【英雄志望の悪役モブ転生者、無自覚に原作鬱シナリオをぶち壊す】~拝啓女神様、俺ってこの世界の主人公ですよね?~ 作:歌うたい
「うっ、げほっごほっ! ふう⋯⋯身体が
「お目覚め早々に文句のバーゲンとは流石だなクオリオ坊っちゃん」
「勝手に寝ていた事にするな。口は利けずとも、辛うじて意識は残っていたさ」
「へいへい」
への字の口に不満顔。体力は底をついても、クオリオは絶好調であるらしい。エントランスの受付椅子にべったりと座りながらも口の減らない友人の様子に、こっそり胸を撫で下ろした。
「繰り返す! エーギル・ライブラリは現在閉鎖中! 一般市民は立ち入らぬように!」
「状況は? 状況はどうなってるんだ」
「現在対応中だ! 館内に入るな」
「待って、まだ中に息子が居るんです!」
「カリファは大丈夫なのか?!」
「さっさとなんとかしろよ、騎士なんだろ?!」
「ええい静まれ! 静まらんか!」
「チッ、いつの間にやら大騒ぎだぜ」
「⋯⋯そうもなるさ。通り魔事件に加えてこれだ。まだ二階と三階には救助者も居る」
図書館の外は人でごった返していた。皮肉にも事件が起きてる館内より、外の騒ぎの方が激しい。異変に駆けつけた騎士の何人かで必死に沈静化をはかっているけど、収まる気配はない。
「結界はやっぱり、まだ拡大し続けてるみたいですね」
「あァ。このままじゃ外の連中まで纏めてお寝ンネだぜクソッタレ」
《凄く静かな地獄絵図になるだろねえ、あはっ》
神妙な顔持ちで呟いたのは、リャムだった。
救助した人間に片っ端から治癒魔術を施していた為に、すっかり消耗仕切っている。今は別の騎士達が介抱や治癒を受け持ってくれているが、しばらくは休ませるべきだろう。
とはいえ問題は何も片付いてない。一刻も早くライブラ:REをなんとかしないと、凶悪の言う凄惨な未来になる。
「⋯⋯俺があの天秤を止めるしかねえって事だな」
「「!」」
そして、そんな未来を指咥えて待ちぼうけるヒーローなんて居ないのだ。
「止めるって、またあの結界に入るつもりですか?」
「テメェも見ただろリャム。俺なら結界内でも意識を保てんだ。そのまま突っ切りゃいい」
「君の持つ白魔獣の力なら、結界内を進めるかも知れない。だがそう簡単には往かないと思うぞ」
「ハッ。俺はヒイロだ。あの程度の負荷なら楽勝だぜ?」
「⋯⋯あの魔素吸引が前座だとしてもか?」
「あ?前座だァ?」
前座て。おいおい。あのドレイン結界だけじゃなく、まだ奥の手があるのか。
「そうだ。僕が以前読んだ目録によれば、ライブラ:REの結界は二段構造になっている。一段回目の外側は魔素のドレイン。そして二段目。より中心へ近付けば⋯⋯強烈な精神汚染が待っている」
「⋯⋯二段目じゃ効果が変わるのか?」
「変わるんじゃない、加わるんだ。更にそれを奇跡的に凌げても、天秤自体から攻撃される可能性もある。僕らも魔術による援護も結界のせいで期待出来ない。分かるかヒイロ。君がどれほど無謀な真似に及ぼうとしているか」
うわーお。クオリオの並べた懸念はどれもこれも尋常じゃない。命が幾つあっても足りなそうな難題特盛サービスだった。
「ハッ、冥利に尽きンぜ」
思わず、鋭い笑みが零れる。
取り残された人達。彼らの救出を願う人達。事態の収拾を望む人達。ギリギリまで消耗した仲間達。
そして唯一、可能な者がお前だと。
状況が言っている。
世界が云っている
運命が物語ってる。
お前がやらねば誰がやるって。
「──無茶で無謀が、この俺様の花道よ」
ここまでお膳立てされて、燃えない筈がなかった。
「ハァ。どうせそうなるだろうと思ったよ」
「⋯⋯私も、そんな気がしました」
武者震いしながらもニヤッと笑顔を向ければ、盛大な呆れ顔で迎え入れられた。
いいねえ、二人共。俺がどういうヤツかって分かって来てるじゃん。
「ヒイロ。これを」
「あン?こいつァ⋯⋯おいおい。この状況で読書薦めるってどういう事だ」
「馬鹿、そんな訳ないだろ」
クオリオから手渡されたのは、救出の際にも絶対手放そうとしなかった一冊の本であった。冗談のつもりはつもりなんだけど。かといって意図が分からない。
なんだろ、これに攻略法でも乗ってるのか?
「ライブラ:REを止めるなら、あの皿を完全に吊り合わせないといけないんだ。今アレに乗せられてる本『ベルベリオン・サーガ』は629ページ。この『スノリィのエッダ集』なら同じページ数で、他の同数頁本の中でも表紙の質がかなり似ている。吊り合う可能性が一番高いのは、僕の知る限りこの本だと思う」
「⋯⋯す、凄い記憶力ですね。というか、この図書館の本、全部網羅してるんですか!?」
「⋯⋯た、大したことじゃない。一時期通い詰めてたから、たまたまだよ」
《へー。つまり結界の中で天秤の重しを確認して、そっから吊り合う本を探して見つけてたってワケじゃん。大したもんだねえ》
「オイオイ、さらっと天才かましてくれやがって。俺の活躍が霞むじゃねえかよ」
「ほ、褒めるか
攻略法はクオリオ自身だった。
やっぱ持つべき者は天才のフレンズだわ。それに凶悪の言う通り、クオリオもあの天秤をどうにかしようと奮闘してたって事だろう。
「⋯⋯さて、行くか」
その意志をも託されてるんだ。
もはや誰も俺を止められない。
決意を顕に、一歩を踏み出す。
「⋯⋯"無敵"のヒイロくんなら、きっと大丈夫って。信じて良いんですよね?」
「ハッ。オマエも分かって来たじゃねえか。おうクオリオ。花道を往く俺様への激励はどうした?」
「フン。精々苦しめばいいさ」
「クソ野郎め」
「無駄口は良いからさっさと済ませてこい。僕はまだ読書の途中だったんだ」
「ケッ、読書狂が⋯⋯任せとけ」
初めて会った日の強がりをなぞった励ましと、変わらない憎まれ口を背に受けて。
俺は一度、深く息を吸って、吐いた。
顔をあげて、前を睨む。
目指すべき祭壇まで、阻むものは目に見えない。
だったら一気に行こう。
「──ッッ、行くぜオラァァァ!!!」
放たれた矢のように、一直線を駆け出した。