【大至急】天然の落とし穴に落ちた【救助求む】 作:名無しの転生者
のじゃロリというかロリババアになった。まあいいや、誰も気にせんやろ。
週一投稿間に合わなかったから7の倍数日投稿ってことで誤魔化しとこ……
崩壊した天井から二つの三日月が覗く寝所に、二つの小さな人影があった。
一方は、ふわりとした薄布を何枚も重ねて作られた、上品そうな黒い漢服を身にまとい、綺麗に切りそろえられた艶やかな黒髪の少女。
もう一方は、くたびれて縁がほつれかけている、なぜかまばらに銀に染まっている見すぼらしい洋服をまとい、伸びるままに伸ばしているようなボサボサの白髪の少女。
黒と白、正反対な二人の少女が向かい合っていた。
「さて、それでは少しまじめな話をするとしようかの」
「顔真っ赤だよ?」
真面目な顔で話を切り出した黒い少女に対し、白い少女がするどく切り返す。
白い少女の言う通り、黒い少女の顔はいまだに羞恥の熱に火照り、熟れた林檎のようだった。
「まずお主はイッチ、いや、シレネと呼んだ方がよいかの」
「あ、つづけるんだ」
「んんっ」
何事もなかったようにそのまま話を続ける黒い少女の顔は未だに茹で上がった蛸のようで、白い少女、シレネが思わずといったふうに言葉を漏らすと、黒い少女は誤魔化すように咳ばらいをした。
「わ、妾は
火照った顔を漢服の長い袖で隠しながらも、黒い少女、瑞香は右手を差し出す。
「ん、よろしく瑞香。イッチでもシレネでもいいよ」
シレネは一瞬だけ小首をかしげるも、すぐにそれが基幹世界でポピュラーだった「よろしく」のジェスチャーである握手だと悟り、握った手を軽く上下に振りながらそう返した。
瑞香は握られた手をしばらく見つめた後、もにょもにょと口の端を動かしてからぎこちなく上下に振り返した。
握手が終わり離れていった白磁のような手をなごり惜しそうに見つめていた瑞香だったが、シレネの不思議そうな視線に気が付くと居住まいを正し、改めて話を切り出した。
「あらためて、じゃ。お主の目的はあの深い穴底からの脱出と、お主を置いて行った薄情な幼馴染に対する復讐、じゃったかの」
「……そうかも?」
「いやなんでお主が疑問形なんじゃ」
問い掛けに対して一拍置いてから大きく首をかしげながら答えるシレネに、瑞香は張っていた気が緩んで思わずずっこけた。
「なんかあんなののことずっと恨んでても疲れるだけだし、偶然見かけたらその時にプチっとすればいいかなって。それに、結構飛ばされたみたいでここがどこかもわからないから」
「ん~、なんか言ってることちょっと物騒じゃが、まあそれなら後でもよいか」
いやー起きてすぐに異能を持つほどの動死体になるもんじゃから邪の気が強すぎて見境なく生者を襲う怪物になろうもんならどうしようかと思っとったんじゃー、などと言いながら瑞香は腰かけていた寝台から飛び降りてシレネに近寄っていく。
「して、シレネよ。両足とも結構バッキバキになっとるが、これ歩けそうかの?」
「むりだねー、ほら右足とか繋がってるだけだし。痛覚が鈍っててもまあまあ痛い」
「んー困ったのう……妾、これ治せるかのぅ」
シレネのすぐそばにしゃがみ込んだ瑞香は、関節ではない場所で二段階に折れ曲がったり捻じれたり、中から白く硬いものが突き破って出ていたりしている、見るに堪えない惨状となっている少女の脚を突っつきながらぼやく。
「くすぐったいからやめて?」
「おお、すまぬすまぬ。妾はとりあえず蔵に車椅子か担架でもないか探してくるゆえ、悪いがしばしそこで待っておれ」
シレネの苦言にすっと手を引っ込めて立ち上がった瑞香は、服も要るかのーなどと言いながら壊れかけの引き戸に蹴りを叩きこんで止めを刺し、蔵とやらへ向かって行った。
小走りで去っていく瑞香の後ろで、木材の擦れ合う音を悲鳴のように奏でながら、拉げた戸が大きな音を立てて倒れた。
「いってらっしゃーい」
瑞香の唐突な暴挙にも見た目にそぐわぬ怪力にもとくに驚いたそぶりも見せず、その凄惨で痛ましい状態とは裏腹なひどく気の抜けた見送りの声が、月夜へと溶けていった。
「そういえば水銀ちゃんが
「わたしもー」
「いやお主はそれ体の一部じゃろうが」
目的のものが蔵になく、一度シレネの下へ戻ってきた瑞香が見たのは、銀色の大福の上に寝そべりながら部屋の中をずりずりと動き回っているシレネだった。
シレネが自力で動けることが判明したため、二人は崩れかけの寝所から出て離れの診療所へ向かいながら駄弁っていた。
「そういえば、やけに水銀がすくなくないかの?床一面水銀のプールになるくらいはあったと思うんじゃが」
「噴火の衝撃で千切れて飛んでっちゃった」
「あー、なるほどのぅ……それでそんな小さくなっとるんじゃな」
瑞香の言う通り、落ちてきたシレネが身を守る殻として使っていた水銀は、その体積を当初と比べ大きく減らしている。
10分以上の空の旅に送り出される噴火の衝撃はとてつもないもので、シレネの水銀は実にその体積の8割ほどが散失していた。
「しかしそのからだの一部が吹っ飛んでいるのは……っと、ここじゃ。鍵を開けてくるでちょいとまっとれ」
「うん」
闇が濃く全貌は見えないが、おそらく白い漆喰と暗褐色の木材で構成されているであろう平屋だった。
シレネの目の前には両開きの大きな戸があったが外からは開けられないようで、瑞香は一言残して建物の裏手へと小走りで駆けていった。
寝返りを打って仰向けになり、空に浮かぶ
「寝屋からは勝手口のほうが近いんじゃが、いかんせん狭くての。さ、こっちじゃ」
そういいながら、ちょいちょいと手招きする瑞香に従って、シレネはゆっくりと診療所へ入っていく。
瑞香の手にしている青く灯る鬼灯以外に明かりがないため暗くてよく見えないが、壁際には数珠なりの木の実やカラカラになった薬草らしき束、何かの根っこや丸められた木の皮など、様々なものが雑多に吊るされているようだった。
鈍った嗅覚に微かに草の香りがした気がした。
「そこに寝そべっとってくれ」
しばらく廊下を進んで奥まった場所にある部屋に入ると、瑞香は部屋の隅に積み上げられた木箱の中身をひっくり返しながら、後ろ手に部屋の中央にある診察台らしきものを指さしてそう言う。
シレネがのそのそと登って寝そべると、いつの間にか瑞香が大量の札を抱えて横に立っていた。
「うわびっくりした」
「あんまりびっくりしてなさそうな声と顔じゃな。まあよい、とりあえずやるだけやってみるが、出来んでも恨まんでくれよ?」
「うん」
ぐちゃぐちゃになっているシレネの脚に札をぺたぺたと張りながら、瑞香はこれから何を行うかの説明を口にする。
「この札は本来、代謝能力を失った
「おー、鑑定に情報が増えた。あってるみたいだよ」
「……便利じゃのう、その能力。妾もほしい」
時折ズレた骨や捻じれた肉を力技で補正して脚の形を整えながら、まんべんなく札を張っていく。
ゴキン、パキッ、ぐちゃ、ぶちゅ、と人体から鳴ってはいけなさそうな音を立てながら大量の札を貼り付けることしばし、一分の隙間もなく札が張られたシレネの脚は、それなりに脚の形を取り戻していた。
「おー、なおった?」
「まあ粘土をコネて形だけなおしたようなもんじゃから、まだ動かんがの。仕上げに道術で札を起動するんじゃが……まあいけるじゃろ、理論的には」
ごにょごにょとそんなことを言いながら、瑞香はシレネの腕を診察台に手枷で固定した。
「ちょっと?」
「よーし、気張っとれよー、一気に治すからちと痛いぞー」
「ねえちょっと?ねえ?」
脚が動かせず両腕も固定されて身動きがとれなくなったシレネの抗議をどこふく風と聞き流しながら、脚に手をかざした瑞香が大きく息を吸う。
瑞香が息を止めると、脚に張られた札から青白い火花が散り始める。
「わあ」
「……どうやら魄は綺麗に残っとるようじゃの、これならすぐ治せそうじゃ。魂がやたら小さいが、これは……千切れておるのか?いや、うっすらと繋がっとるようじゃが……まあ、先に脚を治すかの」
「うぅ、どうにでもなれー」
「うむ……ゆくぞ!」
気合と共に瑞香が
同時にシレネの体が大きく跳ね、手枷から延びる鎖ががしゃんと大きな音を立てる。
「ぎっ、あ゛っ、あぁぁぁあああああ!!」
「くっ!やはり抵抗が大きい、札の消費が早い……!が、なんとか札は持ちそうじゃな!」
炎に焼かれて真っ黒になった札が一枚二枚と散っていき、最後の一枚が燃え尽きる頃にはシレネの白磁のような脚は綺麗に元通りとなっていた。
瑞香は汗で額に張り付いた前髪を払いのけながら、生前の名残か呼吸が必要ないにも関わらず息も絶え絶えとなっているシレネを覗き込む。
「見た目は綺麗に治っとるようじゃが、ちゃんと動くかの?」
「……ぉ…つき」
「ん?」
「うそつき、ちょっと痛いだけっていったのにめっちゃ痛かった」
「…………すまぬ」
瑞香は、キッっと睨みつけてきているのだろうが一切威圧感のないシレネの可愛らしい顔から目をそらしつつ、気まずげにぽりぽりと頬をかきながら小さく謝った。
「と、とりあえず、脚が動くか確認しとくれ」
瑞香が診察台に固定していた手枷を外しつつ、話をそらすように治ったかの確認を促すと、シレネはまるで気にしていないかのようにけろっとした様子で両足を診察台から降ろし、ぷらぷらと揺らして動きを確認する。
「ん……んー、大丈夫そう」
「一安心といったところじゃの。ここではなんじゃし、茶でも飲みながら続きの詳しい話でもするかの」
「おっけー」
窓のない診察室から出ていく瑞香の後をついていくと、整えられた中庭の見える茶室のような部屋へと通される。
茶を入れてくるで適当に座っとってくれ、との言葉に従い、シレネは一番窓際の椅子へと腰かけた。
特徴的な丸い窓から見える中庭には小さな池と幾つかの花木が植えられているようだったが、いつの間にか月は雲に隠れていてほとんど何も見えなかった。
陶器のこすれる音に視線を室内に戻すと、湯気の上がる急須といくつかの茶器を乗せた盆を持った瑞香が、机に茶器を並べているところだった。
「ほれ、まあ飲め」
「いただきます」
差し出された湯気の上がる湯飲みを両手で受け取ったシレネは、ちびちびと濃い褐色の茶を口に含んで小さく首をかしげる
「味がしない……色だけ?」
「やはり痛覚と違って味覚は完全に機能しとらんようじゃの。ちなみにこれは妾特製、悶絶必至の特濃激苦茶じゃ」
「……えい」
「み゜?!?!?!?!?!?!」
「ほんとみたい」
味がしないと首をかしげるシレネに、味覚が機能していないことを予想してとんでもないものを飲ませたことを打ち明ける瑞香。
かわいらしい掛け声とともに目にもとまらぬ速度で手に持っているものを瑞香の口に流し込むシレネ。
自作の劇物に舌を蹂躙され、瑞香は自ら言った通りに悶絶して床を転げまわって服を埃まみれにする羽目になった。
打ち上げられた魚のように床の上で痙攣すること四半刻、ようやく苦みが抜けたのか這う這うの体で机に掴まりながら椅子に着いた瑞香は、気を取り直してシレネの状態について話し始める。
「治したときにちらと見た程度じゃが、お主の魂魄はどうも奇妙な状態になっとるようでの……まだ苦いんじゃが……それで魂魄というのは本来、精神を支える
「あ、ごめん聞いてなかった」
一息で長々と語った後、理解できているかとシレネに問いかける瑞香だったが、肝心のシレネは途中からお茶で机に絵を描いていた。
にっこりと笑顔のまま額に青筋を浮かべる瑞香。ぴきっという音が聞こえてきそうだった。
「じょーだん。私がキョンシーみたいな別の何かってことでしょ」
「……うむ」
瑞香は納得いかなさそうな顔で蟀谷をぐりぐりと揉みながら、話を続ける。
「おそらく魂が散り散りになっとるのは、後天的に体の一部となった水銀に広がっていた魂が、噴火で飛ばされたときに水銀と共に散らばったせいじゃろう。水銀ちゃんの操作精度が落ち込んどるのもそのせいじゃろうな。魄が無事なのは……マジでわからぬ。そんな状態で魂も魄も失われておらんのはおそらく妾たち転生者の特殊な魂魄が影響しとるんじゃろうが、いかんせん転生者の不死者なんぞを見るのはお主が初めてじゃからのぅ……」
「ふーん?……あ、私の鑑定結果がキョンシーになってる」
「それで本題なんじゃが……って、なんじゃと?修復術式に僵尸のものを用いたからか?それとも……東方龍脈が…………妾が魂魄について説明…………そもそも鑑定という……ぶつぶつ」
「あれ、おーい?」
ひと通り説明を終え、本題に入ろうとしたところで挟まれたシレネの呟きに、瑞香は一人思考の海へと潜っていってしまった。
呼びかけても目の前で手を振ってみても、ふっくら柔らかい頬をぷにぷにと突いてみても反応がなく、シレネはそっと席を立つと机の反対側、瑞香の真横へと回り込む。
そのまま瑞香の髪をかき上げて耳元へ唇を寄せると、シレネはふぅと優しく吐息を吹きかけた。
「んひょあー!」
細く弱い空気の流れが耳穴をなでる慣れない感覚に、瑞香は素っ頓狂な声を上げて飛び上がる。
ばっと手で息を吹き込まれた耳を押さえ、真っ赤になった顔を誤魔化すように声を張り上げた。
「い、いきなり何をするんじゃ!このたわけ!あんぽんたん!」
「だって反応しなかったんだもん」
「うっ……そ、それは妾も悪いんじゃが、それにしたって手段というものが……」
「ん、ごめんね」
「……こちらこそすまなんだ。話を戻そう」
じゃれあいも程ほどに、向かい合って席につきなおす二人。
「……どこまで話したかの」
「お婆ちゃん、ボケるにはまだ早いわ」
「まだババアではないわ、失敬な!……思い出した、魂魄の状態について伝え終わったところじゃったな」
こほんと咳払い一つ、瑞香はひときわ真面目な声で言う。
「さて、本題に入るとしよう。お主の今後についてじゃ」