【英雄志望の悪役モブ転生者、無自覚に原作鬱シナリオをぶち壊す】~拝啓女神様、俺ってこの世界の主人公ですよね?~   作:歌うたい

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093 紅いルージュは嘘の色

 

 拝啓、女神様へ。ご無沙汰してます主人公です。

 わたくしめは現在劇団が借りてる宿屋の一室にて、有名劇団の有名女優さんとディナータイム中です。

 

 いやどうしてこうなった。

 

「前に興業で北の方に行ったんだけれど、その時にファンからいただいたチーズがとても美味しくて。赤ワインにとても合うわ」

「おうすげえな」

「変わり者の団長でも、ワインの趣味は良いのよ。切りハムがあれば尚良かったけど、ここじゃ贅沢は言えないわね」

「ほうすげえな」

「⋯⋯ひょっとして緊張してる?」

「は?んな訳ねえだろすげえなリラックスしてるわおうこら」

「ふうん」

 

 嘘です結構緊張してます。

 

《ぷぷぷ。マスターったらガッチガチじゃん。普段は馬鹿みたいに朴念仁の癖にさぁ》

(ううううるせえやい!)

 

 だってしょうがないじゃん!俺らしくもないアダルトなシチュエーションなんだもん!

 テーブルに薔薇をいけた花瓶にワインとチーズって、なにこれ貴族か。すげえなbotにもなるわ。

 異性に部屋に招かれて食事って状況はリャムともあったけどさぁ。雰囲気が段違いというか。

 

(ほんとどうしてこうなった⋯⋯)

 

 いやね? 最初はさ、俺だって断ろうとしたのよ。こんなんバレたらまーた隊長の雷が落ちるし、昨日の気まずさもまだ残ってるし。

 そしたら「女がこんなにも誘ってるのに袖にするなんて、やっぱり大した男じゃないのね」って挑発して来てさ。気付いたらワンフロアに二人きりですよ。ええ。自業自得。それな。

 

「それじゃあ、良い夜にしましょう」

「お、おう」

「乾杯」

 

 かくして、乾杯をうたうグラスの音を皮切りに、いけ好かない女優との晩餐が始まったのだった。

 

 

 

 

 

「そんで俺が『──悪ィな魔獣。テメェの歌もこれで終いだ』ってな風にバチィッと決めて決着したわけ。どうよこの活躍っぷり。ちょっとは見直す気になったんじゃないか?んー?」

「まあ、それなら英雄騎士と言われるだけの立ち回りとも思うけど。貴方の話に脚色が無ければ」

「全部ホントだっての!んぁーもう、どいつもこいつもさぁ、たまには素直に褒めてくれたっていいだろ!クオリオもシュラも隊長もさぁ!」

「知らないわよ。というか、仲間の愚痴をベラベラと喋るのは騎士としてどうなのかしら?」

「そっちだって『マーカスからちょいちょい口説かれるのがうざい』とか『劇団長の無茶ぶりが理解出来ない』とか散々愚痴ってたじゃん!」

「私は良いの。性悪女だもの?」

「うぬー!ふんぬー!」

 

 うっぜー。

 ここで意趣返し気味に開き直るとか超うぜー。

 あとさっきから凶悪が脳内でゲラゲラ笑ってんのもうざい。頭ん中ぐわんぐわんするから止めて欲しいのに。

 

「胸を張りたいなら、はしたない飲み方はよしたらどうかしら。さっきから口調も崩れっぱなしよ?」

「あー?良いの良いの、こっちが本来の俺だから! あの喧嘩腰じゃ色々誤解も産むし、言いたいことも言えない時だってあるし。うん」

「⋯⋯本音を隠す仮面は必要だもの。貴方の場合は乖離が凄いけれど、見かけによらず繊細なのね」

 

 おいおい、なんだよ急に優しいじゃん。

 見かけによらず、って余計な一言なかったらうっかり惚れてたぜ。

 にしてもワインうめえ。チーズもうまうま。

 

「そういや聞きそびれてたけど、ローズはなんの役やんの?」

「ん。もしかして今回の劇のことかしら? それなら【裏切りの魔女】という演目の『ユリン役』だけど」

「⋯⋯裏切りの魔女? なんだそれ」

「知らない? アスガルダムを建国したシグムンド(初代皇帝)に、四大精霊を支配して反乱を起こした【魔女ユリン】が討たれた話。子供でも知ってる昔話(エッダ)なんだけど」

「んー、聞いた事はあるかもだけど、あんま覚えてねーや。うちのクオリオならパッと分かるんだろうけど」

「ああ、あの眼鏡の。詳しそうだったものね」

「そうそう。にしても、慰撫目的の劇なのにずいぶん趣味の悪そうな演目だなそれ」

「⋯⋯そうね。私もそう思うわ。心から」

 

 確か演目を指定したのってジオーサ側なんだっけか。

 どうせなら、もっと胸が熱くなる騎士物語とかにすれば良いのに。俺が知らないだけで、かなり盛り上がる話なんだろうか。

 でも演じるローズ本人も同感らしいし。

 うーん、よく分からんね。

 

「でも貴方からすれば、痛快なんじゃない?」

「は?なにが?」

「だって、私のこと嫌いでしょう? 良かったわね。演目のクライマックスには私、稀代の魔女として火炙りにされちゃうわ」

「おいネタバレかよ。そういうとこだぞ性悪女!」

「結構よ。だから魔女なのよ、私」

「ふふん、異議あり! 性悪だからって魔女が似合うとは限らんでしょ。そもそも魔女って性格悪くなけりゃ務まらないもんでもないし。どっちかってと浪漫だね。むしろ会ってみたいぐらいだぜ、俺」

「会ってみたいって⋯⋯変わってるのね、貴方」

「え、そうか?」

「だって。魔女なんて普通、憎まれてしかるべき立ち位置じゃない。物語じゃいつも悪事を働いて、大衆を惑わして、そして裁きの炎にやかれておしまい。そういうものでしょ。それを、騎士の貴方が会ってみたいだなんてね」

「でも、それって物語の上での話だろ?」

「え?」

「今も実在すんのかわからないけどさ、話してみれば楽しいかも知れないし。仲良くなったら魔術を教えて貰ったりとか。悪事だって理由もなくしてるとは限らんでしょ。魔女だからって、憎まれて当然ってのは違うんじゃないか?」

「⋯⋯、──」

 

 むしろ勇者系の物語じゃヒロイン役なんてザラだし。

 主人公と一緒に修行して強化フラグにもなるし。性悪なタイプもいるだろうけど、だからってローズが適役って感じはしないなぁ。そう、ローズはどっちかっていうと⋯⋯ 

 

「あー、つまりまとめると⋯⋯ローズみたいな性悪なら、魔女よりも悪役貴族の令嬢とかのが似合ってる!そういうこと!」

「⋯⋯」

 

 うん。我ながらドンピシャだわ。高笑いも似合いそうだし。

 

「⋯⋯魔女より、悪役貴族の令嬢ね⋯⋯⋯⋯ふ、ふふ。あははは! だったら、私の取り巻き役は貴方かしら?」

「なんでそうなんだよ! 俺は騎士だってば!」

「あら。町の警邏をせずに、こうしてお酒を飲んでるのに?とんだ悪徳騎士だこと」

「誘ったのはそっちだろ」

「貴方は嫌いな女に振り回されるぐらいが丁度良いわ」

「こ、こいつ⋯⋯」

 

 そういうとこだっての。

 つか別に嫌いとまでは言ってないし。苦手なだけで。 

 

「でも」

「なんだよ」

「⋯⋯私は貴方みたいな人。意外と好きよ」

「⋯⋯へ?」

 

 好きよ、て。えっ。な、な、なにこいつ急にどうした。

 嫌いじゃない、とかじゃなくて好きて。なにその切ない感じの流し目は。

 冗談だろ。冗談だよな?

 お、落ち着け。性悪女のことだ、どうせからかわれてるだけに違いない。

 

「⋯⋯⋯⋯だからこそ⋯⋯どうして今更、としか思えないわ」

「?」

 

 しかもなにかボソボソと呟いてるし。

 軽くパニック状態だったのに加えて、本当に囁くくらいの声量だったから内容まではいまいち聴き取れなかった。

 だから思わず、じいっと顔を覗きこんでみれば。

 ローズは弾かれたように席を立つ。

 

「────新しいボトルを空けるって言ったのよ。とっておきのやつを、ね。喜びなさい、早々味わえやしない逸品だから」

「逸品!? まじかよ良いのか?」

「ええ。少し待ってて」

 

 こ、このタイミングで追加のボトル。しかも隠し棚っぽい所から、逸品らしいワインまで取り出して。

 わざわざ新しいグラスまで用意して、注いでくれてるし。

 

 え、まじで冗談じゃないパターンか?

 夜はむしろこれからよ的な合図だったりする?

 ど、どど、どうする俺。どうすんのよ俺。

 ワインの黒ずんだ紅色がトクトクと流れ落ちると共に、俺の心拍数まで上がってってるし。

 

 

「さあ、どうぞ」

「お、おおお、おっす!」

 

 気付けば、酒の力でも誤魔化しきれない緊張の極地に追いやられたからだろうか。

 上擦った声のままにグラスへと伸ばした手は、震えて。 

 

「⋯⋯⋯⋯あっ」

「!」

《ぎみゃぁぁぁぁぁぁあああああ!!!》

 

 横たわったグラスから、まるで血みどろみたく広がる赤が。

 綺麗なテーブルを。俺の右手を。リング状の凶悪ごと。

 びったびたに濡らしてしまっていた。

 

(やらかしたぁぁぁ!!)

《にょわぁぁぁなにこれえええー!!!》

 

 やばいやばいやばい。やらかした。マジでやらかした。

 さっきまでのほろ酔い気分が嘘みたいに醒めていく。

 凶悪の爆音絶叫が脳裏で反響してる中。予想だにしない大ポカのあまり、完全に俺の時は止まっていた。

 

「────」

 

 辛うじて出来たのは、茫然としてるローズの様子をうかがうことくらいで。

 そこからはまるでスローモーションの絵のように。

 きつく結ばれたルージュの引かれた唇が、一瞬歪んで。

 はあ。と吐き出した溜め息と共に、ギロリと睨み付けられた。

 

「帰って」

「あァ?か、帰れ、って」

「それなりに楽しい一時だったけれど、貴方が台無しにしたのよ。悪いと思うなら、これ以上顔を見せないで」

「い、いや待ちやがれよ。詫びる。すまなかった。だが、せめて掃除くらいはだな⋯⋯」

「結構よ」

 

 

 当然だがお怒りな様子のローズは、もはや取り付く島もなく。

 

 

「残念だけど、こぼれたワインはボトルに戻らないの」

 

 

 せめてもの片付けすら許されず、俺はローズの部屋から叩き出されたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

 

 

 なんて具合にさ。

 人生でもトップ5に入るくらいのやらかしをした後だから、そりゃもう最悪の気分の帰り道だった。

 いっそ滝壺にでも飛び込んで、身体ごと締まりの無い頭を醒ましたかったくらいだ。

 

 けれど。

 僅かに残った酒精を醒ましたのは。

 

 

 

 

 

 

《あああもう最悪。まだボクの中で残ってる感じがするし、めちゃくちゃ気持ち悪いし。ああでも、マスターも命拾いしたね》

 

(命拾いってなんだよ。こっちは粗相かまして最悪の気分だってのに⋯⋯)

 

《ん?粗相? あれって"わざと"だった訳じゃないの? てっきりマスターが危険を察知したのかと思ってたけど》

 

(危険⋯⋯?

 なあ凶悪。さっきからおまえ、なにいってんだ?)

 

《えー?だからさあ⋯⋯あの、新しい方のワイン》

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《飲んでたら多分、マスター死んでたよ?》

 

「⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯は?」

 

 

 

 

.

 

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