【英雄志望の悪役モブ転生者、無自覚に原作鬱シナリオをぶち壊す】~拝啓女神様、俺ってこの世界の主人公ですよね?~   作:歌うたい

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120 ハーブティーと秘密

 

「よォし。昼時だが運良く()いてたぜ。悪いなリャム、他に知ってる店も特に無えからよ」

「ぁ、いえいえ。ここってレギンレイヴの顔合わせの日に、皆で一緒に行ったお店ですよね。ハーブティーが美味しかったんですよ」

「ほう。クオリオの奴がコーヒーしか淹れねえから、すっかり飲む機会がなかったが⋯⋯たまには良いかもな」

 

 ちょっと疲れ気味なお昼時は、やっぱり軽く摘む程度が良い。そんな訳でやって来ました、カフェのオープンテラス席。俺のレパートリーの薄さを、はにかみを添えてフォローしてくれるリャムの清らかさよ。

 それにハーブティーってチョイスもいいな。丁度色んな意味で濃い体験だったから、あっさり風味で喉を潤したかった所だ。

 

「にしても、色々と肝が冷えたぜ。占い師ってのはあんなに何でもかんでも見通せちまうもんなのか」

「どうなんでしょう。私もあまり詳しくはないんですが、手相を見て相手を占うやり方とかは初めて見ましたし。多分、凄い占い師さんだったんじゃないかなぁ」

「まあ、凄ぇのは間違いねえわな」

 

 注文し終えた待ち時間、話題に上げたのはやっぱりさっきの占い師の事だ。なかなかに濃いキャラクターだっただけに、衝撃の余韻はまだ全然残っていた。

 

「つうかよ⋯⋯結局あの相性占いはなんだったんだ? どうしてあの滅茶苦茶なやり方で、俺達の相性があんな風に分かんだよ」

「わ、分かりません⋯⋯へぁ。お、思い出しちゃった。ぱ、パスタの食べさせ合いっこなんて⋯⋯私、あんな恥ずかしい事を⋯⋯」

 

 そう、手相占いの時点でもかなりインパクトがあったけど、問題はその後。ついでだからとやってもらった相性占いは、もう衝撃なんてもんじゃなかった。

 

『はーいお待ちどー。シェフの気まぐれパスタだよー。今日はカルボナーラな気分だよー!』

『『!?』』

『ふたりにはこれを今から食べさせ合ってもらうよー。これでふたりの相性が分かるから、がんばってねー』

『『!?!?』』

 

 何を使って相性を占うのかと期待を胸に待っていたのは、占い師がどこからか取り出したパスタであった。しかしその後の要求は「あのお品書きのメニューはマジだったんかい」という感想さえ色々とすっ飛ばした。

 

「仕方ねえ。あん時の占い師には有無を言わせねえ凄みがあった。やるしか無かったんだよ、俺達は」

「はぁ⋯⋯あんなとこ姉さんに見られてたらどうしようかと思いました。ううぅ⋯⋯」 

「ま、あそこまでやらされた分、結果は文句なしで相性バツグンだったから良いんじゃねえか?」

「⋯⋯えと。そ、そこが一番はずかしかったんですけど」

「あァ? なに急にボソボソ言ってんだ」

「ななな何でないですっ」

 

 よっぽど堪えたんだろうか。真っ赤になって首を振るリャムの姿に、ついこれは占い師からの挑戦ではと強行した事を申し訳なく思った。

 

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

 とまあ、そんな怒濤の午前を乗り越えた訳で。

 穏やかで落ち着いたティータイムが実に心に沁み渡る。ビジュアル的には似合わないハーブティーも、気持ち優雅にひと啜り。リャムのオススメだけあって美味いもんで、空いた小腹を埋めるべく頼んだサンドイッチに良く合った。

 らしくもないひと時だけど、たまにはいいもんだな。

 大通りを吹き抜けた程よい風に、目を細めた時だった。

 

「あの、ヒイロくん」

「どうした」

「その、ごめんなさい。気を遣ってもらったみたいで」

「⋯⋯あ? いきなりなんだ」

 

 突拍子もないリャムの謝罪に、細めた目も点になった。

 え、なに急に。ペコッと頭を下げる少女に、傾けかけたティーカップもピタッと止まる。

 

「多分姉さんですよね。私が落ち込んでるから、気晴らしに付き合ってあげてほしいとか頼まれたんじゃないですか?」

「っ⋯⋯どうしてそう思った」

「だって、ヒイロくんいきなりでしたし。それに時々、私の顔色をうかがうように見てましたから。なんだか普段のヒイロくんらしくないなって」

「ぐ⋯⋯」

 

 どうやら気晴らしになってるかなーってチラチラ見てたのバレてたらしい。いや参ったな。一応こっそりやってたつもりだったんだけど。

 なんとなくバツが悪くなって、後ろ手で頭を掻く。

 

「⋯⋯でも、もう大丈夫ですよ」

「あァ? 大丈夫って、何がだよ」

「えっと、おかげで元気が出ましたから。これ以上私の為に時間を使ってくれなくても大丈夫ですよ。ほら、最近まで罰則を受けてた事もありますし、ヒイロくんも本当ならいつものトレーニングとか、したいことがあったんじゃないですか?」

「⋯⋯リャム?」

「ヒイロくんのおかげで、私はもうばっちりですから。このあと本でも買いに行こうかなって。でもそこまで付き合って貰うのも悪いですし、今日はこの辺りで解散にしましょう。ね?」

「⋯⋯⋯⋯」

 

 もしかして、つまらなかったから遠回しに「今日はここまでで」って言われてるんだろうか。一瞬そうネガティブに受け止りかけたけど、どうも違うっぽい。

 遠慮してるんだろうか。いつになくつらつらと理由を積み立てる口は軽いけど、浮かべる微笑みは少し堅くて。

 なんとなく、目に見えない壁を貼られた様にも感じたけれど。

 

「いいんです。これ以上、私なんかに優しくしないで」

「⋯⋯あァ?」

 

 それでも。

 ほんの幽かな囁きに混ざった『自己嫌悪』の色は見逃せなかった。

 本当に幽かだったから、内容までは聞き取れない。でも肌で分かる。今の台詞はきっと、リャムみたいな娘には言わせちゃ駄目なものなのだと。

 

(⋯⋯例の秘密ってやつか?)

 

 一体どうしてリャムが自己嫌悪に駆られたのかは分からない。ひょっとしたら、あの占い師が言っていたリャムの秘密が絡んでるのかも知れない。こうやって壁を作るくらいだ、聞いても簡単には教えてはくれないんだろう。

 それに、誰にだって秘密はあって当然だと語った手前、問い詰める様な真似はしたくない。

 かといってヒーローを志す男が、仲間の問題をそのまま見送るなんて有り得ないだろう。

 

「⋯⋯おいリャム」

「はい」

「テメェはひとつ間違ってんぜ」

「え?」

「俺があの猫娘に頼まれたことは気晴らしなんかじゃねえ」 

 

 

 だったらもう、俺に取れる方法はひとつだ。

 

 

「デートだ。俺はテメェとデートするように頼まれたんだ」

「──でっ!?」

 

 

 賢い俺は閃いた。押して駄目なら引いてみろ。

 そう。いっそリャムが自分から秘密を話したくなるくらい、仲良くなってしまえばいいのである。

 となれば当然、ここで解散なんて許しゃあいけない。

 取るべき選択肢はひとつ。ゴリ押しだ。

 

「あ、あの、それただの言葉の綾とかなんじゃ⋯⋯」

「いいや、一字一句間違わずデートっつったぜ。だがあん時のアイツの顔は半笑いだった。いかにも『エスコート出来たらの話だけど』って小馬鹿にした感じだった。間違いねえ。アレは俺への挑発にして挑戦だった」

「え、えぇ⋯⋯た、多分そんなつもりは無かったと⋯⋯あ、どうだろ。姉さんだし有り得なくも⋯⋯」

「カチンと来たぜ。俺はヒイロだ、挑戦状を破り捨てる真似なんざしねえ。当然俺は受けて立った。つまり今日ここまでの一連は、俺とあの生意気な猫娘との勝負でもあったって訳だ。テメェにごめんなさいされるいわれなんざねえんだよ」

「!⋯⋯ぁ⋯⋯えっと⋯⋯」

 

 俺の熱弁に、いい具合に脳味噌がバグった所だろう。

 どこか距離を取る様な微笑が崩れて、いつもの困り顔がひょっこり現れ出す。

 よっしゃ、ここだ。一気に攻め切る!

 

 

「ついでによ⋯⋯テメェさっき『普段の俺らしくねえ』っつってたよな? そりゃあれかよオイ、まるでいつもの俺はこれっっぽっちも気を遣えねえ様な野郎だ、っていう挑発に聞こえちまうんだが?」

「⋯⋯あ、あれ、急に矛先がこっちに⋯⋯⋯⋯て、ち、違います! 違いますよ! 私はヒイロ君をそんな風に思ったことなんて⋯⋯!」

「いいや違わねえ。ったくよォ、姉妹揃って俺に挑発かますとは良い度胸だぜ。おいリャム、俺に喧嘩売った以上ここで勝ち逃げの解散なんざ許さねえ。この後もきっちりデートしてばっちりの気遣いかましてやっから、覚悟して貰おうか」

「え、きっちりって。え、あの、どういう⋯⋯」

「──分かったのか分からねえのかどっちだァ!」

「ぴゃっ!? わわわ、分かりましたぁ! エスコートよろしくお願いしますぅ!」

「よォし、良い娘だ」

「あうぅぅ⋯⋯」

 

 おっし。勝った。言質取った。

 やっぱり困った時はこの手(パッション)に限る。勝利の祝杯とばかりに、少し冷めたハーブティーをぐいっと(あお)った。

 延長決定となれば、早速この後のプランを練らねばなるまい。もはやデート未経験だのと弱みも吐いてらんないし。

 

「⋯⋯ヒイロくんは、少し強引過ぎますよ」

「少し? 見誤んな。俺は強引が服着て歩いてる様な男だぞ」

「胸張って言うことじゃないですよ、もぉ⋯⋯」

 

 一方で、押し切られた側のリャム。

 珍しく恨み言めいた事を零しつつも、表情から堅さは取れていた。言葉遣いも普段の遠慮が少し剥がれた感じがするし、これはいい傾向かも知れない。

 ならばこの後もきっちりばっちり楽しませてあげなくてはいけないと、一層気合を入れ直してアスガルダムの施設やスポットに思いを巡らせた⋯⋯その時だった。

 

 

 

『おい、騎士は居ないか!居たらすぐに来てくれ!!エーギル・ライブラリでとんでもない事が起きてるんだ!!』

 

「「──!」」

 

 

 騒乱を告げるような悲鳴が大通りに響き渡り。

 無情にも、新たに組まれつつあった午後の予定は、真っ黒に塗り潰されたのだった。

 

 

 

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