凍りついたわよ』

「違うって言ってるだろ!」

 

 最後の琴里への反論は小声で行い、士道はよしのんを連れてフロア内を歩き始めた。

 

 

 

 

 

 

『士道くん士道くん! あれはなに?』

「あれは洗濯機と言ってだな、服とかを洗うのに使うんだ。中がぐるぐる回るんだぞ」

『へー、面白そうだね。今動かせる?』

「今は無理だな。電源がつながってない」

 

 しばらくデパート内をぶらぶらした士道とよしのんは、現在家電コーナーに足を踏み入れている。

 行く先々でいろいろな商品に目を奪われるよしのんに、士道が解説を加えるというパターンが何度も続いていた。

 

『いい感じね。十香の時といい、士道には精霊と話す才能があるのかも』

 

 インカムから聞こえる琴里の言葉が示すように、ここまでのよしのんとの対話は良好な展開できている。もっとも、それはよしのんがもともと気さくな性格だったから、というのが大きな要因だと士道は感じていた。

 

『服といえばだけど、士道くんなかなかイカす服装だよね』

「お、そうか? ありがとう、このスーツは俺も好きでさ。よしのんのファッションも可愛いぞ」

『でしょ? 特にこの眼帯が気に入ってるんだよねー。士道くんはわかってる』

 

 褒められてうれしいのか、パペットの両手が頬に添えられる。士道としては、パペットの方ではなくよしのん本人の服装を指したつもりだったのだが、喜んでくれたので結果オーライである。

 

『そういえば、士道くんには彼女いるの?』

「残念ながらいないよ」

『じゃあ彼氏は?』

「……なあ、ここでいるって答えたらどうなるんだ」

『あっはっはっ! ……別にどうもしないよ?』

『士道、〈ハーミット〉の好感度が下がったわよ』

 

 さすが〈ラタトスク〉の誇るシステム、些細な変化も見逃さないらしい。

 

「なんで一歩下がったのかすごく気になるけど、いないからな。俺は普通に女の人が好きなんだ」

 

 妙な誤解をされないようにはっきり答えておく。インカムの向こう側からほっとしたようなため息が聞こえてきたので、どうやら好感度はもとに戻ったようだ。

 

『女の子が好きだけど付き合ってる子はいないんだ?』

「そうなんだよ。今まで何度も頑張ってみたんだけど、うまくいかなくて……」

『へえ、不思議だねー。よしのんが見る限り、士道くん結構モテそうだけど』

「えっ! マジで!!」

『あー、多分そうやってがっつきすぎるのがよくないんだね。よしのんバッチリ指摘しちゃう』

「ぐぬぬ」

 

 鋭くもありがたいアドバイスをいただいた士道は、今度からこれを踏まえてアタックしてみようと心の中で決めた。

 

『士道。精霊の好感度がかなりいいところまで上がってるわ。そろそろキスする方向に話を持っていけないかしら』

 

 そんな折、琴里の口から次の指令が飛び出した。もうそんなに仲良くなっていたのかと、士道は目の前でぴょんぴょんと跳ねまわっている少女の姿を見つめる。相変わらず口を開いているのはパペットの方だけで、本人の顔は無表情のままである。

 

「よしのん」

 

 電子レンジを眺めている彼女に声をかけ、次に言うべき言葉を吟味する。前回の十香の時は、緊急事態につき強引に唇を奪ったので、精霊に対するキスの交渉は今回が初めてになるのだ。

 

『ん? なーにー、士道くん……っとと!』

 

 くるりとこちらを振り向いたよしのんだったが、その際足を滑らせたのか、体勢を崩してばたんとうつむきに倒れてしまった。

 その拍子に、彼女の左手からパペットが抜け落ちる。

 

「だ、大丈夫か?」

「……!」

 

 士道の声に、ビクンとよしのんの体が跳ねる。その様子に、彼は明らかな違和感を覚える。

 

「……! あ、ぅ……」

 

 ついさっきまで無表情だった彼女の顔は、完全に憔悴しきっていた。何かに怯えるように全身を震わせながら、立ち上がって近くに落ちているパペットを拾い上げる。

 すると……

 

『いやー、お見苦しいところを見せちゃったね。転んじゃうなんてよしのんみすていくっ!』

 

 パペットを手にはめた途端、一転して様子が元に戻った。顔は再び感情のないものになり、パペットだけが元気に手や口を動かしている。

 

「あ、ああ……うん。気にすることないよ」

『一瞬だけ精神状態がかなり乱れたわね……なんだったのかしら』

 

 もしかすると、パペット越しでないと会話できない恥ずかしがり屋なのかもしれない。そんな予測を立てつつ、士道はとりあえず話を続けることにした。

 

「それでなんだけど、よしのん。ちょっとお願いが――」

『あー、ごめん士道くん。今日はもう時間みたい』

「時間……?」

 

 パペットが両手を合わせて頭を下げたのとほぼ同時に、よしのんの体に変化が訪れた。

 まるで空間に溶けていくかのように、徐々に全身の色が薄くなっていく。

 

『間が悪いわね。ここで消失(ロスト)なんて』

 

 琴里の控えめな舌打ちがインカム越しに聞こえてくる。

 現界して一定時間経った精霊は、本人の意思と関係なく異世界に帰っていく。この現象を、消失と呼ぶらしい。

 

『また会ったら、今日みたいに楽しいおしゃべりしよーね!』

「わかった。約束だ」

 

 最後に士道に言葉を投げかけて、よしのんはこの世界から完全に消え去った。

 

『まあ、上出来ね。次会ったら、その時は霊力を封印できるでしょう』

「ああ、そうだといいな」

 

 目標達成とはいかないが、新たな精霊と親睦を深めることができた。

 その事実に安堵しつつ、士道は〈フラクシナス〉へと戻るのであった。

 

 

 

 

 

 

 翌日。

 今日は土曜日なので、授業は休みである。だが、士道は教師として用事があるので、午後から学校に出向く予定になっていた。

 そのため、午前中に買い物を済ませておこうと考え、彼は現在商店街にいる。朝から雨が降っていたので、右手で黒い傘をさしていた。

 

「よしのん、か」

 

 昨日出会った、小さな女の子の精霊を思い出す。

 陽気で話しやすい少女だったのだが、どこか妙な部分があったのも確かだ。果たして、無事霊力を封印できるのだろうか。

 ……そしてもうひとつ、気がかりなのが折紙のことだった。

 空間震が発生した以上、彼女は昨日も戦場にいたはずだ。胸に秘めた強い意思をもって、精霊と対峙していたのだろう。

 

「なんとかしなきゃな……」

『なにをー?』

「そりゃあ……あ?」

 

 独り言に割りこんできた声には、十分すぎるほど聞き覚えがあった。

 慌てて後ろを振り向いた士道は、自身の予想が間違っていなかったことを確信する。

 

「よしのん!」

『やっほー! また会えたね、士道くん』

 

 声に合わせて、パペットの口が開いたり閉じたりを繰り返す。

 士道が望んでいた再会は、想像よりも早くやって来たらしい。

 

「ここで何してたんだ?」

『別に? ただ散歩してただけなんだねこれが』

 

 空間震警報は鳴っていない。昨日とは違い、今回は周囲に被害を与えることなく現れたようだ。

 

「とりあえず、一緒に歩こうか」

『おお、士道くんってば積極的。いいよー、いろいろ案内してちょうだいねっ』

「よし。……あ、というか体濡れてるじゃないか。ほら、この傘大きいから入っていいぞ」

 

 よしのんに近づき、傘の中に入れてやる。

 

『わお、雨が当たらなくなった! ありがとう士道くん!』

「どういたしまして」

 

 はしゃぐ彼女の横で、士道はどこか落ち着いて話せる場所はないかと周囲を見渡す。雨が降っているので、どこか屋内がいいのだが。

 

「おっ」

 

 そう時間をかけることなく、こじゃれたカフェが近くにあるのを発見した。確か以前に、生徒の間でケーキがおいしいと評判になっていた記憶が残っている。

 

「よしのん、あの店に行かないか? おいしいケーキが食べられるんだが」

『うん、行こう行こう!』

 

 よしのんの了承をもらい、2人並んで目的のカフェの前まで歩く。

 そして、傘をたたんで中に入ろうとしたその時。

 

「……五河先生?」

 

 扉が開いて店から出てきたのは、士道のよく知る人物。

 彼女の姿を認識した瞬間、彼は自分が致命的なミスを犯したことに気づいた。

 

「と、鳶一……」

「ちょうどよかった。先日の和菓子のお礼に、今からあなたの家に行こうと――」

 

 ケーキか何かが入っていると思われる紙袋を掲げた折紙は、士道の隣に立つ少女に視線をやり……驚愕に、目を見開いた。

 そう。普段なら、街で折紙と会うことにはなんの問題もない。

 ただ、今はタイミングとしては最悪と言うほかなかった。

 

『あれー? 君、ひょっとしていつもよしのんをいじめてる子?』

「〈ハーミット〉……!」

 

 ひょうきんな態度を崩さないよしのん。

 険しい顔つきになる折紙。

 出会ってはいけない2人が、出会ってしまった瞬間だった。

 




四糸乃(よしのん)と折紙という組み合わせ。あんまり見かけないのですが、実際どうなんでしょうか。

ロリっ子とデート中の現場を見られてしまった士道の明日は……?
次回もよろしくお願いします。
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