ダンジョンにシカクイ奴が居るのは間違っているだろうか 作:taimanman
unlimited writings works(無限の文製) 唱えちゃいましたよ。
でもだからって別に無限に文章書き続ける訳じゃないんです。
そこを間違えないでください。本当にお願いします。
ダンジョンの5階層に、1人の少年が居た。
白い少年だった。
別にどこぞの一方通行さんの様に全身が病的に白いというわけではなく、見た目で言えば髪だけが白いのだが。
言うなれば少年はその雰囲気が白かった。
純朴そうな雰囲気を纏っていたとも言う。
そんな少年ーーーベル・クラネルは今......全力で走っていた。
「ほぁあああああああああああああああああああ!?」
駆け出し冒険者のベルが自分にダンジョンについて教えてくれた者の忠告ーーダンジョンでは決して調子に乗ってはならないーーを無視し、あまつさえ普段潜っている2階層を大幅に越えた5階層に突撃というとんでもない暴挙を成し遂げた結果、彼は今死の憂き目に会っている。
『ミノタウロス』
牛頭人体のモンスター。モンスターの代名詞。冒険者にとっての鬼門であるこいつに、ベルは殺されそうになっていた。
走る。走る。走る。
駆け出しは駆けているのが本分とでも言わんばかりに走り続ける。その姿にいつも通りの純朴そうな雰囲気は無い。代わりに何でこんなことにという焦りが全面に出ていた。
何でかと言われれば調子にのって次々にダンジョンを降りていった自分のせいなのだが脳内に非常事態宣言発令中の彼はそんなことには気づかない。
まあ例え理由に気づいたところで興奮中のミノタウロス君の猛烈アプローチが止まるという訳でもないので、問題なしと言えば問題無しと言えるだろう。
さてそんな彼は死にたくない殺されたくないの一念だけを胸に今走り続けている。しかしそんな彼が正常な判断など下せる訳がなく、つい先程ダンジョンの正規ルートを大幅に外れてしまっていた。ならば彼が行き着く先はダンジョンの出口ではなく、下の階層への階段でもなく、行き止まりになることは当然と言えよう。
「うわわわわわわわわわっ......!?」
疲労によって足がもつれ転げる。恐怖によって上手く立ち上がることの出来ぬまま、それでも追ってくる存在から離れたいと、尻餅を着いたまま惨めに後ずさりした。
ーーしかしその先は行き止まりである。
ドンッと壁にぶつかる。もう逃げることはできない。
やがて追っ手がこの行き止まりの部屋に到着する。逃げ場の無い袋小路に尻餅をつく獲物を見てニヤリと笑い、ゆっくりと近づいていく。ずっと続けてきたアプローチが実を結びご満悦のようだ。
(ああ、死んでしまった。)
もう生き残る術はない。
ーー結局、女の子との出会いは訪れなかった。
最後まで残ったのは己の仕様もない願望。かわいい女の子と出会って、その子のピンチを救って仲良くなりたいという、少し邪な青臭い考え。しかしそのためにダンジョンまで潜りに来た、彼の動機そのものとも言える願望。最期の最期までこんな願いが頭に浮かぶことに自分でも笑ってしまいそうになる。
しかしそれが成就することはなさそうだ。
ーーそう思っていた時だった。
コツコツという音が聞こえた。
ーーそれは上から聞こえてきた。
ーーそれはなにかを削っているかのような、またはなにかを掘っているかのような、そんな音だった。
あまりに唐突に、そして不自然に聴こえてくる音に、思わず目の前のミノタウロスと目を合わせ、揃って上を見る。
すると天井の一部にヒビが入っていて......。
なにかが来る。そう思った次の瞬間。
パカァァンとヒビが広がり砕け散った。そのまま穴が開き、なにかが落ちてくる。
ーーそれは、四角かった。まるでノコギリで切ったかのように全身が角々していた。
ーーそれは、動いていた。それも生物のような滑らかな動きではなく、やはり角々としたどちらかというと機械のような動きかただった。
ーーそれは、一応人のような体の構成をしていた。頭があり、胴体があり、手足があった。
ーーそしてそれは、水色の服と青色のズボンを履いていた。
ーーその誰かは......つるはしを持っていた。
「えっ......!?」
「ヴモッ......!?」
この誰かを見て最初の感想がこれである。
無理もない。白い少年も立っている牛も、まさかこんなものが降ってくるとは思いもしなかっただろう。というかこれを想像できた奴がいたのなら、そいつは多分神かなにかである。
未来でも見ていなければこれの予測は無理だ。
それはさておき、こいつはなんだろうか?
いきなり天井から現れたこいつは意外に大きい。目算で1.9m程はありそうである。目は青色であり、髪の色は茶色だ。
驚くことに、防具をなにも着けていない。ここがダンジョンだと分かっているのだろうか?
更に不思議なことに、つるはし以外なにも持っていない。武器すら持っていないのだ。
「あなたは......」
そうベルが聞こうとした時だった。
「ヴヴォオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!?」
と、場に置いてけぼりにされそうになっていた牛がキレだした。
さっきまで己に怯えて震えていた獲物が、自分以外に気を取られ、間抜け顔を晒している事が気にくわなかったらしい。
まずはこの場の空気を壊してくれた乱入者から殺す。そう決めたらしく勢いよく蹄付きの拳を振りかざす。
そのまま振り下ろそうとして......。
ーーしかし拳が下ろされることはなかった。
ーーカツンッという音と共に侵入者がつるはしを振り下ろしたからだ。
軽く見えたその一撃はしかし見た目に反して強烈だった。
ただの一撃が体にめり込み、血が噴き出る。そのまま腕を振り切り、巨体を吹き飛ばした。
「なッ!?」
「ヴモッ!?」
そんな馬鹿な。勢いよく飛び散った血が体に降り注ぐ事もどうでもよく感じられる。
ただのつるはしの一撃でミノタウロスが吹っ飛ぶなどあり得ない。いったいどんな力があればそんな事が出来るのだ。
いやまて、そういえばさっき天井を掘ってここに来ていた。つまりこの人は4階層からダンジョンを掘って直接この5階層まで来たことになる。それはとんでもない労力であり凄まじい力が必要になる。それなのに平然としているこの人は、ひょっとせずとも凄まじい力の持ち主なのだろう。
それにあのつるはしもすごいものだ。ミノタウロスにあんな力でぶつけて原型を保っている。よっぽど頑丈な物なのだろう。
そう思ってよく見ると、そのつるはしは......つるはしではなかった。
「は?」
おかしい。確かにつるはしであったはずだ。何故それが剣に変わっている?それにさっきのつるはしは何処にいった?
そんな事をベルが考えている間に、目の前の誰かはミノタウロスを片付けていた。
半ば呆然としながらそれを見ていると、彼は一瞬こちらを向いた後、いつの間にかもとに戻っているつるはしでまた地面を掘り出した。
呆然としたままそれを見ているうちに、ダンジョンの持つ自己修復機能により地面が直っていく。
未だに思考の纏まらないベルには、ただ見つめていることしかできなかった。
だがいつまでもダンジョンでへたれこんで居るわけにはいかない。
目の前で起きたことが何であったのかはよくわからない。しかし折角助かったのだ。無駄死にするわけにはいかない。
そう考え、立ち上がろうとしたその時だった。
視界に、金の輝きが映った。
「大丈夫ですか?」
また誰かが来たみたいだ。未だにへたりこんだままベルが声の方に顔を向けると、そこには金色の女神がいた。
ーー蒼い装備に実を包んだ、金眼金髪の女剣士。
駆け出し冒険者のベルですら知っている存在。
【ロキ・ファミリア】に所属する第1級冒険者。
Lv.5【剣姫】アイズ・ヴァレンシュタイン。
「あの......大丈夫、ですか?」
大丈夫じゃない。全然大丈夫じゃない。見るからに真っ赤になっていく少年の顔を見てどこが大丈夫と言えるのだろうか?
そこに彼女が気づく前に......
「ダァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!?」
血まみれの少年は逃げていった。
ガァーンと逃げられたことに落ち込むアイズ。後からやって来た同じファミリアの仲間である狼人にそれを笑われ、珍しく彼女が頬を膨らませているとき、ふと気づいた。
己はここに逃がしたミノタウロスを片付けるために来たはずだ。それが何故ミノタウロスはいなくなっていて、ちょうどミノタウロスの全身ぐらいの量の灰が落ちているのだろう?
もしこの灰がミノタウロスの成れの果てだというのならば、あの少年が倒したということになるのではないだろうか?
雰囲気はどう見ても駆け出しのものだった。動きを見てもやはり駆け出しのLv.1といったところ。それがどうやってミノタウロスを倒したのか。
強さを求める少女は、あの少年に興味を持った。
こうして、誰も知らない所で盛大な誤解が生まれたのであった。