【英雄志望の悪役モブ転生者、無自覚に原作鬱シナリオをぶち壊す】~拝啓女神様、俺ってこの世界の主人公ですよね?~   作:歌うたい

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010 騎士へと至る為の道

 

 どうやら試験はグループごとに行うようだった。

 騎士団側でくじ引きを行い、グループごとに別の演習場へと移動。そこで改めて試験開始って運びらしい。

 

「おいお前たち。僕の前を歩くな、後ろに回れ」

「そ、そうしたいのは山々なんすけど」

「列順が決められてんだから仕方ねぇだろ」

「ちいっ、気に入らない。そんなもの好きにさせれば良いだろうに。細かい連中だ」

(これからその一員になろうっていう奴の言い草かよ)

 

 本部内を闊歩する集団の列の、前から数えた方が早い位置。取り巻きである俺達より後ろを歩く事がさぞ不満なんだろう。

 コツコツ響く足音の中で、一際尖っているのがルズレーだ。

 

「何故、僕があの女より後ろなんだっ」

 

 でも苛立ちの芯は別らしい。

 歯噛みするルズレーの目線には、更に前のシュラに向けられていた。なんという器の小ささか。

 だがまぁ、先頭を意識する気持ち自体は分からんでもない。

 だって主人公と言えば先頭だし。RPGとか特に。

 

(現状の俺は、いまいち主人公っぽさに欠けるけど)

 

 一応、超が付くほどの美少女と知り合いとなれた。

 重要っぽいキャラとの縁。主人公としては良い風向きだ。

 でもこんなんじゃ、まだまだ全然満足出来ない。

 

(こっからだ)

 

 まずは入団試験に合格する。

 ヒイロの騎士物語のスタートラインはきっとそこだ。

 栄光へのプロローグを思えば、やる気が沸いて仕方なかった。

 

 

 

 

「総員、整列! 並びに拝聴! これより入団試験の内容について説明する!」

 

 到着地は、運動会でも出来そうな広いグラウンドだった。

 砂埃がさっと舞う壇上で、後ろ手を組んだ眼帯の騎士の一喝に背筋が伸びる。

 

「入団試験の内容はシンプルである。受験者である諸君には、これより一対一の闘争に挑んで貰う」

「一対一。決闘か!」

「そこ、静粛に! 決闘と呼ぶほど大したものではない。諸君にはあそこにある矛棚から、己が得意とする武器を選んで貰う」

 

 教官らしき騎士が指差す方には、横に広い武器棚と様々な武器が立て掛けられていた。

 剣、槍、弓、槌。他にも沢山。けれど刃が潰れていたり木製であったりと、どの武器にも殺傷性を奪う処置がされていた。

 

「殺傷性が無いからと気を抜くな。危険防止の処置をしているとはいえ、事故とは起きるものだ。医療室は設けてはいるが、諸君らが負った怪我に関しての苦情や責任は一切受け付けない。総員、心せよ」

 

 とはいえ教官の言うとおり、油断は禁物。

 刃の潰れた剣で殴られたら痛いし、怪我だってする。最悪死ぬ可能性だってあるだろう。 

 

「次に受験生の相手だが⋯⋯総員、注目! 私の眼下に並ぶ騎士達、諸君にはこの内一人を自由に指名し、挑んで貰う。その後武器を取り、衆人監視の元、一対一の闘争である。騎士に勝利、又は善戦した者を合格とする。今回の試験の運びは以上だ!」

「あ、相手が騎士だって?!」

「嘘だろ、勝てる訳ない」

「おい、右から5番目の人。あの人現役だぞ、見た事があるっ」

(うわ、きつくね?)

 

 教官の述べる試験内容にざわめきが止まらない。かくいう俺も少し冷や汗を流した。

 なにせ相手は騎士。だとしたら並の受験生が敵うはずもない。

 騎士になりたければ、勝てない相手に勝ってみせろって事か。

 騎士の称号ってのはそんだけ重いものなんだろう。

 

「これだから下賤の者共は。試験内容に芸も華もない。だが、土壇場で震える奴らも滑稽だな。あんな連中、試験をせずとも落としてしまえばいいものを」

 

 意外や意外。あの自尊心だけは立派なルズレーが、一ミリも動揺していなかった。

 憎まれ口はいつも通りだけど。周りが肩を落とす中で自信満々に胸を張る姿は、素直に心に響いた。

 なんだよ、根性あるじゃん。ちょっと見直したぞ。

 

「で、ですけどルズレー様、こいつぁまずくないっすか? いくらなんでも騎士相手なんて」

「ふん、なにもマズくはない。僕とそこいらの間抜けを一緒にするな」

「んだよ。勝算でもあんのか?」(なんか秘策でもあんの?)

「勝算? そんなもんじゃない。約束された勝利だ。おい、ショーク、ヒイロ。耳を貸せ」

 

 約束された勝利って。何それかっこいい。

 既に合格を確信しているルズレーの手品の種が気になって、つい素直に耳を貸してしまった。

 

「左から二番目。口元を布で隠した男が居るだろう」

「ん。あの人相悪ぃやつか」

「お前が言うなヒイロ。けど、そうだ。いいか、お前らもあいつを指名しろ。そうすればさしたる苦も無く合格出来る手筈だ」

「⋯⋯は?」

 

 いやちょっと待て。おい。

 約束された勝利って、まさか。

 

「ルズレー様。それって」

「言っただろ、僕をそこいらの間抜けと同じにするなと。賢い手段を用いてこそ貴族だ。平民とは頭の出来と、用いられる手段が違うんだよ、ははは」

「さ、流石ルズレー様っす! まさかそんな根回しをしていたとは!」

 

 思いっきり不正じゃねぇか!

 返せ! 俺の感心やら賞賛の気持ちを!

 通りで試験前にシュラをナンパだなんて真似出来る訳だ。そりゃ余裕だよな。予め試験官と通じていたなら。見直して損したよマジで!

 

「ふふん。試験に向けての努力など凡人、平民の発想だ。賢き者はこうやって道を拓く。分かったか、ヒイロ」

「⋯⋯テメェ」(この野郎⋯⋯)

 

 しかもこいつ俺を(あお)りやがるし。

 あんだけ鍛錬した俺の努力を小馬鹿にした笑み。

 グッと握り締めた拳を、けれど振り下ろさずに済んだのは、憎たらしい幼馴染に対する自制心じゃあなかった。

 

「総員、静粛に! これより最初の受験者を発表する!」

 

 教官の鋭い一喝。

 握り締めた拳の震えも、周囲のざわめきもピタリと止まった。

 最初の受験者。つまり今からいよいよ試験が始まる訳だ。

 だったらもう、ルズレーなんて相手にしてられない。

 腹は立つが切り替えよう。

 目先の怒りより、未来の夢だ。

 

「エシュラリーゼ・ミズガルズ。前へ!」

 

 って、いきなりあいつかよ!

 まさかのトップバッターについ前のめりになる。

 シュラ。俺が重要キャラと睨んだ女が一歩前へと躍り出る。

 その容貌、その雰囲気に、止まっていたざわめきが再び息を吹き返した。

 

「それでは、試験官を指名せよ」

 

 でもそのざわめきは、返し刀でばっさりと揃いも揃って殺された。

 何故ならシュラがゆっくりと指差し、指名した相手は──

 

「ほう。私か」

 

 壇上に立つ、眼帯の教官その人だったのだから。

 

 

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