ダンジョンにシカクイ奴が居るのは間違っているだろうか 作:taimanman
次の巻も同じ様にならないよう気を付けます。
ところでアルフィア良いですよね。カッコいい。
ベルと会っていたら親バカなのも良い。
ベル・クラネル
Lv.1
力:I82→H120 耐久:I13→I42 器用:I96→H139 敏捷:H172→G225 魔力:I0
《魔法》
【 】
《スキル》
【 】
「......えっ」
ダンジョンから帰り、スティーブの後に更新して貰ったベルのステイタスがぶっ壊れていた。
まあどちらかというと夕方には家に帰っている職場環境の方がぶっ壊れている気はするが。
どれだけホワイトな職場なんだ。と感動すら覚えるが、よく考えてみれば福利厚生一切無しである。
残業代どころか危険手当てもおりず、労災も無し。と言うか残業もなにも定時という概念が無い。
ようは働く時間も量も日程すらもこちらに全委託である。怖すぎる。
これってつまり
......とても気にはなるが今はおいておこう。
とにかく、ステイタスがぶっ壊れている。
「か、神様、これ、書き写すの間違ったりしていませんか......?」
「......君はボクが簡単な読み書きもできないなんて、そう思っているのかい?」
「い、いえっ!そういうことじゃなくて......ただ......」
ただ、ちょっと、ありえない数値が並んではいないだろうか。
何故だか刺のある神様はともかくとして、この上昇値はいかれてる。
今日は確かに頑張った。頑張ったがだからといってこの伸びはおかしい。
これが本当ならば今までの半月間の努力はなんだったんだという話になる。
「ほらっ、やっぱりおかしいですよ!ここ、今日は一回しか攻撃受けてないのに!」
今日ベルが受けた攻撃は死角からのゴブリンの突撃一度だけだ。
そのたった一度の突撃がこれまでの半月の数多のゴブリンの突撃より強力であったというのは無理がある。
ちなみに死角からの攻撃に気付かなかったことでまだまだ周りを見れていないという事がわかってしまったベルは、その後焦ってしばらく周りをキョロキョロと見回し続けていた。
言われて一度でできるようになる訳ないのに。
もうひとつ言うならばスティーブはゴブリンの突撃に気づいていたが、ベルが気付かなかったことでそのまま見過ごしている。
実に愛のある
まあこれがミノタウロスの突撃だったなら言っていただろうが。
「だからやっぱりなにか別の......原因......」
「......」
「......あの、神様......?」
「......」
「だから、なにか......」
「......」
「あるんじゃないかなーって......」
ヘスティア必殺技『黙秘権を行使します』!!
ベルにクリティカルヒット!!
ベルは気まずくなった!!
「......知るもんかっ」
ぷいっと、顔を背けられた。
めちゃくちゃ不機嫌である。
これがいわゆる
ヘスティアはじめてのハンコウキ。
ベッドから降りて無言で奥のクローゼットに向かう。
扉を開け、プルプルしながら必死に背伸びし
「ボクはバイト先の打ち上げがあるから、それに行ってくる。君もたまには一人で羽を伸ばして、寂しく豪華な食事でもしてくればいいさっ」
バタンッ!と音を立てて扉が閉められた。
それをベルは呆然としながら見ていた。
「......なんだったんだ、一体」
「
後ろにいたスティーブからすればステイタス更新中にずっとじとっとした顔つきでいて終わったらああなったとしか言いようがない。
それよりはヘスティアのバイト先がなんの打ち上げをするのかの方が気になっていた。最高売上記録の更新でもしたのだろうか?
「
『一人で』とか『寂しく』とか。実はあんまり大事に思われていないのか?
そう思ってしまうぐらいにはひどい言い草であった。
スティーブ、君は一度彼女を殴っていいと思う。
実際は、ただ勢いで言ってしまった言葉であるのだが、この二人はそれを知らない。
二人して呆気にとられたままヘスティアが出ていった扉を見つめるのだった。
○●○●○●○●○●○●
「なんだいなんだいっ。ヴァレン何某とかいうぽっと出のに惑わされちゃって!ボクというものが身近にいながら!!くそ~~ベル君の浮気者め~~~」
もとより彼はあなたと付き合ってなどいないのですよ。というツッコミを入れる者はここにはいない。
「あの時ボクを一人にしないって言ったくせに~!」
それは別にプロポーズではないのですよ。とつっこむ者もここにはいない。
「ちっくしょ~。ベル君め~......」
酒を飲んでもいないのに酔っぱらいみたいである。
そのまましばらく荒れ続けていたが、目の前に打ち上げ会場(と言ってもただの酒場だが)が見え、ヘスティアも流石にクールダウンしだす。着いた頃には、落ち着きを取り戻していた。
さっきはちょっとだけ悪い事をしたな、と捨てられた子兎のような顔をしていたベルを思いだし少しだけ罪悪感が込み上げてくるが今さらなのでしょうがない。ベルが全部悪いのだということにして目をそらす。
その後スティーブにも失礼なことをしてしまったと思い、彼には後で謝ることにする。兎には謝らない。
そう考えながら扉に手を掛け、
「......それにしても、二人とも同じようなスキルが
最後にそう言って、ヘスティアは打ち上げ会場に入った。
○●○●○●○●○●○●
「ここら辺だったかな......」
ベルとスティーブは、約束通りにシルの働いている店に行こうとしていた。
朝出会った場所を思い出しながら、通りの店を探して歩く。
朝とすっかり雰囲気の変わった夜の街を通っていくと、やがて見覚えのある店にたどり着いた。
店の看板を確認すると、『豊穣の女主人』とある。どんなネーミングだよと思いながら二人して店の中を覗くと、その意味がすぐにわかった。
カウンターで料理や酒を振る舞う恰幅のいいドワーフの女将に、厨房で料理を作るネコ耳少女達、注文をとる給仕達も皆当然のようにウェイトレス。
要は店員が女性しか居ないのだ。
野郎どもが感激しそうな光景であった。実際心なしか客の割合も男の方が大きい気がする。
しかしこれで一つ困ったことが起きた。チキン野郎なベルには、この店に入るのは難易度が高すぎたのだ。
擬似的とはいえ、先日まで夢見ていた美少女達の花畑がそこにあった。ちなみに女将は除くものとする。
そんな光景に気圧され、店に入ることができない。......というようなことは無かった。
「!?」
隣にいた四角が堂々と入っていったからだ。
「ちょっ待って!?」
そう言っても止まらない。そのままどんどん入っていった。
慌ててベルも着いていく。
「もうちょっと覚悟を決める時間が欲しかったんだけど!」
「
その通りであった。のでなにも言えない。
「
ぐうの音も出ねえ。
とその時、薄鈍色の髪が左右に揺れながら近づいてきた。
「ベルさんっ!」
「......来させていただきました」
「はい、いらっしゃいませ!」
そう嬉しそうに言って笑っていたのが今回ここに来ることになった理由を作った人である。嵌められた事を忘れそうになるほどのいい笑顔であった。
そのまま彼女に案内されて、奥のカウンターまで移動する。
その際多くの視線が四角いのに寄せられるが、等の本人はなにも気にせず進んでいく。席についてもしばらくは視線があったが、スティーブが全て無視し続けるために少しずつ消えていった。
「アンタがシルのお客さんかい?冒険者のくせに可愛い顔してるねえ!」
ほっとけよ。気にしてるんだから。
いきなり女将さんが言ってきた言葉にベルの心が荒れていた。
「何でもアタシ達に悲鳴を上げさせるほど大食漢なんだそうじゃないか!じゃんじゃん料理を出すから、じゃんじゃん金を使ってってくれよぉ!」
「!?」
ヤッベェこと言い出した。そんなことを言った覚えはない。
慌ててベルがシルの方を向く。
「ちょっと、僕いつから大食漢になったんですか!?僕自身初耳ですよ!?」
「......えへへ」
「えへへ、じゃねー!?」
ベルの口が悪くなっている!?レア度SSRの発言だ!!
しかしのらりくらりとやり過ごされていく。
結局、少し頑張る(財布的に)という事で結論が出た。
なお、話中スティーブは我関せずの態度で黙りこくっていた。
「おいしいですね」
「
そう言って両者とも麺を頬張っている。
あのあと悩んだ末にベルがパスタを、スティーブがカルボナーラを頼んだ。
もちろん二人ともパスタとカルボナーラの違いを理解していない(実はカルボナーラはパスタの一種)ので、何となく安いもので選んでいる。
結果普通に美味しかったのでそれぞれ料理を堪能していた。
ただし二人ともどこがどう旨いではなくなんとなく『おいしい』としか言っていないため、ダメな食リポみたいになっている。
あんまり味の善し悪しはわかっていないわけである。
「おい、あれ!」
やがて二人とも完食し、食後の茶を頂いている時だった。
ベルが休憩中のシルと話をし、スティーブが脳内でホームの教会地下をどう増築しようか考えていた時、店の扉が開く音がした。
カランッという音が響いた店内で、新たに入ってきた客を見た誰かが声を上げた。
その声が指す方向を向いた瞬間、ベルの息が詰まった。
「うひょ~。えれぇ上玉!」
「ばかエンブレムをよく見ろ」
「うげっ」
入ってきたのは小さな体に見合わぬ存在感を出す
年老いても威厳に溢れたドワーフに胡散臭いオーラが漂う朱髪の神。そして、金の髪に金の瞳の少女。
他にも多くの者たちが十数名入ってくる。
しかしそんな事に気付けぬ程ベルは慌てていた。
視線の先の者達は見られることに慣れているのか、周りからの視線や騒ぎを気にすることなく店の端側、ちょうどベル達の反対側の席に座っていった。
それを確認したベルは、意味もなく顔を伏せ、金髪金眼の少女を見つめ続ける。
「ああ、ロキ・ファミリアの方々ですか。実はこのお店は主神のロキ様に大層気に入られて、うちの常連さんになられているんです」
じっと同じ方向を凝視し続けるベルを見て、シルが少し教えてくれた。
それを聞いたベルの視線が一瞬シルの方を向いた。
実に良いことを聞いたと言わんばかりの顔をしている。
一方のスティーブは少し顔見知りを見つけて気にしている。ダンジョンで迷っていたところを助けてくれたのが他ならぬロキ・ファミリアだからだ。
しかし今話しかけても邪魔になるだけだろうと判断し、出ていかないことにしたらしい。
「ダンジョン遠征お疲れさま~!今日はいっぱい飲んで楽しんでや~!!」
朱髪の神が音頭をとると、各々騒ぎだした。
ベルの視線の先の少女も、普段と違い少し表情が和らいでいる。
後輩のエルフの少女に話し掛けられ、小さな笑顔で返していた。
それを盗み見ている少年の心拍数はどんどん上がっていく。
あんな風に話すのか、とかあんな風に笑うんだ、等と知らなかった彼女の顔を見れて嬉しそうである。
そのまましばらく見ていたが、元々そろそろ帰ろうとしていた為、流石にそろそろ帰ろうか、とスティーブにいわれ名残惜しそうにしながらもベルが立とうとしていた時だった。
「おいアイズ、そろそろあの話をしてやろうぜ!!」
「?」
酒場の雰囲気が変わりだした。
その時の
何の話をするのだろうと、皆が意識を向ける。
当然帰ろうとしていた二人も意識を向けた。
それが間違いだった。
もう会計を済ましいつでも店から出られる状態にあった二人は、この時店を出ていればよかった。正確には二人ではなくその内片方であったが。
少年は、その狼人の話を聞いてしまった。
「あれだよあれ!ほら、ミノタウロスの最後の一匹を殺ったときにいたあのトマト野郎!」
時が止まった。
さっきとは違った意味で、また息が詰まった。
聞き覚えのある状況に、ベルの頭の中が真っ白になる。
「ミノタウロスって昨日の遠征帰りに逃げられたやつ?」
「そうそれ!どんどん上に上がっていきやがって泡食って追いかけるはめになったやつ!こっちは帰りで疲れてたってのによ~」
話を聞くに彼らはダンジョンの『深層』まで遠征していて、その帰りにミノタウロスの群れと遭遇した。
それを倒していくと、実力の差を思い知ったミノタウロス達はまさかの逃亡をし、それを何とか追いかけて仕留めていった。
最後に残った一匹は5階層まで逃げられたものの他の冒険者に被害がでるギリギリで『剣姫』が倒した。
それが事の真相であり、そしてその時その場にいたのが......
「そんでその時居たんだよ!いかにも駆け出しのヒョロ臭ぇガキが!」
ベルだ。
「抱腹もんだったぜ!兎みたいに壁まで追い込まれてよぉ!壁にへたりこんでぶるぶる震えてやがんの!」
「ふむぅ~。その少年助かったん?」
「ギリギリんとこでアイズがミノを切り刻んでやったんだよ、なっ?」
真実は違うもののその言葉はベルの心をえぐっていく。
他者に助けられ、へたりこんで震えていたのは事実だからだ。
あのときベルは、何もできなかった。
「それでそいつ、あの牛の血を全身に浴びて......真っ赤なトマトになっちまったんだよ!くくくっ、ひーっ、腹痛えぇ......!」
「うわぁ......」
そのままどんどん話が進んでいく。
その度に周りの冒険者達は名も知らぬ誰かを種に笑っていく。その笑いが嘲りであることは一目瞭然であった。
そして散々罵られ馬鹿にされ嘲笑を喰らった末にとうとうそのときが来る。
「......じゃあ何か、お前はあのガキに好きだの愛してるだの目の前で抜かされたら、受け入れるってのか?」
「......っ」
「はっ、そんな筈ねえよなぁ。自分より弱くて、軟弱で、救えない、気持ちだけが空回りしてる雑魚野郎に、お前の隣に立つ資格なんてありはしねえ。他ならないお前がそれを認めねえ」
「雑魚じゃあ、アイズ・ヴァレンシュタインには釣り合わねえ」
心の堰が決壊した。
感情の渦が荒れ狂う。
その場にいられなくなったベルは、椅子を蹴り飛ばし勢いよく店を飛び出していった。
「ベルさんっ!?」
後ろから己を呼ぶ声が聞こえるも、無視して走る。
他の全てがどうでもいいと感じる程、今は己が恥ずかしかった。
何もできぬ自分が、
モンスターの前でただ怯えているしかない自分が、
あの狼人の青年の言葉を何一つ否定できない自分が、
彼女の隣に立つ資格を、欠片も所持していない自分が、
どうしようもなく恥ずかしく悔しい。
もはや己に殺意すら覚える今、やるべき事は一つだった。
「......ッッ!」
見上げる先は遥か前方。
巨大な塔の下にある地下迷宮目指し、ベルはひたすら走り続けた。
カルボナーラはパスタソースの一種です。