五河士道(23)によるデート・ア・ライブ   作:キラ

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十香デッドエンド
非日常への入口


 4月10日。今日は来禅高校の入学式と始業式が行われる。

 教員のひとりとして、もちろん士道も出席することになっている。

 

「先生おはよう!」

「久しぶりだねー」

「今日もそこそこにイケメンに見える」

 

 校内に入ると、本日から2年生に進級した3人組に声をかけられた。

 左から、山吹亜衣、葉桜麻衣、藤袴美衣。去年彼女達の学年の授業を受け持っていたので、名前も容姿もよく覚えている。

 

「おはよう。いつも一緒だな、お前達」

「そりゃまあ、気が合うからね」

 

 笑って答える亜衣。こういった学生の姿を見ていると、教師としても心が温まってくる。

 

「今年もよろしくな」

「うん!」

「ほどほどにね」

「テストの採点は甘めにねー」

 

 3人と別れ、職員室へ向かうために廊下を歩いていく。

 その途中、士道は見知った背中を視界に捉えた。

 艶のある白い髪を肩にギリギリかかるくらいに伸ばした、細身の少女。

 

「おはよう、鳶一」

 

 士道が声をかけると、彼女は立ち止まってくるりとこちらに体を向けた。

 

「五河先生。おはようございます」

 

 鳶一折紙。亜衣達と同じく、今日から2年生になった生徒のひとりである。

 

「相変わらず綺麗なお辞儀だな。シャキッとしていて大変よろしい」

 

 折紙は寡黙なタイプで、あまり友人と仲良くしている姿も目にしていない。ただ、どういうわけか士道の仕事(荷物運びなど)を手伝ってくれることが多く、自然と話をする回数も増えていた。

 

「五河先生のクラスに入れて、よかった」

「それは光栄だな……あれ、なんで俺が担任だって知ってるんだ?」

 

 折紙のクラスは2年4組で、確かに士道が担任なのは事実。しかし、どのクラスを誰が担当するかはまだ生徒に明かされていなかったはずである。

 

「……秘密」

「秘密ときたか、まあいいけどな」

 

 無表情で答える折紙に対して、特に追及する気もなかった士道は肩をすくめる。たまに得体の知れない不思議な一面を見せるのが、彼女の特徴のひとつだ。

 

「1年間ビシバシ鍛えていくからな。とはいっても、鳶一には特に厳しくする必要ないか」

「どういう意味」

「頭脳明晰、運動神経抜群。文句のつけようがないってことだ」

「それは、褒めていると受け取ってかまわない?」

「ん? そりゃもちろん」

「そう」

 

 小さくうなずく折紙。感情の起伏が非常に乏しい彼女だが、今は若干口角が吊り上がっているように士道には感じられた。

 出会ってすぐのころは、まったく表情を変えない子だと思っていた。しかし、注意深く観察するとわずかな変化を見つけられる時があるのだ。

 

「あ、でももうちょっと他人とコミュニケーションとった方がいいぞ。どうしても無理だっていうなら強制はしないけど」

「善処する」

「そうか。じゃあ、また教室でな」

 

 折紙と別れ、今度こそ職員室へ。

 

「善処するって、逃げ口上にもよく使われるよな」

 

 謎多き少女だが、もっといろんな人と仲良くしてほしいというのが、士道の偽らざる本音だった。

 

 

 

 

 

 

 時間は進み、そろそろ正午かというころ。

 

「とりあえず、一仕事終わったな」

 

 始業式と新学期のホームルームを終え、士道は食堂の自販機でコーヒーを購入していた。

 自分が担任だと知った時の生徒の反応も良好だったので、一安心である。

 

「岡峰先生の時の方が反応がでかかったのが悲しいところだが」

 

 彼女には小動物的な可愛らしさがあるため、仕方がない。タマちゃんなんて愛称がつけられるほどだ。

 

「ふう……」

 

 コーヒーを一口飲み、肩の力を抜く。明日からはもっと忙しくなるだろうから、しっかり気を引き締めなければ。

 と、士道が物思いにふけっていた、その瞬間。

 

 ウゥゥゥゥゥゥ――

 

 けたたましいサイレンの音が、空間全体に鳴り響いた。

 直後、街の方からアナウンスの音声が聞こえてくる。

 

「まじかよ」

 

 その内容を把握すると、士道は半分以上残っていた缶コーヒーを捨て、すぐに食堂を出た。

 

「こらそこ、廊下を走るな! 落ち着いて避難するんだぞ」

 

 今しがたのサイレンは、空間震警報が発令されたことを示すもの。

 空間震とは、原因不明、発生のサイクルも不明の天災である。規模は不確定で、突然の爆発や建物の倒壊、そして物体の消失……そのような現象が起きる。

 初めて空間震が起きたのは今から30年前。当時の甚大な被害を教訓に、人類は空間震対策を進めてきた。その一例が、空間震の発生を察知する警報なのだ。

 

「ほら、焦らなくてもシェルターはすぐそこだ。前を押さないように歩いて行け」

 

 教員一同には、警報が発令された際の行動マニュアルがしっかり叩き込まれている。

 この高校の地下に作られたシェルターに、生徒達を安全に誘導するのが第一だ。

 

「走るなよ、絶対走るなよ!」

「五河せんせー、フリみたいになってます」

 

 途中生徒の一部に笑われたりもしたが、無事に全員をシェルターに連れて行くことができた。

 人影がなくなったことを確認して、士道も地下シェルターに足を踏み入れる。

 全校生徒を収容できるよう設計されているだけあって、そこは非常に広い空間になっていた。

 

「おっ」

 

 まだ放課後になってさほど時間が経っていなかったため、教室から一緒に避難してきたのだろう。2年4組の生徒達は、だいたい同じ場所に固まって座っていた。それを見つけた士道は、彼らのもとへ近づいていく。

 

「お、五河先生。訓練じゃない本番の避難って、なんだかドキドキするな」

「殿町か。確かに、俺も同じだ」

 

 適当に会話をしながら、顔ぶれを確認していく。昨日のうちにクラス全員の顔と名前は覚えていたので、さほど難しい作業ではない。

 

「……ん?」

 

 目に見える範囲の確認を終えた士道は、少し離れた場所にいた珠恵に声をかける。

 

「岡峰先生。鳶一、見ませんでしたか」

「鳶一さんですか? えっと……多分、見てないです。他のところにいるんでしょうか」

「そうですか。ありがとうございます」

 

 4組の生徒のうち、鳶一折紙の姿だけが見えない。

 そのことが気になった士道は、彼女を探してシェルター内をうろつき始めた。

 

「………」

 

 折紙の白い髪は目立つ。なので、この大人数の中でも見つけることができると彼は踏んでいた。

 だが……。

 

「いない」

 

 シェルターを一周しても、折紙の姿を確認することができない。

 まさか、まだ学校に残っているなんてことは――

 

「おや、五河先生? どちらへ?」

 

 無意識に出口へ向かおうとしていた士道の足は、背後からかけられた初老の教師の声によって止められた。

 振り向くと、その教師だけでなく周りの生徒も士道に注目している。

 このまま彼がシェルターの外に飛び出せば、彼らにいらぬ混乱を与えてしまうことになる。

 

「……いえ、別にどこにも」

 

 焦る気持ちを抑え、士道は壁にもたれかかる。

 何も、折紙がいまだに避難していないと決まったわけではない。単純にここにいるのに士道が見つけられないだけかもしれない。あるいは、警報があった時にはすでに校外に出ていて、こことは別のシェルターに行ったのかもしれない。

 どちらの推測も、彼女が地上にいる可能性よりは高いはずだと士道は考える。

 不安が拭いきれるわけではないものの、最終的にはおとなしく空間震が去るのを待つことに決めたのだった。

 見回り等も教員の仕事なので、しっかり取り組まなければならない。

 

 

 

 

 

 

 避難命令が解除され、士道が家の前まで戻った時には、すでに夕焼け空が頭上に広がっていた。

 

「……やっぱり気になるな」

 

 頭に浮かぶのは、結局姿を確認できなかった教え子のこと。どうしても、最悪の可能性が脳裏をよぎってしまう。

 こんな状態でいては、琴里を心配させてしまうだろう。

 

「確かめに行くか」

 

 折紙は現在、マンションの一室を借りて生活をしているらしい。そのマンションの住所も、担任である士道は把握している。

 とりあえず部屋に戻って、余計な荷物を置いたらすぐにでも彼女の自宅に向かおう――そう決めた士道は、玄関の戸を開けて家の中に入った。

 

「あ、おにーちゃんおかえり! 待ってたよー」

「ただいま。待ってたってどういうことだ?」

「おにーちゃんに大事な話があるの」

 

 リビングから出てきた琴里の言葉に首をかしげる。

 

「いいからいいから。ちょっとじっとしてて」

 

 とことこと駆け寄ってきた琴里は、靴を履いて士道の隣に立った。

 

「はい、準備オッケー!」

「お前何言って――」

 

 疑問の言葉は、最後まで続かなかった。

 思わず口の動きを止めてしまうほどの驚きが、士道を襲ったからだ。

 

「……は?」

 

 彼と琴里は、直前まで自宅の玄関にいたはずだ。

 だが、現在目に映る景色はそれとはまったく異なるものだった。

 まるで映画に出てくる宇宙船の内部のような装飾。メカメカしい、なんて単語が士道の頭には浮かんでいた。

 

「な、何がどうなって」

「こっちよ」

 

 混乱する士道の腕を引くのは、隣に立っていた琴里だった。ただ、いつもと様子が違う。

 

「おい、琴里? ここはいったい」

「後で説明するから、黙ってついてきなさい」

「お、おう」

 

 普段と全く異なる妹の態度に気圧され、士道は彼女の誘導に素直に従う。狭い通路を歩く途中、彼女の髪をくくる2つのリボンが白から黒に変わっていることに気づいた。

 

「ここよ。入って」

 

 電子パネルのようなものを操作して扉を開けた琴里に続き、士道も中に足を踏み入れる。

 

「なっ……!」

 

 再び、言葉を失う。

 視界には広大な空間が広がり、様々な機械やモニターが設置されている。そして、多数の人間がせわしなく何かしらの作業を行っていた。

 

「ようこそ、〈ラタトスク〉へ」

 

 部屋の真ん中に置かれた席に座り込み、琴里が聞きなれない単語を口にする。

 士道はただ、そんな妹の言葉を黙って聞くことしかできなかった。

 




教師として、士道は折紙とそれなりに交流を重ねています。彼女のことが気になっていたことに加えて先生としての仕事もあったため、シェルター内でGPSを使って琴里の位置座標を確認するところまでは頭が回りませんでした。原作と違って外食の約束もしてませんし。

感想等あれば、気軽に送ってもらえるとうれしいです。
では、次回もよろしくお願いします。
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