【英雄志望の悪役モブ転生者、無自覚に原作鬱シナリオをぶち壊す】~拝啓女神様、俺ってこの世界の主人公ですよね?~   作:歌うたい

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111 午後の夏風

 

「はい、確かに。それでは本日中にヘルメルのサラ様にお届けしておきますね」

「おう、頼んだぜ」

「ありがとうございました、またのご利用お待ちしております」

「⋯⋯よォし。これでアイツからの頼まれ事は完了だな」 

 

 欧都の配達屋の扉を潜って、一仕事終えたとばかりに額を拭う。降り注ぐ夏の陽射しも相まって、ほんとに汗も出そうな具合だった。ここで冷たいエールをぐいっとやれば、もれなく中年親父の仲間入りだったろう。

 

「アンタってほんと妹には甘いのね」

「あァ?兄貴なんだから当たり前だろ」

「柄じゃなさすぎよ。犯罪臭がするわ」

 

 そんな俺を冷やしてくださったのは、出迎えたシュラからの白い眼差しだった。

 

「勝手に付いてきといて犯罪臭とはなんだテメェ」

「私は別にアンタの為じゃなく、クオリオに頼まれたから付き添ってるだけだけど」

「ハァ。アイツめ、勝手にフケやがって」

「いつもの図書館に行っただけでしょ。ま、花束片手のアンタとじゃあ周りの目に疲れたって仕方ないかもだけど」

「るせえよほっとけ」

 

 何故妹から頼まれた色んな花の配送をこなしただけでこんなに言われなきゃならないのか。いや俺だって男一人で花屋はちょいキツいって思ったからクオリオ引っ張ったけど。

 まあ花を買った後はサッと逃げたけど。配達屋に行く途中で遭遇したシュラに「後は君に任せた」って笑顔でさ。

 全く、どいつもこいつも冷たいね。折角の休暇を妹の為に費やしてる善き兄、で済ませてくれていいじゃない。

 

《そのシスコンぶりが余計に犯罪臭マシマシにさせてんじゃなーいー?》

(その一言のが余計だよ凶悪さんや)

 

 まとめてリャムの爪垢飲ませたろか。

 

「で、アンタはこの後またトレーニング?」

「⋯⋯他にやる事ねえしな」

「その内本当に頭まで筋肉になるわよ」

「はっ、ついこの間まで懲罰房にぶち込まれてたんだ。鈍って仕方ねえんだよ」

 

 そう言って、今は自由の身ですとばかりに身体をグッと伸ばす。ジオーサの事件からもう一月近くが経っている。けれどかくいう俺は、ヴァルゴの月(8月)の半分以上をジメッとした懲罰房を過ごす羽目になった。

 

「自業自得よ。一応民間人を殴ったんだもの」

「テメェだって町長の野郎に剣突き付けて脅してただろうが」

「あれは凶悪犯を逃さない為の制圧行為の一環。だからアタシとシドウ隊長は軍規違反じゃないわ」

「チッ、優等生面かよ」

「⋯⋯アンタだって、懲罰処置を食らったほんとの理由、言わなくたって分かるでしょ?」

「⋯⋯フン」

《あらら。あの女を逃がした事、やっぱり皆にバレちゃってたみたいだねえ》

(真相を聞かない代わりの懲罰って訳か。優しいんだか厳しいんだか)

 

 でも『清職者』で有名なシドウ隊長からすれば、目を瞑ってくれただけ温情なんだろうな。身勝手を押し通した分の通行料ってやつか。

 

「ま、そういう訳でだ。この休暇は思う存分羽根を伸ばそうってハナシよ」

「お気楽ね。最近じゃ欧都内で通り魔が出たって騒ぎになってるのに」

「通り魔?」

「ええ。確か二日前ね。繁華街に出掛けていた貴族の男が裏通りで殺されたのよ」

 

 シュラが神妙な顔で零した話の物騒さに、つい眉を潜める。騎士の腐敗だなんだって騒がれてるけど、治安が良いのか欧都じゃ人死になんて滅多に聞かない。

 だから不謹慎ながらも、興味の方が大きかった。

 

「貴族⋯⋯強盗か?」

「違うわね。遺体が身に付けていた装飾品や中身の厚い財布もそのままだったらしいもの。代わりに背中には大きな刀傷が一つだけあったそうよ」

「⋯⋯闇討ち、にしちゃ大胆だな」

「ええ。権力抗争の結果なら尚更強盗の仕業にするでしょうね。でもそれさえなかった。だから通り魔って騒がれてるのよ」

 

 なるほど、確かに腹黒い奴の仕業なら偽装工作は怠らないもんな。それにしても通り魔か。どおりで今日は人通りが少ない気がした訳だ。

 

「ふうん。ひょっとして、隊長がいきなり三日間の休暇を寄越しやがったのも関係してやがんのか?」

「珍しく冴えてるじゃない。シドウ隊長は元々警邏長として務めてたから、現警邏隊長に指導や配置吟味でも頼まれたんじゃない?」

「古株を引っ張り出さなきゃなんねえくらい、今の警邏隊は腑抜けてんのか?」

「さあ。殺されたのは貴族だし、大方同族が騒いだんじゃないの。次は我が身となれば黙っていなさそうな連中だし」

「⋯⋯隊長も貧乏クジ引かされたもんだな」

「問題児に振り回されるよりマシじゃない?」

「うっせえ」

 

 んー?と覗き込みつつニヤリと笑うシュラに言い返したいとこだが、正直シドウ隊長には面倒ばかり掛けてるから何も言えない。

 チッと舌打ちしつつ、宛もなくテクテク歩けば、指輪形態の凶悪からも舌打ちが飛んできた。

 

《うーん、小姑みたいなちくちく嫌味。ねえねえマスター、やっぱ性格悪いよこの女。付き合い方改めたら?》

(いや凶悪も大概だから。ったくほんとシュラ相手には厳しいな。同族嫌悪?)

《だぁーれがこんな口悪性悪乳女と同族だってえ?!》

 

 鼓膜を破らんばかりの怒号とセットで、ガンガンと頭痛に襲われる。余計な事言った自覚はあったけど、いやでも口と性格の悪さはどっこいだよな。うん。

 

(ん?⋯⋯もしかして凶悪がシュラを嫌ってるのって、あの夢みたいにシュラに負けちゃったからか?)

《は?負けてませんけど?ボク生きてるし?死んでないから負けてませんけどー???》

(あー、うん。そうね)

 

 絶対そうだわ。凶悪って根に持つタイプだし。夢の内容は断片的だったけど、多分シュラに歯が立たなかったんだろうな。

 まさかずっと疑問だった謎が、こんな形で判明するとは。とんだ因縁の伏線回収だよ⋯⋯と、若干げんなりしている時だった。

 

「おーい!」

「あァ?」

「ん?」

 

 聞き覚えのある声に呼び止められて、足を止めたのは。

 

「ヘイ! レギンレイヴの騎士さん方じゃないか!」

「あ。アンタは⋯⋯」

 

 マーカス・ミリオ。

 あのワーグナー劇団の看板俳優が、キラリと歯を光らせて街角から手を振っていた。

 

 

 

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